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デジタルツール普及で門戸広がる漫画業界 一方でオリジナリティ喪失の危惧も

 少女漫画雑誌『ちゃお』(小学館)4月号で、“中学校3年生”の漫画家がデビューしたことが話題になっている。彼女の名は“ときわ藍”。昨年末発表の第77回小学館新人コミック大賞を受賞し、賞金200万円を手にすると「リアル『バクマン。』だ!」との声がネットであがるなど、注目を集めている。最近ではデジタル化により漫画の制作現場における画期的な技術革新が進み、以前にも増して漫画家への門戸は広がっている。一方で、肉筆原稿ならではの生々しい迫力、温かみが失われつつあるのも実情だ。

中学3年生のときわ藍(らん)さんの漫画家デビューで話題を集める『ちゃお』(小学館)4月号

中学3年生のときわ藍(らん)さんの漫画家デビューで話題を集める『ちゃお』(小学館)4月号

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■漫画の作画に革命もたらしたデジタルツール

 漫画の制作現場では今、デジタルツールと呼ばれるソフトを使った作画が普及している。作画に革命をもたらしたソフトのひとつは、「COMIC STUDIO」(通称コミスタ)と言われるもの。ネーム(マンガの構成を決める下書き)、ペン入れ、スクリーントーン(背景を印刷したシールのようなもの)貼り、吹き出し入力などなど、漫画の制作過程をデジタル環境で再現できるもので、2001年の販売開始以来、鳥山明、原哲夫、江口寿史、奥浩哉、桂正和、三田紀房……錚々たるマンガ家が使用しているのである(なお、2015年に販売終了。現在は後継のCLIP STUDIO PAINTに移行している)。

「漫画制作におけるコンピュータ技術の導入は意外と古いんです。1977年に始まった寺沢武一さんの『コブラ』で、マッキントッシュ(マック)によるコンピュータグラフィックス(CG)を導入したのがルーツと言われているのは有名な話。『コブラ』の完成度の高さから、その後CGを取り入れる漫画家さんが増えましたが、“マック絵”とそれ以外の違いがあまりにクッキリしていて、“あ〜、これはマック仕上げだな”ということはすぐにわかってしまう。それが一変したのが、コミスタ登場以降ですね。極端に言えば、いかにも手描きっぽい、アナログっぽい人の絵も実はデジタルツールで描かれてたりしていて、逆にビックリします」(漫画誌編集者)

■便利になる一方で肉筆ならではの迫力や狂気が希薄に

 かつての漫画家と言えば、手をインクで汚しながらやっとの思いで作品を完成させ、売れない新人はケント紙やスクリーントーンを買うにも苦労する…といったイメージがあった。しかし今日の漫画のデジタルツールは、そうした時間と手間とお金がかかる面倒なことを一挙に解決したかに見える。しかし、便利になる一方で、ひと昔前の漫画家が醸し出していた“情熱”や“狂気”に満ちた作品、全身全霊を捧げて魂を吹き込んだようなアナログならではのオリジナリティあふれる作品はなくなってしまうのかもしれない。デジタルコンテンツ協会発表の「マンガ制作・流通技術ガイド」(平成27年2月発表)によれば、漫画家のデジタル作業普及率は45%と、現時点では何とも微妙な数字ではあるが…。

「漫画家の“命”とも言える“ペン入れ”は、液晶タブレットでもかなりの再現率で可能になったし、マンガを描くこと自体のハードルは、以前に比べればはるかに下がりました。デジタルの課題だった微妙な線のニュアンスの描写も、今の技術は格段に進歩しています。一方で、原稿に滲むインクの感覚や、さまざまな“面倒くさいこと”“苦労”などを経なければ、ベストな能力を発揮できない漫画家さんも多いことは事実です」(前出・編集者)

■デジタル化から生まれる新たな個性に期待

 そうしたことは『YAWARA!』『20世紀少年』で知られる漫画家、浦沢直樹が出演する番組『浦沢直樹の漫勉』(NHK Eテレ)でも明らか。浦沢は基本的にはアナログ派(一部デジタル導入?)だと思われるが、浅野いにお(『ソラニン』ほか)のデジタル中心かつ“手描き”を差し込む最先端の漫画制作現場に感心したり、さいとうたかを(『ゴルゴ13』ほか)、藤田和日郎(『うしおととら』ほか)のような「ほぼラフ状態からいきなりペン入れ(=本番)」という“超絶アナログ技法”に驚愕したりしている。

 漫画はアナログかデジタルかと問われれば、どちらにもいい部分があるということだろうが、先述の通り、デジタルツールが漫画家への門戸を大きく広げたことは間違いない。新人漫画家が世に出やすくなったし、既存の漫画家たちも時間や手間などのコストを節約して余裕も生まれる。ただ、アナログならではのオリジナリティ喪失の危惧があると言っても、もちろん面白い漫画は画だけでなく、全体の構成やストーリー、キャラクターの魅力あってこそだ。時代が移ろい、漫画の題材が出尽くした今だからこそ、最先端の技術によるこれまでの漫画の常識を超えた表現手法、斬新な構成・ストーリーを持った漫画の登場にも期待したいところだ。

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