井上陽水が語る、忌野清志郎さんとの共作秘話

 史上初のミリオンセラーを記録した、シンガーソングライター・井上陽水の名盤『氷の世界』。発売から40年を経てデジタルリマスター盤として発売されたことを記念し、ORICON STYLEの取材に陽水本人が答えてくれた。当時の制作秘話、さらに同作内の楽曲「帰れない二人」を合作した故・忌野清志郎さんとの思い出などを懐かしそうに語ってくれた。

『氷の世界』制作秘話を明かす井上陽水

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■“裏路地”が好きだったんですね、昔から(笑)

――現在のレコーディング技術は当時とは比較にならないくらい進化してしまいましたが、当時は一回一回がまさに真剣勝負ですよね。
【井上陽水】そうそう。今ってどうにでも出来ちゃう便利さがあるけど、あの頃はそうではなかった。それなりの緊張感、真剣さ、集中力を要していたとは思いますよね。

――今では考えられないかもしれないですけど、あの当時8チャンネルから16チャンネルに変わっただけで、無限の可能性を手にした感覚だったんでしょうね。
【井上】うん。今だったら「だから何?」って感じでしょうけどね(笑)。あの当時はホントに何でも出来るぞ!って思ってましたよね。今はそれこそチャンネルなんて無限だしどこからでも切り貼りできちゃう。素晴らしい反面、「なんだかね〜」って(笑)。

――制限されているからこそ生まれる創意工夫で名作って誕生するものなのかなって思います。
【井上】そういうのって絶対あるでしょうね。便利な世の中になっちゃったけど、便利な物の裏に必ずあるマイナス面と言いますかね。そういったものは必ず潜んでいるんですよ。

――『氷の世界』はもちろんですけど、“裏側”というものを井上さんはずっと表現されてきたのかなって思うんです。
【井上】上手な流れですねぇ(笑)。確かにずっと興味があって、『氷の世界』を出す以前の歌謡曲の大半は、表の部分を表現するのがメインだった。裏の部分なんて、わざわざ歌にしたくてもさ〜っていう風潮でね(笑)。「自己嫌悪? だれがそんな歌聞きたいのよ〜」って言われてたワケで。

――アハハハハ! そういう時代だったんですね。
【井上】そうそう。でも僕はむしろ表面的なものはあまり好きじゃなくてね。“裏路地”が好きだったんですね、昔から(笑)。

■「帰れない二人」は清志郎と1行ずつ歌詞を書いていた!?

――あと、お一人で楽曲を作る井上さんにしては珍しく、『氷の世界』は共作が多いですね。個人的に印象深いのは忌野清志郎さんとの共作である「帰れない二人」なんですけど。
【井上】あの曲は僕にとって初めて他のアーティストとの共作だったんじゃないかなぁ。

――そもそも、忌野さんとの出会いって覚えていますか?
【井上】僕が駆け出しの頃は、アンドレ・カンドレっていう名義で活動していて。何だかよく分からない時代がありましてね(笑)。その頃、渋谷にライブ喫茶があって、僕とかRCサクセションとか泉谷しげるとか色んな人が出演していて。

――今考えると豪華なライブ喫茶ですねぇ。
【井上】そこで観たRCサクセションがなかなか印象的な曲を披露していてね。お互いヒマだったので、清志郎に「一緒に曲でも作らない?」って持ちかけたんですね。で、僕の中野のアパートに忌野清志郎が来て、お互いギターを持って一緒に作ることになったんですけど、「どうしようかねぇ〜」なんて言ってなかなか進まないんですよね(笑)。で、と交互に詞を作っていったんですよ。

――以前放送されたNHKの特番では、みうらじゅんさんらが冗談半分で「2行ずつくらいで作ってたんじゃないか!?」って話してましたけど。
【井上】たぶん……1行ずつ作ってたんじゃないかな(笑)。もう記憶が定かじゃなくてうろ覚えですけどね。でも、あっという間に完成しましたよ。たぶん2時間位かなぁ〜。

――あの名曲が2時間で完成したんですか(笑)。
【井上】うん。で、その時、もう一曲清志郎と作った合作があるんですけどね。「待ちぼうけ」という。

――『氷の世界』に収録されていますね。
【井上】全く覚えてないんだよね(キッパリ)。

――アハハハハ! そうなんですか(笑)。
【井上】僕がカレーライスを作って清志郎に振る舞ったことは覚えているんですよ。ファミレスもスターバックスもない時代ですから、2人で寂しく食べてねぇ。そんな時代ですよ(笑)。

■井上陽水とタモリの共通項とは?

――類まれな表現力があるにも関わらず、色々なものを“背負わない”のが井上さんの凄さなのかなって思うんです。
【井上】ほうほう。もう少し具体的に言うと?

――つまり、あくまで楽曲だけで勝負して、押しつけがましい“不可要素”のようなものがなかったと言いますか…。井上さんのデビュー当時って、変革や革命というキーワードを背負った、もしくは酔いしれたアーティスト・クリエイターが多かったと思うんです。当時はそれがカッコよかったし、沢山の支持を得たかもしれないですけど、時代の変化もあり、後々まで語られる“普遍性”は得られなかったのかな?って思うんです。
【井上】あぁ〜なるほど……。あの時はそこまで気にしてなかったですけど、ここ10年くらいはあの当時をたまに振り返ることはありますよね。僕の中で歌というのはあくまで“娯楽”なんだということがまずあります。で、歌を聴いて悩むこともまた娯楽。ただ、作り手が深刻に物事を解説したり主張したり、プロパガンダを強調するんだったら、音楽じゃなくて論文に書いた方がいいんじゃないかなって。

――常にニュートラルな姿勢を保たれていますよね。
【井上】まぁ、色々なイデオロギーがあって、価値観がある。その全ての部分に突っ込めるような“余地”は残しておきたいなっていう気持ちはありましたよね。茶々をいれたいというか、カラかってみたいというかね(笑)。やっぱり僕の中では、普遍的な物だったり思想だったりというものは無いんだっていう思いが強いのかもしれないですね。

――なるほど…。
【井上】僕なんか相当なノンポリだなって思いますよ(笑)。例えば、同世代で言うとタモリさんね。しょっちゅう会うんだけど、彼と一緒の時は笑ってばかりなんだよね。とにかく真面目な話なんてしたことないというか。

――タモリさんと井上さんは、生き方として凄く共通する部分を感じますね。
【井上】うん。彼は徹底してますよね。一応、同郷の先輩なので見習ってますね。つまり「そんな哲学的なことを口から泡飛ばしながら話すことないんじゃないの?」っていう部分ね(笑)。

――アハハハハ! そんな肩に力入れないでさって(笑)。
【井上】そうそう。それよりも、何気ない日常生活のなかに潜んでいるものを僕は探していきたいし、今後もそれは変わらないんじゃないかなぁ。

アルバム『氷の世界 40th Anniversary Special Edition CD & DVD 』は現在発売中。

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