『伝説のライブ』を現代で体感できる ライブを“真空パックする”ヤマハ『Real Sound Viewing』

 楽器の自動演奏をはじめ、さまざまな新しい技術を開発し続けているヤマハの『Real Sound Viewing』という技術が注目を集めている。「絵画のように、ライブを後世に残る文化遺産にしたい」という大きな目標を掲げ、取り組みを先導するヤマハデザイン研究所主事の柘植秀幸氏がこのシステムについて話してくれた。

発想の原点は「すべての人にライブの音を届けたい」

 5月21日、H ZETTRIOが、ヤマハのミュージアム「イノベーションロード」で新曲を発表した。といっても、そこに彼らの姿はない。ヤマハが現在開発を進めている「Real Sound Viewing」を用いたバーチャルライブコンテンツを使って上映(演奏)したものだったのだが、毎回、この上映を観に全国からファンが訪れ、上映(演奏)が終わると、H ZETTRIOを知らない来場者からも、スクリーンに映された姿に拍手が送られる。
 このバーチャルライブコンテンツは、過去に収録したライブをデジタル音源化し、目の前の楽器の自動演奏によって音を出し、映像も透過スクリーンを使って投影。目の前に人がいないのに、時代も場所も超えてまるで“真空パック”してきたかのようにライブを体験できるというもの。開発のきっかけになったのは、柘植氏のある思いだったという。

「『すべての人にライブの音を届けたい』ということが発想の原点でした。世の中には、『チケットが取れない』『ライブ会場が遠くて行けない』『そのグループ(バンド)が解散している』『そのアーティストがお亡くなりになっている』など、観たくても観られないライブがたくさんあります。それらを解消するツールとして、ライブCDやDVDなどがありますが、やはりそこには限界があります。ライブ会場に行って体感できるあのお腹にズシンとくる感覚までは再現しきれません。ならば、アーティストさんのパフォーマンスをそのまま残して再現する仕組みを、弊社の技術を使って作れるのではないかと思いスタートしました」

有志の取り組みからスタート

 2017年、柘植氏の発案でスタートした『Real Sound Viewing』だったが、当初は業務外での取り組みにすぎなかったという。
「もともと有志のメンバーで独自で始めた取り組みでした。企業風土なのでしょうか、弊社には“作らずにはいられない”人たちがいっぱいいて、こういう有志の集まりも少なくありません(笑)。『百聞は一見に如かず、これは企画書では伝わらないだろう。観てもらったほうが早いな』と思っていたので、実験を重ねました」

 開発で苦労したことを聞くと、「ありすぎてどれを挙げればいいのか(笑)。なかでもライブ映像と楽器の自動演奏の同期には苦労しました。ライブなので、一瞬でもタイミングがずれれば、(お客さんの熱は)冷めてしまう。ミリ秒単位での調整を行いました。あとは、ピアノの自動演奏の技術はあったのですが、ドラムとウッドベースの自動演奏は非常に珍しいんです。特にドラムはスネアやシンバルなど、構成する楽器が多く苦労しました。『音響再現装置』をドラムのパーツに取り付けると、自動演奏が可能になるけれど、どういうものにしたら、再現度を高めることができるのか。この開発でも何度も心が折れそうになりました」。その一方で、「この技術が開発できれば、世界中でライブが観たくても観られない人たちに、本当の音を届けることができる。それを考えたら、自分の一時の苦労なんて大したことではないです」と笑う。

 実験を繰り返し生まれたプロトタイプが、社内で評判となり、静岡にあるヤマハミュージアムにおいて「バーチャルステージ」という名前で展示され、そこでも好評を得た。そして、柘植氏の考えに共鳴したH ZETTRIOが実験的にライブ演出で取り入れ、6月の新曲発表でも使用した。

最終的なゴールは『音楽(ライブ)』を無形文化遺産として残すこと

 今後、この技術を活用してもらうことによって、新たな価値を持つライブを生み出すことができると、柘植氏は力強く話す。

「H ZETTRIOさんのように、過去の自分のライブとセッションするような使い方以外にも、昔の作品をよみがえらせることもできます。ただ昔の作品だと、全身を映した演奏の映像が残っているケースはまれだと思うので、MVなどから持ってくるなど映像については考えないといけない点があります。音に関しては、レコーディングされたマルチトラックの音が残っていれば、技術的には可能です。だから解散したバンドや亡くなった人のライブも再現できる。また、レーベルさんや事務所さんに眠っているたくさんの音源も、この技術を使えば、新しい価値を持つライブとして使える。今まではベスト盤を再度まとめる時くらいしか、その音源を使わなかったと思うんですけど、再活用できるんです。実際、この技術を使って、観たかった過去のライブを早く実現してほしい、という声もいただいています。
 そして、最終的なゴールは『音楽(ライブ)』を無形文化遺産として残すこと。絵画とか彫刻とかって、美術館で保管されて何百年も受け継がれているけれど、それと同様に音楽(ライブ)でも、アーティストさんのライブでの生き生きとした姿をきちんとした形で残して次の世代に伝えていきたい。それを未来の世代に残し、それを観た未来の世代が新しい創作につなげていく。そういうサイクルを生み出せればと思っています」

提供元: コンフィデンス

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