『ひよっこ』澄子役で注目の松本穂香「私はヒロインタイプではない」
『ひよっこ』での澄子は似ているから「作らなくていい」と言われた
「『ひよっこ』に出てから、ご近所の母親世代の方が『いつも観てます』と酢の物を持ってきてくださいました。始めたばかりのTwitterも澄子が目立つ回があると一気にフォロワーが増えて、すぐ1万2000人くらいになったり。でも街で声を掛けられたことは全然なくて、電車も普通に乗っています」
澄子はマイペースでぼんやりしていて食いしん坊、というキャラクターだった。
「台本を読んで『こんな子がいるのかな』と思っていたら、私と澄子は似ているから『作らなくていい』とスタッフさんに言われました(笑)。寮で長い話を聞いているシーンを観たら今にも寝そうな感じになってましたけど、普段も自分のわからない話になるとボーッとしちゃって、急に振られて『えっ?』となりがち。あと私も結構大食いで、カレーライスを食べるシーンの撮影でおかわりしていたら、量をどんどん盛られるようになって。物欲はないので、10年来の友だちにも『“○○が欲しい”と言うのを聞いたことがない。“○○が食べたい”ばかり』と言われます(笑)」
田舎娘役がハマっていたが、実際の彼女は大阪の堺市出身で田舎育ちではない。
「初めてお会いする方には『澄子と雰囲気が違うね』と言われます。あの役は見た目から入った部分が大きかったみたいで、パッツンの髪形にしてメガネをかけたら自然と田舎から来た澄子になって、撮影が始まる前からボーッとしちゃってました(笑)」
ちなみに普段はコンタクトレンズ。メガネは衣裳合わせのときにいろいろ掛けて決めて、眼科で度も合わせて作ったもの。クランクアップ後に、ケースに“澄子”のシールを貼ったままもらい受けたそう。
「他のドラマで怒ってばかりの役をやったときは、気づいたらずっと眉間にシワが寄っていました」
もともと役に入ると人が変わる女優の資質はあったようだ。
「学校では授業中に発言できないタイプで、当てられただけで汗をかいていて。でも演劇部で体育館の舞台に立ったら、不思議と気持ち良かったんです。そのときやったのが“冷凍マグロが恋をする”という感じのコメディで、清楚なワンピースにマグロのかぶりもので出て(笑)、みんなに『ああいう子だと思わなかった』と言われたのも面白かったです。卒業までずっと「魚の子」と呼ばれました」
私は王道ヒロインタイプでは確実にないです(笑)
「『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』にメイドカフェの店員役で出たときは、台本で普通に書かれていた台詞をわざと滑舌を悪くして「アイスコーヒーれす」みたいに言ってたら、面白がってくださって。役の枠を越えて頑張ってみる気持ちは大事だと思いました」
地道に努力を重ね、夢だった朝ドラにデビューから2年で出演。澄子役はオーディションで決まったが、同じように選ばれたのが女子寮で同室に住む役の佐久間由衣、藤野涼子、小島藤子、八木優希という有望な若手女優たち。
「みんな仲間であってライバル。そういう空間が心地良かったです。私がみんなに勝てる部分があったかわかりませんけど、澄子のことが好きで「私にしかできない!」という役への愛情だけで頑張ってました。私はまだ特にイメージも付いていないし守るものがない。今は感覚で自由にやるのが大事だと思います」
『ひよっこ』後は深夜ドラマのメインゲストが続いたり、伊藤園『お〜いお茶 ほうじ茶』のCM出演したり。来年公開の映画『世界でいちばん長い写真』で2年ぶりに仕事をした草野翔吾監督からは心に刺さる助言も。
「自分と全然違う役で「この子にならなきゃ」という気持ちでやっていたら「自分自身を役に出さないと越えられない」と言われました。グッとくるお芝居って作り込んだものでなく、リアルなものが自然に出る感じだと思うんです。だから役として生きるのでなく、自分を役に入れていく。私は不器用なのに、器用に役をこなそうと無意識に思っていたみたいです」
近年、朝ドラでは脇役から数年後にヒロインを演じたり、ブレイクすることが多い。彼女にもその期待はかかる。
「私は王道ヒロインタイプでは確実にないです(笑)。クセのある役を幅広くやってみたいです。『愛と誠』で安藤サクラさんが演じたガムコみたいに振り切ってやれることを目標にしています。もちろんヒロインにも憧れます。『ひよっこ』で有村(架純)さんを見ていて、相当なプレッシャーのなかであそこまでやり切れるのがすごく羨ましかった。私もいつか、そんな感覚を経験したいです」
(文:斉藤貴志)