LINEとアミューズ“100%電子チケット”で高額転売対策へ「社会システムから再構築する覚悟が必要」

 LINE、アミューズ、テイパーズが共同出資し、新会社・LINE TICKETを設立。来年には電子チケットサービス「LINEチケット」を2018年よりスタートさせる。昨年より議論の進む、チケットの高額転売対策に向けても強力は一手となるこの取り組みを推進するキーパーソンであるLINE取締役CSMOの舛田淳氏とアミューズ取締役専務執行役員の相馬信之氏に、今後の展望や課題解決へ向けて進むべき方向性などを語ってもらった。

最大の目的はチケットの転売問題、買い占め問題の是正

  • 舛田淳氏(LINE取締役CSMO)

    舛田淳氏(LINE取締役CSMO)

――LINE、アミューズ、テイパーズの共同出資によるLINE TICKET株式会社が設立されました。同社の設立に至った経緯を教えてください。
相馬 最大の目的は最初の段階では自社アーティストのチケットの転売問題、買い占め問題の是正です。私どものアーティストを応援し、ライブに足を運んでくださるファンのみなさんの信頼を得るうえで、この問題は避けては通れないですし、そのためには自分たちでチケット事業をゼロから立ち上げるしかない。さらには自社のアーティストだけではなく、音楽業界全体、さらにスポーツ、舞台などさまざまな分野のチケットを適正に流通させるプラットフォームを作ることが必要だと考えたわけです。しかし、現実問題として自社だけでは難しい。そこで志を共にするパートナーとして、昨年7月にLINE社に声をかけさせていただきました。
舛田 LINEは現在、国内の月間利用者数が7000万人以上になりますが、次の方向性として我々が目指しているのは「スマートポータル」です。音楽、動画などのコンテンツ・プラットフォーム、決済、交通、フードデリバリーなどのライフ・プラットフォームを中心としたポータルサービス構想で、エンタテインメントサービスに関しても、すでに「LINE MUSIC」「LINE LIVE」「LINE BLOG」などを展開しています。その一貫として3年ほど前からチケットサービスも検討していたのですが、“100%電子チケット化”でないと我々が参入する意味がないと考えていました。そして、それには現在のチケット業界の構造そのものを変える必要が出てきますので、アーティスト、プロダクション、イベンター各社からの賛同が不可欠。その時点ではハードルが高く、断念せざるを得なかったのです。

――“100%電子チケット”によるサービスに対し、業界に抵抗感があったということでしょうか?
舛田 “紙のチケットのままでいいんですよね”と言われてしまうことは少なくありませんでしたね。しかし、転売、買い占めの問題に本気で取り組もうとすれば、紙ではなく、電子チケットにするしか解決策はないです。その思いを強くしていた時期にアミューズさんから今回のお話をいただきました。新しいシステムをゼロから立ち上げるにはリスクが伴う。それでもリスクテイクし、チケットやイベントを取り巻く社会システムから新たに構築していこう、という共通の目的を持つことができ、LINE TICKETがスタートできました。

“100%電子チケット”へ移行 転売、買い占めの問題をゼロに

  • 相馬信之氏(アミューズ取締役専務執行役員)

    相馬信之氏(アミューズ取締役専務執行役員)

――“100%電子チケット”に移行することで、具体的にはどんなメリットがありますか。
舛田 まず転売、買い占めの問題に関しては、限りなくゼロに近づけることができます。LINE IDはスマートフォン1端末に対して1つしか取得できないため、複数のIDの取得などによる不正行為を抑止できますし、もし不正が行われた場合は該当のIDを停止することもできます。もう1つのメリットは、より正確なマーケティングが可能になること。チケットが転売された場合、チケットを買う人と会場に来る人が異なるため、購入者データを解析しても最適なマーケティングができない。電子チケットであればこの点も解消されますし、実際に来場した方々のデータから、どういうライブが望まれているのか、どういうグッズが売れるのか、どういう楽曲を提供すればいいかも見えてくるはずです。
相馬 LINEチケットを利用していただいたプロダクション、アーティストにはもちろん、チケットに関する遵守すべき個人情報以外のデータはすべてお渡しします。単にチケットを売るだけではなく、お客様の嗜好や年齢層などをマーケティングに活用していただいて、業界全体が向上するためのプラットフォームにしたいですからね。私たちのプロダクション側からいえば「LINE MUSIC」「LINE LIVE」などのサービスと紐づけられることも魅力です。チケット購入者に向けてアーティストのコンテンツを発信することもできるでしょうし、将来的にファンクラブの入会促進にも繋げることができる。何よりもアーティストとファンのコミュニケーションの場を作れることが素晴らしいですよね。
舛田 チケットを購入すると、ライブの前後を含め、さまざまなコミュニケーションが生まれる。そこにも我々がチケット事業をやる意味があると思います。LINE上でスタンプをやり取りするのと同じようにチケットを流通させていただき、そこに我々のエンタテインメントサービス、決済サービスを連動させる。さらにアーティストのファンクラブとも連携させることができれば、ユーザーにもメリットになるはずです。恐らくユーザーのみなさんは電子チケットに対する抵抗感はないと思います。すでに、電車、公共交通機関をはじめ、ありとあらゆる決済が電子マネーになっていますし、イベントだけが紙のチケットでないといけない理由は少なくともユーザー側にはありません。
相馬 LINEは国内だけで7000万人近い方が使っていますし、年齢層のバランスもいい。スマートフォンを持っていらっしゃらない方に対しては紙のチケットで対応していただく場合もあると思いますが、紙の場合は転売問題が起こる可能性が高いし、入場時の本人確認、セキュリティチェックにも時間がかかります。電子チケットならスムーズに入場できるので、オペレーション面、セキュリティ面でのメリットはとても大きいと考えています。
舛田 高速道路のETCみたいなものだと思うんです。ETCのレーンはスイスイ進めるけど、現金のレーンでは渋滞が起きる。そういう経験を通して、我々は“なるほどETCは便利だ”と実感してきたわけですが、LINEチケットもそういう利便性をいくつ提供できるかがカギですね。
相馬 サービス自体が英語対応も予定しておりますので、海外のお客様含め幅広いユーザーの方に使っていただけるのも利点です。
舛田 タイや台湾などのアジア諸国でLINEは日本よりも更にヘビーに使われていますし、将来的には海外向けにサービスを展開していく構想もあります。日本のライブやスポーツイベントのチケットがLINEで買えることに対する期待は、2020年の東京オリンピックに向けて、さらに高まると思います。

――LINEチケットがもたらすエンタテインメントの将来像については、どう考えていますか。
相馬 まずはお客様にとって“チケットの販売はLINE チケットがベスト”という状態にならないと、このサービスを提供する意味はないと思っています。ユーザーからは“公演によってチケット会社が異なる状況を解消してほしい”という声も寄せられていますし、“LINE TICKETのサービスがベスト”ということになれば、大事な個人情報を、複数のチケット会社に登録する必要もなくなりますから。将来的には、新しいエンタテインメントを生み出す新人のプロモーションにも活用できると思います。今の若いユーザーは、LINE NEWSで情報を知り、LINE MUSICで音楽を聴いている方も多い。そういう方々にチケット販売と関連づけて新しい才能を紹介することで、次世代のエンタテインメントシーンを作れると期待しています。今は新しい流れを作り出す絶好のチャンスだと思いますし、ぜひ多くのアーティスト、プロダクションに参画していただきたいです。
舛田 電子チケットになることで、いろいろな可能性が広がると思います。例えば、ユーザー属性や興味関心データなどに基づいて、“当日券があるオススメの公演”情報をLINEで配信することで、ユーザーがチケットを購入し、会場に足を運ぶ可能性も上がる。また、今はスマートフォンが中心ですが、この先どんなデバイス変化のトレンドが来ても、電子化しておけば対応できます。紙のチケットではもうもたない。このタイミングで電子チケットにするしかないと思いますね。

プロフィール

舛田淳氏 LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)
1977年生まれ。2008年にNAVER Japanに入社し、事業戦略室室長に就任。2012年、グループの経営統合に伴い、LINE、NAVER、livedoorの事業戦略・マーケティング責任者としてNHN Japan(現・LINE)執行役員CSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)に就任。14年5月、LINE Payの代表取締役を兼任(現任)。2014年12月には、新設されたLINE MUSICの代表取締役社長を兼任(現任)。2015年4月、LINE取締役 CSMOに就任(現任)。2017年9月、LINE TICKET 代表取締役社長に就任(兼任)。

相馬信之氏 アミューズ 取締役 専務執行役員
1964年生まれ。1987年4月にアミューズ入社。2008年4月、A-Sketch代表取締役社長(現任)。2012年10月、常務取締役第1・2・3・4マネージメント部、第1・2CS事業部、デジタルビジネス事業部、ライツマネージメント部、シンガポール支店所管に就任。2014年6月、TOKYO FANTASY代表取締役社長(現任)。2016年4月、常務取締役 福山プロジェクト、第1・2・3・4・5マネージメント部、スポーツ文化事業部、映像製作部、メディアディストリビューション事業部、FC事業部、MD事業部、CS事業推進部、デジタルコンテンツ部、ライツマネージメント部、アジア事業部所管を経て、2017年6月、取締役 専務執行役員に就任(現任)。2017年9月、LINE TICKET 取締役副社長に就任(兼任)

提供元: コンフィデンス

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