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名作洋画Blu-ray テレビ版“吹替”が“付加価値”になる理由

 かつてテレビで放送された洋画の日本語吹替音声を“特典”として収録したBlu-rayシリーズが各社から発売され、話題になっている。20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパンの「吹替の帝王」、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントの「吹替の力」、ソニー・ピクチャーズ エンタテイメントの「吹替洋画劇場」。特にテレビで洋画を親しんだ40〜50代にはたまらないノスタルジーがあるようようだ。テレビ用「吹替」が“売り”になる理由を探った。

12月24日発売「吹替洋画劇場 コロンビア映画90周年記念『スタンド・バイ・ミー』デラックスエディション」(初回生産限定)。本編吹替のほかに、特典としてフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』版、VHS版の計3パターンの日本語吹替音声を収録

12月24日発売「吹替洋画劇場 コロンビア映画90周年記念『スタンド・バイ・ミー』デラックスエディション」(初回生産限定)。本編吹替のほかに、特典としてフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』版、VHS版の計3パターンの日本語吹替音声を収録

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■何パターンもの吹替版が存在するのは日本独特の現象

 ソニー・ピクチャーズ エンタテイメントの吹替制作担当者によると、「今の40代〜50代はテレビで洋画を観て映画ファンになった人が多い世代。1970年代〜80年代は洋画の全盛期でしたが、カラーテレビも普及し、テレビの影響力、伝達力は絶大なものになっていました。それから数10年経って、昔観た映画の聴き覚えのある吹替の声がたまらないノスタルジーになっているんだと思います」と話す。

 同社から12月24日に発売される「吹替洋画劇場 コロンビア映画90周年記念『スタンド・バイ・ミー』デラックスエディション」(初回生産限定)には、本編吹替のほかに、特典としてフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』版、VHS版の計3パターンの日本語吹替音声が収録される。『ゴーストバスターズ』30周年記念BOX(発売中/初回生産限定)には、テレビ朝日『日曜洋画劇場』とフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』の日本語吹替版が収録されている。

 同じ作品でも、ロードショー版、パッケージ版、テレビ版で吹替キャストが異なっていたり、特にテレビ版は放送局によってせりふや演出にも“個性”が垣間見えたり。何パターンもの吹替版が存在し、こだわりを持つのは、日本独特の現象だ。

 そもそも洋画の日本語吹替音声は、本国で作られたものではなく、後から日本で作られるもの。テレビで洋画を放送する場合、映画会社から映画の映像と音声の放映権を買うわけだが、その中に日本語吹替音声は入っていないのだ。劇場上映時に吹替版が作られていたとしても、それは日本で作られた物なので映画本編とは別の著作権が発生することになる。パッケージ化される際に作られた吹替音声も、テレビ局が独自に作った吹替音声も同じ。それらを使って放送しようとすれば、放映権とは別に、吹替音声の使用料が発生するのだ。使用料を払うか、独自に声優を集めて作るか、という選択の結果、各局で独自に声優を集めて盛んに吹替の新録が行われていたのだ。

■自由な翻訳と演出がテレビ版「吹替」の魅力

 もう一つ、テレビ版が作られる最大の理由として、放送枠の問題がある。これもまた、日本独自の事情によるもので、テレビで放送される映画は放送枠に合わせてテレビ局の都合で編集されているのがほとんど。例えば、2時間の映画はテレビ放送用に15〜20分はカットされてしまう。家族そろって観ることも考え、不適切なシーンをカットすることもある。映画監督の立場からすれば言語道断の行為だが、劇場上映も終わって、パッケージも発売された後の1回限り、残らないテレビ放送だからこそ大目に見てもらっているという感じだ。いずれにせよ、編集された映像に合わせて吹替をやり直す必要があった。

 さらに、テレビ版を魅力的なものにしているのが、「1回限り、残らない」放送ならではの自由な翻訳と演出だ。ロードショー版、パッケージ版は本社のチェックが必須で、できるだけ原文に忠実な翻訳で、映像の口の動きとも合うようにせりふを作り、声優もオリジナルの音声に近いかどうか本社の意見を聞きながら作っていく。テレビ版はもちろんノーチェック。流行り言葉を取り入れたり、視聴者受けを考えたり、より遊び心があって面白い吹替になっているところが、テレビ版吹替が愛される要因の一つだ。

 ノスタルジーがあって純粋に面白いとあれば、テレビ版の吹替のニーズが高いのもうなずける。しかし、いざ商品として収録しようとする段階になると、いろいろ大変なことも多いらしい。

 前出の制作担当者は「本社から商品化の許可が下りなければ作れないし、その上で素材があるのかどうか。1回限り、残さないから自由だったという側面もあって、本当に残っていない」という。

 例え現存していても、完全な状態でない場合も多い。ゴールデンタイムやプライムタイムで放送された後、深夜放送用にさらに放送尺が短くなって、音声テープがカットされてしまっていることもある。完全版が手に入らない場合は、追加録音したり、足りないところは字幕でカバーしたり、各社工夫して収録しているのが実状だ。

■テレビ版吹替は風前の灯火も、吹替のニーズは上昇

 その、テレビ版の吹替だが、最近、めっきり新録されなくなった。先月2日にテレビ朝日系『日曜洋画劇場』で放送された『バイオハザードV:リトリビューション』で吹替の新録が行われたが、なんと2年ぶりだったという。

BS放送が始まって以降の多チャンネル化の波の中で、映画専門チャンネルが生まれ、地上波で放送される洋画が激減。BS・CSでは本編をフルに放送できるので独自に吹替を作る必要性もなく、字幕版で放送されていることも多い。

 今となっては風前の灯火のテレビ吹替だが、吹替のニーズそのものは高まっている。映画館では字幕、テレビでは吹替、という楽しみ方が一般的だったが、最近は映画館でも吹替版の上映が増えており、動画の配信サービスでは吹替版が圧倒的に人気だ。スマートフォンやタブレットの画面が小さく、字幕が見にくいという理由もあるが、吹替版なら、ながら見をするにも都合がいい。

 吹替が付加価値につながるのは、日本には専業の声優がいることも大きい。テレビ放送の黎明期(1953年〜)、コンテンツ不足を補うために海外のドラマや映画が重宝された時代から吹替が盛んになり、その後のアニメブームで声優の需要が拡大、いまや人気職業の一つだ。

 「プロの声優はお芝居もうまいし、子どもでも気軽に見られるように作られている吹替のほうが純粋に楽しめたりする。昨今のアニメブームもあり、若い人はゲームやアニメで声優さんにすごく親近感を持っています。今はノスタルジーをくすぐる“吹替”ですが、将来的には、例えば『アラビアのロレンス』(1962年)のような昔の名作を今、人気の声優さんの吹替で観てもらえるような商品を作って、より若い層にアピールしていくのもいいかもしれない。昔の音声を知らない世代には違和感もないでしょう。声優きっかけで作品を知ってもらうのも悪いことではないと思うんです」(前出の制作担当者)。

 日本独特の文化ともいえる吹替は、今後も新たな需要や高い付加価値を生み出していきそうだ。

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