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韓国映画特集『2014年上半期の韓国映画シーンと制作現場のウラ事情!社会学的に切り込む』

今や映画ファン層全体から熱い視線を集める韓国映画。この夏〜秋も多くの話題作が日本公開されるなか、韓国映画界の2014年上半期の動向を掘り下げる。『怪しい彼女』のファン・ドンヒョク監督に韓国映画界の裏側と監督業の実態を聞いた。さらに日本映画大学のハン・トンヒョン准教授に、韓国社会と今の韓国映画の傾向、それを生む社会学的な背景を語ってもらった。韓国映画と韓国社会にエンターテインメントの側面から切り込む。

ハン・トンヒョン 日本映画大学 社会学准教授 対談

より洗練されるポリティカル・コレクトネスのエンタメ化
日本映画大学で学生たちの日韓合作プロジェクトに携わり、本人は「個人的な趣味」と断りながらも韓国カルチャーに詳しく、TBSラジオ『TBS RADIO 954 kHz 菊地成孔の粋な夜電波』のレギュラー企画「韓流最高会議」にも出演するハン・トンヒョンさんに、今の韓国映画の傾向と、それを生んだ背景について聞いた。

[対談1]◆いろいろなものを取り入れてそのうえに乗せる

【西森】 『サスペクト 哀しき容疑者』の試写を観たあとにこの取材をしているわけですが、この映画も含めて、なぜ韓国では映画と現実がつながっているような作品が多いんでしょうか。
【韓東賢】 こう言っては身もフタもないかもしれませんが、やっぱり現実のなかに素材やテーマがたくさんあるからじゃないでしょうか。というのも、韓国はまださまざまな現実がダイナミックに動いている社会であり、同時にそれが人々に自覚されていると思うんです。『サスペクト』のなかで描かれたことも、すべて事実なんですよね。脱北者、人身売買、政治やジャーナリズムの腐敗とそれに対する反発、つまり権力に対する反骨心のようなもの……。物語自体はフィクションだけど、中身を構成するディテイルはすべてリアルなもの。

【西森】 『テロ,ライブ』もやっぱりそういう話でした。マスコミの腐敗と、政治への不信が描かれていました。
【韓東賢】 『シュリ』や『JSA』を皮切りに、2000年頃から、南北分断やスパイ、戦争などを描いたブロックバスター大作が作られるようになり、しばらくその流れが続きましたが、今は、そういう大きなテーマを踏まえたうえできちんと個人の物語を描く映画も増えたと思います。たとえばベースになっている背景として南北分断の問題があるのは変わらなくても、中身は「男の友情」なんかがよりきっちり、しっかりと描かれていて、韓国以外の人が観ても、つまり背景がわからなくてもより理解しやすいのではないかなと。

【西森】 最近は、韓国には、ブロックバスターとアートを合わせて「アートバスター」なんてジャンルもできたとのことです。韓国は、いろんなことを取り入れて、そのうえにのせることが得意ですよね。
【韓東賢】 その辺は、ホン・サンス監督も一緒かもしれません。以前、菊地成孔さんとホン・サンス監督の『3人のアンヌ』公開記念トークショーに出たときに話になったことがあるんですが、ホン・サンス監督って「韓国のエリック・ロメール」って言われていたり、ほかにもゴダールとか、ルイス・ブニュエルとか、そのあたりの要素が割とそのまま入っているんですよ。それを菊地さんは「(ロメール、ゴダール、ブニュエルの)三種盛り」と言っていて。

 でも、実際に舞台になっているのは韓国の土着的な風景、風土で、焼酎ばっかり飲んでいる(笑)。パリが舞台の作品もありますが、ソウルだかパリだかよくわからない。ヨーロッパの映画からいろんな部分、それも映画の構造そのものにかかわるテクニカルな要素を取り入れているのですが、そのある種の難解さを感じさせず、「韓国のもの」になっているのがすごい。そうして普通の韓国人の話になっているからこそ、普遍性を持ってしまうというか。ホン・サンス監督も韓国のほかの映画監督も、ジャンルは違いますが作品を構築していく方法論は似通っているような気がします。

◆土台に揺らがない、にじみ出てしまう強度がある

【西森】 K-POPも一緒ですよね。欧米で流行っている音楽をそのままとりこんで、それから何か韓国的なものをのっける。菊地さんともよくお仕事されている評論家の大谷能生さんも、日本は欧米の音楽を噛み砕いて日本独自のものにしてから外に出すから時間がかかるけれど、韓国の場合は欧米のものをとりあえずすぐに取り入れてみるという違いがあると言われていました。
【韓東賢】 のっけるというか、のっかってしまうというか、土台に揺らがない、にじみ出てしまう強度があるというか。『新しき世界』もそうですよね。

【西森】 そうですね。私は香港ノワールとか、潜入捜査官ものが大好きでよく観ているのですが、『新しき世界』は、このジャンルものをかなり細かく研究していて、そこを全部取り入れた後に、新しい要素をプラスアルファしていると思いました。
【韓東賢】 『サスペクト』のカーチェイスもそうでしたね。アイデア満載で、よく勉強しているなと。しかも舞台になっているのはソウルの低所得層が暮らしているエリアで、いい意味で驚きました。純粋にカーチェイスそのものに感動して涙が出たのは初めてです。

【西森】 それは『ベルリンファイル』のアクションシーンにも感じました。ジャッキー・チェンがやっていたようなアクション描写があって、それで終わるのかと思ったら、もう一段階加えている感じがあって。
【韓東賢】 ただ、それができるのは、土台と技術があることに加えて、「料理してやるぞ」という気概みたいなものがあるからという気もするんですよ。力技とも言えますが(笑)。

【西森】 あと、韓国映画を観ていると、安心できる結末というよりは、予想を裏切る展開が多い気がするんです。
【韓東賢】 そこも、土台に関係があると思います。観ている人の予想を裏切る脚本になっているということは、人びとがこれまで観てきた物語のパターンを把握しておかないといけない。だから、ものすごく前例にあたっていないとできないことではないかと。あと、「映画が観られているものである」という前提かな。そしてさっきから出ているように、そのうえにこれまでにないものをのせるから予想を裏切ることになるのだと思います。観客のリテラシーへの信頼あってこそだと思いますが、逆にそこまでやっているからこそ、リテラシーのない観客でも楽しめるものになっているのかもしれません。

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<<目次リンク>>
・特集本文 [1] [2] [3]
・ファン・ドンヒョク監督インタビュー [1] [2] [3]
・ハン・トンヒョン准教授 対談  [1] [2] [3]
・レビュー&予告編 [1]

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