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時を超えた“2人”の浜田省吾が同居、洋楽カバー作に見えた「ルーツ」とは?

浜田省吾

 浜田省吾が、洋楽カバー企画の第3弾『The Moonlight Cats Radio Show vol. 3』を9月6日に発売する。Shogo Hamada & The J.S.Inspirations名義で発表される本作は、2017年にもVol.1、2が発売され好評を博したシリーズ。今回は60年代の人気バンドの楽曲8曲を収録し、ボーカルはすべて浜田が担当している。そんな期待の本作には、ソングライターとして45年超の音楽歴を重ねた浜田省吾と、ロックやR&Bに恋をした10歳の少年が同居しているようで――。ミニアルバムの内容から、そのスピリッツを読み解く。

「俺のボーカルのルーツがここにある」、海辺の田舎町の少年を魅了した曲の数々

  • ミニアルバム『The Moonlight Cats Radio Show vol. 3』

    ミニアルバム『The Moonlight Cats Radio Show vol. 3』

 あなたはイヤホンを外し、しばらく余韻に浸る。できれば鳴り終えたスピーカーの前であってほしいが、最近の主流は異なるだろう。演奏は、DJの「おやすみなさい」の声とともにフェイドアウト、あなたの体には心地よい余韻が響く。メッセージや教訓めいたものは、そこにはない。

 浜田省吾がShogo Hamada & The J.S.Inspirations名義で発表したカバー作品集『The Moonlight Cats Radio Show vol. 3』(2023年9月6日発売)は、そんなミニアルバムだと思う。

▼『The Moonlight Cats Radio Show Vol. 3』Shogo Hamada & The J.S. Inspirations(外部サイト)

 収録曲はたとえば――1961年に発表され、モータウン・レコード初の全米1位シングルとなった、女性R&Bコーラスグループ・マーヴェレッツ「Please Mister Postman」。70年代に発表されたカーペンターズのバージョンで知っている人も多いはずだ。同じくアメリカの女性R&Bコーラスグループ、シュレルズの同年のヒット曲「Baby It’s You」。作曲は、アメリカンニューシネマ『明日に向って撃て!』の挿入歌「雨にぬれても」などで知られる偉大なメロディーメーカー、バート・バカラック(ルーサー・ディクソンとの共作)。

 海辺の田舎町。浜田省吾が10歳の頃、ラジオから流れてきたのを聴き“一瞬で恋に落ちた”楽曲の数々だ。1962年にアーサー・アレクサンダーが歌った「Anna(Go to Him)」という、上記2曲とは異なる埋もれた名曲的な歌も収録されているが、これらの楽曲には共通項がある。1952年生まれの浜田省吾と同世代の人たちや、たとえばミレニアル世代でもルーツミュージック好きなら、すでに気づいていることだろう。

 浜田省吾自身はこのカバーアルバムについて、こう語っている。

 「俺のボーカルのルーツがここにある――そんな感じで聴いてもらえたらいいなあと思う。これを子どもの頃に聴いていたから、浜田は今のようなボーカリストになったんだって。本当にステレオの前で大声で歌っていたから」

謎めいたアーティスト・浜田省吾、また違う一面がミニアルバムから浮かび上がる

 とはいえ、ファン以外にとって浜田省吾ほど謎めいたビッグネームもいないのではないか。テレビにはほとんど出演しない。いわゆる“フェス”にも、まず出てこない。サングラスをしていて素顔がわからない上に、笑顔をほとんど見たことがない。浜田本人がライブMCで自虐的なジョークとして語るように、40数年の音楽活動のなかで「シングルヒットは『悲しみは雪のように』1曲だけ」(実はシングルチャートの上位に入った曲はいくつかあるが、本人曰く「そんなのはたいしたヒット曲とは言えない(笑)」)。

 それにも関わらず、毎年のように続けている全国ツアーのチケットは入手困難らしい。アルバムについては、マドンナを抜いて「オリジナルアルバム首位のインターバル記録」を更新したというニュースもあった(2015年『Journey of a Songwriter 〜旅するソングライター』/オリコン調べ、2015年5/11付)。なぜか「MONEY」や「J.BOY」、「もうひとつの土曜日」だけは聴いたことがある……ばかりか歌ったこともある気がする。

 イメージとしては、自分の世界を頑固に守り続け、我が道を行くアーティスト。間違いとは言えないが、一度でもコンサートを観たことのある人なら、それが浜田省吾の一面しかとらえていないイメージだと知っているはずだ。テレビなどメディアへの露出の少なさについても、ティーザー広告のような戦略ではないことを長年のファンはよく知っているし、浜田自身も常々「自分はソングライターなので、できるだけ歌の背後にいたい。自分で書いた歌を届けるために歌う場所がライブコンサートで、それだけで充分と考えている」と語っている。

 Wait!「待って!」と郵便屋さんに呼びかける少年。彼女からの手紙が郵便袋のなかにないか調べてよ。だって僕はずっとずっと待っているんだから。10代の少女が作ったキュートな歌「Please Mister Postman」を、高校時代から半世紀以上のつきあいである町支寛二(Gt./Vo.)と、まるで自転車で走り去る郵便屋さんとそれを追いかける少年のような陽気なスピード感で歌う浜田省吾。この曲を聴くだけで、先ほどのイメージとあまりに違うボーカリストがそこにいるとわかる。明るく、自由で、無邪気。

 ロックやR&Bに恋をした10歳の少年。バンドでのデビューを経てソロのソングライターとして45年超の音楽歴を重ねた2023年の浜田省吾。時を超えたふたりが、同時にそこにいる。

人気シリーズの完結編? ソングライター/ボーカリストとしての原点をみずから歌う

浜田省吾

浜田省吾

 収録曲はほかに、涼風のようなアコースティックサウンドで歌われる、“美メロ”「Till There was You」。恋に悩む男の自問自答を、悩みを打ち明けられてアドバイスをする友達同士のように、浜田と町支が歌う「Devil in Her Heart」。長田進(Gt.)、美久月千晴(Bs.)、小田原豊(Dr.)も実に気持ちのいい、それぞれの音でロックンロールしまくる「Twist and Shout」など。

 ……と、ここまで書くと、多くの人がこのカバーアルバムに収められた曲の共通項に気づいたことだろう。リヴァプール出身の“the fab four”、あの驚異的な4人組が活動の初期に演奏した楽曲たちだ。彼らのオリジナル「I Call Your Name」「All I’ve Got to Do」も完全コピーに近いアレンジで歌われているが、浜田省吾のボーカルにしても町支のコーラスにしても、彼らならではの存在感が自然に、大量に滲み出ているように思う。

 カバーミニアルバムのシリーズはこれで3作目。『The Moonlight Cats Radio Show vol. 1』『The Moonlight Cats Radio Show vol. 2』合計12曲中、浜田のメインボーカルはマーヴィン・ゲイ「What’s Going on」、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ 「You’ve Really Got a Hold on Me」、テンプテーションズ「My Girl」の3曲だった。
 演奏や編曲はVol. 3の上記4人に加え、古村敏比古(Sax.)、福田裕彦(Org./Syn.)、河内肇(Pf.)、佐々木史郎(Tp.)、清岡太郎(Tb.)、中嶋ユキノ(Vo.)、竹内宏美(Vo.)という、浜田省吾のツアーおよびレコーディングでおなじみの面々。選曲については浜田とミュージシャンがそれぞれにアイデアを出し合って決め、ヴァン・モリソン「Crazy Love」では長田が、シュレルズ「Will You Still Love Me Tomorrow」(作曲はキャロル・キング)では中嶋がメインボーカルをとるなど、Shogo Hamada & The J.S.Inspirationsというバンドのアルバムという色合いが濃かった。

 その点でこのVol. 3は、浜田省吾自身の“初恋”、ソングライター/ボーカリストとしての原点をみずから歌う、シリーズの完結編といってもよいのではないか。

▼『The Moonlight Cats Radio Show Vol. 1』Shogo Hamada & The J.S. Inspirations(外部サイト)

▼『The Moonlight Cats Radio Show Vol. 2』Shogo Hamada & The J.S. Inspirations(外部サイト)

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