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未完のまま消えた“幻の名作web小説” 熱烈ファンが奇跡のコミカライズ「明日には跡形もなく消えるかも…」一期一会の尊さ

 好きだった小説やマンガがもし、連載中に何らかの理由で読めなくなってしまったら、あなたはどうするだろうか? 多くの場合、諦めるしかなく、どんなに願ってもその続きが読めることはない。マンガ家のコマkomaさんは、昔、某小説投稿サイトに掲載されていた『雨の日と月曜日』に魅了されたが、作品は途中で掲載終了。失意に暮れるコマkomaさんだったが、約10年が経過した現在、LINEマンガで同作の作画を担当している。熱烈なファンから、その作品のコミカライズを手がけるに至った奇跡の実話とは?

連載が突然終わり絶望「授乳中だったのですが、乳の出が悪くなりました」

――現在LINEマンガで連載されている『雨の日と月曜日』は、図書館で働く福原珠恵と、雨の日だけ来館する"ワケあり"の利用者・森川風太をめぐる物語。本作はコマkomaさんにとってとても思い入れのある作品とのこと。その経緯をつづったツイートは17万いいねを獲得したそうですが、あらためて出会いからお聞かせください。
コマkomaさん私がこの作品に出会ったのは、ある小説投稿サイトでした。当時、有川浩先生の『図書館戦争』シリーズ(角川文庫)にハマっていたので、検索キーワードになんとなく「図書館」と入れ、検索結果の一番上にあったのが、この作品でした。1話目の冒頭、落ち着いた文章でのしっとりとした始まり方に引き込まれました。ヒロインと来館者が偶然出会うシーンがとても自然で、頭の中にぱっとその映像が出てきたんです。その時に、「これは絶対面白いな」という予感がしました。

――その後、最新話が更新されるのを楽しみにしていた。
コマkomaさんはい。それを楽しみに生きていました。あまりに頭に情景が浮かぶので、子どもが寝た後にチマチマとチラシの裏に描き溜めては、ニヤニヤして一人で遊んでいたくらい。ある時、「作者さんにファンアートとして送ってみよう!」と思い付き…たぶんちょっとタガの外れたファンレターと一緒に投稿サイトのメール欄に添付しました。そのお返事が原作者のきみねさんからあって、そこから交流が始まりました。

――熱狂的なファンだったんですね。ただその後、掲載はなくなってしまった…。
コマkomaさんはい。更新が止まった時はまさに“青天の霹靂”という感じ。最新話がものすごくいい場面だったので、これ以降が読めないことに絶望しましたね。当時、授乳中だったんですが本当に乳の出が悪くなりました(笑)。

――ただ、その後もきみねさんとの交流は続いたんですね。
コマkomaさんはい。ある時、きみねさん本人から「いま書き始めています」というメールを頂きました。その瞬間、なんかたぶん叫んだと思います。変な奇声を(笑)。

――数年ぶりに読めるようになったということですが、久しぶりの続編はどうでした?
コマkomaさん最ッ………………高でした!!!!まさに私はこれが読みたかった!という展開の連続で、何度も何度も読み返しました。

マンガ家になった熱列ファンが作画を担当することに「本当にこれって現実だっけ」

――そこから話は飛んで、今回のLINEマンガの連載に繋がってくるわけですが、どのような経緯で?
コマkomaさんツイッターで描いていた私のオリジナルマンガを読んでくれた編集さんが声をかけてくれたのが始まりでした。「実は、もし私がマンガ家になれたら絶対いつか描きたい原作があるんですけれど」と持ち掛けたところ、編集さんが読んでくれて「面白いですね! やりましょう」となった。本当に感謝しかありません。

――もともとファンだった小説を、自ら描いて世に出すというのは、夢みたいな話ですね。
コマkomaさん今でも「本当にこれって現実だっけ」という気分は残っています(笑)。変な話ですが、自分自身で描きながら『雨の日と月曜日』のコミカライズ版が読めてる、という幸せに浸っているというか…。このお話の良さをもっともっと引き出せる画力が切実に欲しいです。

――コミカライズするにあたり、どのようなイメージで作画したのでしょうか?
コマkomaさんずっと頭の中で動いていたイメージを絵に描く作業は楽しかったです。特に風太というキャラクターは夢に見るくらい好きだったので「いま自分に描ける最大限にかっこいい男ってこんなかんじ!」と思ってノリノリで描いています。逆に珠ちゃんはかわいく描きたくて仕方ないのですが、思うように描けずに毎回苦しんでいます。

――珠恵の言動からはどこか陰を感じます。
コマkomaさん珠ちゃんは決して「流行り」ではないと思います。父親や婚約者にあれだけ虐げられても家を出ないし、抵抗もしない。現時点では流されまくっているヒロインに見えると思います。ただ、こういう「弱い」とされる女性はいまの時代にも確かに存在している。令和の時代では、嫌なことを嫌と言える毅然とした女の子が多いと思われがちですが、決してそればかりではないと思うんです。ただ、そういう子でも確かに意志はあって、彼女なりに少しずつ成長することは出来る。そういうところを描いていければいいなと思っています。

――タイトルにもなっている「雨」の描写が、人物の心情などを表し、効果的に使われているように感じました。
コマkomaさんせっかくwebtoon作品なので、本当に雨が降っているように見せられたらいいなあと。描いていて思ったのですが、雨ってすごく抒情的で、描くだけで画面がしっとりとした意味を持つような気がして、このタイトルの妙を感じます。

創作は孤独「『面白かった』の一言で描き続けられる人もいる」

――原作のきみね先生からは、作画にあたりなにかアドバイスなどは?
コマkomaさん1話の完成原稿を見て、ものすごく感動してくれたようで、私もうれしくて泣きたくなりました。「あんなに喜んでくれるんだから次も頑張ろう!彼女を喜ばせよう!」といういちファンの気持ちで今も描き続けています。「もう好きにやっちゃって!」とは言われてはいますが、適宜アドバイスを頂き、軌道修正してもらっています。作者様の口からキャラの心情の説明を聞いているときが一番楽しくて、ファン冥利に尽きるなあと感じています。

――小説からのファンであるコマkomaさんからみて、本作の魅力は?
コマkomaさんそうですね。恋愛というものの甘さや苦さを誤魔化さずに描き切っているところです。思いが成就してめでたしめでたしでは終わらないところ、激情のあとの二人の生活、心の動きを静かな筆致できちんと追いかけて描いているところです。二人の恋の敵役として出てくるキャラクターにもちゃんと人格があり、行動には意味がある、というところまで読ませてくれる稀有な作品だと思います。

――最終話に向かって、今後どんな展開になっていくのでしょうか?
コマkomaさんいまのところジェットコースターみたいな展開が続いていますが、お話はここからが本番なんです。普通ならめでたしめでたし、で終わるところからが本編。ただカッコイイだけの男ではない風太さんと、弱くて流されるだけの珠ちゃんの成長を是非見守ってください! 個人的には、珠パパとの確執が今からどうなっていくか、が見どころだと思っています。原作にあるただの毒親、悪役では終わらない切なさみたいなものが描けたらいいな、と。

――最後に伺います。今、webやSNS上の作品だと気軽に読めたり、意外な出会いがある一方で、このように突然終わりになってしまうこともあります。同じようにweb上でコンテンツを楽しむ人へ、コマkomaさんから何かアドバイスは?
コマkomaさんウェブ上って玉石混交でいろんなものが漂っていますが、突然自身の魂を砕かれるようなものに出会えたりするんですよね。私にとってはそれが『雨の日と月曜日』という小説でした。でもそれは明日には跡形もなく消えてしまって二度と読めないかもしれない、とても儚いものだと一連の出来事で強く思うようになりました。一期一会ってこういうことだなあと。私の場合は作者のきみねさんが続きを書いてくれるという幸運に恵まれましたが、そういった作品ばかりではないことも承知しています。

――たしかにそうですね。
コマkomaさん創作というのはとても孤独な作業なので、出来たら読んだ作品への感想やエールを一言だけでも作者さんに送ってほしいと思います。ウェブの果てから流れてきた作品にも作り手がちゃんといて、何かしらの反応が返ってくるのを皆さん待っているのだと思います。「面白かった」の一言で描き続けられる人もきっといて、その作品で何かを受け取る人もきっといて、そういうことの繰り返しが創作というものを支えているんだろうなあと思っています。

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