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『リラックマ』シリーズ新作は、コマ撮りとCGのハイブリッド 長編ストップモーションアニメで日本初の試みも

 Netflixシリーズ『リラックマと遊園地』が、8月25日に配信スタートした。2019年4月より配信されている前作『リラックマとカオルさん』は、ストップモーションアニメならではのアナログな味わい深さと映像美が話題を呼んだ。新作ではストップモーションアニメの技法を踏襲しつつも、随所に最新のデジタル技術が導入されている。アナログとデジタルの二項対立ではなく、それぞれの長所を融合させることでストップモーションアニメの未来を切り拓く小林雅仁監督に話を聞いた。

Netflixシリーズ『リラックマと遊園地』予告編

前作の世界観を踏襲しつつも、“シーズン2”ではなくよりファミリー向けに

 前作『リラックマとカオルさん』は、アラサーOLのカオルさんといつの間にか彼女の家に住み着いたリラックマ、コリラックマ、キイロイトリとのほのぼのした日常が、ストップモーションアニメならではの温かい映像で描かれている。不器用でどこかこじらせ気味のカオルさんのキャラクターも、大人の女性を中心に共感を呼んだ。

 3年半ぶりの新作となる『リラックマと遊園地』は、前作の世界観を踏襲しつつも、“シーズン2”という位置づけではない。ストーリーもテンポ感が増し、前作以上にファミリーで楽しめる内容となっている。

「前作ではリラックマが可愛い、癒されるといった感想だけでなく、特にアジア圏からは『大人にはグサリとくる』といった奥行きのある反響がありました。一方、欧米では『アニメは子どもが楽しめるものであってほしい』という風潮もあり、新作では少しそちらに寄せた物語性を意識しました。Netflixというグローバルな配信サービスだからこそ、より広い世界で世代問わず楽しんでもらえる作品に仕上げました」
 舞台は閉園間近の遊園地。スタッフたちは最後まで来場者を楽しませようと奮闘していた。ところが設備の老朽化によりトラブルが続出。そこへ遊びにやってきたカオルさんやリラックマたちが、次々とハプニングに巻き込まれる1日の出来事を、全8話で描いている。

 カオルさんが密かに恋心を寄せるハヤテくんやその甥っ子のトキオくんは前作に続いて登場。さらに遊園地で出会うプロゲーマー志望の少女とその両親、人員不足のため園を駆け回るスタッフのお姉さん、古くからアトラクションを支えてきたメンテナンス技師など、ストーリーを盛り上げる新キャラクターも多数登場する。

新作は“コマ撮りとCGのハイブリッド” デジタルとアナログのどちらが正解ではない

 前作以上に子どもをワクワクさせるアドベンチャー感が満載の本作。また、デジタル世代の子どもたちとアナログ世代の大人たちが互いの長所を活かし、力を合わせてトラブルを乗り越えるエピソードは、世代を問わずグッとさせるものがある。

 そうした本作の重要なエピソードの1つにもなっている“アナログとデジタルの融合”は、『リラックマと遊園地』という作品そのものの成り立ちにもリンクしていた。

 Netflixの『リラックマ』シリーズは、被写体を1コマごとに少しずつ動かして撮影するストップモーションアニメという手法で制作されている。監督を務めたのはNHKキャラクターの『どーもくん』などで知られるアニメーションスタジオ・ドワーフの小林雅仁さん。1日に撮影できるのは10秒程度という気の遠くなるような作業で生み出される温かみや実在感が魅力のストップモーションアニメは、フルCGアニメ全盛の現代も世界中で愛されている。

「リラックマを映像で描くにあたっては、ストップモーションアニメが最適だったと感じています。リラックマが、なぜ多くの人々に愛されているのか。それは、なんでもかんでも効率やスピードが良しとされる風潮とは真逆の価値観で生きているからだと思うんですね。ストップモーションアニメは、表現に制約があります。でも、だからこそ観る人の感情や想像が入り込める余白も生まれるのが、ストップモーションアニメの価値だと信じて僕たちは作っています」
 一方で昨今のストップモーションアニメの世界では、“コマ撮りとCGのハイブリッド”が1つの潮流になっている。『リラックマと遊園地』もコマ撮りとCGを融合させることでストップモーションアニメならではの魅力はそのままに、グローバル配信される作品にふさわしいスケール感のある映像世界を作り上げている。

「CGは、主に遊園地の風景に使っています。コマ撮りだけにこだわっていたら、広い空間から醸し出されるワクワク感は表現しきれなかったと思います。一方でキャラクターはアニメーターが人力で動かしてコマ撮りし、室内空間と小道具は実際の美術セットを作っています。デジタルとアナログのどちらが正解ではなく、より楽しい作品を作るという目的のために選択した手段でした」

コロナ禍が後押しに…デジタル技術の導入で制作環境を改善 後世への継承も課題

 デジタル技術の導入は、ストップモーションアニメの制作環境の改善にもつながっている。例えば、かつては手作りしていた人形の細かい表情や美術のセットも、昨今は3Dプリンターで出力するケースが増え、作業時間が大幅に短縮したという。『リラックマと遊園地』でも3Dプリンターで一部のキャラクターや美術小道具が制作された。

「人形やセットを使った撮影に入る前に、コンピュータ上に3DCGソフトで仮のセットを組み、アングルや照明をシミュレーションした上で本番に臨みました。撮影現場での制作時間の短縮に繋がりました。海外のスタジオではだいぶ浸透している手法ですが、日本の長編ストップモーションアニメではおそらく初の試みだったと思います」

 こうした事前準備を行なったのは、緊急事態宣言によりスタジオにスタッフが集まれなくなったことも大きく関係していた。『リラックマと遊園地』では、各セクションのスタッフが自宅で作業を進められるよう、進捗状況を情報共有できるシステムも初めて導入されたという。

「ストップモーションアニメのスタッフはわりとアナログ人間が多いのですが(苦笑)、図らずもコロナ禍でデジタルを導入せざるを得なくなったことが功を奏した面はたくさんありました」
 非効率性はストップモーションアニメの魅力だが、同時に制作のハードルも高い。小林監督によると、他国に比べて日本のストップモーションアニメ人口は極めて少ないという。

「制作にかかる手間やコストから日本ではなかなか産業として成り立ちづらく、どちらかというと趣味性の高いアート的な立ち位置になっているのが現状です」

 一方、海外のスタジオからは今もグローバル人気を博するエンタテインメント作品が続々と生み出されている。2020年には『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』が、ストップモーションアニメとしては初の『ゴールデングローブ賞』アニメ映画賞に輝く快挙となった。

「アートにはもちろん価値があります。しかし産業として成り立たなければ、若い世代も参入できません。そのためには制作環境の見直しや、グローバルにアピールする作品を作ることも重要だと思います。『リラックマと遊園地』をきっかけに若い人たちがこの業界にどんどん参入し、良質な作品がたくさん生まれることでストップモーションアニメ文化を後世に継承していきたい。そんな想いも本作には込めています。初めての試みも多かっただけに大変なことはいろいろありましたが、『リラックマと遊園地』のキーとなるセリフ『トラブルも楽しむくらいじゃないと、お客なんて楽しませられないぞ』の精神で乗り越えました」

 トラブルに奔走する人間たちをよそにどんなときもマイペースなリラックマの存在は、世代も国境も超えて現代人をホッとさせてくれる。その魅力を最大限に引き出したストップモーションアニメという手法、そしてファミリーで楽しめる良質な作品を通してリラックマという日本の愛すべきIPが、世界に紹介される意義は大きい。

(文/児玉澄子)

『リラックマと遊園地』主題歌 くるり「ポケットの中」ミュージックビデオ

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