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「ママはパパがこわいの?」娘のひと言にドキ…妻が恐怖する“優しい夫"によるの無意識の圧を描いた漫画が話題
現代版に置き換えた自分の両親の物語、子どもの頃に見た光景を参考にしている
ゆむいさん 私自身、夫の扶養を外れて数年が経っているのですが、状況が変わっても悩みは尽きないものだなと思ったことがきっかけです。その悩みの原因のひとつが、私の両親のことです。でも悩んでいるうちに、彼らを現代版に置き換えて、新しい物語を作ってみようと思いつきました。
――主人公のゆうかは、ことあるごとに「俺がいないと何もできないんだから」と夫に言われ、傷つきながらも「自分は恵まれている」と思うようにしている。傍から見たら“モラハラ”とも受け取れますが、ご自身の経験で似たような出来事はありましたか?
ゆむいさん ゆうかとてるおは、私が子どもの頃に見た光景を参考にしています。父は子どもの頃、両親の離婚、親の病死でとても苦労したそうです。高校を中退せざるを得なくなり、働きながら夜間学校に通い、お金がないので、駄菓子で空腹を誤魔化す生活をしていたと聞きました。自分の力とは無関係に、何もかも上手くいかなくなることがあると身を持って知ったそうです。その経験から「親がしっかりしないと子どもが苦労する」と常々言っていました。それが父の正義であり、恐怖でもあったと思います。
――子どもの頃に見た光景とのことですが、具体的にどのようなことがあったのでしょうか?
ゆむいさん 父は生い立ちに強いコンプレックスを抱いてたと思います。そのせいかわかりませんが、自分を大きく見せる癖があり、よく同じ武勇伝を繰り返し、話していました。その延長線上で、「お母さん(妻)は俺がいないとダメだ」と言っていました。「ダメな妻を養っている自分はすごい」と優位に立ちつつ、「俺がいないとダメなんだから、絶対に家庭を放棄するなよ。子どものためだよ」という遠回しな警鐘でもあった。根底には、「妻がいないと俺はダメだ」という弱さが隠れていたと思います。
「ママ…パパこわいの?」は作者の実体験、夫に認めてもらうことをやめて気が楽になった
ゆむいさん 母は愚痴りつつも、刺激しないようにしたり、機嫌をとっていました。そうするのが得策だったし、実際に頼りにしてたと思います。「うちは恵まれてる」と言うのも本心であったと思いますが、子どもの私には、そう自分に言い聞かせてるようにも見えました。
――主人公は、仕事と家庭を完璧にこなせず「できない私はやっぱりダメ人間なのか…」と悩みますが、似たような経験はありますか?
ゆむいさん 私も家事が完璧にできなくて長年悩んでいました。自分は普通に生活ができない病気なんじゃないかと思い詰めて、心療内科に通った時期もありました。でも、よく考えたら完璧でないこと自体に悩んでいるのではなくて、それを夫に責められることが、苦しいんだなと気づきました。それから「家事ができない私が悪い」と思うのをやめたら、少し気が楽になりました。”夫に認めてもらう”という基準を捨てて、数年がかりで元気を取り戻しました。
――漫画のタイトルにもありますが、娘の「ママ…パパこわいの?」という言葉が印象的です。ゆむいさん自身も似たような経験をしたことがあるのでしょうか?
ゆむいさん この台詞は、私が小学生の頃に、実際に母に向かって言った言葉です。どういう経緯でそうなったのかよく覚えていないのですが、「お母さんは、お父さんを怖がっている」と母にイライラしながら言いました。でも、「そんなことない」と母に否定され、「いや、怖がってるよ」と言い合いになりました。その翌朝、私に見せつけるように円満アピールをしていたので、私が寝ている間に夫婦で話し合いでもしたんだと思います。私は、その時のやり取りが、とても不快だったことを覚えています。
――ゆむいさんも同じように、ふとした時の子どもの発言に気付かされたことはありますか?
ゆむいさん 漫画の内容とは違うのですが、「僕の約束はどうせ聞いてくれないだろうけど…」と前置きしてお願いごとをされたときは焦りました。気を使わせているし、絶望している…。細々したやりとりを後回しにしてたなと気付かされて、反省しました。
――ギスギスとするシーンでも、とてもやわらかい絵のタッチが、和らげてくれます。描く際に気をつけていることや大切にしていることはありますか?
ゆむいさん 絵の技術面では、まだまだ未熟なので日々練習中です。私が漫画を描く際に気をつけていることのひとつが、「◯◯ハラスメント」という言葉を使わない、ということです。その呼び名を否定しているのではなく、漫画にする場合は、そう書いた瞬間に、そのキャラクターが「悪役」と決めつけられてしまうから。このキャラクターは、どうしてこういう状態になったのかを読者が探れるように描いています。
SNSの批判の声も大事、嫌悪感を抱いた理由にこそ、何かありそうな気がする
ゆむいさん 個人の意識に依存するのではなく、仕組みを変えないと定着しないと思います。私は、出産をして初めて無力さを思い知りましたが、夫も同様だったと思います。でも、その後の長いサラリーマン人生に影響するので、無力じゃないフリをしなければいけなかった。家族のライフイベントに合わせて遠慮なく休んで良いという風潮や制度があれば、男性たちの救いになると思います。仕事以外の時間も尊重される社会になることを願っています。
――本作は、妻目線で描かれた作品ですが、SNSなどで男性からの批判の声もあったのでしょうか?
ゆむいさん 男女関係なく批判の声がありました。でも、「共感できない」という感覚も、私は大事だと思っています。共感できないことや嫌悪感を抱いた理由にこそ、何かありそうな気がします。賛同だけでなく、いろいろな答えが見たくて漫画を描いているので、思ったことをそのまま書いていただけると嬉しいです。
――ワンオペ育児で、誰にも頼れず孤立する方もいます。ゆむいさんの経験を通して言えることはありますか?
ゆむいさん 私は、産後1ヵ月で夫の転勤に帯同し、縁もゆかりもない田舎町で、初めての子育てをしました。もともと人付き合いが苦手だったので、孤立し、精神状態が限界に達していました。その時に、保育園の一時保育を活用したり、保健師さんに号泣しながら悩みを打ち明けたり、とても助けられました。もし同じような思いをしている人がいるのなら、夫以外の頼れる人や行政機関に頼ってください。
著者:ゆむい
定価:1155円(税込)
発売日:2021年12月08日
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