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“本格派”料理番組は役割を終えたのか? 加速度を増す“時短レシピ動画”とは対極となる「プロの技術と叡智」への渇望
『料理の鉄人』以降、“エンタメ化”した料理番組 レシピ伝える気ない?レミ&カレン人気
そもそも料理番組は、プロの料理人などがレシピを紹介し、レシピ本と連動して展開する“教養系”が多かった。しかし、空前のグルメブームの中に始まった『料理の鉄人』(1993〜99/フジ)以降、エンタメ化が加速。家庭では真似できないようなプロの料理を披露したり、タレントや一般人が料理をし、対決や判定を楽しむような『チューボーですよ!』(1994〜2016/TBS)、『どっちの料理ショー』(1997〜2006/YTV)、『愛のエプロン』(1999〜2002/テレ朝)、『SMAP×SMAP』(BISTRO SMAP)(1996〜2006/フジ)などのヒット番組も生まれた。
もはや“料理男子”に目新しさを失った今でも、料理番組でエンタメ性を見出しているのは、個性的なキャラクターと奇想天外なレシピを打ち出す平野レミや滝沢カレンくらいだろうか。2020年初春に放送された『平野レミの早わざレシピ!』(NHK総合)では、“鶏の丸焼き ひトリ立ち”が「衝撃的なビジュアル」「腹筋崩壊した」などと話題に。また滝沢カレンは、ゴールデン帯で料理番組を観なくなった今、2020年よりゴールデン帯2時間SPとなる『カレン食堂』を放送。分量の説明を、こしょう「転んだときに肘についてる砂ぐらい」、パン粉「世界人口全てぐらいの量」、牛乳「明日飲むのに何の影響もない量」と表現するなど、レシピは完全大喜利状態となっていた。
ロケ番組、ジブリ飯、グルメドラマ…形を変えても映像で伝える“おいしそう”の強度は不変
「また、『家事ヤロウ!!!』(テレ朝)などはSNS時代の現在の流れに乗り、公式インスタグラムで、番組内で紹介した家事が得意ではない人でも簡単に作れるレシピをリアルタイムで投稿。そのほか、ジブリアニメに登場する料理は、『天空の城ラピュタ』のラピュタパン、『となりのトトロ』のサツキの手作り弁当、『ハウルの動く城』のベーコンエッグなど、今も度々話題に上っており、ドラマ『孤独のグルメ』に登場した店が放送後に行列を成す動きも観られる。先述のそれぞれが話題になっているのを鑑みるに、グルメはいつの時代も強いジャンルと言えます」(衣輪氏)
一方で、『ぴったんこカン・カン』や『メレンゲの気持ち』など、食レポが人気コーナーだった長寿番組は次々終了。『相席食堂』『有吉ゼミ』『マツコ&有吉 かりそめ天国』では、おいしさを伝えるよりも笑いに特化した演出となっており、『相席食堂』で元プロレスラーの長州力が放った“おいしい”表現である「飛ぶぞ」は、ネットスラングとしても一般化。紹介された料理そっちのけで視聴者を喜ばせている。
「ひたすらご飯を食べるだけの動画をアップしているおかずクラブ・オカリナさんの『ときどきオカリナ』ほか、YouTube界でもかつてのテレビ界のように、料理・大食い・激辛チャレンジの動画は変わらず人気チャンネルが多数。海外在住or旅行中の日本人が、主にアジアの屋台飯の厨房で撮影し、豪快にフライパンを振ったり、大量のチャーハンを作り上げる様子のみを映した動画も無数にあり、かなりの再生数を稼いでいる。つまり、料理や食卓シーンはいつの時代も変わらぬ需要があるものの、好きな時に好きな料理を自由に検索できるようになった今、テレビ上での献立も作り方もあらかじめ決まっている押し付けレシピや食レポでは、もはや視聴者は満足しない時代になった」(衣輪氏)
ネットレシピとは異なる料理番組需要、おいしい・楽しいを“丁寧”に伝える不朽の正統派
『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』の後番組に関しては、「下処理の仕方などもとても丁寧で、本格的な料理が家庭でも真似できるいい番組でした。どんな方が後番組に出ても同じがいい」「変にバラエティ色を強くして料理以外のコーナーなど増やさず、DAIGOさんと料理の先生たちが純粋に楽しく料理を作る番組がいい」「料理とエンタメのフュージョンの料理番組はいくつもあったけど、正統派の料理番組を希望」「忙しい主婦には時短動画が有難いのだろうが、テレビの料理番組ファンはレシピだけが目的ではない。料理家とアシスタントのかけあい会話も楽しみのひとつで、15分間、ゆっくりと料理を作る過程を見ているのが好きだ。新番組が料理を素材としたバラエティ番組になるのだったら残念だ」といった声が相次いでいる。
『おかずのクッキング』では、土井善晴が「塩むすび」や「湯豆腐」のレシピをプロ視点で紹介したことが話題になった。1分以内に時短レシピを見せる動画が大量生産大量消費されている今、料理番組に求められているのはそういったプロの丁寧な仕事、かつ家庭で役立てるちょっとした手間や工夫の知識ではないだろうか。テレビまで時短・エンタメに走ってしまったら、日本の食文化はますます失われていくだろう。『おしゃべりクッキング』後番組しかり、正統派料理番組が令和も受け継がれていくことを願いたい。
(文/中野ナガ)