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『ボクらの時代』15周年、日曜朝の放送でも唯一無二の価値 MC・台本なしによる“鼎談”の妙
前代未聞のトーク番組に、当初はキャスティングも視聴率も苦戦… それでも信念曲げず
それぞれMCの力量によるところが大きく、MCの人気も手伝って固定のファンも付きやすい。しかし『ボクらの時代』はMCも台本もなく、固定の出演者もない。VTRを挟む画変わりもほとんどなしに、30分間フリートーク一本で勝負している。それによって、テレビならではの予定調和感や制作陣の明確な意図は入る余地がなく、逆に出演者同士の仲の良さや自然体が見られるのが特徴だ。しかし、その“珍しさ”もあって、スタート当初は数字にも手こずったと塩田氏は明かす。
「数字が取れないというのは悲しい事実でしたが、それよりも私はこの番組のコンセプトを世間に知らしめたかった。台本もMCも置かないけど、私たちが、恐らく皆さんも話を聞きたい方が出演して、楽しく会話をする。MCが入ってしまうと、進行によりその“素”の会話から逸れてしまう。“素”の面白さに期待するからこそキャスティングは重要で、それこそ当初は、なかなか出演していただける方が見つからないという状態が続きました」(塩田氏/以下同)
今となっては『ボクらの時代』なら…と出演してくれる大物も少なくないが、当初はまず、番組もそのコンセプトも知られてない。故に出てもらいたい人にOKを貰いにくい。加えて、MCがいれば、その人なら…と出てくれる場合も多いが、番組のコンセプト上、それもできない。だが放送日は毎週やってくる。企画、交渉、収録、編集などと並行してキャスティングに奔走し、中には何年もかかってやっと出演までこぎつけたゲストもいたという。
事前打ち合わせもほぼなし、スタッフからの指示なし“だからこそ”生まれる赤裸々トーク
故に、女優・小林聡美が担当しているナレーションも客観的な事実のみに終始。出演者に「実力派の1人」などといった修飾語を使わない。そんな言葉を使用せずとも、番組は“時代”を生きる一流の人たちを信念を持ってキャスティングしている。妙に評価する言葉や感想もナレーションでは述べない。一流の調理師のように、その“素材”を大切にしている。オープニングCGも、テーマ曲であるビートルズ「ハロー・グッドバイ」も変えない。出演者が毎回変わるため、声、曲、タイトルバックのみが番組を認識する構成材料になっている。
こうした想いが徐々に世の中に浸透し、例えば2020年には浅香唯×大西結花×中村由真、野沢雅子×田中真弓×山寺宏一、ほか内田也哉子×YOU×是枝裕和、2021年には中村倫也×窪塚洋介×堤幸彦監督、佐藤健×ONE OK ROCK・Taka×大友啓史、天海祐希×若村麻由美×加賀まりこ、安藤桃子×安藤和津×安藤サクラなど、錚々たる豪華出演者が揃うようになった。「昨今では『ボクらの時代』好きなんですとおっしゃってくださる方は増えましたが、それでもあれだけの素敵な方々をキャスティングする際に最も必要なのは、熱意と必死さですね」と塩田氏は笑う。
だが筆者もインタビュアーとして思うが、同番組のように、出演者がこれまで聞いたこともないような、非常に踏み込んだ話が毎回出るというのは相当なことだ。「台本もMCもなしの収録が90分もあると、自然にそこへ行きついていくんです。この3人大丈夫かな…と最初は思っていても、様々なテーマが次々と展開していき、これを話すなら、こっちも話さなければならないと会話が分岐、深化。実は初期からそうで、番組の色に。最近では出演者の方々が、こういう番組だから、という姿勢でお話をしてくださるようになり、ありがたい限りです」
そのため、キャスティングは重要だ。まず出演者を1人決める。残り2人は本当にその人が話したいと思える人たちでないといけない。接点がなくても、どうしてもこの2人を引き合わせたいというパターンもある。そのベースにあるのは、やはり“人間関係”だ。
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また、これが2人ではなく3人だからこそ良い点もある。「3人の中で化学反応が起きるんです。他の2人の話を聞きながら、もう1人が、僕もこう思ったと意見を。それが繰り返されていくことで、1対1では出てこなかった話が生まれる。3人の中で会話を回し始める人も自ずと出てくるんですよね。ですが、それはスタッフが指図したものではない。自然発生であり、それもまた“素”なのです」
結果、きわめてパーソナルな話題や本音が飛び出す。あまりに赤裸々なゆえ、放送では泣く泣くカットせざるを得ないことも多々あるほどだ。昨今ではYouTubeなどのネットでテレビで流せないような本音トークが見られるようになったが、塩田氏は「他を意識して我々のコンセプトややり方を変えようと思ったことはない」と断言。「ゴールデンなど違う時間帯なら変わっていたかもしれませんが、今もとにかく同じスタイルでやり続けようと考えています」。
コロナ禍では、大久保佳代子×光浦靖子×いとうあさこなどリモートでの収録もあった。技術的にも工夫し放送にこぎつけたが、「自宅で1人パーソナルな空間だったことからか、かえって深い話になった」という発見もあった。「昨年10月から見逃し配信が始まり、おかげさまで好評で、時間にとらわれない見方も増えてきました。キャスティングはクオリティに直結します。今後もキャスティングに常に汗をかいていこうと思っていますのでお楽しみに」
(文=衣輪晋一)