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『ボクらの時代』15周年、日曜朝の放送でも唯一無二の価値 MC・台本なしによる“鼎談”の妙

  • 2007年放送開始した『ボクらの時代』(フジテレビ)

    2007年より、フジテレビ系で毎週日曜の朝7:00〜7:30に放送されている『ボクらの時代』

 現在さまざまなトーク番組が放送されているが、そのほとんどが『徹子の部屋』に代表されるような“MCありき”のものだ。だが、それが存在しないトーク番組もある。フジテレビで毎週日曜朝7時から放送されている『ボクらの時代』だ。同番組はMCだけでなく、台本もなし、VTRによる画変わりもほとんどない。トーク番組でもかなり特殊と言えるが、スタートしたのは2007年。15周年を迎える堂々の長寿番組となっている。意外な人間関係が見えるキャスティングの妙、予定調和なく、出演者3人の化学反応で番組が進行する唯一無二の構成。この孤高の番組を制作する塩田千尋Pにその苦労を聞いた。

前代未聞のトーク番組に、当初はキャスティングも視聴率も苦戦… それでも信念曲げず

 現在放送中のトーク番組と言えば、『徹子の部屋』『A-Studio+』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』のようなMCありきの対談トーク、『踊る!さんま御殿!!』『ダウンタウンDX』『アメトーーク!』のようなひな壇トーク、『はやく起きた朝は…』などMCトーク参加型、『マツコの知らない世界』『新婚さんいらっしゃい!』などの素人トークなどが挙げられる。

 それぞれMCの力量によるところが大きく、MCの人気も手伝って固定のファンも付きやすい。しかし『ボクらの時代』はMCも台本もなく、固定の出演者もない。VTRを挟む画変わりもほとんどなしに、30分間フリートーク一本で勝負している。それによって、テレビならではの予定調和感や制作陣の明確な意図は入る余地がなく、逆に出演者同士の仲の良さや自然体が見られるのが特徴だ。しかし、その“珍しさ”もあって、スタート当初は数字にも手こずったと塩田氏は明かす。

「数字が取れないというのは悲しい事実でしたが、それよりも私はこの番組のコンセプトを世間に知らしめたかった。台本もMCも置かないけど、私たちが、恐らく皆さんも話を聞きたい方が出演して、楽しく会話をする。MCが入ってしまうと、進行によりその“素”の会話から逸れてしまう。“素”の面白さに期待するからこそキャスティングは重要で、それこそ当初は、なかなか出演していただける方が見つからないという状態が続きました」(塩田氏/以下同)

 今となっては『ボクらの時代』なら…と出演してくれる大物も少なくないが、当初はまず、番組もそのコンセプトも知られてない。故に出てもらいたい人にOKを貰いにくい。加えて、MCがいれば、その人なら…と出てくれる場合も多いが、番組のコンセプト上、それもできない。だが放送日は毎週やってくる。企画、交渉、収録、編集などと並行してキャスティングに奔走し、中には何年もかかってやっと出演までこぎつけたゲストもいたという。

事前打ち合わせもほぼなし、スタッフからの指示なし“だからこそ”生まれる赤裸々トーク

 だが、塩田氏もスタッフもブレなかった。MCを置いてしまったら『ボクらの時代』ではなくなってしまう。皆が話を聞きたい人が3人出演し、3人が楽しく話す。制作側はそこへ何もしてはいけない。話が詰まった時など、参考程度にトークテーマの例を出演者に見せることもあるが、それを使うかどうかも出演者次第だ。テレビでは稀に、台本によって出演者がその役割を担って意図しないことを言わされる場合もあるが(あくまでテレビ“ショー”なのでこれを否定しないが)、『ボクらの時代』では特に、それはご法度だ。

 故に、女優・小林聡美が担当しているナレーションも客観的な事実のみに終始。出演者に「実力派の1人」などといった修飾語を使わない。そんな言葉を使用せずとも、番組は“時代”を生きる一流の人たちを信念を持ってキャスティングしている。妙に評価する言葉や感想もナレーションでは述べない。一流の調理師のように、その“素材”を大切にしている。オープニングCGも、テーマ曲であるビートルズ「ハロー・グッドバイ」も変えない。出演者が毎回変わるため、声、曲、タイトルバックのみが番組を認識する構成材料になっている。

 こうした想いが徐々に世の中に浸透し、例えば2020年には浅香唯×大西結花×中村由真、野沢雅子×田中真弓×山寺宏一、ほか内田也哉子×YOU×是枝裕和、2021年には中村倫也×窪塚洋介×堤幸彦監督、佐藤健×ONE OK ROCK・Taka×大友啓史、天海祐希×若村麻由美×加賀まりこ、安藤桃子×安藤和津×安藤サクラなど、錚々たる豪華出演者が揃うようになった。「昨今では『ボクらの時代』好きなんですとおっしゃってくださる方は増えましたが、それでもあれだけの素敵な方々をキャスティングする際に最も必要なのは、熱意と必死さですね」と塩田氏は笑う。

 だが筆者もインタビュアーとして思うが、同番組のように、出演者がこれまで聞いたこともないような、非常に踏み込んだ話が毎回出るというのは相当なことだ。「台本もMCもなしの収録が90分もあると、自然にそこへ行きついていくんです。この3人大丈夫かな…と最初は思っていても、様々なテーマが次々と展開していき、これを話すなら、こっちも話さなければならないと会話が分岐、深化。実は初期からそうで、番組の色に。最近では出演者の方々が、こういう番組だから、という姿勢でお話をしてくださるようになり、ありがたい限りです」

 そのため、キャスティングは重要だ。まず出演者を1人決める。残り2人は本当にその人が話したいと思える人たちでないといけない。接点がなくても、どうしてもこの2人を引き合わせたいというパターンもある。そのベースにあるのは、やはり“人間関係”だ。

まさに綱渡りの出演交渉…ダメ元で決行した超大物へのオファーの舞台裏「汗かいてみようよと」

 例えば話題になった、松本人志×さだまさし×泉谷しげるの例で聞いてみた。「まず、さだまさしさんが決まり、さださんにどなたとお話したいですかと伺ったら、松本人志さんと答えられた。そこでダメ元で汗かいてみようよと、松本さん側にオファー。ご相談しつつ、もう1人についてはさださん、松本さんお2方から泉谷さんのお名前が出て、成立にこぎつけました」。こうした交渉を、常に並行してギリギリで行っている。「まさに綱渡りです」と塩田氏は冗談めいて話す。

 また、これが2人ではなく3人だからこそ良い点もある。「3人の中で化学反応が起きるんです。他の2人の話を聞きながら、もう1人が、僕もこう思ったと意見を。それが繰り返されていくことで、1対1では出てこなかった話が生まれる。3人の中で会話を回し始める人も自ずと出てくるんですよね。ですが、それはスタッフが指図したものではない。自然発生であり、それもまた“素”なのです」

6日放送回に出演する角野卓造、小日向文世、松重豊

6日放送回に出演する角野卓造、小日向文世、松重豊(C)フジテレビ

  • 角野卓造

    角野卓造(C)フジテレビ

  • 小日向文世

    小日向文世(C)フジテレビ

  • 松重豊

    松重豊(C)フジテレビ

 3人だと、それぞれが話を聞いたり考えたりするある程度の余裕があるからだろうか。お互いがずっと話し続けなければいけない対談よりも、聞き役、回し役、話し役と、自由に振舞える鼎談の方が、いい具合に肩の力が抜けるのかもしれない。加えて、4人以上になると話が分散してしまい、深い話にまで行きつきにくい。また、前述の通り、MCありきのトーク番組は、看板を張る大物であることがほとんど。大物を前にゲストは当然緊張や忖度もするだろうが、『ボクらの時代』では元々繋がりがある3人であることが前提だ。

 結果、きわめてパーソナルな話題や本音が飛び出す。あまりに赤裸々なゆえ、放送では泣く泣くカットせざるを得ないことも多々あるほどだ。昨今ではYouTubeなどのネットでテレビで流せないような本音トークが見られるようになったが、塩田氏は「他を意識して我々のコンセプトややり方を変えようと思ったことはない」と断言。「ゴールデンなど違う時間帯なら変わっていたかもしれませんが、今もとにかく同じスタイルでやり続けようと考えています」。

 コロナ禍では、大久保佳代子×光浦靖子×いとうあさこなどリモートでの収録もあった。技術的にも工夫し放送にこぎつけたが、「自宅で1人パーソナルな空間だったことからか、かえって深い話になった」という発見もあった。「昨年10月から見逃し配信が始まり、おかげさまで好評で、時間にとらわれない見方も増えてきました。キャスティングはクオリティに直結します。今後もキャスティングに常に汗をかいていこうと思っていますのでお楽しみに」


(文=衣輪晋一)

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