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“やらせ”なしで面白くするのが本当の才能 元テレビマンがYouTubeで街頭インタビューする理由
テレビの仕事を断ってYouTubeに没頭 妻から「半年で月30万円稼げなかったらやめて」
「当時、番組を5本ほど掛け持ちしていたのですが、その中で唯一、命を賭けて頑張っていたのが東野幸治さん出演の『その他の人に会ってみた』(TBS系)。その世界での、いわゆる“王道の選択”をしなかった、アンケート調査などでの“その他”の項目に含まれるような方たちの生き様を追うバラエティで、東野幸治さんや平成ノブシコブシ・吉村崇さんのような超一流芸人が僕のVTRにツッコんで面白さをパワーアップしてくれるのが快感だったんです。ですが、それも2020年3月に終了。絶望し、“じゃあYouTubeで好きなように楽しめるものをやってみよう”と始めたのが『街録ch』でした」(三谷氏/以下同)
コロナ禍で仕事が減っていたのが不幸中の幸いとなり、三谷氏は『街録ch』に没頭した。最初は新宿の街中でインタビュー対象を探して歩いたのだと言う。だがテレビでもなく、駆け出しのYouTuberであり“看板”もない三谷氏からの問いかけは95%断られた。その中で承諾をもらえた人を街頭インタビュー。徐々にテレビの仕事を適当な理由をつけては断り三谷氏は『街録ch』も優先的に扱うようになった。
「でも他の仕事を断ってYouTubeばかりやっていることが妻にバレて(笑)。話し合った末、『半年で月30万円、2人が暮らせるだけの金額を稼げるようにならなかったらやめてね』と言われました。実は僕も、父がくも膜下出血で倒れ極貧の生活を送らざるを得なかった過去が。少年時代のその経験から貧乏になりたくないという想いは人一倍強い。そうならないようお金を稼がなければならないという気持ちはありました」
重視しているのは“取材対象者ファースト” 東野幸治、武井壮らの出演で大台に
「ちょうどその頃、クラウドファンディングも始めていたんです。その協力も含め、お世話になっていた東野幸治さんに連絡させていただいたんですが、話をしているうちに東野さんにも出演いただけることに。これが大きかった。話題になったほか、東野さんほどの方が出演しているYouTubeチャンネルということで、SNSで面白そうな人を見つけて出演オファーをするのですが、OKがもらいやすくなりました。自薦や他薦も増えてきたんです」
『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のAD時代に知り合った武井壮や平成ノブシコブシ吉村の出演、大森靖子の主題歌制作など、すべてが連鎖して登録者数が増え続けて現在に至る。三谷氏が街頭でのインタビューにこだわる理由は「見慣れた街並みで話す方が気軽に喋っていただけるんです。逆に部屋を用意すると緊張される。日常で話すほうがリラックスしていただけるという面は確かにあります。あとは単純に部屋を用意する金がないっていう(笑)」
「それと取材対象者に得になるように作ろうってことは心掛けてます。『ここは使わないでください』と言われたら素直に使いませんし、動画に来た批判コメントも消すように。反応の取捨選択になりますが、そもそも取材対象者のほとんどは一般の方。芸能人でも叩かれて傷ついて自死が起こる昨今、叩かれ慣れてない一般人の方を傷つけたくない。あとは単純に取材した方から感謝されたいって下心もあります(笑)」
「オチなんてテレビ側の自己満足じゃないのか」出演者が不快な想いをしないよう、喋りたいことを喋ってくれた方が面白い
「また、テレビバラエティは必ずオチを付けなければならないところがあります。『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)などの一般人への街頭インタビュー企画は、とにかく何がなんでもオチをつけようとする。それに僕はモヤモヤする。オチなんて無くても面白い話はあるし、それが絶対必要っていうのはテレビの制作者側の自己満足じゃないのか。一般の人が10秒で強めのワード言ってテンポよく並べるより、一人の人を30分しっかり掘って、話を聞いたからこそ辿り着く面白い話があって、そっちの方が強いと勝手に思ってます。
あと、世代によって“やらせ”に対する考え方に違いがあって、テレビマンの主に40代以上のディレクターさん達は、ギリギリで“やらせ”が出来る人を優秀とする考えを多々見かける。その末路が、いないところに、爬虫類を放つやらせだったり、この世に存在しないお祭りを作ったり…限られた予算で、撮影の期間が決められているから、最低ラインのクオリティを保つためヤラセは必要悪という考えが蔓延していて、ロケに出ない総合演出と呼ばれるポジションの人が、撮れなかった、ということを許さない。撮れなければ現場のディレクターは罵倒され最悪クビ、だから、保身のためにいない場所に爬虫類を放ってヤラセをする…。
これは結局、現場に出ない総合演出が「撮れないなんてありえない」というスタンスから起こる現象なのですが、僕はヤラセをしてバンバン爬虫類を捕まえまくるVTRを作るディレクターより、捕まえることができなくても、その事態にもがき焦っている姿を撮って、それを面白くできるディレクターの方が何倍も優秀だと思いますし、それを相談しあえる総合演出の方が才能あるなと思います。
だから、よく街録chでもヤラセとか台本があるとかいうコメントがありますが、逆にそこに対しては徹底的に潔癖です。事前打ち合わせは一切しないし、仮に取材交渉で一度、会っていたとしたら、撮影の時にはじめましてとは絶対、言わないし、一度聞いた話に「えっそうなんですか?」という嘘のリアクションもしません。動画の中での自分の言葉にやらせがないようにしてます。そういう細かいヤラセや嘘を全て排除していることが視聴者の方からリアルで面白いって言って頂ける理由なのかなとも思ってます」
そんな三谷氏がYouTubeを作る上で参考にしたのはオリラジ中田敦彦YouTube大学とキンコン西野亮廣のYouTubeラジオ。中田からは「モーニングルーティンなどYouTuberに寄せた企画ではなく、1個の番組フォーマットを作って、それを継続すれば成功できる」ということ。西野からは「成功するためには、応援される必要があること。どうしたら人から応援してもらえるか」を学んだ。尊敬するテレビマンは『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のプロデューサー藤井健太郎氏。「ダウンタウンに面白いことをしてもらうのではなく、VTRで逆にダウンタウンを笑わせる、その神がかった“センス”と、何度、炎上しても“挑戦”を辞めない姿勢をリスペクトしている」と言う。
「動画でホームレスの支援などをしているからいい人のように言われたりしますが、僕は聖人じゃないし性格も悪くて悪口ばかり」と自嘲もする三谷氏。確かにテレビの批判などの言葉もあったが、そこには“面白さ”について、その本質を貫きたいとする気概が感じられた。三谷氏は現在33歳。新たな世代が、今後のテレビを、YouTubeを、ひいてはエンタメ全体を、さらに上のレベルへと引き上げる…そんな節目に今、来ているのかもしれない。
(取材・文/衣輪晋一)