「日本的であることをあえて意識しない」 大河ドラマ『麒麟がくる』の音楽を生み出した世界的作曲家の流儀

 2月7日に最終回を迎えたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』のオリジナル・サウンドトラック完全盤(CD6枚組)が、本日2月24日リリースされた。NHK交響楽団、和太鼓奏者の林英哲(はやし・えいてつ)の演奏によるメインテーマをはじめ、『麒麟がくる』のために制作された全111曲を完全収録。さらに同番組の最後に放送されている『麒麟がくる紀行』のテーマ『麒麟紀行』も収められるなど豪華な内容になっている。
 これら全ての楽曲の作曲を行ったのは、ハリウッド映画の劇伴も手掛ける世界的作曲家ジョン・グラム氏。同氏に『麒麟がくる』の音楽制作について語ってもらった。

光秀の「理想を持って生きた人生」を音楽で描きたい

――NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公、明智光秀に対してはどんなイメージを持っていましたか?
ジョン・グラム2018年にNHKの方からオファーをいただき、音楽を制作にするに際し、いろいろな文献、資料にあたりました。そこで見えてきたのが、光秀という人物にはいろいろな像があるということ。地元では名君と称されている一方、“裏切り者”というレッテルもある。ただ、はっきり言えることは、彼が秀吉のような貧しい身分の出身ではなく、自分の人生を自分で選択できるポジションにあったということ。だからこそ、信長を討つという道を選べたというわけです。

 『麒麟がくる』の音楽に関しては、脚本家の池端俊策さんが提示する光秀像、理想を持って生きた人生を描きたいと思っていました。軸になるのはやはり、光秀と信長です。非常に近い関係でありながら、最終的に対立してしまい、皆さんがご存知の結末に向かう。その物語を常に意識していました。信長は狂気に満ちていて、光秀は教養がある人物。対照的な二人の関係が、このプロジェクトの道筋となりました。

――「麒麟がくる メインテーマ」(Warrior Past)は、この作品の全体像を示す楽曲だと考えていいでしょうか?
ジョン・グラムそうですね。主旋律のイメージは、戦国時代。戦いの連続であり、戦場にいる人たちはもちろん、大名ですら命を落とすシリアスさを表しています。ハープと木管楽器による幽玄なパートでは、戦いの先に人々が切望する平和への願い。そして、最後のクワイアで、当時の人々の声を表現しています。映像にも人々の顔が映され、音楽との親和性を感じました。

音楽には作曲した人の体験や人生が込められている

――制作された楽曲は、和太鼓をはじめ、日本の伝統的な音楽のテイストも含まれていますね。
ジョン・グラム日本的な音階や楽器を使っているところも一部ありますが、実は「日本的であることをあえて意識しない」ようにしていました。その理由の一つは、私が日本人の作曲家でないこと。アメリカ人の私がそれを模倣するのは違うと思ったのです。もう一つの理由は、『麒麟がくる』の物語は非常に壮大で、あえて日本という枠に収める必要がないと感じたことです。このストーリーは、舞台がローマやイギリスであっても成立する。だからこそ、あえて違う国の楽器を使いたかったのです。アジア、アフリカ、南アメリカなどの楽器を使い、多国籍、無国籍な音楽になっています。

――なるほど。劇伴は映像を観ながら作曲されたのですか?
ジョン・グラムいえ、映像に合わせて書くことはほとんどありませんでした。NHKの音響デザインチームから楽曲リストを送ってもらい、それに合わせて制作することが多かったですね。例えば“裏切り”というキーワードであれば、裏切られる側の孤独や「光秀ならどう感じるだろうか?」と想像しながら、チェロを使ってその感情を表現したり。

 数は少ないですが、映像を観たうえで曲を書くこともありました。その一つが「信長」という楽曲です。若き日の信長が、敵将の頭を切り落とし、父上に献上する。信長は純粋に喜んでもらえると思ってるのですが、父に「なんでそんなことをしたんだ」と咎められてしまう。そういう信長の奇っ怪な部分をタブラなどのインド楽器を使って表現しました。
――ジョンさんと日本の音楽家とコラボレーションも、本作の大きな魅力だと思います。NHK交響楽団とのレコーディングはいかがでしたか?
ジョン・グラム本当に素晴らしかったです。普段、ロンドンやロサンゼルスで録音するときは楽曲ごとにセッションミュージシャンを集めるのですが、NHK交響楽団には歴史と文化、スタイルがある。実際、レコーディングはとても美しく、情熱的な演奏をしてくださいました。メインテーマはもちろん、「美濃の里」(Mino, My Home)、「麒麟〜聖獣〜」(The Kirin)の演奏はマジェスティック(威厳のある、荘厳)でしたね。

――個人的にも「美濃の里」には感銘を受けました。この曲を制作する際、どんなイメージを持っていたんですか?
ジョン・グラムインターネットで美濃地方の風景、美しい山々を見ているうちに、私が生まれ育ったバージニア州の自然と重なり合ったのです。「Mino,My Home」は牧歌的、子守歌のようなメロディーではじまりますが、そこには私の故郷に対する思いも込められています。現在、私が住んでいるロサンゼルスは音楽をやるためには良いですが、美しい街かと言われたら、そうでもなくて(笑)。この曲を作っているときは、木々や丘の美しさ、その中にある愛おしさ、懐かしさを感じていましたね。

――ジョンさん自身の人生、個人的な感情も音楽に反映されているんですね。
ジョン・グラムその通りです。音楽には作曲した人の体験や人生が込められていますから。読んだ本、聴いてきた音楽、恋に落ちた人、亡くなった親族、そして、自分の子どもたち…。『麒麟がくる』に大名たちが政治的な駆け引きをする場面がありますが、そのシーンの音楽を作っているときは、自分がウォール街で働いていたとき(大学卒業後、金融業界でキャリアを築く)の役員会のことを思い出しました。時代や状況は違いますが、緊張感は通じるところがあるのではないかなと。

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