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話題性よりも日常性、「噂の!東京マガジン」が30年貫く“日曜昼の在り方”
トップ芸人や大御所を起用せず、平均年齢63歳の“大人”タレントで30年
「長寿番組にはいくつかの共通項がありますが、そのひとつに“トップ芸人や大御所の冠番組”があります」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。
1976年に放送がスタートした『徹子の部屋』をはじめ、『所さんの目がテン!』(日本テレビ系)『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日テレ系)などがその代表格で、この傾向以外では『NHKのど自慢』(NHK総合)や『アタック25』のような素人参加型番組、『遠くへ行きたい』(読売テレビ制作)などの紀行番組もある。
一方で『噂の!東京マガジン』は(失礼を承知でいうと)一見“地味”な大人中堅タレントだけで30年視聴者から支持を得た情報番組。“長寿の情報番組”という視点でいうと、これは他に例がないことで、例えば1985年スタートの『バラエティー生活笑百科』(NHK総合)でも全国的な若者層には“地味”な印象のある笑福亭仁鶴が“相談室長”として出演しているが、大阪での制作を考えると笑福亭仁鶴はやはり関西の超大御所であり、そもそも初代は西川きよしが担当していた。これらを総合して先述の衣輪氏は『噂の!東京マガジン』の好調について「タレント頼みではなく、コンテンツ(番組)そのものが支持されていることの証明」と分析する。
娯楽ワイドショーながら“ゴシップよりもご近所ネタ”。時代に合わせた変化も
これについて須賀和晴プロデューサーは過去に「この番組で一番心がけていることは、“政権交代よりも隣の家のもめ事が大事”ということ。視聴者の方々の生活感、目線を大切にして大ニュースからではなく、身近な問題から世の中が見えてくるように努力してきました」と解説。また、「あえて視聴者層のターゲットを絞らず、子どもたちからお父さん、お母さん、そしておじいちゃん、おばあちゃんまで家族全員で楽しめる番組作りを意識してきた」と話している。
そんな同番組にも変化がある。とかく長寿番組は保守になりがちだが、番組開始の翌年からスタートした名物コーナー「令和の常識・やって!TRY(旧平成の常識・やって!TRY)」がマイナーチェンジしたのだ。同コーナーは街頭の若い女性をキャッチし、お題の料理に挑戦させるのがメインコンセプト。しかし近年は「料理は女性がするものという古い先入観からの差別」「キッチンに立ったこともないおっさんに笑われたくない」「女の料理下手を笑う番組」といった声があがり続けていたのも事実。
これが今年に入って男性も登場するように。SNSでは「やっと時代に追いついてきた」など好意的な意見が相次いでおり、衣輪氏は「公式では批判を受けての変更とは発表していませんが、いずれにせよ現代に合わせて“家族全員で楽しめる番組作り”を体現した形。長寿の冠に甘んじることなく批判を真摯に受け入れる姿勢も長く続く要因であるでしょうし、一時の視聴率にしかならないゴシップやスキャンダルを扱わない面も同番組が細く長く続く要因。その場限りの話題性や視聴率よりも、日常性を重視したことで、日曜昼にテレビを観る視聴者の気分にマッチしたともいえます」と解説する。
話題性やずば抜けた面白さを追求しなくても“日常に浸透”させれば視聴率はとれる?
「これは前述の須賀プロデューサーの“話題性よりも日常性を重視したコンテンツ作り”が奏功した結果ともいえるし、番組自体が日常に浸透しているからだといえます。自然に“なんとなく”チャンネルを合わせてしまう…これは文化人類学的に見た日本の特徴でもあるのですが、例えばお正月の初詣。とくに信仰心がなくとも人々はこぞって初詣へ赴きます。諸外国からは“無宗教”と思われがちな日本ですが、実は宗教が日常に浸透しているだけ。ですから“なんとなく”ぞろぞろと初詣に行く日本人たちの光景を見た外国人は“無宗教じゃなかったのか”と相当に驚くといいますね」
つまり、日本人は“日常に浸透”していれば“観る”など強い“目的”がなくてもチャンネルを合わせる傾向にあり、同番組がそれを体現している、と衣輪氏。
さらに「大きな話題があるとどのワイドショーも同じネタになる。飽きてしまったところに“身近な日常ネタ”は非常にホッとする」とも同氏。安心感のあるグレーヘア揃いの面々による「井戸端会議」には寧ろ需要があるというわけだ。視聴率重視で話題性ばかりを追求する昨今の番組たち。『噂の!東京マガジン』は、そんな風潮の現代で、見習うべきものの多いコンテンツといえるのではないだろうか。
(文/西島亨)