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(更新: ORICON NEWS

泣きよりも笑いを撮りたい「カメラを止めるな!」上田慎一郎監督

『カメラを止めるな!』のヒットを目の当たりにして

――作品の構想を立てたのはいつ頃ですか?
 2013年に「PEACE」という劇団(2014年解散)がやっていた舞台『GHOST IN THE BOX!!』を見て、その構造にインスパイアを受けて企画発案したのがきっかけです。「これを映画にしよう」ということで、脚本家と出演者とで企画を開発しましたが、お互いの事情もあってうまくいかず一旦頓挫しました。2016年の暮れぐらいに「とある企画コンペに一本出してみないか」と言われて、もう一度その企画を引っ張り出して、今度は一人で。基本的な構造以外の登場人物や展開を全て変えて、新しい作品として書き直しました。その企画コンペには落ちてしまいましたが、落ちた直後に「『シネマプロジェクト』で1本映画を作ってみないか」とオファーが来まして「やります」と。

 『シネマプロジェクト』はENBUゼミナール主催の映画製作プロジェクトで、新人監督と新人俳優が演技レッスンを経て1本の映画をつくるという企画。(出演する)メンバーを見てみないとどんな映画が作れるか分からないので、キャストを選抜する段階では『カメラを止めるな!』を作るかどうかはまだ決めていませんでした。応募してきてくれた中からオーディションで自分が選抜したキャストで、既存の台本などをもとに一般的な演技レッスンを何回かやって、みんなの個性を見た上で、このメンバーとなら『カメラを止めな!』ができると思い、作ることを決めました。

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

――資料等によりますと「不器用な人たちを選んだ」ということですが、これは『カメラを止めるな!』に限らず、純粋に不器用な人たちと映画を撮りたいと思ったからですか?
 これまでの短編もそうですが、僕が手掛けた作品の多くは、器用な人たちや美男美女が活躍する話ではなくて、不器用な人たちが力を合わせて一つの困難を乗り越えるという話です。今回もそういったものが作りたいなと思っていました。ですので、選抜するときも不器用で自分が面白いと思う人を獲りました。「カメラを止めるな!」を作ると決めてからは、選抜したメンバーで『カメラを止めるな!』に向けてのリハーサルを重ねて、それと並行して脚本を当て書きで書いていきました。

――当て書きは、リハーサルをやりながら役者さんの性格をみつつ?
 リハーサルだけでなく、一緒にいる期間が長かったので、飲み会の席とかプライベートもそうですが、みんなの個性、キャラクターを知ってですね。長編映画にメインキャストとして出演するのは初めてという人がほとんどだったので、経験的にあんまり技術がある人たちではないんですよ。だから「演技をさせちゃだめだな」という思いがありました。その人が持っている個性のまま、その映画のなかで生きられるようなキャラクターを作って当て書きしました。

――撮影中で思い出に残っているエピソードはありますか? ワンカットシーンはもちろん苦労されたかと思いますが…。
 思い出に残っているエピソードは山ほどあります(笑)。よく「苦しかったでしょう?」「大変だったでしょ?」と言われるんですが、「辛かった」という思い出ではないんですね。たぶん「辛かった」ことも「大変だった」こともいっぱいあるけど、それより何より「楽しかった」。全部「楽しかった」が勝っちゃってる。ワンカットもそうで、「めちゃめちゃ大変だった」けれど「めちゃめちゃ楽しかった」の方が勝っちゃってる。

――衣装も監督のご自宅で作られたようで。
 量販店に服を買いに行って、血のりを買って、自宅のベランダで服に血のりをふりかけて、ハサミで切って、ライターで焼いたりとかして、で、家の中に干して。まあこれも楽しかったですね。妻が衣装を担当していて、(劇中に登場する)日暮家が僕の家で。もう何もかもが手作りで、使えるものは全部使って作った映画です。

 実を言うと、大変さを求めていたんです。企画段階からそうでしたが、37分のワンカットのゾンビサバイバルをガチで撮って、そのドタバタの舞台裏を描くという企画を作った時は、やっぱり周囲の大人たちには「この予算で無名の俳優たちだけでやるのは自殺行為だ」と言われたんですね。「できたらすごいけど、できるわけがない」と。でも、『できるわけがない』と言われることを、『やらなきゃいけない』と思うんです。反対されない企画はダメだなと思っていて。「やめとけ、やめとけ」と言われる企画じゃないと。単純に企画としての新しさもそうですし、手が届くかどうか分からないようなことをするって大事で。「いいね、その企画」と言われるものは逆にこう、「あかんな」と。

 人間は余裕があってはいけないと思っていて、俳優もスタッフも僕たちも、余裕がない状態で作ろうと。余裕が無くなった時に発揮される、それこそ火事場の馬鹿力じゃないですけど、はみ出てしまった部分みたいな、もう二度と撮れないであろうライブ感みたいなものは、できるかできないかのギリギリで火花を散らさないと撮れないと思ったんですよ。無名な俳優たちと、スタッフのほとんどが30代の若い人で、不可能に近いことをやるとか、このメンバーで一本の映画を作り上げるというこの制作過程と、物語上の曲者たちが一本の映像を撮り上げるということが虚実ないまぜ、フィクションとノンフィクションかが混ざった状態にならないといけないと思った。余裕が無いから自分は今、俳優として走ってるのか本人として走ってるのか曖昧になってくる、そういう虚実ないまぜになったライブを作らないと特別な映画にならないなと思ったんです。

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

――劇中にもそういう想いが感じられるシーンがありますよね。あのシーンは監督の想いが入っていますか?
 『想い』を入れようと思って入れてはいないですよ。よく、映画のメッセージやテーマを聞かれるんですけど、僕はそういうのは決めていません。「自分らしく」というのがありますが、自分らしくあろうとした時点で自分らしさから離れてしまっている。メッセージもテーマも何も考えずに夢中にやっている中で滲み出てくるものが「自分らしさ」だと思います。

 映画を見た一部の方から「映画愛だ!」「人間賛歌だ!」という意見を頂くことがありますが、僕が俳優に「テーマが映画愛、人間賛歌なので、これをしっかりと頭に入れてやってください」と言ったら凄く嘘くさいものになる。とにかくただただ面白いものを作ろうと。意識しなくてもテーマやメッセージは絶対滲み出てくると。消そうと思っても消せないものが『個性』だと。「個性を出しなさい」と言われるけど、そうやって出そうと思った「個性」は「個性」じゃないと思うんです。どんなに消そうとしても残ってしまうものが「個性」なんだろうと思います。

――さきほど、演技をさせないという話もありましたが、演技ではなく、その人が歩まれた人生経験がそのまま表れてくるということですよね。俳優ではない人間としての。
 そうです。実際に飲み会で喋ったりして出てきた言葉をそのまま台詞に使ったりしています。個性は自分で出すのではなく「出ちゃうものなんだよ」ということですね。「とにかく面白いもの」を「娯楽映画」を。徹底的に娯楽を追求したものを作ろうと。テーマみたいなものは滲み出てくるし、滲み出てくるぐらいの塩梅のほうがいい。開かれていた方が観る人それぞれのいろんな解釈が生まれやすくなります。

――上映劇場も拡大され、大変な話題を呼んでいます。現在のこの反響をどう捉えていますか?
 本当に、ここまでの事になるとは想像もしていなかったです。狙ってもできないことだと思います。ツイッターとかには「ネタバレ厳禁だから、とにかく見に行ってくれ」と感想が多くて、どういう映画か分からないということが興味付けになって行きたくなるとか、2回目観ると違った映画になるのでリピート性もあるとか、そういう事も含めて「凄く戦略的、興行的にも考えられているよね」と言われるんですが、全く考えていませんでした(笑)。

――人が人に繋いでいくといいますか、上田監督が発信したわけでもなく、映画を観た人が感じたものをそのまま書いて、それがどんどん広がっていますね。
 関係者試写会が昨年10月にあったんですよ。試写会は関係者だけなのでフラットに見られないですし、良い雰囲気にはならなかったりもするんですが、この映画の関係者試写は笑いもいっぱい起きて、力強い拍手もあって。その後の打ち上げが四次会まで、12時間続いたんですよ(笑)。皆帰りたくないと。その時に「これは胸が張れるものが出来た」と作品としての手応えを感じました。

 ただ、作品として手応えがあることと、それがヒットするかはまた別なので、本当にみんなで草の根的に宣伝活動を半年以上ずっと続けて、試写会で著名な人に来てもらってコメントをもらったり、チラシを映画館だけじゃなくて本屋さんや雑貨屋さん、居酒屋やカフェなど置けそうなところにはみんなで足を運んで回って「ビラを設置してください」と。それをSNSにあげたり。今の爆発の仕方は奇跡的とは言えるんですけど、その奇跡は「勝手に起きているんじゃないぞ」と。一つひとつ積み上げたものもあるし、その種が一気に花開いたというか。

 公開から今日まで1日も欠かさずにキャスト・スタッフが舞台挨拶に立っていて。それは、メジャーではできないことだと思います。プロモーション活動は監督と主演2、3人が初日などで終わることが多いと思いますが、主役級ではない脇の人まで10、20人のキャストがこの映画のために舞台に立ち続けてお客さんと接して、SNSで発信している。ヒットをするという奇跡の前に、こんなにキャスト・スタッフ全員が「見てください」と発信している映画はないと思う。その奇跡が先なんです。

――業界の方に話を聞いても「情熱を感じる映画だ」という話を多くされているので、スタッフの方々を含めて、皆さんで作ったという感じが本当に伝わります。これから先、監督として大切にしていきたいことはありますか?
 プロフィールには「100年後に見ても面白いと思える普遍的な映画を作っていきたい」と書いています。今のところ今回の人生はコメディを作っていきたいなと思っています。日本映画は、「泣ける」が強いんですけど、僕は人間にとって一番大事なのは「笑うこと」じゃないかなと思っています。

 この作品について「これは映画館で見るべきだ」と声を上げて下さることが多いんです。「映画館で皆と一緒に笑って見ると、楽しさが倍増する映画だ」「映画館って良いな」と言ってくれる人が多くて、それは凄く嬉しいですよね。映画館で見る事の『意義』をもう一度思い出させてくれたと。「泣く」はひとりの事じゃないですか。DVDでも映画館でも他者と干渉しあうものじゃない。「笑う」をアウトプットしていくとそれが増幅していく。「カメラを止めるな!」は、笑い声が込みで、映画として完成していると思っています。

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

上田慎一郎監督(C)MusicVoice

――これから挑戦したいことはありますか?
 ジムに通いたいです(笑)。もう30代半ばなので、健康も…。すごく痩せていますのでジムとかに行って体作りみたいなことしたいとか、この映画で初めて海外の映画祭をまわったんですけど、英語が使えないとコミュニケーションがとれないと痛感したので、英会話スクールにも行きたいですね。映画においては、1作1作、挑戦がある映画を作っていきたいです。

――先ほど、不器用な人間を撮ることが多いと話されていましたが、その理由は?
 不器用であることが人間臭さだと思うからだと思います。映画や物語は人間の成長を描くものでもある。器用な人を描くよりも不器用な人。映画として不器用な人をキャスティングするのは、その不器用な俳優がこの映画を通して成長するということと、物語の中で成長するということがシンクロしてほしいからというのもあるかもしれません。不器用な俳優たちが人間として成長して、物語のなかでさらに成長していく、それがどっちもほしかった。それが、映画として僕が撮りたかったものだと思います。

――監督ご自身、過去に騙されてしまった経験や、ホームレスまで経験されている。その経験がマインドとして活かされている部分はありますか?
 どん底を経験したので、大抵の事がきても大丈夫というか、最悪またホームレスに落ちたとしても、そこから這い上がれる自信はあるから、悪いことが起きてもそんなにへこたれないというタフさは身についたと思います。

 ずっと日記をブログで書くのが趣味だったんです。芸人さんもそうだと思いますが、悪いことが起きた時の話ってネタになるじゃないですか。なので、失敗してお金が無くなったときも、それを面白可笑しくブログに書いてエンターテインメントとして出力していました。それは映画も一緒だと思っていて、世界をちょっと喜劇的に見ているといいますか。

 『カメラを止めるな!』という物語に実際に入ったとして、この監督の立場で、現実であのプロデューサーやわがままな女優がいたら胃に結構くると思うんですけど(笑)、それを引いてみたらこんなにコメディにみえるよ、という。だから僕はホームレスをした時も、俯瞰(ふかん)して自分を見てそれをブログに書いていたので、それはコメディの視点。自分の人生をも常に「コメディ」として書き換えて書くというのはその時に学んだことかもしれません。

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