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(更新: ORICON NEWS

“背負わされた”視聴率男、識者が語る「木村拓哉が平成ドラマ史に与えた影響」とは?

 現在、フジテレビが運営する動画配信サービス『FOD』で、2019年1月18日(金)より上映されている木村拓哉主演の映画「マスカレード・ホテル」の公開を記念して、木村拓哉の主演ドラマ7作品が配信されている。『HERO』シリーズや『プライド』、『CHANGE』(すべてフジテレビ系)など、放送当時に大きな話題をさらった作品ばかり。木村といえば、『HERO』(第1期)で全話の平均視聴率30%超えという大記録を樹立したように、常に“視聴率”を課せられてきた人。そんな彼は、平成のドラマ史にどんな影響を与えてきたのか? ドラマ事情に詳しいコラムニストの木村隆志氏とライター田幸和歌子氏と共に、“キムタクドラマ”の過去、現在、未来を考える。

恋愛から職業モノまで、低迷期に差し掛かったドラマ界を背負った“最後のスター”

  • コラムニスト・木村隆志氏(右)、メディア研究家・衣輪晋一氏(中央)、ライター・田幸和歌子氏(左)の3人が、“キムタクドラマ”の過去、現在、未来を考える。

    コラムニスト・木村隆志氏(右)、メディア研究家・衣輪晋一氏(中央)、ライター・田幸和歌子氏(左)の3人が、“キムタクドラマ”の過去、現在、未来を考える。

衣輪晋一俳優としての木村拓哉さんが語られる時、ホリさんのモノマネを含め、ある種のノスタルジア的な文脈で扱われることが多いように感じるんです。FODで木村拓哉さんの過去作品が配信されたので改めて拝見したのですが、多少の加齢はありつつも、今も輝きを失ってない。そこで今回、時代の頂点を走り続ける、もしくは頂点から降りることを許されない木村拓哉さんについてお話を伺いたいのですが。平成のドラマ史において、木村拓哉さんとはどんな存在だと思われますか?

田幸和歌子スターそのものです。木村さん作品を振り返る時って、『ロングバケーション』(96年)や『ラブジェネレーション』(97年/ともにフジテレビ系)から『ビューティフルライフ』(00年/TBS系)に至る“恋愛”をしっかり背負った時代が語られることが多い。ですが、この後から背負うものが変わってくるんですね。結婚されたのが『ビューティフルライフ』の年で、翌年の01年には『HERO』。その後、様々な職業や社会を映した作品が増えていき、これはいよいよ“国”を背負う存在になってきちゃったぞと(笑)。すごく背負わされている人生だと、改めて感じました。

木村隆志それはすごいな(笑)。平成に入ってすぐの頃は、『101回目のプロポーズ』や『東京ラブストーリー』(ともに91年/フジテレビ系)など、トレンディドラマの流れで高視聴率を連発していたんですが、それ以降、『ロンバケ』の流れに入っていく頃には、徐々に他のドラマは数字が低下。そこで一人、視聴率を背負っていたのが木村拓哉さんでした。00年代に入り、だんだんとドラマ視聴率がヤバいんじゃないかと言われた時期でも、『HERO』(第1期)が全話30%超えという大記録。彼のようなトップの数字を作る人がいないと、ドラマ全体が落ち込んでしまうという意味も含めて、話題や求心力を集める人として必要な方だったのかなと思います。

衣輪晋一実際、フジテレビの月9ドラマの平均視聴率トップ3は『HERO』『ラブジェネ』『ロンバケ』と、すべて木村拓哉主演作品。ほか、5位に『あすなろ白書』(93年)、10位に『プライド』(04年)と、実にトップ10の5作品に出演されています。

木村隆志70〜80年代にもアイコン的な人はたくさんいたんですが、唯一残った人ですよね。

衣輪晋一手の届かない存在という意味で、最後のスターとも言えるでしょう。

木村隆志そういう職業ばかり演じて来られましたもんね。ついにはアンドロイドまで行っちゃって(笑)。

田幸和歌子人間をも超えてしまった凄みもあります(笑)

本人も言及した「何をやってもキムタク」、当時は演技力を求められなかった?

衣輪晋一木村さんのお芝居についてはいろいろ議論はあるのですが、ドラマにおけるリアリティというより、ファンタジーに説得力を与えられる人だなと私は感じます。ファンタジーを“無重力”に例えれば、そこにしっかりとした“質量”を与えられる人というか。使い古されたテーマであっても、それをアップデートできた俳優なのではないか。

田幸和歌子確かに、説得力を与える存在でしたね。今のドラマは、リアリティを重視されるところがある。でも、リアリティと説得力って必ずしも一致しないんです。実際、木村さんが出演したドラマにリアリティは全然ない。それなのに、彼がいると“そうなんだ”と思えるのは、木村さんだから。今のようにリアリティを追求するドラマが主流になると、また夢を見させてくれるドラマを観たいな、と思うことはあります。

木村隆志演技力が求められない作品だったとも言えますね。“木村さんを見せるためのドラマ作り”であり、『HERO』にしても、木村さんがどういう検事像なら視聴者に刺さるか? というところから始まっているので。でも今は、演技が必要な映像作品に出演されていますよね。

田幸和歌子先日、『ニンゲン観察バラエティ「モニタリング」』(TBS系)で、木村さんご本人が「何をやってもキムタクと言われる」と話されたことが話題になりましたが、でもそれは、「何をやってもキムタク」を観たい人が多いからと言えますよね。

ドラマに“アイドル技”を持ち込んだ存在、『眠れる森』に見る自然体演技への評価も

田幸和歌子私は木村さんを“ドラマ界にアイドル技を持ち込んだ人”だと思っているんです。木村さんが出てきて、ニコッと笑う。なんかカッコいいことを言うと、ドッと湧く。コンサートの盛り上がりのような面をドラマにハメ込んでいる。「ぶっちゃけ」「よろしこ」「メイビー」など歯の浮くようなセリフを含め、アイドルの型をドラマに持ち込んだ方。

木村隆志それは、織田裕二さんや加勢大周さん、吉田栄作さんもやりきれなかったところでしょう。そこをやり続けられたのが木村拓哉という俳優。

衣輪晋一僕は木村さんのお芝居自体は、ある意味ものすごく自然だと思うんです。ある映像ディレクターから聞いたのですが、「木村さんはむしろ自然で上手い。その上に超弩級の華があるのがすごいけれど、色が付きすぎている。あまりに強い色があるから、木村さんを使って仕事をするのは難しい」と。

木村隆志要は木村さんの色に合わせざるを得ない。

衣輪晋一そうです。ですが『武士の一分』(06年)の山田洋次監督レベルになると、ある種の木村さん色が薄まり、同時にお芝居の上手さがハッキリ見えてくる。ほかの映画作品でも思うのですが、木村さんは全身で観た方がいい。単なる立ち姿でも寂しさや切なさ、その他の感情が香り立つ様は、さすが故・蜷川幸雄先生の教え子だなと。ドラマではアップが多いので多少もったいなく思います。

木村隆志『眠れる森』(98年/フジテレビ系)を観ると、ものすごくナチュラルですもんね。共演の中山美穂さんをうまく引き立てている。むしろ木村さんは、主役じゃない方が良さが出るのかもしれません。“あすなろ抱き”も含めてそう感じます。

『HERO』でお仕事ドラマが完成、“職のコスプレ”と言われるもドラマ性は高い

衣輪晋一そんな木村さんの作品も、『HERO』あたりから変化が見られ始めます。

田幸和歌子『HERO』で木村さんの“お仕事ドラマ”が完成して、そこからいろんな職業を順に潰していくという、まるで“一人朝ドラ”のような形になりましたよね。

木村隆志木村さんという器に何がふさわしいか? と、TBSとフジテレビが交互に当てはめていった印象です。ついには『PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』(12年/フジテレビ系)で職なしにまでエスカレートしていく。正直、あのサブタイトルはどうかと思いますけども(笑)。世間からは、話題先行の“職のコスプレ俳優”なんて言い方をされることもあったのですが、実際にドラマを観てみると、どれも作りがすごくしっかりしている。逆説的に今のドラマを否定することになりますが、視聴率を獲るための安易な一話完結はないんですよ。シンプルだけど縦軸に太いストーリーがあり、ドラマ性が高い。

10代の見方は“カッコいいおじさん”、黙して語らない姿も好評

衣輪晋一ちなみに、今の若い世代には木村さんはどう見えるんですかね?

木村隆志ティーンの間では“カッコいいおじさん”という印象のようです。言いたいことがあっても押さえているところもいいと聞きます。バラエティーなどの影響もあるのでしょう。

田幸和歌子私の娘が高校生なんですが、木村拓哉さんの“背負っている感”は、若い子も感じるみたいですね。スマートに見せながらも黙して語らない部分があり、泥臭さもある。そこがいいのかもしれません。

木村隆志『SUITS』(18年/フジテレビ系)の織田裕二さんもそうですが、ベラベラしゃべるような若手俳優にはない部分にカッコ良さを感じるようです。むしろ、20代後半から30代のほうが意地悪く見ている人がいる印象です(笑)。

衣輪晋一若い世代は先入観がないから、素直に受け止められるのかもしれませんね。これから年を重ねて60歳近くなった頃、マイク真木さんや宍戸錠さんのように“カッコいいおじいさん”と、再び注目されることもあるように思います。

田幸和歌子それを言うなら、私は『古畑任三郎』(田村正和が演じたドラマシリーズ/フジテレビ系)をコントじゃなくドラマで引き継いでもらいたいかな。

木村隆志それは石原隆さん(フジテレビジョン取締役編成統括担当)が動いたら、あるいは実現するかもしれませんね(笑)。

ファッション面でも視聴者に影響大、“ステマ感”超える存在感

衣輪晋一木村さんと言えば、視聴者への影響力も大きかった。髪型や『HERO』で着用したA BATHING APEのダウンジャケットは有名ですが、ロレックスやサングラス、『若者のすべて』(94年/フジテレビ系)では頭にタオルを巻く“キムタク巻き”なんてものも流行りました。なぜあそこまでの力を持ち得たのでしょう。

田幸和歌子他のジャニーズタレントでも、あそこまで真似される人はそうそういません。堂本剛さんもファッションリーダー的存在ですが、髪型はともかくあの尖ったファッションまで真似する人は少ない。山下智久さんについても、あの顔なしで山Pの真似ができるとは思えない。もちろん木村さんも、真似できる気はしないものの、やってみたいと思わせるものがあるんですよね。泥臭さを匂わせるから、自分も取り入れられると思っちゃうのかな。

木村隆志木村さんに限らず、テレビに出る人を真似するという風潮は脈々とあった。吉田栄作さんのツーブロックや白Tシャツなど、遡ればたくさん事例はありますが、木村さんはその最後の人という印象ですね。芸能人で、サーフィンやギターなど、できるとカッコいいものを全部押さえていたのが木村さん。とにかくセンスが良かった。それでいて、今で言う“ステマ感”がなかった点がポイントだと思います。

衣輪晋一“ステマ感”より、木村拓哉という存在感の方が大きかったと分析できますね。このように視聴者への影響は大きいですが、スタッフや取材陣からもよほど愛されていないと、ここまで業界のトップではいられなかったのでは、とも思うんです。

田幸和歌子木村さんを取材した人は誰もが「別格」だと言いますね。撮影もバシッと決められるので短く、集中力がすごい。一緒に仕事をした人は皆、ファンになると聞きます。

衣輪晋一セリフはもちろん事前にすべて覚え、スタジオ内に決して台本を持ち込みませんし、自腹の差し入れでも気軽に「食っていきなよ」と言ってくれたり。私がテレビ誌を担当していて感じたのは、取材陣を絶対に手ぶらで帰らせないこと。たとえば、バタバタしている現場にも関わらず、撮影の合間にギターを持ってきて弾き始めたりする。こちらはそれをオフショットとして写真に収める。そこまでやってくれる俳優さんはそうそういない。

田幸和歌子すごいサービス精神ですね。

木村隆志本当の意味でのプロですよ。あと、撮れ高にすごく敏感。急かすスタッフを止めてでも、インタビューの終わり時間ギリギリまで何か言おうとしてくれますよね。早く帰りたいのが顔に出る人は多いんですが、木村さんは逆です。スキがない、まさにパーフェクトヒューマンなんじゃないかと(笑)。そんな大きな器の持ち主だからこそ、ドラマでどんな職業が当てられても違和感がないのかもしれません。

本物の「ちょ、待てよ!」も…今だからこそ観たい木村拓哉ドラマとは?

衣輪晋一最後に、現在FODで配信されている木村拓哉さんのドラマの中で、それぞれのオススメ作品を伺いたいのですが。

田幸和歌子万人受けする『HERO』は観たほうがいい。『プライド』はクサさという意味での笑いがちょこちょこあるので、今観るともっと笑いが出るんじゃないかと思いますね(笑)。あと竹内結子さんの美しさを改めて感じてみてください。

木村隆志『プライド』と『エンジン』。ツッコミどころが多く、それでいて普遍的な人間ドラマがある。ベタな部分もあり、18年放送の『グッド・ドクター』(フジテレビ系)や『義母と娘のブルース』『大恋愛』(ともにTBS系)にハマった人にはハマる、むしろ今どきの作品だと感じます。あと『チェンジ』の最後の一発撮りの長い演説。これは今観ると、また違う印象を受けるはず。

衣輪晋一『エンジン』は、上野樹里さんや戸田恵梨香さん、有岡大貴さん、中島裕翔さんらの子役時代のお芝居が見られるほか、とにかくF1シーンがカッコいい。ホリさんがモノマネする「ちょ、待てよ!」の本物も2回登場しますし、木村さんとフジテレビの当時の勢いが合致した作品なのでドラマ史的にも注目。また『PRICELESS』は夢のある作品なので、仕事から帰った夜にお酒を飲みながら観るのにオススメ。唯一普通の会社員役でもあり、共感しやすいのではないかと思います。

(聞き手・文:衣輪晋一)
【インフォメーション】
FODで『木村拓哉祭り』開催中!
フジテレビが運営する動画配信サービス『FOD』では、映画『マスカレード・ホテル』公開を記念して、『木村拓哉祭り』を開催。『HERO』第1期、特別編、第2期、『プライド』、『エンジン』、『CHANGE』、『PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』の主演ドラマ7作品を配信中だ。

→『木村拓哉祭り』詳しくはコチラ←
【プロフィール】
■木村隆志氏
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者。有名人インタビューは2,000人超。『2017年東洋経済オンライン年間MVP』を受賞。『トップ・インタビューの「聞き技」84』ほか著者多数。

■田幸和歌子氏
ライター。書籍出版社、広告制作会社を経てフリーに。雑誌やWEB媒体で執筆中。著書は『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』など。

■衣輪晋一氏
メディア研究家。雑誌、新聞、WEBでインタビュー、ドラマレビュー、エンタメ分析などを執筆。テレビドラマ公式HP執筆やコピーライターとしても活動。

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