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NHKの“口パク”落語番組が話題 文字通りの“見る落語”に挑戦
噺家のセリフと役者の口の動きがピッタリ合うことで生まれる独特な“面白さ”
古典落語の演目はほとんどが江戸時代に作られただけに、再現される映像は時代劇風の見慣れたものだが、出演する役者たちがバラエティに富んでおり、当たり前だがひとりの噺家が声色・しぐさを変えて何役も演じる中、口パク・アテブリで違う役者が次々と入れ替わる世界は何とも不思議でシュールな感覚だ。
実際、レギュラー放送第1回目の「お見立て」では、妖艶な花魁を前田敦子が演じると思いきや、前田の口から発せられるセリフは噺家のものなので、声色を変えているとは言えオネエの花魁が喋っているような感じになる。「転失気」(てんしき)では鈴木福が小坊主役を演じているが、声はやはりおじさんなので、こちらも「笑える」などとネットで評判になった。噺家のセリフと役者の口の動きがピッタリと合っているがゆえの独特の“面白さ”があるのだ。
この口パク・アテブリは、最近のアメリカでは“リップシンクバトル”と言われアン・ハサウェイがマイリー・サイラスの歌を振り付きで大熱唱(口パク)するという、セレブたちの口パクバトル番組が人気を得ている。日本で言えば、はるな愛の松浦亜弥や渡辺直美のビヨンセのモノマネなどを、渡辺謙や米倉涼子ら大スターが大真面目にやっているようなもの。この『超入門!落語THE MOVIE』も、アメリカのリップシンクブームを“逆輸入”したような側面があるのかもしれない。
落語が広く知られるきっかけとなり、新たな笑いの1ジャンルとして確立する可能性も
これまでも宮藤官九郎脚本の落語を主題としたドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS系)や、昨年の桂歌丸の勇退前後の『笑点』(日本テレビ系)の高視聴率など、何度か一般層と落語との距離が近づいた瞬間に、“落語人気復活か!?”と盛り上がった。今回の『超入門!落語THE MOVIE』で本当の意味での“落語リバイバル”がはじまる可能性も十分ある。
熱心な正統派の落語ファンからは、“本来の落語の味が損なわれる”との批判の声もありそうだが、落語初心者にとってはわかりやすく、落語が広く知られるきっかけともなり、新たなファンとして寄席に足を運ぶという相乗効果も生まれるかもしれない。また“落語通”にしても、落語の新たな楽しみ方として面白がる向きもあるだろうし、落語家と同じく芸人枠の塚地武雅、サンドウィッチマン、オードリーといった芸人たちが多く出演しているが、意外なほどすんなりと溶け込んでいるところを見ても、“新たなお笑い”の1ジャンルとして落語が再認識されることもあり得るだろう。
ゆくゆくは、今は亡き名人たちによる伝説の名演が、超人気俳優によってアテブリで演じられる……といった贅沢な展開も期待できるかもしれない。