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新垣隆、クラシック名門レーベルから発売 「騒動以降も音楽に向き合う姿勢は変わらない」

 ゴーストライター騒動から約2年半。今年4月に初のソロアルバムとして『ピアノ協奏曲 「新生」』をリリースした新垣隆が、『交響曲「連祷-Litany-」』をリリース。同作は、クラシックの世界的レーベル“Decca”より世界配信される。新垣にとってDeccaとは? 『連祷』に込めたものなど話を聞いた。

クラシックを志す者なら誰もが憧れるレーベルで発売できて嬉しい

――このアルバム『交響曲「連祷-Litany-」』は、クラシックの名門Deccaレコードから世界配信。クラシック音楽を手掛ける者としては、非常にうれしいことですよね
新垣隆 はい。とてもびっくりしましたけれど、うれしかったです。

――そもそも、どういう経緯で発売されることに?
新垣隆 4月にリリースした『新生』を、Deccaのプロデューサーが聴いてくださって。ちょうどそのとき私が『連祷』を書いていて、広島で演奏することも決まっていたので、それも録音してひとつにして発売しませんか、と言っていただいて。録音のときのコンサートは、いつもとは違った緊張感も加わって、ほんとうにドキドキしました。

――Deccaというのは、新垣さんにとってどういう存在なのですか?
新垣隆 様々な音楽ジャンルを扱っているレーベルのひとつですが、クラシックファンの間ではとりわけ大きな意味を持つレーベル名です。例えばジャズにおけるブルーノートのようなもの。長年に渡って数多くの名盤を発売しているので、私も含めたクラシックファンは、漏れなくDeccaのレコードを聴いて名曲を知って育って来ました。クラシックを志す者なら誰もが憧れる存在です。

――そこから出してみたいと思っていましたか?
新垣隆 いえ、夢にも思ってませんでした。ですから、すごく驚いたわけです。

――新垣さんの楽曲が、世界中の人の耳に届くわけですが。
新垣隆 クラシック音楽という世界共通の言語で発した、私の言葉をみなさんと共有してもらえることがうれしいです。もうそれだけで十分うれしいのですが、それが世界中で演奏してもらえたら、もっと素晴らしいことだと思っています。

ゴーストライターを公表した時点で、正直自分の音楽家人生は終わるものと思っていた

――ゴーストライター騒動から2年半後に、こういう結果を生んだことについては?
新垣隆 ゴーストライターを公表した時点で、正直自分の音楽家人生は終わるものと思っていました。それがこういう形になったのは、本当に多くの方の支えや働きかけがあればこそです。感謝してもしきれないくらい感謝しています。

――この『連祷』は、どのようなテーマで制作していったのですか?
新垣隆 1年半前に東広島交響楽団の方から、今年の8月15日に発足10周年記念の第20回演奏会があり、そのための新しい作品を、との依頼を受けました。この楽団はかつて『HIROSHIMA』を取り上げてくれていて、私にもう一度、「改めて自身による『広島』を」と言って下さったのです。

――もともと「HIROSHIMA」は、どういうテーマで作られていたのですか?
新垣隆 「現代における祈り、それは何か?」がテーマでした。今回は改めて自身が『広島』に向き合い、原爆投下があったという事実、犠牲者への追悼やもう二度と起きて欲しくないという思いを込めた。それは人類にとっての「祈り」に通ずる、という意味では共通したものがあります。

――結果、福島のことなど原爆以降の出来事に対する気持ちも込められたものになったわけですね。
新垣隆 はい。「連祷」というのは、まさしくそういうことなんです。広島から福島までの間、。つまり戦後、広島、そして日本は奇跡的な復興を遂げた。その中で原子力は改めて平和のためのエネルギーとして利用された。そして現在、再び原子力の脅威によって私たちの未来がおびやかされている。そのことをテーマにしました。

――「連祷」の聴きどころや、ポイントを教えてください。
新垣隆 2年前に、原発に関するドキュメンタリー映画の音楽を担当していて。実は、そこで使われているフレーズが、今回の楽曲でも登場します。そこはひとつのポイントではないかと思いますね。映画を観てくださった方は、きっと気づいていただけるんじゃないかと思います。

――どのくらいかけて制作されたのですか?
新垣隆 1年半前にお話をいただき、それからずっと頭の片隅で構想を練って、実際に譜面を書く作業に取りかかったのは半年くらい前。それで初演が8月ですから、譜面を書き上げるのに4ヶ月弱かかっています。ポップスが一瞬のシーンを切り取った写真だとしたら、クラシックの作曲は、ずっと映画を撮り続けるような作業に近いのかもしれません。もしくは、長編小説を執筆するような感じです。

――映画を撮るような作業だとしたら、新垣さんの中で想い描いていたストーリーは?
新垣隆 言葉に置き換えられるような具体的なものではないのですが……。たとえばベートーベンのある種の交響曲は、器楽という音による抽象的な構築物の中に、苦しみを乗り越えて喜びへ向かう、という人間の内面を明らかに描いている。この闇の状態から希望に向かう、というプロセスがこの『連祷』にもある、と思います。原子力という闇や恐怖に対する祈りがあり、そこから最後にはかすかな希望が見えたのか? それとも? という。原発や震災などのことを想起するような表現もあり、この流れは、わりとはっきり感じ取っていただけると思います。

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