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大貫妙子インタビュー ソロデビュー40周年、野生動物の観察で多くを学んだ

自分で見たものや経験だけが自分にとっての言葉になる

大貫妙子私はアルバムを作るとき、必ず、“今、何が流行っているか?”でなくて、3年先のことしか考えないんです。だって、発売するときは1年半くらい先じゃないですか? 流行りというよりも世の中の流れの水面下にあるものの方にしか興味がないんです。川の表面にはきれいな落ち葉とかがいっぱい浮かんでいて、ゆるやかな流れに見えるけど、たとえば海に潜る人はわかると思いますが、見えない太い潮流がある。サイレントマジョリティーと言われる、声高に物を言わないけどもきちんとした考えを持ってる人、日本にはまだまだいると思うんです。結局はそういう力が世の中を動かしているんです。いちいち振り回されたくない、日々の暮らしをある程度丁寧に生きようと思う方たち。私は、そういう方に向けて歌っていきたいと思っているんです。そういうことにしか興味がない(笑)。だから、ひとりの市井の人間として歌うべきことを音楽にしてきたんだと、自分では思うんですよね。

――だからこそ、時代に関係なく楽しめる音楽が生まれるんでしょうね。大貫さんの曲からはいつも風景を感じます。
大貫妙子自分で見たものや経験だけが自分にとっての言葉になるので、世の中の誰がどうしたとか、頭の中で作った話や借りてきた言葉は歌っていてもつまらないんですよね。もともと、メロディとサウンドがあれば音楽は成り立つと思っているので。

山下(達郎)くんは、大きい掃除機で吸い込んでしまうみたいな声

――それは歌い方もそうですよね。歌詞や言葉の強さに左右されず、サウンドの中に歌声を溶けさせるような感じで作られてる。
大貫妙子いつも一番最後に歌詞を乗せるので。メロディを描いてサウンドを作っちゃう。そうすると、言葉はその曲が呼んでくる。何十回も歌詞の乗っていない、ラララで歌ってるトラックを聴いていると景色が見えてくるんですよね。物語のある歌詞は……わかりやすいけど、苦手なんですよねえ。1ワードだけですべてがイメージできるような歌詞のほうが、私は好きなんです。

――歌い手としてのご自分はどう変化されたと思いますか?
大貫妙子ええもう、ヘタな大貫さんをなんとかしなきゃと思って、すごく努力してきました。声量はないし……。歌手はやっぱり、ライブではとくに声が大きい方が圧倒的なんですよね。声量のある人には絶対に勝てない。でも、持っていないので、声量のない私がどうしたらよいかを考えた。そして、放った矢がまっすぐ届くような声、それを磨いてきたんですよね。山下(達郎)くんとか、(井上)陽水さんとか、とにかくすごいじゃない? 大きい掃除機でガーッとオーディエンスを吸い込んでしまうみたいな声(笑)。うらやましいです。小田和正さんは、またそのどちらでもなく、素晴らしい声の持ち主ですよね。

――掃除機(笑)。大貫さんは、そうではない自分の歌声を追究してきたと。では今のスタイルでやっていこうと思えたのはいつくらいですか?
大貫妙子なかなか乗り越えられない時期もあって……納得できるようになったのは近年ですね。レコード会社と契約することをやめて、自由契約にしてからかな。歌えるようになったし、今がいちばん声も出るようになったし、特に楽しいと感じてるのも60歳を超えてから。普通は体力も落ちていくんでしょうが、信頼できる整体師さんと二人三脚で身体の管理はしっかりしてるので、調子はすごくいいんです。いまのところ。

――そのぶん、ステージもやりやすくなったんじゃないでしょうか。
大貫妙子と思うでしょ?でも、できればステージに立ちたくないんです、怖いもん(笑)。なんとかベストは尽くしたいけど、音響とかいろんな問題もある。私、ハンドマイクでは歌えないし、マイクスタンドの前から動けないんですよ。

――と言いつつ、12月にはシンフォニックコンサートが予定されてますけど(笑)。長いお付き合いになる千住明さんとのステージ、楽しみですね。
大貫妙子千住さんとお会いしたのは30年前。今までも彼のオーケストラのコンサートに呼んでいただいて、2〜3曲歌うことはあったんです。でも、今回はふたりで一緒にやるステージなので、いつもと少し違いますよね。単にオーケストラの前で歌うのはよくあるけど、もう少しバンドも入って、そこにオーケストラが乗っかっている感じ、というか。もっとポップスに近くて、だけどエレガントで大人っぽいものをやろうと思ってます。楽しみですね、怖いけど(笑)。
(写真/草刈雅之 文/川上きくえ)


【プロフィール】
オオヌキ・タエコ。1973年、山下達郎らとシュガー・ベイブを結成。76年に解散し、同年にソロデビュー。これまでに27枚のオリジナルアルバムを発表したほか、映画『Shall we ダンス?』(96年)のメインテーマ、『東京日和』(98年)の音楽プロデュースを行うなど、多くのサウンドトラックを手がけている。昨年発表した小松亮太とのアルバム『Tint』は『第57回 輝く日本レコード大賞 優秀アルバム賞』を受賞。今年7月にソロデビュー40周年BOX『パラレルワールド』を発売した。
◆オフィシャルHP(外部サイト)

【インフォメーション】
『大貫妙子 Symphonic Concert 2016』
出演:大貫妙子 編曲・指揮:千住明 演奏:東京ニューシティ管弦楽団
日程:12月22日(木)19時開演 会場:東京芸術劇場・コンサートホール
各プレイガイド先行受付:8/8〜8/31 一般発売日:9/19
◆コンサート前日の12/21に千住明の編曲によるニューアルバムも発売予定。
詳細は9月上旬公式サイト等にて発表予定。

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