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木皿泉インタビュー『自然な感じがプライベートフィルムみたい――』
原作とはまったく別作品になる映像化の醍醐味
木皿『昨夜のカレー、明日のパン』はもとになる小説があったので、ドラマ化の脚本にあたっては、小説を読んだ人ががっかりしないように配慮しながらも、同じことをやってもなと。読んだもの以上のものを持って帰ってもらおうと、関西人ならではのサービス精神は発揮しようと思いましたね(笑)。ただ、自分たちの原作なので、もとの物語を分解して再構成して理解する必要がありませんでした。書いてなかったところを埋めていくとか作業的には楽しかったです。キャスティングも最初に決まっていて、そこにあて書きをしていったので、もともとのキャラクターが少しずつ変わっていく感じもおもしろかったですね。
――改めてドラマという映像になった『昨夜のカレー、明日のパン』を観ていかがでしたか?
木皿このドラマは、私たちのプライベートフィルムじゃないの? と言っている人もいるようです(笑)。基本的にセットの撮影は少しだけで、ほとんどがロケだし、監督の演出も素敵だと思いました。俳優さんのふとした表情をキメキメではなく、サッと切り取るセンスが光っていて。自然な感じという意味で、自分たちでもプライベートフィルムみたいだと思いました。あと、夜10時にひっそり観る時間帯も、ドラマとぴったりだったんじゃないかなと(笑)。
――息子の嫁と暮らす義父の連太郎(鹿賀丈史)の「なかなか家を出ていかない嫁のことを利用している自分がいる」というセリフなど、リアルな本音感もあって、引き込まれました。
木皿それは実は、小説には描いていないセリフなんです。今回のドラマで書いた理由には、小説では自信がなかったけれど、鹿賀さんだったら上手く表現してくださる、演技してくださると思ったので、あえて足しました(笑)。そういう期待が、脚本化の過程であるんですよ。ギフ(義父)のキャラクター自身も、ちょっとかわいくなるというか。文字だけでは伝わり切らないニュアンスがあるので、この俳優さんだから頼めそうみたいな、映像作品の醍醐味じゃないでしょうかね。そもそも映像化の段階で原作とはまったく別作品になると思うので、キャストも先に決まっている場合、よく採る手法ではあります。いわゆる“あて書き”というやつです。
ドロドロしそうな物語が爽やかテイストに(笑)
木皿そもそも原作の小説を書いているときに、旦那が亡くなった後、嫁と姑が一緒に暮らしていることについて、まったくヘンなことだと思っていなかったんです。書いた後に、いろいろな人にはじめは違和感があったと言われて、これって非常識なことなの? って、そのときに初めて思いました(笑)。戦後とか昔はこういう家族がたくさんいたんじゃないかなって思っていましたけど。だから、今どきは少ないというか、異質に映るかもしれないですね。ドラマ化の脚本にあたっては、説明的になっている箇所があるかもしれないです。
――アイディアを思いついてストーリー化するにあたってどういうきっかけがありましたか?
木皿以前、シチュエーション・コメディのオファーがあって、その企画は実現しなかったんですが、そのときの雑談で散髪屋さんが舞台で、旦那はすでに他界していて、嫁と義父で散髪屋をして暮らしているという話はどうだろうと盛り上がったんですね。義父はまだ男としての自分をあきらめていないのに、目の前に若い嫁さんがいるというコメディ。そのときのアイディアだけがずっと残っていたんだと思います。それが仲さんと鹿賀さんで爽やかなテイストに。明日のパン、ですから(笑)。
――最後になりますが、ブルーレイ&DVDを待っているファンへメッセージをお願いします!
木皿私たちの仕事で言うと、自分のなかのヘンなものとか人とは合わないだろうというモノを売って(=書いて)お金に換えている側面があると思っています。だから、皆と同じような過ごしかたをする人生もあるとは思うけれど、皆に合わせたツルツルになった自分じゃなくて、自分らしいゴツゴツした考え方を大切にしてほしいです。『昨夜のカレー、明日のパン』には引きこもりの女性が出てきますが、彼女は人に合わせすぎて、自分を見失っちゃった人なんですね。大なり小なり、みんなそういう部分はあるわけで、人に合わせられない自分をダメだと思わないで欲しい。そういうドラマです。
(文:鴇田 崇)
昨夜のカレー、明日のパン
原作・脚本:木皿泉
出演:仲里依紗 溝端淳平 星野 源 ミムラ 鹿賀丈史 ほか
【2015年3月18日(水)発売】
Blu-ray BOX ¥20,304(税込)
DVD - BOX ¥16,416(税込)
(C)2015 NHK・FCC