「ヴィレッジヴァンガードを発信の場として、たくさんの人たちが未知の音楽と出会えるように」 1stアルバム『Essence of life』は出荷ベースで20万枚突破、2ndアルバム『inno-cent view』は25万枚突破と、インディーズのカバーアルバムでありながらロングヒット中のSotte Bosse。すべては若者に人気のセレクトショップ、ヴィレッジヴァンガード下北沢店の金田謙太郎氏の手に『Essence of life』が届いたことから始まった。Sotte Bosseの全セールスのうち実に6割を売り上げているという、インディーズ流行発信地ヴィレッジヴァンガードが展開する既存の枠にとらわれないユニークなセールス手法と、クチコミマーケティングの強みとは……? “いいものは丁寧に売れば売れる” これは小売の鉄則です ――まず、ヴィレッジヴァンガード(以下ヴィレッジ)はどういうお店なのですか。 金田 「遊べる本屋」などと呼ばれていますが、本や雑貨など、様々な商品が所狭しと並べられています。レイアウトもきちんとは決められていなくて、まるでサファリパークのようです(笑)。本社主導のトップダウン方式ではなく、仕入れも各店の裁量に任されていて、POSシステムなどもありません。商品の選択や数量の調整なども、担当者の経験と勘が頼り。徹底した現場主義のため、採用はアルバイトのみで、そこから店長になって社員に登用されるというシステムです。とにかく自由で、何でもアリなのが魅力ですね。 | 金田謙太郎さん (ヴィレッジヴァンガード CD担当) 『『innocent view』 (bloom-010) 2625円(税込) 07年3月7日発売 インディーズのカバー作品ながら初登場24位、6週連続TOP30入り、最高位21位と大ブレイク。07年度上半期インディーズアルバムでも1位に。8月6日付現在、21週連続TOP70入り中。 |
――ヴィレッジにおける音楽の位置付け、また金田さんの役割とは? 金田 売り場の大半を占めているのは雑貨や書籍で、下北沢店の場合、CDの売り上げは全体の15%前後です。僕は04年にレコード部門の立ち上げメンバーとなり、CDの仕入れを担当して3年になります。商品に関しては店ごとの仕入れになるので、僕が他店に号令をかけることはありません。逆に、僕が押している商品だから「ウチでは扱わない」という店舗もあって、それが楽しい(笑)。ただ、自由とはいっても売り上げにはこだわっています。自由にやるためには売り上げが大事ですから。 ――Sotte Bosseを知った経緯は? はじめからヒットの予感はありましたか。 金田 彼らを知ったのは、インディーズ系CD卸をしているダイキサウンドから送られてきたサンプル盤でした。聴いた瞬間に、直感で「コレは売れる!」と思いましたね。いいものは聴けばわかる。僕はヒットというものは『百匹目の猿現象』だと思うんです。宮崎県の小さな島に住む1匹の猿がイモを海水で洗って食べるようになり、やがてその行動が群れ全体に広がり、さらには場所を隔てた猿の群れでも自然発生的に同じ行動が起こる……という。この作品に限らず、何かがヒットする時にはそういう同時多発的な現象が起こる。皆がいいと思うものは同じで、僕らはたまたまそのきっかけを作るにすぎないんです。といっても、勘が外れることもありますけどね(笑)。 ――驚異的なロングセラーを続けるSotte Bosseですが、具体的にはどのような売り方や宣伝をされたのでしょうか。 金田 入口にSotte Bosseだけの特別コーナーを作って4?5ヶ月間という非常に長い期間コーナー展開し、店内でも1日最低3?4回流しました。ヴィレッジではポップを手書きするのがルールなので、それは書きましたが、その他の販促は一切していません。1作目のポップには「反則すぎて、最高すぎ」、2作目は「出たー!」とだけ書きました。でも、お客さんはあんまり読んでいませんよ(笑)。 ――ヒットはどのようにして生まれるとお考えですか。 金田 J-POPが10万枚売れたとして、それは日本の人口1億2000万人のうちの何分の1かって考えるとそんなには多くない。じゃあ、その10万人以外の人は何を買っているのか? そこがマスです。マスの中身は一見さんと浮動票で、実際、「音楽は聴きたいけれど、何を買っていいのかわからない」という層が大半なのではないかと。すばらしい音楽がいっぱいあるのに、入口がない。その入口を作るところにヒットを生む可能性があるのではないでしょうか。 ――ショップやネットではなく、ヴィレッジでCDを買う理由をどう考えますか。 金田 切り口を極力わかりやすくしているからでしょうか。アーティストやジャンルで分類せず、「夜中に聴きたい曲」、「カーステで聴きたい曲」というようなコーナー展開をしています。音楽ファンなら自分でジャンルを決めて買いに来ますが、マスのお客さんは関連性などなく本能のままに買うものです。すごく渋いジャズの隣にSotte Bosseやあるいは倖田來未を並べていたりする。恐らくそれに近い形でコーナー展開できているのかなとは思います。そういったユーザーに近い感覚は大事にしていますね。 ――ダウンロード販売も増え、CDセールスへの打撃が囁かれていますが。 金田 ダウンロードというのは、情報を知っている人だけしか利用できません。知らなければ検索ワードを打てないわけですから、アーティスト名なり曲名なり、自分の頭の中に情報があるものしか見つけられない。それでは、未知のアーティストや音楽にはたどりつけません。CDが売れない理由を、「インターネットのせいだ」というのはラクですが、それで「しょうがないね」って納得してしまうのはおかしい。まだ知られていないアーティストを知ってもらう方法は何だろう? それを考えて実行していけるのが、小売の楽しいところなんです。 ――お店に置くCDのセレクト基準は? 金田 それはもう、経験に基づいた現場勘だとしかいいようがないですね。毎週20?30枚ほどのサンプル盤を頂くのでそれを全部聴いて選びます。プレスキットやリリースの類は一切読みません。理由は、余計な情報に左右されず、純粋に音だけで判断したいから。乱暴な言い方ですが、一般のリスナーにとって、誰がプロデュースしたかなんてことは、重要ではないと思うからです。 ――流行を作り出す秘訣、売り場作りの極意は? 金田 いいものを丁寧に売れば売れる。これは小売の鉄則です。丁寧と言うのは、「お金を使わないで知恵を使え」ってことです。お金だけ使って知恵を使った気になっちゃダメです。売り場作りに関しては、お客さんが商品の前に立ったとき、目線の先に何があるのか? 自分は何を一番見て欲しいのか? それに合わせたディスプレイはしているつもりです。そして、コーナーを作ったとき、3メートル引いて見てみる。それだけで全然違ってきます。 ――Sotte Bosseのヒットにより、金田さん自身に変化はありましたか。 金田 おかげさまでいろいろなところからお声がかかるようになり、8月にユニバーサル ミュージックからメジャーデビューすることになった東京ブラススタイルが、昨年末にリリースした『アニジャズ ジブリ』に携わらせていただきました。企画を立て、選曲し、曲順を考えるところから、「トトロをスカっぽく」といったアレンジにも口を出させてもらいました。また、インディーズのコンピレーションアルバムも3枚作り、プロデュースのようなこともさせてもらっています。 ――今後の目標をお聞かせください。 金田 これからもずっと、CD担当を続けていきたいです。楽しいですからね。ヴィレッジヴァンガードを発信の場として、たくさんの人たちが未知の音楽と出会えるよう、いろいろな試みをしていきたいと考えています。 |
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2007/08/15