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名古屋からHIP-HOPのヒットが生まれる理由



ここ数年、名古屋のHIP-HOP・シーンの活況が伝えられ、クローズアップされている。名古屋出身のアーティトSEAMO、nobodyknows+、HOME MADE家族らの全国的な活躍もあり、名古屋・中部地区へ注目は高まるばかりだ。何故、名古屋からHIP-HOPのヒットが生まれるのか。名古屋の地域性、HIP-HOPシーンの状況、ヒットが生まれる要因など関係者の証言を元にレポートする。さらに次なるシーンの行方に迫る。

名古屋景気は、音楽分野にも広がる

 中部国際空港(セントレア)の開港、愛知万博開催と、名古屋・中部地区の活況は記憶に新しい。万博以後も、「ミッドランドスクエア」の登場をはじめ名古屋駅周辺の再開発が進み、街は活気に満ちあふれている。とにかく中部地区の経済成長率の伸びが注目され「名古屋ブーム」は、すでに多くのメディアに紹介されている。

 トヨタ自動車は世界的な企業であるが、名古屋の地元企業も概して元気がいい。また、手羽先の「世界のやまちゃん」、みそカツの「矢場とん」といった「名古屋めし」は名古屋地区に止まらず、東京をはじめ全国的な人気となって認知されている。こうした名古屋発のトレンドはエンターテインメントのジャンルにも広がる。そして音楽のジャンルでも。ダンスミュージック、HIP-HOP、R&B、レゲエなどが名古屋・中部地区で独自のシーンを作る。なかでも、HIP-HOP系は近年、SEAMO、nobody knows+、HOME MADE家族など名古屋・中部地区からアーティストが全国的にブレイクする状況があり、名古屋の音楽シーンを語るときHIP-HOPがひとつの特徴として挙げられるようになった。

 長く「文化不毛の地」とまでいわれていた名古屋・中部地区だが、HIP-HOPのヒットが何故相次いで生まれてきたのだろうか。

3つのアーティストに共通することは

 名古屋のHIP-HOPシーンを全国的に印象づけたアーティストをオリコン・セールスデータからピックアップしてみる。昨年06年、シングル「マタアイマショウ」、「ルパン・ザ・ファイヤー」の連続ヒットからアルバム『Live Goes On』でアルバムランキング首位獲得。この年の『NHK紅白歌合戦』に出場するなど大ブレイクを果たしたSEAMO。03年にメジャーデビュー、作品毎にセールスを伸ばし04年『Do You Know?』でアルバムランキング首位獲得したnobody knows+。04年のメジャーデビュー以来、着実にセールスを残し、アルバムここ3作はベストテン入りするHOME MADE家族。これら3アーティストが、東京を活動の拠点にせず名古屋出身、在住で活躍したことが名古屋のHIP-HOPシーン活況を伝えることになった。

 そもそも、名古屋・中部地区にHIP-HOP系アーティストを生み出すシーンはあったのか。クラブ「オゾン」の設立にかかわり現在HOME MADE家族のマネージメントを手掛ける大野明宏氏は「11年前クラブをオープンした当初は特にHIP-HOPをというわけではなく、ハウス、テクノ、レゲエなど幅広く取り上げてきた。意図したことはアーティストのパフォーマンスをみせるステージを作ったこと。その中で、言葉を必要とする音楽であるHIP-HOPが自然とクローズアップされてきた」という。名古屋地区に限らず、全国的にHIP-HOPが広がりつつある時期だった。「ZIP-FMが地元のアーティストをピックアップする流れがあり、ラジオでオンエアされる状況があった。紙媒体ではスパイマスターというファッション誌がクラブ系を取り上げてくれた。表現するメディア、発表するメディアがあり、CD制作においては豊田のレコーディングスタジオSWING STUDIOの存在が大きい。レコーディングのアドバイスなどインディーズ・アーティストをCD制作で支えてくれた。名古屋地区ですべての環境がそろった」(大野氏)。

 
SEAMO(BMG)
95年、名古屋を中心にシーモネーターとして活動、ヒップホップの新しいスタイル、ムーヴメントを確立。nobodyknows+やHOME MADE 家族など同郷の仲間から「塾長」の愛称で慕われ、アーティストとのコラボレーションも多数行う。05年3月、名前をSEAMOに改名し、さだまさしの「関白宜言」をリメイクした「関白」でデビューし話題に。「DRIVE」、BENNIE Kとのコラボ・シングル「a love story」をリリース。06年4月、「マタアイマショウ」がロングセールス、「ルパン三世のテーマ」をリメイクした「ルパン・ザ・ファイヤー」が初のシングルベスト10入り。アルバム『Live Goes On』はアルバムランキング首位を獲得。この年『NHK紅白歌合戦』に出場。今年7月に「Fly Away」をリリースする。



nobodyknows+(ASR)
03年、メジャーデビュー。ソウルミュージックを根底としたDJ MITSUによる情感溢れるトラック、MC陣の個性豊かな声、等身大かつリアルなリリックが共感を呼び、04年5月シングル「ココロオドル」でブレイク、04年6月アルバム『Do You Know?』がオリコンアルバムランキングで2週連続首位獲得。この年『NHK紅白歌合戦』に出場。05年9月彼らが「地元文化の創造」を提唱し実現した音楽イベント『NAGOYA MUSIC EXPO』も話題に。06年2月から、初の全国47都道府県ツアーを実施、大成功のうちに終了。今年4月にシングル「Hero's Come Back!!」をリリース。



HOME MADE家族(KS)
アメリカ・ケンタッキー育ちのMICRO(MC)、シカゴ生まれのKURO(MC)、クラブDJをしていたU-ICHI(DJ)が96年に結成。地元名古屋のクラブでのイベントを拠点にライヴ活動を続け、数々のアーティストのフィーチャリングにも参加し、認知を上げていった。04年3月、インディーズ盤『HOME SWEET HOME』リリースを経て、同年5月にメジャーデビューし、アルバム『ROCK THE WORLD』(最高位5位)『musication』(最高位3位)をリリースする。07年3月には、3rdアルバム『FAMILIA』をリリース。全国12都市16公演に及ぶツアーも大成功のうちに終了。そして12月には東海地区最大のアリーナ、日本ガイシホールでのワンマン・ライヴも決定。


 クラブシーンを中心にHIP-HOPがムーブメントを起こし、数多くのインディーズ・アーティストが登場することになる。放送メディアであるラジオ局ZIP-FMは早くからこのシーンをピックアップしてきたのだ。「ZIP-FMは93年10月に開局した後発のラジオ局であり、開局当初から音楽を大切にする“ミュージックステーション”を掲げて、洋楽のダンスミュージックを中心に編成していましたが、同時に邦楽でも常に新しい音楽の発火点でありたいと考えていました。そうした中で、クラブシーンから次々と邦楽のHIP-HOP系アーティストが登場、番組でもそのシーンを積極的に取り上げていました」(ZIP-FM 編成局長 兼 デジタル事業室長 杉山博紀氏)。

 早くから新しい音楽のトレンドのひとつとしてHIP-HOPを紹介する。番組に登場するだけでなく、イベントへの出演、そして同局の自主レーベルZIP-CITY RECORDSからのCDリリースなどといったバックアップを展開していく。ローカルに特化したメディアから地元のアーティストをサポートしていくというピュアな想いもそこにある。

 一方、紙媒体であるファッション誌『スパイマスター』の存在もHIP-HOPシーンを伝えるメディアとして欠かせない。同誌は11年前に地元情報誌としてスタート。現在、ストリートファッション誌として認知されている。「ストリートファッションから関連するストリートカルチャーとしてクラブシーンの音楽を取り上げている。基本的なスタンスは地元のアーティストであればインディーズ、メジャー問わず応援していく」( ワークスジャパン クリエイティブ・ディレクター 金森康浩氏)。クラブカルチャーとファッションは密接な関係にあり、ファッション誌でありながら音楽プロモーション・メディアとしても重要な役割を担うことになる。最近では、『スパイマスター』の女性版『スパイガール』も創刊され、同誌の人気読者モデルがカルテットのPVに出演するというコラボレーションも行われている。

 大野氏が言うように、時を同じくしてクラブシーンと連動する形で、放送メディア、紙メディアがムーブメントを拡大するエンジンとなったようだ。こうした環境から多くのアーティストがシーンに踊り出ることになる。

環境はいかにしてシーンを拡大してきたか

 名古屋の地域性も大きな要因となる。ひとつにはマーケットのサイズ。「名古屋・東海エリアは、東京や大阪ほど巨大ではなく、打てば響くちょうどよい街のサイズ」(杉山氏)。「ほどよくコンパクトな街。お客さんは東京ほど流行に敏感ではないけど、大阪ほど商売気はないけど、名古屋人気質として、いいものに対しては確実に飛びついてくれる」(大野氏)。ライヴメディア、放送メディア、紙メディアが中心となってシーンを伝えることによってユーザーを動かしていったといえる。また、名古屋地区のディーラー各店も地元アーティストの作品をコーナー展開するなどのバックアップがあったことも見逃せない。

 アーティストを目指すものにとって、こうした環境は名古屋在住での音楽活動を可能とする。ライヴ活動が中心となるインディーズ・アーティストにとってクラブは重要なもので、その数と規模はバランスがよいという。「クラブは数的には増加はしていませんが、規模は大きくなっている。また、アーティストがステップアップできる、例えば50人収容のクラブから100人、そしてライヴハウス、ホールというようにプロセスを追える理想的なサイズがバランスよく存在する」(金森氏)。

 その結果SEAMO、nobody knows+、HOME MADE家族などのアーティストを成長させることになる。 名古屋での人気がそのまま全国区の人気へとは必ずしもならない。その壁を乗り越えるポイントはどこにあったのか。「SEAMO、nobody knows+、HOME MADE家族の3アーティストにしても10年選手で、手売りからスタートした現場で鍛えられてきたキャリアがあるからこそ強い。ライヴで鍛えられてきたアーティストなので、根がしっかりしている。ライバルも多い中で、生き残ってきた。厳しいお客さんに認められ支持されてきたアーティストたちです」(大野氏)。

 シーンの拡大、多くのライバルの中でサバイバルしてきた経験が、アーティストを成長させたという見方だ。厳しい環境がアーティストの育成につながっていく。その地力の強さが全国的な成功へと導いたといえる。

HIP-HOPシーンはネクストステージへ

 この夏7月28日には野外フェスティバル『TOKAI SUMMIT』(主催:TOKAI SUMMIT事務局)が三重県・ナガシマスパーランド芝生広場特設ステージで開催される。出演はSEAMO/nobodyknows+/HOME MADE 家族/KAME&L.M.K/カルテット /手裏剣ジェット/MASH/BENNIE Kといった名古屋・中部地区で圧倒的な人気を誇るアーティストが勢ぞろいする。さらにOPENING STAGEでは、AZU/ANTY the 紅乃壱/GRAND CLASSICS/Sonar Pocket/TUT1026/2BACKKA/BRID GETなど次世代のアーティストが参加。

 名古屋のHIP-HOPシーンは、このイベントを機にベテラン・アーティストからニューカマー・アーティストの台頭を促し、さらにパワーアップすることになるだろう。

名古屋発、次なるシーンは

 今後、名古屋・中部地区でHIP-HOPに次ぐシーンはあるのか。「レゲエのシーンは昔からあり着実に広がってきています。ACKEE&SALTFISH、MEGARYUなどのアーティストがすでに活躍しているように、全国でも横浜、大阪に次ぐ独自のシーンがある。また、クラブからはR&B系女性アーティスト、新人ではAZU、名古屋出身ではないがここからブレイクが期待されるKanadeなどに注目する」(金森氏)、「HIP-HOPのフロウ感も出せることから、R&B系女性ボーカルアーティストがブレイクしていく可能性は大きい」(杉山氏)というように、R&B系女性アーティストの台頭に期待する声は多い。

 HIP-HOPの成功事例が刺激となり、他のジャンルへ広がる図は容易に想像できる。まだまだ、名古屋の音楽シーンからは目が離せそうにない。


         
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