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世界最大手インディーレーベル創始者が語る

 昨年からの洋楽シーンの動きの中で、一際注目を集めたのが、インディー発新興勢力の胎動であった。アークティック・モンキーズに代表されるその活躍は、メジャー・レーベルが占めるマーケットのなかで、様々な話題を呼ぶほか、業界内に新風を吹き込んだ。そしてもうひとつ、その象徴的な動きとされたのがワーナーミュージック・ジャパンと英国ベガーズ・グループのライセンス契約の締結により設立されたベガーズ・ジャパンである。メジャーとインディーの理想的融合の形態とされるこのレーベルは日本のマーケットに何をもたらせるのか。ベガーズ・グループのCEO、マーティン・ミルズ氏にその狙いやベガーズ・グループ、ひいてはミルズ氏の歴史について、インディー・レーベルのあり方などを包括的にうかがった。

70年代後半のパンク・ムーブメントがインディー・レーベルの波を作り出した

―― まずは77年のベガーズ・レーベル設立時のお話をお聞きします。最初はレコード店から始まり、興行を経てレーベルにつながったそうですが、どのようなきっかけがあったのですか。

ミルズ:アクシデントのような、突発的な思いつきでしたね(笑)。当時ラーカーズというパンク・バンドのマネージメントをしていたけど、レコード契約が獲れなかった。ならば自分たちで出してしまおう、ということになってね。今ではインディー・レーベルは誰もがやれることだけれど、当時はまだ道なき道、我々が自分でルールを作って進めてきました。

―― その基本のルールとはなんですか。

ミルズ:続けること、採算を合わせることが最初のルール。ただ、レコードを売ることは今よりずっと簡単でしたよ。特に最初はパンクのレコードで、当時パンクは人気の割にはレコード会社があまりリリースに熱心ではなかったから、ニーズが多く、出すものすべて売れていきました。

―― 当時のイギリスにはインディー・シーンはすでに存在したんですか。

ミルズ:パンクがそれを始め、推し進めたと言えます。パンクが生まれ、スタートしたインディー・レーベルは我々も含め、とても多かった。その多くはファンがスタートさせたもので、メジャーがパンクに目を向けていなかった分、スタートするのは楽でした。マンチェスターやグラスゴー、イギリス中で突発的に始まっていきました。

―― そうしたロンドンのパンク・シーン、熱狂のド真中にいらしたわけですね。

 

マーティン・ミルズさん(ベガーズ・グループCEO)


BEGGARS JAPAN
今年6月、ワーナーミュージック・ジャパンはベガーズ・グループとのライセンス契約締結を発表した。合わせて、ベガーズ・ジャパンという新しいレーベルの発足が発表された。プレスリリースには契約締結の意図及び期待として、「より多様かつ個性的な洋楽アーティスト作品を日本で提供できることになります。このライセンス契約は日本独自の契約になりますので、ワーナーミュージック・ジャパンはメジャーレーベルの洋楽作品供給に留まらず、日本のマーケットに合った独自の洋楽マーケットを開拓していくこととなります」と書かれ、最後に「これはメジャーとインディーズとの理想的融合のひとつの形態であり、今後の音楽産業に少なからぬ影響を与えるもの」と結ばれている。第一弾のトム・ヨーク「ジ・イレイザー」は本誌最高位5位を記録。その後も、ベースメント・ジャックスやテープス・エン・テープスなどの新作をリリース







ミルズ:すべてがエキサイティングで、確かにその真中にいた気がします。その頃私は27〜8歳とほかの人たちより年上だったけれど、それでもエクスプロージョンが肌で感じられました。ロンドンはパンクの誕生で、本当に盛り上がっていたんです。とにかくそれまでのシーンとあまりにも違ったんだ。なにせ、それまでの音楽シーンのトレンドだったイーグルスやバリー・ホワイトから、180度変わったわけだからね。

―― 長くやっていらっしゃると、過去の音楽と比べてしまい、新しいアーティストに厳しくなってしまうことは起こりませんか。

ミルズ:それはほとんどありません。常に違うものを探し、「あれっぽいなぁ、これっぽいなぁ」というものはそもそも最初から排除しているから。もちろんそのアーティストが、昔自分たちが好きだったアーティストの影響を受けていることが見え隠れすることもあります。しかし既存のマーケットやジャンルにどう適合するかなど考えず、タイプの違うアーティストたちと契約するようにしているので、常に新鮮な目と耳を維持できるんです。

―― 例えば探す、ということにおいてピッチフォークやマイスペースなど新しいメディアが生まれています。そういう場所を活用するのか、それとも現場主義であるべきだと思いますか。

ミルズ:我々が契約するのは、口コミが広まっていて、ライヴが素晴らしいアーティスト。ただマイスペースは素晴らしいショッピング・ウインドウで、瞬時にグローバルな視点でアーティストを探すことができるし、ページの管理の仕方によって、そのアーティストがどういう自己管理をし、自分をどう見せようとしているかを垣間見られる。だから小さなクラブで夜な夜な……というのは必要なくなってきているかもしれない。ただ最終的に、素晴らしいライヴは欠かせないものです。

―― マイスペースはインディー・レーベルのあり方を変えていくと思いますか。

ミルズ:そうだね。

メジャーの中でインディーのキャリアを育んでいくベガーズ・ジャパン

―― ベガーズ・ジャパンを設立するきっかけはどんなことからだったのでしょうか。

ミルズ:まず、どの国でもやっているから。7〜8年前まで、どの国においてもベガーズはサブライセンスが主流だったけれど、やっていくうちに、自分たちのスタッフで、自分たちと同じ目線でアーティストを見てほしいという気持ちが強くなって、時間をかけてすべてのメジャー・マーケットにおいてベガーズの子会社を作ってきたんです。ただその中で、2ヶ所だけ難しいなぁと感じていたマーケットがあり、それがフランスと日本でした。日本もフランスもなかなかユニークで手強いマーケットです。でも3年前にフランスでまずベガーズ・フランスを立上げ、成功を収めることができた。その勢いで「日本も何とかしよう !」となったとき、以前から親交があった田端花子さんからOKをもらうことができ、「現地と同じエネルギーで日本でもやれるだろう」と期待して、始動させたしだいです。

―― サブライセンス期において、ミルズさんの中では満足いかない部分もあったのでしょうか。

ミルズ:当時は満足していたけれど、徐々に「もっと何かできるのでは?」という気持ちが膨らんできました。その何かとは“何か違うこと”。私自身、このサイズのレーベルでここまで音楽的に美学を持ち、それを貫いているレーベルはないんじゃないか? と自負しています。というのも、大グループでありながらポップス・アーティストがおらず、すべてオルタナティヴで貫いているのは、たぶん我々だけじゃないかな。インディー・レーベルは数多ありながらも、ここまでレフトフィールドに特化している大きなインディー・レーベルはないはず。だからこそほかのレーベルとは違うことができると信じていて、その違うことをやることにおいて、満足できていなかったと言えます。

―― ではベガーズ・ジャパンでやりたい“違うこと”とはなんですか。

ミルズ:ワーナーミュージック・ジャパンとのライセンス・ディール自体がユニーク。ベガーズ・グループとメジャーが手を組むことは、今は他の国ではあまりないことです。そんな中でスタッフを雇い、ワーナーの中に送り込んでいること自体がユニークで、メジャーの中にあって、インディーズ・アーティストのキャリアを育んでいくことに挑戦したいと思います。

―― 今はアーティストのキャリアを育てることはとても難しいように感じます。ミルズさんはその点をどう感じていらっしゃいますか。

ミルズ:確かに難しいですよ。大切なのは、ブレイクするかどうかは置いておいて、2枚、3枚とアルバムを作っていける環境を作ってあげること。今はメディアの飛びつくペースが早くなってきていて、特にデジタルの世界では誰もコントロールが出来ない状況になってきていますから、事を進めてしまうよりも、ペースを保ってあげることが大切ですね。

―― それが今レコード会社がやるべきいちばん大切なことのように思います。

ミルズ:同時に今のファンやメディアはレコード会社がお膳立てして、こうですよ、と言われる前に自分たちで発見したい意欲が旺盛なので、そういう人たちが発見できる環境を整えてあげるのも大切だと思います。ベガーズUKのオフィスでは具体的にいえば、この数ヶ月でも7人のデジタルのスタッフを雇っていて、そういう環境を整えることがマーケティングの第一歩かもしれない。

―― 今後、ベガーズ・グループは世界的に拡大していくのですか。

ミルズ:世界を見渡すと、オーストラリアやギリシャ、ポルトガルにもベガーズ・レーベルは設立されています。ベガーズ・ジャパンがパズルの最後のピースだったかもしれません。欲を言えば中国もユニークなマーケットだと感じています。

人にインスピレーションを与えられる音楽を世に送り出すこと

―― ところで、今イギリスの音楽業界でインディー・シーンは元気なのでしょうか。

ミルズ:イギリスのシーンはとにかく猫の目のように変わるんです。ここ数年インディーが強かったけれど、今年はメジャーが強かった。実は今のイギリスは、メジャー、インディー両者にとってやりにくい状況です。というのもその中間がないから。例えばアメリカでは5万枚〜20万枚というマーケットが健全に存在しているのに、イギリスは2万5000〜5万枚のマーケットか、巨大なものかしかない。その中間こそがインディーが元気になれる層なので、今は難しいと言えます。

―― 長くインディーでありつづけているベガーズ・グループですが、ほかのレーベルがそうしたように、メジャーに売却することを考えたことは一度もなかったのですか。

ミルズ:一度だけあります(笑)。でも大昔のことで、一瞬頭を過っただけのことで、その理由はお金がなかったからでした。

―― それでも続け、今こそインディーが必要であることの意味、意義を教えてください。

ミルズ:インディーの利点は、巨大な組織に捕われて利益を追求しなくてもいいところにあります。私は今でも、赤字には敏感になっても、富を築くことに重きを置いてはいません。それより一緒に過ごしているアーティストとスタッフたちが、人にインスピレーションを与えられる音楽を世に送り出すことが唯一の目的で、ビジネスは音楽のために尽くさなくてはいけないと思っています。音楽は、ビジネスをするための手段ではないんです。今のメジャー・フィールドは、すばらしいマーケティング力とパッケージ力で大きな産業を築き上げているけど、我々はパッケージを売りたいのではなく音楽を売りたいんですよ。
(インタビュー・文/和田靜香)



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