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世界中でピアノマンが大人気!世紀のピアノロック対決!

今年に入ってからのヒット曲をよく聴くとピアノの響きが耳に入る。ふと気づけば、アメリカ、イギリス、カナダ、そして日本等々、世界のあちこちで“ピアノマン”が大活躍している。しかも彼らの多くがメロディアスな一面だけではなくサウンド的な新しさや冒険心を携えている。「歌ってくれないか、ピアノマン。今夜オレたちを酔わせてほしいんだ」とビリー・ジョエルが歌ってから33年。ピアノマンのイメージは大きく変わろうとしている。


功労者ダニエル・パウターの歌声とピアノの相性

 このところ、ピアノの響きをよく耳にする。ふと気づけば、世界のあちこちで“ピアノマン”たちが大活躍していたのである。

  最大のヒットはカナダからのニューカマー、ダニエル・パウターだ。昨年ヨーロッパを足がかりにその存在を知らしめたこのシンガーは、今年アメリカ、そして日本でも成功を収め、アルバムは世界規模で大ヒットを記録。名実ともに、ジェイムス・ブラントに続く新進男性シンガー・ソングライターのブレイク組となった。「バッド・デイ〜ついてない日の応援歌〜」に代表されるように、そのソウルフルな歌声と彼の弾くピアノの音色は相性が良く、このアーティストの魅力となっている。

 アメリカでヒット中の新人といえば、テディ・ガイガーも同じくだ。6月にプロモーションでの初来日を果たした彼はまだ17歳という若さ。本国ではドラマ出演もこなすなど、甘いルックスでのアイドル的な支持もされている才能である。このテディに対して日本のソニーがつけたキャッチコピーが「新世代ビリー・ジョエル、誕生」。彼には楽器を独学で学んだマルチ・プレイヤー気質もあり、リード曲「フォー・ユー・アイ・ウィル」ではアコースティック・ギターが聴こえてくるのだが、ステージではピアノを弾きながら唄う曲も多い。

 UKロック・シーンから登場のキーンもピアノを効果的に使っているバンドだ。その楽曲のクオリティと歌心に対しては当初から熱い注目と高い評価が集まっていて、一昨年のデビュー作は500万枚を超えるセールスを残している。そしてこの春に出た2ndアルバムは彼らの著しい成長を示す充実作となった。本作でのキーンは、美しいソングライティング能力に上乗せするように、斬新なサウンド美学もアピール。ギターを使わず、あえてピアノを中心に据えたその音作りは、さらに深度を高めている。

 それから実は近年、こうしたメインストリームの動きに先駆ける形で、サウンドの重点をピアノに置いたロックの潮流があった。アメリカのバンドを中心にした“ピアノ・エモ”と呼ばれるものだ。これはいわゆるエモ・コア以降に派生した流れで、音楽的には、感情を爆発させるギター・サウンドにピアノの響きを美しくブレンドさせたものが多い。代表的なバンドとしてはウェイキング・アッシュランド、メイ、コープランド、など。そして今年4月に日本発売が実現したジャックス・マネキンもそのひとつだ。これは過去に来日もしているサムシング・コーポレイトのメンバーであるアンドリュー・マクマホンのソロ・プロジェクト。1stアルバムは、流麗なメロディと鮮やかなピアノが融合した、実にフレッシュな仕上がりになっている。

 気鋭のピアノマンは、日本にもいる。4月に井上陽水と歌詞を共作したタイトルトラックを含むミニアルバム『Yellow Moon』をリリースしたのはAkeboshi。本名を明星嘉男というこの28歳は、ポール・マッカートニーが主宰するリバプールの芸術大学・LIPAへの留学歴を持つ異色の才人。イギリス在住中にはさまざまな肌の色のミュージシャンと共同生活を営みながらセッションを行ったり、ツアーで各地を廻ったりするなど、充実した日々を送っていたという。ピアノを主体としながらも、フォーク、エレクトロニカ、アイルランド民謡など新旧の音楽がダイナミックに交わるその音は、まさに新時代のシンガー・ソングライターに相応しい。


豊かな才能の持ち主 SUEMITSU&〜の末光篤

 今年の春にキューンからデビューしたSUEMITSU&THE SUEMITHの末光篤も豊かな才能の持ち主だ。彼はここに至るまでに様々なキャリアをもつ遅咲きアーティストなのだが、それだけに多くのいい音にどっぷり浸ってきたバックグラウンドがうかがえる音楽を展開してくれている。音楽大学卒業ということでクラシックの素養を基本に、ポップス、ロック、ブラック・ミュージック等々。最新リリース「Sherbet Snow and the Airplane e.p.」のタイトル曲はベン・フォールズからピアノ・エモまでの流れを一気に呑み込んだような疾走感が素晴らしいし、カップリングではザ・スミスの斬新な解釈も見せている。今後、要注意の人だ。

  カリート
『ダニエル・パウター』
ダニエル・パウター


強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
『アンダーエイジ・シンキング』
テディ・ガイガー


強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
『エヴリシング・イン・トランジット』 ジャックス・マネキン

強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
『アンダー・ザ・アイアン・シー −深海ー』 キーン

強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
『Yellow Moon』 Akeboshi

強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
「Sherbet Snow and the Airplane」
SUEMITSU&THE SUEMITH


強烈なビジュアルイメージが確認できる『メキシカン・ヒーロー』(7月12日発売)
『ジュークボックス』
ベント・ファブリック

 これ以外にも、デンマークのレーベル社長にして81歳の新人ということで騒がれたベント・ファブリック、ジャズ畑でありながらレディオヘッドもカバーするブラッド・メルドー・トリオもピアノをフィーチャーした音楽だ。さらに日本でもクラムボン、風味堂といったバンドもピアノをふんだんに使った歌を聴かせてくれている。そういえば、これまたジャズだけど、綾戸智絵という強烈な人も忘れてはいけないか。

 今こんなにピアノがクローズアップされている理由は何だろう。そんな状況が目につくということは、逆に言えばここ何年かの間、ピアノという楽器があまり流行の音楽の中になかったということである。キーンのティム・オクスリーは「最近みんなギターばかり多用しているから、僕らはあえてギターを使わずに、ピアノでいろいろ試してみようと思ったのさ」という発言を残している。逆に言えば彼らは<ピアノ受難の時代>だからこそ、自分たちの音楽を切り開くことができたのだ。逆境をポジティヴに捉えることができる人は、やはり強い。

 まあ、それはさておいて。ここからは僕の持論になるが、今の時代、ピアノという楽器はどうにも重いのではないかと思う。質量のみならず、そのすべてにおいて、だ。

過去から未来につながる何かをもつピアノの音

 そもそもピアノをちゃんと弾けるようになるには、幼少時からきちんと習う必要がある。たとえば僕なんか、もうすぐ3才になる自分の娘に、将来ピアノを習わせるか、と想像してみたところで、けっこうな障壁があることに気づく。ピアノを購入する財力があるか。そんな大きな楽器を置いて、思うように弾かせられる部屋や環境のある家に住めるか。月謝を払いながら習わせ続けられるか。ギターと違って、庶民にとってのピアノは今でも高嶺の花なのだ。

 そのせいもあってか、ピアノには優雅で高貴なイメージがある。音色は叙情的で、時にロマンチックで、センチメンタルだったりもする。ロックンロールの黎明期には激しい鍵盤さばきとシャウトで勝負したリトル・リチャードという型破りな人もいたが、基本的にはぜいたくで上品きわまりない楽器だ。70年代のキャロル・キング、エルトン・ジョン、あるいはビリー・ジョエル(ポップ・フィールドに復活したライヴ盤『12ガーデンズ・ライヴ』が出たばかり)の時代には、いい楽曲と声、それにピアノのキレイな響きが、多くの良質なポップスを生んだものである。

 それを思うと、演奏自体にお手軽化が進んだ現在のポップ・ミュージック界において、重厚長大なピアノおよびピアノ弾きは居場所をなくしがちなのかもしれない。バンドはギター、ソロならアコギ。ユニットならシンセやコンピュータ。ピアノをフィーチャーした音楽も、時々あるにはあったけれども、全体から見ればやはり脇に追いやられ気味になる。今は大きなグランド・ピアノではなく、シンセサイザーでピアノの音を選んで弾いているケースが多い。もしかしたら今のピアノマンたちは、グランド・ピアノにはあまりなじみがないぐらいなのかもしれない。

 そんなピアノの音色が改めて求められる昨今。これはひとつにはベン・フォールズ・ファイヴ、それからコールドプレイの影響が考えられる。パンキッシュでさえある前者、リリカルでドラマチックな後者の音楽性において、ピアノの使用は非常に大きな後押しとなった。そして共通点はメロディアスな歌ものであるということ。今回あげたような最近のアーティストの作品には、とにかくメロディが印象的な楽曲が多い。ベン・フォールズの登場で、あるいはコールドプレイの成功で、ピアノの魅力を知った世界中の若者が<これはあり!>と思いはじめた可能性は少なからずあるのではないか?
  最近のピアノ弾きに男性が目立つのも特徴である。
  それと気がつくのは、今のピアノマンのほとんどがサウンド的な新しさや冒険心を携えているということ。かつては楽曲の良さに主眼を置いたシンガー・ソングライターこそがピアノマンたるところだったのだが、現代では音楽全体を形作るサウンド・プロデュース力を持っている人が多い。そこは時代をよく反映していると思う。

  こうしてみると、やはり音楽とは循環するものだ。前の世代の音楽を次の世代が受け継ぎながら、また新しいスタイルにしていく。今のピアノ・サウンドに親しんだ人たちは、また次に新しいものをクリエイトしてくれるはずだ。いつの時代も叙情的なピアノの音は、こうしている今も、きっと未来につながる何かを放っているのである。
(文/青木 優)
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