オリコンニュース

【インタビュー】五木まり、歌手デビュー55年 人を信じ、歌を信じ続けてたどり着いた新たな挑戦

 1970年、大阪万博で開催された『第7回日本シャンソンコンクール』で優勝し、歌手デビューを果たした五木まり。今なお現役シンガーとして活動を続ける彼女が10月8日にキングレコードより約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした。

約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり

約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり

写真ページを見る

この記事の写真はこちら(全3枚)


■“聴いていただく歌”ではなく、“みんなで歌える楽しい曲”を

 五木まりは京都で生まれ、昭和女子大、東京工業大学院(現・東京科学大学院)にて寺院建築を学んだ。転機が訪れたのは前回の大阪万博。既に学芸員として就職も内定していたが、優勝者は海外へ行けるという理由でシャンソンコンクールに応募。そこでグランプリを獲得すると、日本シャンソン界の草分け的存在である石井好子氏のもとで特訓を受け、コンクールの翌年、「誰でもいつかは/限りない愛に生きて」でキャニオンレコード(現・ポニー・キャニオン)からデビューする。“五木まり”という名はその際に付けられた芸名だが、名付けの親は、石井氏と小説家・五木寛之氏だというから驚きだ。

 こうして、1990年まで銀座にあった日本初のシャンソン喫茶「銀巴里」をはじめ、日劇や霞町音楽堂、紀尾井町サロンホールでのコンサート、帝国ホテルなどのディナーショー、ライフワークとして35年ほど続けている古賀政男音楽博物館けやきホール(東京都)での『NEOMARIIZM』、さらには寺院仏閣奉納ステージなどでも活動しているが、これらはすべてチャリティ/ボランティアで行ってきた。また、作詞者として日本音楽著作権協会(JASRAC)の正会員にもなっている。

 そんな五木は、2023年にフランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフの名作「愛の讃歌」のカバーCDをリリース。この曲自体は数多くのシンガーによって歌われてきたが、五木は、原詞の内容を忠実に伝えるために美輪明宏氏が自ら訳した“美輪バージョン”で収録。本人からの許諾を得て、それまで誰もカバーできなかった美輪明宏訳詞版の「愛の讃歌」に意欲的に挑戦したのだった。

【五木】当時、心筋梗塞を患った後で、人生後悔がないようにと取り組んだ美輪さんの「愛の讃歌」という大作のカバーで、シャンソン歌手として大きな区切りをつけたつもりでした。

 その想いが覆ったのは、今年3月。キングレコードのディレクターから連絡があり、赴いた先でのミーティングで、五木曰く、約半年間に渡る「華々しい波乱万丈」の幕が上がった。

【五木】ディレクターさんに「次は何の作品にしますか?」と言われて。私としては2年前の「愛の讃歌」で(新たなリリースは)もう終わったという気持ちでいたので、またレコーディングするなんて、とても驚いたんです。そんな話があるとも思わず、まったく何も事前に考えていなかったんですが、その時に頭に浮かんだのが、五輪真弓さんの「心の友」、そしてもう1曲が、玉置浩二さんの「行かないで」でした。

 「心の友」は、五輪真弓が1982年に発表したアルバム『潮騒』の収録曲。シングル曲ではなかったこともあり、国内では広く知られることがなかった楽曲だが、1985年にインドネシアで大ヒット。当時、五輪氏のコンサートで同曲に感動したラジオ関係者が現地でオンエアしたことがきっかけで、“第2の国歌”と言われるほどに国民的な楽曲として今なお親しまれている。

【五木】東南アジアの子どもたちはみんな、国歌の後に日本語詞で歌うほど広く知られた曲です。こんなに素敵な曲が、日本であまり知られていないことがずっと残念で、自費出版でもいいので広めたいと思っていました。それに、私はこれまで“聴いていただく歌”を歌ってきましたが、“みんなで歌える楽しい曲”はあまり歌ってこなかったので、CDをリリースするなら、ぜひこの曲を歌いたいと思ったんです。

■自分で「新しい扉を開きます」って言っちゃいました(笑)

約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり

約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり

写真ページを見る

 もう1曲の「行かないで」は、1989年に玉置浩二の5枚目シングルとしてリリース。オリジナルアルバムには収録されなかったこともあり(1994年にベスト盤『安全地帯/玉置浩二ベスト』に収録)、こちらも知る人ぞ知る隠れた名曲と言える。この曲は、ある偶然が重なり今回取り上げることになったという。

【五木】私は『NHKのど自慢』が大好きで。審査の鐘の数には関係なく、みんなが楽しく歌う。あれこそが歌の原点だと思っているんです。その『チャンピオン大会』が春分の日に放送されて、外国人参加者の方が優勝したのをテレビで見て。その方の歌唱も素晴らしかったんですが、とにかく曲がとても良くて。「これしかない!」と思って調べたら、玉置さんの「行かないで」だったんです。実は私、玉置さんと誕生日が同じだったり、私のコンサートの舞台監督さんが高校時代に玉置さんと同級生だったりと不思議な縁を感じていて。それで「この曲を」と思ったのですが、おそらく許諾は取れないでしょうし、のほほんと過ごしていたら、ディレクターさんから「OKが出たのでやりましょう」と連絡をいただいて。もうびっくりしちゃって。でも、そこからが大変でした。今まで歌ってきた歌とは全然違うタイプの曲ですから。だけれども、この年齢でこんなことにチャレンジさせていただけることなんてそうありませんから、新しい扉を開こうと思ったんです。

 五木本人が言うように、これらの原曲は、彼女がそれまで歌ってきたシャンソンとはまったくジャンルの異なる、いわゆるJ-POP。しかも、荘厳なバラードの「行かないで」と、力強いリズムと優しさに満ちたメロディの「心の友」という2曲は、それぞれ正反対のテイストだ。これを五木は、どのように自身の歌として昇華したのだろうか。

【五木】玉置さんの「行かないで」は牧歌的な、シンフォニックなアレンジでしたけど、私は神に捧げるような、宇宙のようなサウンドをイメージして。一方の「心の友」は、東南アジアで歌われている、太鼓やラッパが入って賑やかな演奏を聴く機会があったんです。私もその感じで、子どもからお年寄りまで、手を叩きながら一緒に歌えるような形でやりたくて、そういうアレンジをお願いしました。

 そのイメージを具現化したのが、演歌からポップスまで幅広い楽曲を手がける新進気鋭のアレンジャー、杉山ユカリ氏。五木は今回、ディレクターが推薦する杉山氏と初タッグを組んだ。

【五木】すごく一生懸命にアレンジしてくださって。それで譜面が仕上がったら、なんと35人のオーケストラになっていて、びっくりしました。最初は、初めてのジャンルの曲ですし、しかも真逆な2曲を1日で録るのは自分の気持ちが追い付かないんじゃないかって不安もあったのですが、これはもうやるしかないと思って。この2曲がいいと言い出したのは私ですし、自分で「新しい扉を開きます」って言っちゃいましたから(笑)。

 結局、オケ録りの日に仮歌を録音し、その後、改めて本番をレコーディング。しかし、どうしても自身の歌に納得いかず、再度、歌を録り直したのだそうだ。さらにミックスダウンにもこだわり、スケジュールがタイトな中で自身も立ち合い再ミックスを行うというこだわりの末に、9月上旬、ようやく半年間に渡る制作が終了となった。

【五木】これまでシャンソンで、好きだの嫌いだのはもう十分やってきて。そこを追いかけると、歌っていて自分でしらけちゃう。だからもう、今回はコロッと変えようと思ったんです。ところがいざ歌おうとすると、これが難しくて難しくて。特に「行かないで」は、頭の中から玉置さんを消し去るのに1ヶ月半もかかって大変でした。個性の強いアーティストですから、玉置さんの色を消すのにもがき苦しんだんです。そうしたら、ある方に「もう五木まりさんの世界になっているよ」と言われて、ようやくレコーディングに臨めました。「行かないで」という五文字だけでも、聴く人によって、恋人だったり、いろんな人を思い浮かべるでしょうけど、私はスタジオに両親の写真を立てて、母を思って歌いました。

 歌手として世に出てから55年。「これまでお世話になった方々に、何ひとつお返しができていない」と語る五木が、今たどりついた新しい歌が、「行かないで」、そして「心の友」だというのは、人を信じ、歌を信じ続けた彼女ならではの選曲であり、また新たなひとつの挑戦であったと言えよう。しかもそれが、時間をかけて練り上げた計画的なものではなく、ある意味で五木にとっては、突然に降ってわいたようなレコード会社からのオファーによってこの2曲を歌うことになったというエピソードも、偶然でありつつも、どこか必然に思えてならない。五木が常に大切にしている、人と人との縁、つながりというものが、この2曲の深層に宿っているように思える。

 そうした縁は、さらなる広がりを見せており、この10月から12月まで、FMよみたん・エフエム那覇で、「五木まりラジオパワープッシュ」のオンエアが決定。10月8日には、60分生放送番組にも出演した。「華麗なる波乱万丈」は、エンディングを迎えるどころか、この先もますますドラマチックに展開していくに違いない。

取材・文:布施雄一郎

<作品情報>
■五木まり「行かないで/心の友」
発売:2025年10月8日
品番:KICB-2834/価格:1500円(税込)

五木まり「行かないで/心の友」

五木まり「行かないで/心の友」

写真ページを見る

【収録曲】
1 行かないで
2 心の友
3 行かないで (カラオケ)
4 心の友 (カラオケ)

■五木まり Official Site:https://itsukimari.com/
オリコンニュースを優先ソースに追加してGoogle検索に頻繁に表示させよう

関連写真

  • 約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり
  • 約2年ぶりとなるニューシングル「行かないで/心の友」をリリースした五木まり
  • 五木まり「行かないで/心の友」

オリコントピックス

求人特集

求人検索

デイリーCDアルバムランキング2026年06月06日付

  1. We on Fire

    1位We on Fire

    &TEAM

    発売日:2026.04.21

  2. LEMONADE

    2位LEMONADE

    aespa

    発売日:2026.05.30

  3. LUCID DREAM

    3位LUCID DREAM

    IVE

    発売日:2026.05.27

    1. 4位以下を見る

  • オリコンニュースを優先ソースに追加してGoogle検索に頻繁に表示させよう

メニューを閉じる

 を検索