2025年2月にサービス開始から“7.2周年”を迎えたスマートフォン向けRPG『メギド72』。3月9日午後7時2分をもってオンライン版サービスが終了したにもかかわらず、その後もXでは日本のトレンドワード1位を獲得するなど異例の盛り上がりを見せている。6月11日にはゲーム音楽を収録したベストアルバムもリリースされた。『メギド72』のプロデューサー・菅野太郎氏、ゲーム音楽を担当した作曲家・寄崎諒氏に、音楽に込めた想いと今後予定されているコンサートについて聞いた。
■音楽で旅路をめぐるベストアルバム 登場人物の背景を音楽で表現
――まずは、ベストアルバム『メギド72 -Music Destinations-』が完成した今の心境から聞かせてください。
【菅野】これでやっと、すべてをコンプリートした真の集大成と言えるベスト盤が作れたというか、本当に膨大な曲数が収められていて…。何曲あるんでしたっけ?
【寄崎】すぐはわからないです(笑)。
【菅野】わからないくらいたくさんの曲があって(笑)。『メギド72』では、ゲームの新しい物語やキャラクターが生まれる度に、その世界観に合わせて寄崎さんに音楽を作っていただきました。ですから音楽をさかのぼって聴くと、ゲームで遊んでいた当時の気持ちがよみがえるはず。曲名がわからなくても、音楽を耳にすれば「あの時のあの場面の曲だ」と感情を想い出せる。このベスト盤は、そんな作品になっていると思います。
【寄崎】中身的には、『メギド72』が完結するまでの7年2ヶ月間の全体が分かる構成になっています。そのうえで、2021年に出したサウンドトラックをお持ちの方でも楽しんでいただけるように、前回とは違う曲につなげたり、細かな部分でかなり手直しをしました。そしてCD5枚組の初回限定盤に関しては、Disc2〜5に21年以降の楽曲を収めています(※初回限定盤Disc1はベストアルバムと同内容)。
【菅野】僕は音楽に関して、寄崎さんに具体的なリクエストは一切していないんです。寄崎さんは、ゲームのシナリオライターさんと話し合って物語の世界観を表現してくださった。その音楽を僕は全面的に信じたんです。なぜかと言うと、ゲームの主人公が敵を倒して世界が平和になるといった単純なストーリーではなく、『メギド72』は登場人物一人ひとりにストーリーがあって、そういう背景を音楽で表現してもらいたかったからなんです。
【寄崎】だから敵側の曲がほとんどですよね。主人公側の心情で作った曲はあまりなくて、ほとんどが敵との戦いの音楽で、敵の心情に合わせた曲が多いんです。
【菅野】プレイヤーは、主人公を“自分”としてプレイするわけで、複雑な心情になるとは思うんですが、ゲームの中では語られていないキャラクターの背景を音楽に込めていただくことで、プレイヤーは物語の世界観に深く入っていける。ですから寄崎さんの音楽は単なるBGMではなく、物語性を作り出す重要な要素だと考えていました。
【寄崎】僕自身も、プレイヤーのみなさんと気持ちを共有しながら音楽を作っていけました。買い切り型ではなく運営型のゲームでしたから、余計にプレイヤーさんの反応がよくわかるんですよ。だから音楽を作りながら、みなさんとの共感がどんどん強まって、また次の曲を作るという感じでした。
【菅野】(寄崎)知紘さん(※作編曲家。諒氏の妻で、『メギド72』楽曲制作にも参加している)の話はしなくて大丈夫ですか?
【寄崎】そうですね。手前味噌ですが、知紘の音楽もメギドを豊かに彩ってくれました。知紘の曲は、僕が3曲作る間に丁寧に1曲作るみたいなペースで時間をかけて作っていたので、完成度が高くプレイヤーの皆様の心に残っている曲が多い印象です。
【菅野】知紘さんともども、そうやって寄崎さんには参加者のひとりとして深く関わってもらえて。だからこそユーザーさんの間で、ゲームのキャラクターと同じくらい寄崎さんは人気があるんです。僕らも悪ふざけをして、寄崎さん風のキャラクターを登場させたくらい(笑)。それくらい、僕としては音楽が主で、どっちかって言うとゲームがオマケのような気もしているんですよ(笑)。
【寄崎】いえいえ、それは逆ですよ(笑)。ただゲームを彩るものとして音楽があるという意識は一貫して持っていましたし、その物語を自分たちの手で完結させられたというのが、とても嬉しくて。
【菅野】スマホのソーシャルゲームって、ほとんどの場合、事業として成立しなくなって途中で終了してしまう。でも『メギド72』は、物語をきちんと完結させることを最初から考えていて、“7.2周年”という記念のタイミングで物語を完成でき、お別れができました。だからユーザーのみなさんも「完結」を祝ってくれて。
【寄崎】ゲーム側からは「終了」という言い方はしてないですよね。
【菅野】はい。「完結」です。
【寄崎】SNSでも「よくぞ完結してくれた」というお祝いの雰囲気がありましたよね。
――そうした物語の中で寄崎さんが作る音楽は、歌モノやジャズ・テイストの曲がたくさんあったり、ゲーム音楽としては攻めた楽曲が多かった点も大きな特色でしたよね。
【寄崎】ゲーム音楽には、いわゆる“お約束”みたいな定型的な音楽を作る場面と、そうじゃない自分のやりたいものを作る場面があって。僕の場合、やっぱり後者の方がパフォーマンスを高められるので、自分はジャズやクラシックが得意ということもあって、そういう曲が増えていったのだと思います。特に、最後のラスボス戦の音楽は、かなり頑張った曲のひとつです。他の曲は、平均すると1曲を3〜7日くらいで作りますが、これには2〜3ヶ月ほどかかって。ここまで時間をかけた曲は『メギド72』では初めてです。15分くらいのバイオリン協奏曲なんですが、こういうクラシック形式の曲はなかなか作る機会がないので、それができたのはよかったなと思っています。
■「このゲームは、音楽で何かやるぞ」 まずはファンが喜ぶ物を作る
――寄崎さん自身は、『メギド72』の音楽の特徴はどこにあると感じますか?
【寄崎】たとえば映画のサウンドトラックの場合、場面を表す音楽、ストーリーを進めるための音楽、感情を呼び寄せる音楽などいくつかの種類がありますが、ゲーム、特に『メギド72』の場合は、一番多いのはバトルの音楽です。ゲームの特性として、遊びの部分がバトルですから、そこでユーザーを驚かせたい、喜んでもらいたいと思いながら作っていました。あとは、キャラクターを実装する時に歌モノで盛り上げるというパターンもやっていますが、ただ『メギド72』の音楽って、僕自身はそれほど特徴といったものはないと思っているんですけど。
【菅野】いや、寄崎さんは、よく「人気曲はない」とかって言うんですけど、それってユーザーさんによって十人十色、好きな曲が本当にバラけているからであって。人気の曲はとてもたくさんありますし、ユーザーさんにも「このゲームは、音楽で何かやるぞ」って思われていて。それも寄崎さんが音楽でいろんなことをしてくれたからです。たとえば、ゲームの中のアイテムショップで、昼と夜とで音楽が変わるんです。これって正直、意味はない(笑)。だけど寄崎さんは「やったら面白いですよね」って作っちゃうし、ユーザーさんはそれを喜んでくれる。つまり、「音楽を聴かせよう」ではなくて、「楽しんでもらうために音楽を作っている」という感じなんですね。そこがとても大きいと思っています。
――菅野さんの中で、特に印象に残っている曲を挙げるとすると?
【菅野】「目一杯の宛名」という曲があって。
【寄崎】6周年で作った曲ですね。メギド(キャラクター群)の名前を全部入れたユニークなオープニング曲で、6周年を記念して、最初からいるキャラクター72名以降に実装したキャラクターの分もほしいよねということで作った曲なんです。
【菅野】そういった形でユーザーさんに6周年の感謝を伝えたいと考えたんです。ただ、記念曲ということで、もしかしたら賑やかなパーティソングっぽい曲になるかもという不安が少しあって。だけど、音楽の中身には口を出したくない。そう思っていたら、まさに仲間に感謝する主人公の心情を歌った曲が寄崎さんから届いて。驚きましたし、うれしかったですね。
【寄崎】新しいキャラクターたちに宛てた手紙をテーマに書きました。主人公がどうやって感謝を伝えるといいのかを考えて、曲の形式を工夫して。だから僕としても、そこが伝わって良かったと思っています。
【菅野】本当に詞も丁寧に書いてくださって、歌で一人ひとりのキャラクターがさらに広がっていく感覚がありました。
【寄崎】シナリオライターさんが表現している世界はすごく確固たるものがあって、僕の詞は、その世界をちょっとだけ間借りして表現しているもの。ですから自分の主張ではなく、シナリオの中のキャラクターが言いたいこと、それを考えて書くのがすごい楽しいです。とは言え、作曲に比べて、作詞にはすごく時間がかかってしまうんですが(笑)。
――初回限定盤付属の完全オリジナル書き下ろし小説『王の居ぬ間に、探偵ごっこ』も、寄崎さんのアイデアで生まれたそうですね。
【寄崎】『メギド72』が終わってしまうのが寂しくて、メインのライターさんに小説を書いていただきたいと思ったんです。
【菅野】寄崎さんには、ライターさんに小説を書いてもらう算段までつけてもらったり、特典グッズやロゴまで全部、「こうだったらいいな」と積極的に考えてくださって。僕としては採算が合うのか心配にもなりましたけど(笑)、まず第一にファンが喜ぶ物を作る、そのためにどういうベスト盤にしたらいいのかを考えてくれました。だからこそ、前作以上の反響をいただいているのだと思っています。
――これらの音楽を生演奏で味わえるコンサート『メギド72 THE CONCERT -時には戦果の記憶を辿って-』(9月13日、14日)も楽しみですね。
【寄崎】ファンのみなさんには本当に感謝しかなくて、そのうえで今度のコンサートは「同窓会」みたいに、今までのゲームを振り返って、その時々の想い出に浸っていただけるようなものにしたいと考えています。
【菅野】ゲームのオンライン版サービスは終わりましたが、私自身は72周年まで『メギド72』という作品を楽しんでもらいたくて、今年はそれがベストアルバムとコンサートという形で実現できました。寄崎さんが言った「同窓会」って、すごくいいなと思っていて。まずはベストアルバムで想い出を振り返っていただいて、その想いを持ってコンサート会場に集まってみんなで語り合う、そんな場にできたらいいなと思っています。そうやって毎年、何かしら集える場をずっと作っていきたい。だから今回のベストアルバムとコンサートを、次の展開を見つけていく最初の場として、これが新たなスタートになればいいなと思っています。
【ビクターエンタテインメント 小坂純氏コメント】
今回のベストアルバム・プロジェクトは、菅野さんと寄崎さんをはじめ、DeNAさん、メディア・ビジョンさんが日々生み出してこられたものを、ビクターとしては、音楽面でエンターテインメントという形にすることを念頭に取り組んできました。
その中で、「絶望を希望に変えるRPG」というキャッチコピーに代表されるように、『メギド72』の根底に流れている物語、音楽、哲学のメッセージを私自身が受け取りつつ、そのエモい要素をいかに広く伝えていけるか、そこを意識してベストアルバムを制作しました。『メギド72』という作品は完結しましたが、楽曲はこれからも人々の心の中で育っていくものですから、そこに長く、しっかりと栄養を注入していくお手伝いができればと考えています。
これまでは、菅野さん、寄崎さんが舵を取ってきた物語を、今後は私どもビクターも音楽面で一緒に漕がせていただき、『メギド72』の72周年までこのプロジェクトを続けていきたいと思っています。
取材・文:布施雄一郎
【プロフィール】
菅野太郎
メギド72プロデューサー/ディー・エヌ・エー所属
事業プロデューサーとしてDeNAに入社後、モバイルエンタメやECサービスの領域での事業・サービス開発を担当。2010年にプロデューサーとして怪盗ロワイヤルを担当して以降、ゲームプロデューサーとしても活動を始める。DeNAのオリジナルタイトルや協業IPタイトルを多数手掛けてきた。メギド72の7年2ヶ月の運営終了後も「メギド72周年」に向けて様々なプロジェクトを推進している。
寄崎諒
メギド72作曲家/メディア・ビジョン所属
中学生の頃にパンクバンドを聴き音楽に興味を持つ。その後、沖縄の三線やジャズなどさまざまな音楽に影響を受け、大学・大学院ではクラシックや現代音楽を学ぶ。大学時代のゲーム制作をきっかけにゲームの音楽や効果音を作るようになる。スマートフォン向けRPG『マジック&カノン』(メディア・ビジョン株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーで制作。2013年配信開始、現在は配信終了)の音楽を担当したことをきっかけにメディア・ビジョンに所属。
メギド72では、大半の楽曲を作曲。途中から妻の作曲家寄崎知紘も参加しともに制作。メロディのモチーフを展開するのとバイオリンなどの擦弦楽器を使った楽曲が特に得意。
東京音楽大学大学院作曲指揮専攻作曲研究領域修了。
<作品情報>
Best Album『メギド72 -Music Destinations-』
発売日:2025年6月11日
■【VICTOR ONLINE STORE限定セット商品】
初回限定盤+メモリアル懐中時計
(5CD+限定ブックレット+完全オリジナル小説+メモリアル懐中時計)
品番:VIZL-2435+NZY-10297/価格1万9720円(税込)
■【初回限定盤】
5CD+限定ブックレット+完全オリジナル小説
品番:VIZL-2435/価格:7200円(税込)
■【通常盤】
CD
品番:VICL-66066/価格:3072円(税込)
<コンサート情報>
■『メギド72 THE CONCERT -時には戦果の記憶を辿って-』
日時:2025年9月13日、14日(昼公演/夜公演)
会場:一ツ橋ホール(東京)
【ACTOR】
朝霧友陽(バールベリト役)、生田善子(アスモデウス役)、西田望見(プロメテウス役)、バトリ勝悟(ロキ役)
【VOCALIST】
Alico、寄崎知紘
【BAND】
エルプシャフト音楽団(Erbschaft Ensemble)
ando more... ※五十音順、敬称略
■音楽で旅路をめぐるベストアルバム 登場人物の背景を音楽で表現
――まずは、ベストアルバム『メギド72 -Music Destinations-』が完成した今の心境から聞かせてください。
【菅野】これでやっと、すべてをコンプリートした真の集大成と言えるベスト盤が作れたというか、本当に膨大な曲数が収められていて…。何曲あるんでしたっけ?
【寄崎】すぐはわからないです(笑)。
【菅野】わからないくらいたくさんの曲があって(笑)。『メギド72』では、ゲームの新しい物語やキャラクターが生まれる度に、その世界観に合わせて寄崎さんに音楽を作っていただきました。ですから音楽をさかのぼって聴くと、ゲームで遊んでいた当時の気持ちがよみがえるはず。曲名がわからなくても、音楽を耳にすれば「あの時のあの場面の曲だ」と感情を想い出せる。このベスト盤は、そんな作品になっていると思います。
【寄崎】中身的には、『メギド72』が完結するまでの7年2ヶ月間の全体が分かる構成になっています。そのうえで、2021年に出したサウンドトラックをお持ちの方でも楽しんでいただけるように、前回とは違う曲につなげたり、細かな部分でかなり手直しをしました。そしてCD5枚組の初回限定盤に関しては、Disc2〜5に21年以降の楽曲を収めています(※初回限定盤Disc1はベストアルバムと同内容)。
【菅野】僕は音楽に関して、寄崎さんに具体的なリクエストは一切していないんです。寄崎さんは、ゲームのシナリオライターさんと話し合って物語の世界観を表現してくださった。その音楽を僕は全面的に信じたんです。なぜかと言うと、ゲームの主人公が敵を倒して世界が平和になるといった単純なストーリーではなく、『メギド72』は登場人物一人ひとりにストーリーがあって、そういう背景を音楽で表現してもらいたかったからなんです。
【寄崎】だから敵側の曲がほとんどですよね。主人公側の心情で作った曲はあまりなくて、ほとんどが敵との戦いの音楽で、敵の心情に合わせた曲が多いんです。
【菅野】プレイヤーは、主人公を“自分”としてプレイするわけで、複雑な心情になるとは思うんですが、ゲームの中では語られていないキャラクターの背景を音楽に込めていただくことで、プレイヤーは物語の世界観に深く入っていける。ですから寄崎さんの音楽は単なるBGMではなく、物語性を作り出す重要な要素だと考えていました。
【寄崎】僕自身も、プレイヤーのみなさんと気持ちを共有しながら音楽を作っていけました。買い切り型ではなく運営型のゲームでしたから、余計にプレイヤーさんの反応がよくわかるんですよ。だから音楽を作りながら、みなさんとの共感がどんどん強まって、また次の曲を作るという感じでした。
【菅野】(寄崎)知紘さん(※作編曲家。諒氏の妻で、『メギド72』楽曲制作にも参加している)の話はしなくて大丈夫ですか?
【寄崎】そうですね。手前味噌ですが、知紘の音楽もメギドを豊かに彩ってくれました。知紘の曲は、僕が3曲作る間に丁寧に1曲作るみたいなペースで時間をかけて作っていたので、完成度が高くプレイヤーの皆様の心に残っている曲が多い印象です。
【菅野】知紘さんともども、そうやって寄崎さんには参加者のひとりとして深く関わってもらえて。だからこそユーザーさんの間で、ゲームのキャラクターと同じくらい寄崎さんは人気があるんです。僕らも悪ふざけをして、寄崎さん風のキャラクターを登場させたくらい(笑)。それくらい、僕としては音楽が主で、どっちかって言うとゲームがオマケのような気もしているんですよ(笑)。
【寄崎】いえいえ、それは逆ですよ(笑)。ただゲームを彩るものとして音楽があるという意識は一貫して持っていましたし、その物語を自分たちの手で完結させられたというのが、とても嬉しくて。
【菅野】スマホのソーシャルゲームって、ほとんどの場合、事業として成立しなくなって途中で終了してしまう。でも『メギド72』は、物語をきちんと完結させることを最初から考えていて、“7.2周年”という記念のタイミングで物語を完成でき、お別れができました。だからユーザーのみなさんも「完結」を祝ってくれて。
【寄崎】ゲーム側からは「終了」という言い方はしてないですよね。
【菅野】はい。「完結」です。
【寄崎】SNSでも「よくぞ完結してくれた」というお祝いの雰囲気がありましたよね。
――そうした物語の中で寄崎さんが作る音楽は、歌モノやジャズ・テイストの曲がたくさんあったり、ゲーム音楽としては攻めた楽曲が多かった点も大きな特色でしたよね。
【寄崎】ゲーム音楽には、いわゆる“お約束”みたいな定型的な音楽を作る場面と、そうじゃない自分のやりたいものを作る場面があって。僕の場合、やっぱり後者の方がパフォーマンスを高められるので、自分はジャズやクラシックが得意ということもあって、そういう曲が増えていったのだと思います。特に、最後のラスボス戦の音楽は、かなり頑張った曲のひとつです。他の曲は、平均すると1曲を3〜7日くらいで作りますが、これには2〜3ヶ月ほどかかって。ここまで時間をかけた曲は『メギド72』では初めてです。15分くらいのバイオリン協奏曲なんですが、こういうクラシック形式の曲はなかなか作る機会がないので、それができたのはよかったなと思っています。
■「このゲームは、音楽で何かやるぞ」 まずはファンが喜ぶ物を作る
――寄崎さん自身は、『メギド72』の音楽の特徴はどこにあると感じますか?
【寄崎】たとえば映画のサウンドトラックの場合、場面を表す音楽、ストーリーを進めるための音楽、感情を呼び寄せる音楽などいくつかの種類がありますが、ゲーム、特に『メギド72』の場合は、一番多いのはバトルの音楽です。ゲームの特性として、遊びの部分がバトルですから、そこでユーザーを驚かせたい、喜んでもらいたいと思いながら作っていました。あとは、キャラクターを実装する時に歌モノで盛り上げるというパターンもやっていますが、ただ『メギド72』の音楽って、僕自身はそれほど特徴といったものはないと思っているんですけど。
【菅野】いや、寄崎さんは、よく「人気曲はない」とかって言うんですけど、それってユーザーさんによって十人十色、好きな曲が本当にバラけているからであって。人気の曲はとてもたくさんありますし、ユーザーさんにも「このゲームは、音楽で何かやるぞ」って思われていて。それも寄崎さんが音楽でいろんなことをしてくれたからです。たとえば、ゲームの中のアイテムショップで、昼と夜とで音楽が変わるんです。これって正直、意味はない(笑)。だけど寄崎さんは「やったら面白いですよね」って作っちゃうし、ユーザーさんはそれを喜んでくれる。つまり、「音楽を聴かせよう」ではなくて、「楽しんでもらうために音楽を作っている」という感じなんですね。そこがとても大きいと思っています。
――菅野さんの中で、特に印象に残っている曲を挙げるとすると?
【菅野】「目一杯の宛名」という曲があって。
【寄崎】6周年で作った曲ですね。メギド(キャラクター群)の名前を全部入れたユニークなオープニング曲で、6周年を記念して、最初からいるキャラクター72名以降に実装したキャラクターの分もほしいよねということで作った曲なんです。
【菅野】そういった形でユーザーさんに6周年の感謝を伝えたいと考えたんです。ただ、記念曲ということで、もしかしたら賑やかなパーティソングっぽい曲になるかもという不安が少しあって。だけど、音楽の中身には口を出したくない。そう思っていたら、まさに仲間に感謝する主人公の心情を歌った曲が寄崎さんから届いて。驚きましたし、うれしかったですね。
【寄崎】新しいキャラクターたちに宛てた手紙をテーマに書きました。主人公がどうやって感謝を伝えるといいのかを考えて、曲の形式を工夫して。だから僕としても、そこが伝わって良かったと思っています。
【菅野】本当に詞も丁寧に書いてくださって、歌で一人ひとりのキャラクターがさらに広がっていく感覚がありました。
【寄崎】シナリオライターさんが表現している世界はすごく確固たるものがあって、僕の詞は、その世界をちょっとだけ間借りして表現しているもの。ですから自分の主張ではなく、シナリオの中のキャラクターが言いたいこと、それを考えて書くのがすごい楽しいです。とは言え、作曲に比べて、作詞にはすごく時間がかかってしまうんですが(笑)。
――初回限定盤付属の完全オリジナル書き下ろし小説『王の居ぬ間に、探偵ごっこ』も、寄崎さんのアイデアで生まれたそうですね。
【寄崎】『メギド72』が終わってしまうのが寂しくて、メインのライターさんに小説を書いていただきたいと思ったんです。
【菅野】寄崎さんには、ライターさんに小説を書いてもらう算段までつけてもらったり、特典グッズやロゴまで全部、「こうだったらいいな」と積極的に考えてくださって。僕としては採算が合うのか心配にもなりましたけど(笑)、まず第一にファンが喜ぶ物を作る、そのためにどういうベスト盤にしたらいいのかを考えてくれました。だからこそ、前作以上の反響をいただいているのだと思っています。
――これらの音楽を生演奏で味わえるコンサート『メギド72 THE CONCERT -時には戦果の記憶を辿って-』(9月13日、14日)も楽しみですね。
【寄崎】ファンのみなさんには本当に感謝しかなくて、そのうえで今度のコンサートは「同窓会」みたいに、今までのゲームを振り返って、その時々の想い出に浸っていただけるようなものにしたいと考えています。
【菅野】ゲームのオンライン版サービスは終わりましたが、私自身は72周年まで『メギド72』という作品を楽しんでもらいたくて、今年はそれがベストアルバムとコンサートという形で実現できました。寄崎さんが言った「同窓会」って、すごくいいなと思っていて。まずはベストアルバムで想い出を振り返っていただいて、その想いを持ってコンサート会場に集まってみんなで語り合う、そんな場にできたらいいなと思っています。そうやって毎年、何かしら集える場をずっと作っていきたい。だから今回のベストアルバムとコンサートを、次の展開を見つけていく最初の場として、これが新たなスタートになればいいなと思っています。
【ビクターエンタテインメント 小坂純氏コメント】
今回のベストアルバム・プロジェクトは、菅野さんと寄崎さんをはじめ、DeNAさん、メディア・ビジョンさんが日々生み出してこられたものを、ビクターとしては、音楽面でエンターテインメントという形にすることを念頭に取り組んできました。
その中で、「絶望を希望に変えるRPG」というキャッチコピーに代表されるように、『メギド72』の根底に流れている物語、音楽、哲学のメッセージを私自身が受け取りつつ、そのエモい要素をいかに広く伝えていけるか、そこを意識してベストアルバムを制作しました。『メギド72』という作品は完結しましたが、楽曲はこれからも人々の心の中で育っていくものですから、そこに長く、しっかりと栄養を注入していくお手伝いができればと考えています。
これまでは、菅野さん、寄崎さんが舵を取ってきた物語を、今後は私どもビクターも音楽面で一緒に漕がせていただき、『メギド72』の72周年までこのプロジェクトを続けていきたいと思っています。
取材・文:布施雄一郎
【プロフィール】
菅野太郎
メギド72プロデューサー/ディー・エヌ・エー所属
事業プロデューサーとしてDeNAに入社後、モバイルエンタメやECサービスの領域での事業・サービス開発を担当。2010年にプロデューサーとして怪盗ロワイヤルを担当して以降、ゲームプロデューサーとしても活動を始める。DeNAのオリジナルタイトルや協業IPタイトルを多数手掛けてきた。メギド72の7年2ヶ月の運営終了後も「メギド72周年」に向けて様々なプロジェクトを推進している。
寄崎諒
メギド72作曲家/メディア・ビジョン所属
中学生の頃にパンクバンドを聴き音楽に興味を持つ。その後、沖縄の三線やジャズなどさまざまな音楽に影響を受け、大学・大学院ではクラシックや現代音楽を学ぶ。大学時代のゲーム制作をきっかけにゲームの音楽や効果音を作るようになる。スマートフォン向けRPG『マジック&カノン』(メディア・ビジョン株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーで制作。2013年配信開始、現在は配信終了)の音楽を担当したことをきっかけにメディア・ビジョンに所属。
メギド72では、大半の楽曲を作曲。途中から妻の作曲家寄崎知紘も参加しともに制作。メロディのモチーフを展開するのとバイオリンなどの擦弦楽器を使った楽曲が特に得意。
東京音楽大学大学院作曲指揮専攻作曲研究領域修了。
<作品情報>
Best Album『メギド72 -Music Destinations-』
発売日:2025年6月11日
■【VICTOR ONLINE STORE限定セット商品】
初回限定盤+メモリアル懐中時計
(5CD+限定ブックレット+完全オリジナル小説+メモリアル懐中時計)
品番:VIZL-2435+NZY-10297/価格1万9720円(税込)
■【初回限定盤】
5CD+限定ブックレット+完全オリジナル小説
品番:VIZL-2435/価格:7200円(税込)
■【通常盤】
CD
品番:VICL-66066/価格:3072円(税込)
<コンサート情報>
■『メギド72 THE CONCERT -時には戦果の記憶を辿って-』
日時:2025年9月13日、14日(昼公演/夜公演)
会場:一ツ橋ホール(東京)
【ACTOR】
朝霧友陽(バールベリト役)、生田善子(アスモデウス役)、西田望見(プロメテウス役)、バトリ勝悟(ロキ役)
【VOCALIST】
Alico、寄崎知紘
【BAND】
エルプシャフト音楽団(Erbschaft Ensemble)
ando more... ※五十音順、敬称略
2025/06/11





