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ビジネス視点にみる『不適切にもほどがある!』、クドカンが発明した「2+1」の要素 坂口孝則解説【連載】『オリコンエンタメビズ』

 宮藤官九郎は「不適切にもほどがある!」を作った親鸞である。

 TBSのドラマ『不適切にもほどがある!』が話題です。とにかく観てください。

 説明は不要でしょうが、阿部サダヲさん演じる主人公・小川市郎は1986年の中学校教師で野球部の顧問。職員室でタバコは吸うし、野球部の1人がミスすると連帯責任で全員ケツバット。生徒に暴言は当然で、パワハラ、セクハラ発言の常習の“昭和おじさん”です。娘はスケバンで聖子ちゃんカット。

経営コンサルタント・坂口孝則氏

経営コンサルタント・坂口孝則氏

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 そんな主人公は、ひょんなことから令和の現代にタイムスリップ。現代のコンプライアンス全盛時代からすれば、主人公はバスの中でもタバコを吸い、公然で下ネタを語り、暴力的な“ありえないおじさん”。同時に主人公は、行き過ぎた現代のコンプライアンスに違和感を覚えます。このドラマでは、現代から86年にタイムスリップした男子中学生(坂元愛登さん)がむしろ昭和の価値観に惹かれる様子も描かれます。

 ここから、このドラマの発明ともいうべき内容を、ビジネスやマーケティングの「2+1」の観点から読み解いていきます。

【1】全方位マーケティング
 個人的な話です。先月、私の息子(小学2年生)が母親と「すごいドラマを見つけた」と興奮していたのが『GTO』(反町隆史さんのほうです)でした。子どもにしてみると、めちゃくちゃな発言ばかりらしい。しかし、当時も「言いたい事も言えないこんな世の中じゃ」と歌っていたくらい抑制気味だったのです。つまり時代はつねに漂白化に向かっています。

 話を『不適切にもほどがある!』に戻します。脚本は宮藤さんです。原稿執筆時点では第4話まで放送されました。このドラマがうまいのは、当初は86年当時のコンプラもへったくれもない時代を笑うだけかと思いきや、第3話「カワイイって言っちゃダメですか?」、第4話「既読スルーしちゃダメですか?」など、現代の“やりすぎ”そして“いきすぎ”たコンプライアンス社会や相互監視社会の息苦しさにも批判的な目を向けています。

 これは宮藤さんの発明で、一つの事象に対して、過去の無法地帯と現代の過保護地帯の双方から批判的検討を加えながら笑えるようになっています。つまりマーケティングとして40代以上のテレビ世代をターゲティングしており、そこが中心ではあるでしょうが、同時にまさに私の息子のような異世代までをも巻き込む構造をもっています。

 どんな世代にも救いの手を差し伸べます。どんな人間でも救われると、悪人正機を解いた親鸞のように。

【2】ビジネス・プロダクトパーツとしてのミュージカル
 また『不適切にもほどがある!』ではミュージカルが、ほとんど唐突ともいえるほど挿入されています。居酒屋で、テレビ局のスタジオで、携帯ショップで、純喫茶で。そこで突然に登場人物たちがいきいきと本音を歌い上げ、そして華麗にステップを踏みます。

 これは米国ドラマシリーズの『glee/グリー』(2009年放送)的です。さまざまな人種がいる。さまざまな思想をもつ人、バックグラウンドをもつ人がいる。さらにひとそれぞれ外見も違う。家柄や資産も違う。だけどドラマ中のミュージカルシーンで歌を唄うことで自らが解放され、わかり合える。そして観ている私たちもカタルシスから解放される。

 たとえば映画『ラ・ラ・ランド』(2017年公開)でも冒頭のシーンで、多様な考えや夢やバックグラウンドをもっている無数の人たちがミュージカル=音楽と舞踊によって一つになるのは印象的なシーンでした。

 説明するのも野暮ですが、『不適切にもほどがある!』でミュージカルシーンが意味するのは、時代や文化を超えて人々が一緒になれるのは音楽しかない、という意味にほかなりません(しかもこのドラマのエンディングソング「二度寝」がCreepy Nutsによるもので、さらに両A面シングルのもう1つの楽曲「Bling-Bang-Bang-Born」は全世界ヒットチャート1位になっているとは、なんとできすぎた話でしょうか)。

 つまり、ビジネスプロダクトのパーツとして、世代間をつなげるためにミュージカルシーンは必定だったように感じるのです(ところで親鸞も人々の心を一つにするために田植え歌を作ったのは有名です)。

 そして最後の一つです。

 さらに宮藤さんがこのドラマを書く必然がありました。ご自身の昔のドラマも、今見たら“ひでえ”表現がたくさんあります。自身の過去を、自ら暴く鎮魂歌でもあるわけです。

 現在、芸能人が過去の発言や言動を掘り起こされて炎上する状況が続いています。もちろん映画やドラマ、小説、音楽といったコンテンツは不適切な内容があっても、フィクションですから、問題にはなっていません。しかし、それをあえて自ら掘り起こして相対化してみせた。ここに宮藤さんの先進さとともに、覚悟も感じるのです。

 何より、このドラマは観た人が、他人に何かを言いたい。そんなひっかかりにあふれています。

 宮藤官九郎は「不適切にもほどがある!」を作った親鸞である。

■プロフィール

坂口孝則(さかぐち・たかのり)

1978年生まれ。福岡放送『めんたいワイド』(隔週)、TBSラジオ『日本リアライズpresents 篠田麻里子のGOOD LIFE LAB!』など出演。日本テレビ系『スッキリ』木曜コメンテーターも担当していた。趣味はメタルのライブに行くことで、音楽をこよなく愛する調達・購買コンサルタント、講演家。未来調達研究所株式会社所属。大阪大学経済学部卒業後、電気メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書は『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『未来の稼ぎ方』『製造業の現場バイヤーが教える 調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』など。直近で『買い負ける日本』(幻冬舎刊)を発売した。

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