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4日間で4万人動員 エンタメ目線でアート事業を推進するエイベックスの「確かな手応え」

 今年10月6日から9日にかけて東京・天王洲運河エリア一帯で展開されたミックスカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」。アートを軸に音楽やファッション、ライフスタイルなど相互作用の高いカルチャーを集め、自然にアートに触れる機会を作るというユニークなアートフェスティバルだ。エイベックス・グループで多様なクリエイターとクリエイティビティをエンパワーする、エイベックス・クリエイター・エージェンシーが中心となって開催され、4 日間で4万人を集めた。音楽やアニメ・映像作品だけでなく、アート領域を担うアーティストや作品も「エイベックスが共創すべき多様な才能」と捉え、アート事業を加速させている。

今年10月に開催 ミックスカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」

今年10月に開催 ミックスカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」

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■音楽に比べてマネタイズポイントが少ないアート 影響力の大きさと置かれた環境のギャップに衝撃

 “エイベックスがアート事業を展開”と聞き、異業種への参入を思い浮かべる人もいるだろう。しかし、1億総クリエイター時代と言われる今、新人開発・育成やアーティストのマネジメント、エージェント業務を長らく行ってきた同社にとって、音楽に隣接する領域に目を向けるのは自然の成り行きであったようだ。ただ、なぜ“アート事業”であったのか。

 アートプロジェクト「MEET YOUR ART」を立ち上げた、エイベックス・クリエイター・エージェンシー代表取締役社長・加藤信介氏は、「アート界のアーティストをエンパワーメントしたいと思った」と、その動機を説明する。アートから得るインスピレーションは、1人ひとりのマインドや行動の変容につながり、それが引いては社会や価値観を変えていく。そんな大きな影響力を持つにもかかわらず、国内におけるアーティスト、なかでも現代アートのアーティストを取り巻く環境は厳しい現状にある。

「長らく音楽事業に携わっていると、自然と音楽に隣接するアートやファッションなどの状況も分かるようになります。そういった中で、アートは音楽に比べてマネタイズポイントが圧倒的に少ないことに気づきました。音楽に当たり前にあるものがアート業界にはありません。例えば、音楽にはフェスやライブといった“ハレ”の日(非日常)もあれば、音楽を所有して日常(“ケ”)で聴くという両方の楽しみ方があります。一方のアートは、例えば“〇〇展”に日本人はこぞって出かけますが、美術館や展示会に出かける“ハレ”はあっても、日常に戻ってアートを楽しんでいる人は少ない。音楽にあってアートにないのはどうしてなのだろう、そこが出発点でした」(加藤氏)

MEET YOUR ART 総合プロデューサー・加藤信介氏

MEET YOUR ART 総合プロデューサー・加藤信介氏

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 国内で取引されるアート産業の市場は、経済産業省「アートと経済社会について考える研究会の報告書」によると21年で2363億円と推計されている。そのうち、現代アートの市場規模は400億円程度。世界のアート市場7兆円に占める日本の割合は4%に満たないことからも、いかに国内のアート市場が小さいことがわかるだろう。それが、作家の活動の継続を困難なものとしている。

 欧米ではアートが生活の中に入り込み、誰でも気軽に親しめる環境にある。これは長年の文化によって築かれたもので、アートを取り巻く環境も日本とは圧倒的な違いがある。しかし、少しずつでもアートに触れる機会を多く作り、日常との距離感を縮めることができれば、アーティストを取り巻く環境は変わっていくに違いない。加藤氏はそこに可能性を見出した。

「そこで、“新しいアートファンを増やし、日常にアートを浸透させる”ことにチャレンジしようと考えたのです。エイベックスが音楽業界で培ったノウハウが活かせますし、事業としての成長性はもちろんのこと、面白くなりそうな予感がありました」(加藤氏)

YouTubeで森山未來をMCとするアート専門番組『MEET YOUR ART』展開

YouTubeで森山未來をMCとするアート専門番組『MEET YOUR ART』展開

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■若手作家の活動支援のためのプラットフォームづくり「MEET YOUR ART」

 アート業界には若手アーティストを紹介するメディアやイベントが少ないことに着目し、コロナ禍の20年12月、YouTubeに俳優・ダンサーとして活躍する森山未來をMCとするアート専門番組『MEET YOUR ART』を立ち上げた。アートをより身近に感じてもらおうと、アーティストのインタビューや現代アートの知識を幅広く紹介して、新規層の拡大に努めた。これまで音楽アーティストの多様なマネタイズ機会を創出し、ファンとのコミュニケーションを強化するファンダム形成を行ってきたエイベックスには、そのノウハウがある。加えて、購入体験する場も提供しようと、番組で紹介したアーティストの作品が購入できるネットショップもオープンした。

「若手アーティストの活動支援のためのプラットフォームを作りたいと考えました。新進気鋭のアーティストでアート業界の中ではすごく注目されていても、インスタのフォロワー数は数百というのはよくあるケースで、もったいないなぁと思っていましたから。メディアを通してアーティストの認知や活動の場を広げる取り組みを愚直に続けることで、アート業界に対して我々の貢献の形をきちんと提示したい、という思いもありました」(加藤氏)

 そういった地道な取り組みによって、段階的にアート業界と信頼関係を構築していったことが、「MEET YOUR ART FESTIVAL」開催につながっていった。

キュレーター・山峰潤也氏(撮影:松岡一哲)

キュレーター・山峰潤也氏(撮影:松岡一哲)

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 アート業界の中にも、同じ問題意識を抱えていたキュレーターがいた。それが山峰潤也氏だ。公立美術館で長く学芸員として活躍していたが、20年に職を辞してアートスペース「ANB Tokyo」の運営に携わっていた。美術館というある意味閉じた世界の中での活動に限界を感じており、「もっと多くの人が日常の中でアートを感じられるような環境を作っていきたい」という加藤氏の想いに共鳴したという。

「アートには世界の共通言語としてのダイナミズムがありますが、日本ではそのポテンシャルが発揮されていないと思っていました。そこで、若手層やこれからの時代を作っていく人たちにアートの価値を発信するため、ANB Tokyo を始めたのです。そんな時、エイベックスさんから“一緒にやらないか”とお誘いを受けました。『MEET YOUR ART』の活動を見ていて、アートに真剣に取り組むエイベックスさんの姿や、メディアとして力がついていく様子に、何かパラダイムの変化が起こせるのではないか。今の状況に一石を投じられるのではないかと思ったのです」(山峰氏)

■「MEET YOUR ART FESTIVAL」アートエキシビジョンとアートフェアの共存の意義

 22年5月には、「MEET YOUR ART」によるリアルイベントとして、「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」が恵比寿ガーデンプレイスで開催された。音楽・食・ファッション・ライフスタイルなど、アートと影響し合うジャンルを集め、アートフェア、ライブ、ショップなどの多彩な催しが3日間にわたって繰り広げられ、初回ながら3万人を動員した。そして、このユニークなフェスティバルで大きな注目を集めたのが、山峰氏が手掛けたアートエキシビジョン(展覧会)「The Voice of No Mans Land」と、MEET YOUR ARTが企画したアートフェア(作品の展示販売)「“New Soil” presented by MEET YOUR ART PICK UP ARTIST and coconala」だった。

11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」

11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」

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 山峰氏によると、キュレーションされたアート・エキシビションとアートフェアが共存するイベントは非常に珍しいそうで、アートフェアで1つひとつのアートに出合う素晴らしさはもちろんあるが、それら作品が1つのテーマのもとキュレーションされることで、より強いメッセージが立ち上る。この2つが共存する場であるからこそ、そういったアートの奥行きの深さを発信するアートエキジビジョンの重要性が際立つのだという。

「第1回目は、コロナ禍が明けて、自然と人間の関係性をどう捉え直すのか、コロナ禍という共通体験をした後の社会がどう変化するのかを考え、 “New Soil”をテーマにしました。2回目となる今回は、今が変化の時、“変えよう”という号令の意味も込めて「Time to Change」に。それに紐づき、僕がキュレーションを行ったアートエキシビジョン「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」では、現代を取り巻く様々な問題を扱う11名のアーティストを1つの場所に集めました」(山峰氏)

 あらゆる物事が複雑に絡み合う今、1つの課題を解決するには多角的な視座を持つことが必要である、そう考えた山峰氏は、これからの「変革」についてともに考える場を作った。参加者が作品を制作した背景や動機を作家本人からリアルタイムで聞くことができる空間は非常に刺激的であり、アートを身近に感じさせてくれるものだった。同時に、そういった体験はアーティストにとってもプラスになったようだ。

「参加アーティストたちが、とても喜んでくれていたのが嬉しかったですね。今まで出会ったことない、異なるネットワークや知見を持ったアーティスト同士が、1つのテーマのもとで共存し、共鳴し合う場を提供できたことは、非常に意味のあることだったと思います」(山峰氏)

MEET YOUR ARTが企画したアートフェア

MEET YOUR ARTが企画したアートフェア

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■コンセプトはブレることなく骨太に 影響力増す「MEET YOUR ART」プロジェクト

 今回の「MEET YOUR ART FESTIVAL」には100名を超えるアーティストが参加した。これは前回の参加数の約3倍となる。「MEET YOUR ART」プロジェクトが、アーティストたちからも支持されている証左と言えるだろう。YouTubeチャンネル『MEET YOUR ART』の登録者は、開設から3年で約6万人に膨らみ、アートメディアとしての基盤を固めつつある。フェスティバルの動員数は1万人増となり、同メディアや次回のフェスティバルに関する企業サポーターの問い合わせも増えている。新たなユーザーを作っていくというコンセプトは、スタート当初からブレることなく、どんどん骨太な事業になっている、そう加藤氏は確信している。

 最近では、大日本印刷(DNP)グループのDNPメディア・アートと連携し、「MEET YOUR ART」がキュレーションした現代アートのサブスクリプションサービス「CONTEMPORARY(コンテンポラリー)」の提供を開始された。企業がアート作品を独自に選び定期的に購入するのは、適切な購入ルートや作家の選定などのノウハウが必要なため非常に困難となる。そのため、企業に向けて高精細複製画による現代アートを定期的に提供するサービスを展開するというもので、オフィス等に最新のアートを設置し、社員や顧客にアート体験を提供できるだけでなく、若手アーティストの支援にも貢献できる試みになっている。

現代アートのサブスクリプション(定期・継続型)サービス「CONTEMPORARY(コンテンポラリー)」

現代アートのサブスクリプション(定期・継続型)サービス「CONTEMPORARY(コンテンポラリー)」

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 これも1988年の創業以来、常識にとらわれない柔軟な発想によって事業を推進し、エンターテインメント業界に新風を吹き込んできたエイベックス・グループならではの取組みと言える。ユニークなアート界への貢献の形で、「MEET YOUR ART」プロジェクトが今後どのような成長を遂げ、アート業界、そしてユーザーに価値貢献していくのか、ますます楽しみになってきた。

文・葛城博子

■加藤 信介氏プロフィール
エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社長。2004年エイベックスへ入社。入社後は音楽事業に長く携わり、16年に社長室へ異動。社長室部長として、会社の構造改革や新規プロジェクトに参画。17年よりグループ執行役員として、戦略人事、グループ広報、マーケティングアナリティクス、デジタルR&Dを担当。18年にCEO直轄本部にて新事業開発・戦略投資機能を立ち上げ、20年に同領域を子会社化(エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社)。22年にエイベックス・ビジネス・ディベロップメントで立ち上げた複数の事業と子会社を統合し、クリエイター領域を事業開発領域の中核に据え、エイベックス・クリエイター・エージェンシーを設立。現在は同社で「MEET YOUR ART」と、バーチャル・エイベックス株式会社を軸にアート事業「MEET YOUR ART」を推進。MEET YOUR ART総合プロデューサー。

■山峰潤也氏プロフィール
キュレーター/株式会社NYAW代表取締役/一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表。東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターにて、キュレーターとして勤務したのちANB Tokyoの企画運営に携わる。主な展覧会に、「ハロー・ワールドポスト・ヒューマン時代に向けて」、「霧の抵抗中谷芙二子」(水戸芸術館)や「The world began without the human race and it willend without it.」(国立台湾美術館)など。アートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL “New Soil”」や文化庁文化経済戦略推進事業など文化・アート関連事業の企画やコンサルのほか、雑誌やテレビなどのアート番組や特集の監修なども行う。また執筆、講演、審査委員など多数。

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  • 今年10月に開催 ミックスカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」
  • 「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」ロゴ
  • MEET YOUR ART 総合プロデューサー・加藤信介氏
  • キュレーター・山峰潤也氏(撮影:松岡一哲)
  • YouTubeで森山未來をMCとするアート専門番組『MEET YOUR ART』展開
  • 11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」
  • MEET YOUR ARTが企画したアートフェア
  • 会場となった天王洲運河周辺の賑わい ライブパフォーマンスやトークセッションも開催
  • 11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」
  • 11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」
  • 11名の多彩なアーティストによる展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」
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  • 現代アートのサブスクリプション(定期・継続型)サービス「CONTEMPORARY(コンテンポラリー)」
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