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NHKホールからの有観客生放送で再認識 『うたコン』の存在意義

 耐震工事で21年3月から休館していた「NHKホール」が今年6月に工事を終え、7月から番組収録や公演を再開した。その皮切りとして生放送を行ったのが、NHK音楽番組『うたコン』だ。前身の『NHK歌謡コンサート』時代から約30年にわたり、同ホールをホームグラウンドとして、多彩な音楽を視聴者に届けてきた。1年4ヶ月ぶりに待望のNHKホールからの放送がスタートしたタイミングで、同番組のチーフプロデューサーに就任した篠原伸介氏に、番組への想いや、音楽番組制作におけるこだわりを聞いた。

1年4ヶ月ぶりに待望のNHKホールからの放送が再開した『うたコン』

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■1年4ヶ月ぶりにホームグラウンドでフルキャパシティでの生放送を実現

 開口一番、「やはりNHKホールは落ち着きますね」と笑みをたたえる篠原伸介氏は、かつて『うたコン』の立ち上げ時に番組を担当している。久々の古巣復帰となった7月5日の放送回では、新型コロナウイルスが下火になっていたこともあり、フルキャパシティでの放送が実現したこともあり、「その景色を見た時は感慨もひとしおだった」と振り返る。

「本来であれば歓声を上げたいところでしょうが、お客様には拍手や手拍子での参加をお願いしました。それでも有観客と無観客ではアーティストのパフォーマンスというか、テンションは大きく変わります。それはMCの谷原章介さんも同じだと思います。満員のお客様を前にアーティストが生歌唱するのは、番組の構成要素の1つなので、それをホームグラウンドのNHKホールで久しぶりに実現できたことは本当に嬉しかったですね」(NHK『うたコン』チーフプロデューサー・篠原伸介氏/以下同)

NHK『うたコン』チーフプロデューサー・篠原伸介氏

NHK『うたコン』チーフプロデューサー・篠原伸介氏

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 ホールの工事は耐震強化が主であったため、出演者に「どこが変わったんですか?」と聞かれるほど、見た目はあまり変わっていないという。しかし、「それがかえって良かった」と篠原氏は考えている。

「細かい部分でいえば、客席後方の壁の材質や床の張り替えも行っているのですが、一見すると気がつかないくらいなんです。ただ『紅白歌合戦』の会場としても半世紀の歴史があるNHKホールは、アメリカで言えば音楽の殿堂・カーネギーホールに匹敵するくらいの空間だと思うんです。ですから、長年、音楽番組に携わってきた人間としてはある意味、全面改装されないで本当に良かったと思っています。音の響きも含めて、まるで変わってしまったら寂しいですからね(笑)」

■娯楽性を重視 心の栄養、明日の活力となる番組作り

 篠原氏がNHKに入局したのは97年。地方勤務を経て01年に東京勤務となってからは、音楽番組一筋でキャリアを積んできた。途中、バラエティなど他ジャンルに移籍することが多いNHKにおいて珍しいケースなのだという。『ふたりのビッグショー』をはじめ、『うたコン』前身の『歌謡コンサート』時代から同番組に携わり、12年には赴任していた名古屋局で本格的なライブ音楽番組『UTA-TUBE』の立ち上げに関わっている。『SONGS』も長く担当しており、今年6月まで2年間は『SONGS』のチーフプロデューサーを務めた。

「生まれは山梨ですが学生時代は関西で過ごしました。子どもの頃からテレビの音楽番組はよく観ていましたが、関西の番組には東京にはない面白さがあって、そこでテレビの番組制作に興味を持ったことが、テレビ局を志望するきっかけとなりました。テレビの音楽番組は、アーティストをはじめ、ミュージシャン、マネージャー、レコード会社のスタッフ、メイク、スタイリスト、番組サイドでいえば、司会者、スタッフ、カメラマン、音声、照明、美術など、ありとあらゆるジャンルのプロたちが総力を結集する贅沢な空間です。日々、すごく尊い現場だと感じながら、番組作りにあたっています。音楽番組はトラディショナルな文化の1つだと思っていますので、ある時代をもって役割を終えるということはないし、伝承していかなければならないものだとも考えています」

 そんな篠原氏が大切にしているのは、テレビの音楽番組ならではの“娯楽性”だという。

「『歌謡コンサート』の時代から毎回テーマ設定を行ってきましたが、あまりコンセプチュアルになりすぎるのは『うたコン』にはそぐわないのではないか、それよりは娯楽であることを大切にしたいと考えています。コロナ禍の初期、音楽は不要不急と言われましたが、不要では全くありません。音楽は、我々が生きていくうえでの、大事な心の栄養とでも言えばいいでしょうか、そんな役割があると思っていますので、観て楽しく、観終わった後は『いろいろ大変だけど、明日もまた頑張ろう』と思ってもらえるような番組にしたいと心がけています」

 そして、生放送・生歌唱・生演奏が特長の『うたコン』だからこそ、その娯楽性が最大限発揮できると考えている。

「お客様を前にアーティストは渾身の力で1曲を披露します。その緊張感は、観客はもちろんのことスタッフにも伝播します。会場全体に広がるその空気感、生歌唱による熱気を求めて、リアルタイムでテレビの前に集まってくる人々がいるのが『うたコン』です。ハードの発達によって自分の好きな時間に観たいコンテンツを楽しめる時代ではありますが、スポーツでも音楽でも生のコンテンツのわくわく感は格別です。それもあって、テレビの生番組の内容がよくSNSでトレンド入りしているのだと思います。共通体験というか生の現場に立ち会うバリューはあると思っていますので、まだまだ音楽番組にできることはあると考えています」

■曲と曲のつなぎ目をどう見せていくか 音楽番組演出のこだわり

 長らくNHKの音楽番組に携わってきた篠原氏だが、演出面において、次のようなこだわりを持っているという。

生放送・生歌唱・生演奏を行う『うたコン』

生放送・生歌唱・生演奏を行う『うたコン』

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「曲を続けてお届けすることが多いので、曲と曲のつなぎ目をどう見せていくかはとても大事にしています。どんなMCを入れるのが効果的か、アーティストをどこから登場させるのか、舞台の袖からなのか、不意を打って客席からなのかなど、頭をひねります。当然のことながら、アーティストが作った楽曲に対して、僕らが手を加えることはできません。音楽が主役の番組で制作陣が意識しなければならないのは、いかにアーティストに気持ちよく歌っていただき、お客様に楽しんで観ていただけるか。カッコいい照明や演出が入ればアーティストもよりパフォーマンスに気合が入るでしょうし、観客も盛り上がるでしょう。アーティストが120%の力を出せる場を作り、素晴らしい音楽をどう見せていくかに頭を悩ませることが僕らの仕事だし、演出の醍醐味だと考えています」

 また、番組で取り上げる音楽ジャンルが多岐にわたっているのも大きな魅力だ。どんなジャンルでも、どんなスタイルでパフォーマンスしても、それらを許容できる箱の大きさが強みと言えるだろう。7月12日の放送回では、ピアニストの清塚信也北野武監督の映画『菊次郎の夏』のテーマ曲「Summer」を演奏している。

「今、音楽シーンは多岐にわたっていますので、ジャンルを限定することなく、センサーをあちこちに広げていきたいと思います」

 コロナ禍を通して、観客を入れた生放送・生歌唱・生演奏を行う『うたコン』の有難み、そして存在意義を、アーティストだけでなく制作陣も再認識したと語る篠原氏。番組の可能性は無限大、「まだやれていないことはたくさんある」と考えている。NHKホールに待望の観客を迎え入れて本来の姿に戻った番組が、今後どんな広がりを見せていくのか、その進展を楽しみに見守りたい。

文・河上いつ子
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