2022年のイチ押し音楽作品のラインアップを紹介する「PONY CANYON“MUSIC POST 2022”」が1月18日にオンライン開催された。コロナ禍でスタートしたこの取り組みは、昨年に続き2回目。今の音楽シーンを強く意識したバラエティに富んだラインナップとなっていたのが目を引いた。
■ミッションは新たなアーティスト育成とデジタルビジネス強化
「この2年でポニーキャニオンのデジタルシフトが進み、社員のデジタルリテラシーは確実に向上しています。今回のラインナップはその表れだと思います」と語るのは、マーケティングクリエイティブ本部執行役員本部長の今井一成氏。ビクターエンタテインメントで、アーティスト宣伝とデジタルビジネスに携わり、20年4月、ポニーキャニオンに移籍。大きなストリーミング配信実績を打ち出しているOfficial髭男dismに続く新たなアーティスト育成、並びにデジタルビジネスの強化を図るという会社の意向を受け、その改革に取り組んでいる。
「1年目はデジタル戦略アドバイザーといった立ち位置で、デジタルチームの編成、制作の編成スケジュールの見直しなどコンサル的な目線でサポートしていました。5月からは、私が講師となり、デジタルビジネスに関する社内オンラインセミナーを全4回行うことになりました。強制ではなかったので参加者はそう多くないだろうと思っていたら、200名を優に超えていて、驚くと同時にスタッフのデジタルリテラシーを高めたいという熱意を感じました。優秀で真面目、そして、フラットな感覚を持っているスタッフが多いので、3年先を見据えて社内の体制を変えて、デジタル戦略に最適なシフトを構築していけば、さらに強いチームになれると思いました」(今井一成氏/以下同)
そこでまず提言したのは、「組織の再編」、「個のスキルアップ」だった。
「営業は本来、別の仕事として組織されがちですが、デジタルマーケットにおいては宣伝チームとデジタルの営業が一体となった方がいい。ストリーミングデータの動きを見ながらプロモーション施策が打てますし、情報共有のスピードが重要ですから、メディアプロモーション、タイアップや広報も一緒に動いたほうが、機動性を発揮できます。そんな提案を続けていたら、昨年6月の組織再編でそれら意見が取り入れられた『マーケティングクリエイティブ本部』が新設され、私がその部署の本部長を務めることになったのです」
「当社の強みの1つはアニメ作品のタイアップが連携できること。ストリーミングは全世界がマーケットですが、なんといってもアニメ関連作のリーチ度が高い。デジタルヒットにつなげるためには、アニメのタイアップはとても重要なので、マーケティングクリエイティブ本部内にアニメの制作本部と連携する専任スタッフ、兼務スタッフを数名配置しています」
■デジタルビジネスで強いチームになるための「組織再編」「個のスキルアップ」
デジタルビジネスに携わるようになってから、パッケージとノンパッケージは別物と強く認識した今井氏は、会社の構造がCDパッケージ中心の体制では、デジタルビジネスで戦えないことを痛感していた。新体制にはそういった強い思いが込められている。このように、デジタルマーケットに最適なマーケティング手法を編み出すために、これまで別々に動いていた部署を1つ屋根の下に置く一方で、各デジタルプラットフォームに楽曲のデリバリーを行うデジタル管理部門は切り離した。
「デリバリーを外部の専門サービスに頼むのは簡単ですが、当社はデリバリーシステム構築の道を選びました。デジタルセールスを強くするためには、安定的にデジタルデリバリーを行う“デジタル管理グループ”が肝となります。この部署の業務は本当に煩雑なので、ついついデジタル営業スタッフの業務と侵食し合ってしまい、本来ならマーケティング戦略やセールスに当てるべきスタッフの時間を減らしてしまいがちです。そうならないように、お互いの業務領域を明確にすべく、デジタル管理グループを独立した部署にしたほうがいいと提案しました」
組織変革と同時に取り組んだのは、スタッフの「個のスキルアップ」。デジタルビジネスの強化には、スタッフ全員のデジタルスキルの向上が不可欠、という考えのもと、同社では、昨年9月より毎週火曜の朝9時から朝活勉強会「MusicBiz朝活50」(50分)を行っている。役員、管理職から現場スタッフまで、毎回200人以上が参加する盛況ぶりだ。
こういった社員の熱の高まりは、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」のグローバルヒットの影響が大きいという。同社では20年10月より、70年代〜90年代の歌謡曲、ロック、アニソンなど、様々なジャンルから厳選した楽曲を、ストリーミングサービスのプレイリストで公開する『おとラボ』シリーズをスタート。キュレーターに音楽マーケッター臼井孝氏を迎え、当時の音楽市場分析を織り交ぜた通な選曲をウリとしている。その第1弾「『おとラボ』・名曲発掘!一人で聴きたい昭和女性ポップス・」の3曲目に「真夜中のドア」が入っていた。
「ベテランスタッフがいち早く海外での反応に気づいたんです。そこで急いでそのニュース掲載を仕込んだのですが、そのタイミングでTikTokでも公式音源を使えるようにアップしたところ、これがバズったんです。日本語のカタログでも世界でヒットすること、そしてスタッフがその数字の凄さを実感できたこと。さらには、このヒットで各国のリスナーの属性など様々なデータを収集できたことは、その後の展開でとても大きなポイントになりました」
■社内の空気を変えた松原みき「真夜中のドア〜stay with me」グローバルヒット
以降、同時多発的に様々なスタッフが動き始め、「真夜中のドア」に続くヒットを作ろうという気運が高まっていった。例えばD-51「BRAND NEW WORLD」「NO MORE CRY」の海外での再生数の増加、チェッカーズのYouTubeチャンネル開設もその延長線上にあると今井氏は言う。
「そう簡単にあの規模のヒットは生まれません。それでも、ストリーミングではカタログも大事なんだという意識が社内に浸透したことで動きが出てきました。D-51の楽曲の再生数は海外比率が67%と非常に高く、追撃プロモーションできる事はないかというブレストミーティングも行われるようになりました。ストリーミングで大事なのは、ヒットの兆候を見逃さないこと。当社では、ストリーミングデータの分析ツールを全社員が使えるようにしています。理由は数字の監視役は人数が多いほうがいいからです。いろんな視点で見ることができ、小さな動きも見逃さず、その事実を共有する事が今はとても重要です」
未配信コンテンツの整備に乗り出す動きも加速した。昨年9月には、80年代に絶大な人気を誇り、今年解散から30年を迎えるチェッカーズのYouTube公式チャンネルが開設された。「Song for U.S.A.」ほか、8曲のシングルのミュージックビデオの権利処理がクリアになったことが契機となり、開設とともにチャンネル登録者数は4万5000人に達した。
手ごたえを感じている今井氏は、今後強化したい取り組みに、データマーケティングと海外戦略を挙げる。また、ストリーミングを軸としたNFT事業など、周辺事業を強化する新規ビジネスへの取り組みも急務と考え、いくつかのワーキンググループやプロジェクトもスタートしているという。
「ユーザーファーストの時代です。何がヒットするかわからないから、いろんなチャンスがあると考えて、アーティストロースターも考えていかなければなりません。アーティスト育成も、時間をかけるものからスピード感が優先するものまでバリエーションの幅が求められています。それはアーティストに限らず、音楽業界で働く人材にも同様のことが言えるのかもしれません。いろんな特性や特技を持っている人が入ってきてほしいですね」
来年度には、新たな取り組みや期待の新人アーティストの発表もあると次なる展開を匂わせる今井氏。データマーケティングから今後どんなヒットが生まれるのかに期待したい。
文・カツラギヒロコ
■ミッションは新たなアーティスト育成とデジタルビジネス強化
「この2年でポニーキャニオンのデジタルシフトが進み、社員のデジタルリテラシーは確実に向上しています。今回のラインナップはその表れだと思います」と語るのは、マーケティングクリエイティブ本部執行役員本部長の今井一成氏。ビクターエンタテインメントで、アーティスト宣伝とデジタルビジネスに携わり、20年4月、ポニーキャニオンに移籍。大きなストリーミング配信実績を打ち出しているOfficial髭男dismに続く新たなアーティスト育成、並びにデジタルビジネスの強化を図るという会社の意向を受け、その改革に取り組んでいる。
「1年目はデジタル戦略アドバイザーといった立ち位置で、デジタルチームの編成、制作の編成スケジュールの見直しなどコンサル的な目線でサポートしていました。5月からは、私が講師となり、デジタルビジネスに関する社内オンラインセミナーを全4回行うことになりました。強制ではなかったので参加者はそう多くないだろうと思っていたら、200名を優に超えていて、驚くと同時にスタッフのデジタルリテラシーを高めたいという熱意を感じました。優秀で真面目、そして、フラットな感覚を持っているスタッフが多いので、3年先を見据えて社内の体制を変えて、デジタル戦略に最適なシフトを構築していけば、さらに強いチームになれると思いました」(今井一成氏/以下同)
「営業は本来、別の仕事として組織されがちですが、デジタルマーケットにおいては宣伝チームとデジタルの営業が一体となった方がいい。ストリーミングデータの動きを見ながらプロモーション施策が打てますし、情報共有のスピードが重要ですから、メディアプロモーション、タイアップや広報も一緒に動いたほうが、機動性を発揮できます。そんな提案を続けていたら、昨年6月の組織再編でそれら意見が取り入れられた『マーケティングクリエイティブ本部』が新設され、私がその部署の本部長を務めることになったのです」
「当社の強みの1つはアニメ作品のタイアップが連携できること。ストリーミングは全世界がマーケットですが、なんといってもアニメ関連作のリーチ度が高い。デジタルヒットにつなげるためには、アニメのタイアップはとても重要なので、マーケティングクリエイティブ本部内にアニメの制作本部と連携する専任スタッフ、兼務スタッフを数名配置しています」
■デジタルビジネスで強いチームになるための「組織再編」「個のスキルアップ」
デジタルビジネスに携わるようになってから、パッケージとノンパッケージは別物と強く認識した今井氏は、会社の構造がCDパッケージ中心の体制では、デジタルビジネスで戦えないことを痛感していた。新体制にはそういった強い思いが込められている。このように、デジタルマーケットに最適なマーケティング手法を編み出すために、これまで別々に動いていた部署を1つ屋根の下に置く一方で、各デジタルプラットフォームに楽曲のデリバリーを行うデジタル管理部門は切り離した。
「デリバリーを外部の専門サービスに頼むのは簡単ですが、当社はデリバリーシステム構築の道を選びました。デジタルセールスを強くするためには、安定的にデジタルデリバリーを行う“デジタル管理グループ”が肝となります。この部署の業務は本当に煩雑なので、ついついデジタル営業スタッフの業務と侵食し合ってしまい、本来ならマーケティング戦略やセールスに当てるべきスタッフの時間を減らしてしまいがちです。そうならないように、お互いの業務領域を明確にすべく、デジタル管理グループを独立した部署にしたほうがいいと提案しました」
組織変革と同時に取り組んだのは、スタッフの「個のスキルアップ」。デジタルビジネスの強化には、スタッフ全員のデジタルスキルの向上が不可欠、という考えのもと、同社では、昨年9月より毎週火曜の朝9時から朝活勉強会「MusicBiz朝活50」(50分)を行っている。役員、管理職から現場スタッフまで、毎回200人以上が参加する盛況ぶりだ。
こういった社員の熱の高まりは、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」のグローバルヒットの影響が大きいという。同社では20年10月より、70年代〜90年代の歌謡曲、ロック、アニソンなど、様々なジャンルから厳選した楽曲を、ストリーミングサービスのプレイリストで公開する『おとラボ』シリーズをスタート。キュレーターに音楽マーケッター臼井孝氏を迎え、当時の音楽市場分析を織り交ぜた通な選曲をウリとしている。その第1弾「『おとラボ』・名曲発掘!一人で聴きたい昭和女性ポップス・」の3曲目に「真夜中のドア」が入っていた。
「ベテランスタッフがいち早く海外での反応に気づいたんです。そこで急いでそのニュース掲載を仕込んだのですが、そのタイミングでTikTokでも公式音源を使えるようにアップしたところ、これがバズったんです。日本語のカタログでも世界でヒットすること、そしてスタッフがその数字の凄さを実感できたこと。さらには、このヒットで各国のリスナーの属性など様々なデータを収集できたことは、その後の展開でとても大きなポイントになりました」
■社内の空気を変えた松原みき「真夜中のドア〜stay with me」グローバルヒット
以降、同時多発的に様々なスタッフが動き始め、「真夜中のドア」に続くヒットを作ろうという気運が高まっていった。例えばD-51「BRAND NEW WORLD」「NO MORE CRY」の海外での再生数の増加、チェッカーズのYouTubeチャンネル開設もその延長線上にあると今井氏は言う。
「そう簡単にあの規模のヒットは生まれません。それでも、ストリーミングではカタログも大事なんだという意識が社内に浸透したことで動きが出てきました。D-51の楽曲の再生数は海外比率が67%と非常に高く、追撃プロモーションできる事はないかというブレストミーティングも行われるようになりました。ストリーミングで大事なのは、ヒットの兆候を見逃さないこと。当社では、ストリーミングデータの分析ツールを全社員が使えるようにしています。理由は数字の監視役は人数が多いほうがいいからです。いろんな視点で見ることができ、小さな動きも見逃さず、その事実を共有する事が今はとても重要です」
未配信コンテンツの整備に乗り出す動きも加速した。昨年9月には、80年代に絶大な人気を誇り、今年解散から30年を迎えるチェッカーズのYouTube公式チャンネルが開設された。「Song for U.S.A.」ほか、8曲のシングルのミュージックビデオの権利処理がクリアになったことが契機となり、開設とともにチャンネル登録者数は4万5000人に達した。
手ごたえを感じている今井氏は、今後強化したい取り組みに、データマーケティングと海外戦略を挙げる。また、ストリーミングを軸としたNFT事業など、周辺事業を強化する新規ビジネスへの取り組みも急務と考え、いくつかのワーキンググループやプロジェクトもスタートしているという。
「ユーザーファーストの時代です。何がヒットするかわからないから、いろんなチャンスがあると考えて、アーティストロースターも考えていかなければなりません。アーティスト育成も、時間をかけるものからスピード感が優先するものまでバリエーションの幅が求められています。それはアーティストに限らず、音楽業界で働く人材にも同様のことが言えるのかもしれません。いろんな特性や特技を持っている人が入ってきてほしいですね」
来年度には、新たな取り組みや期待の新人アーティストの発表もあると次なる展開を匂わせる今井氏。データマーケティングから今後どんなヒットが生まれるのかに期待したい。
文・カツラギヒロコ
2022/02/14




