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ブレイク予測の難題に挑み続ける『バズリズム02』のプレゼンス

 バカリズムがMCを務める日本テレビの音楽番組『バズリズム02』。その新春恒例人気企画『今年コレがバズるぞ』ランキングは、その年にブレイクする可能性が高いアーティストを順位で紹介することから、音楽ファンはもちろん、業界関係者からも熱い注目を集めている。インターネットカルチャーがブレイクに大いに影響し、これまでにない形でヒットが生まれる昨今は、年初に1年の音楽シーンを予測するのは至難の業ではないかと思われる。同番組の取り組みについて、プロデューサーの前田直敬氏に聞いた。

日本テレビの音楽番組『バズリズム02』ロゴ

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■ランキングに表れたミュージックシーンの“今”

 スタートから6年、音楽関係者300人弱へのアンケート調査からランキングを作成する新春企画『今年コレがバズるぞベスト10』。昨年発表した2021年のランキングの大きな特徴だったのは、それまで過半数を占めていたバンドが減少。その分、男女ソロ、男女アイドル、ユニット、グループが増え、実にバラエティ豊かなアーティストがエントリーしたことだった。調査した2020年といえば、新型コロナウイルス感染拡大によってリアルライブの実施が困難な状況になり、ライブ活動を中心に据えるバンドは大きな痛手を被った。ランキングにはそういった影響が見事に表れたわけだが、そういった時代性をさらに反映させたランキングにするべく、今回は調査対象者も含めた調査方法の見直しを行った、と前田氏は振り返る。

日本テレビ 情報・制作局 プロデューサー・前田直敬氏

日本テレビ 情報・制作局 プロデューサー・前田直敬氏

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「企画スタート時から、ライブハウスのブッキングをされている方やプレーヤー、音楽専門誌の編集者、CDショップのバイヤーなど、バランスに気を遣いながら、いろいろなカテゴリーの方々に、アンケートへのご協力を依頼してきました。ただ、一昨年からサブスクの音楽配信サービスの利用が広がったこともあり、音楽配信サービス関係の方々の割合を増やし、(22年のランキング調査となる)昨年はさらにその傾向を強めました」(日本テレビ 情報・制作局 プロデューサー・前田直敬氏/以下同)

 とはいえ、「苦悩は多かった」と前田氏は言う。「2、3年ほど前からSNS上で否定的なコメントが出るようになりましたが、これは“無関心”から気にされるランキングになったということ」と、ランキングが広く認知された証として捉えているものの、“予言できていないのではないか”という危機感は強まっているというのだ。その一例として、20年のランキングに、YOASOBI瑛人らが入っていなかったことを挙げる。

「今の時代、SNSがきっかけで突如としてヒットすることもあるじゃないですか。アンケートにご協力いただく方のバランスを変えたのも、そこをなるべく早くキャッチするためだったわけですが、気をつけてはいても、今年も、夏や秋に、ランキングに入っていない人で、突然、キラ星のごとく現れて人気を獲得する人はきっといると思います。その意味では、毎年1月に、その年を予測するようなランキングを発表する番組のやり方は、今の時代にそぐわなくなってきているのかもしれません。でも、それでこのランキングがダメだと思われるのもどうなのかなとも思いますし、ジャッジするのはマーケットなので、僕らは良かれと思う形で調整しながらやっていくしかないと考えています」

 そうやって年明け1月8日に発表された今年の『今年コレがバズるぞベスト10 2022』。1位となったのは、作詞・作曲・アレンジ、アートワークや映像に至るまで、すべてセルフ・プロデュースで行う覆面アーティスト・WurtS(ワーツ)。2位は人気オーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』から選出された11名によるボーイズグループ、INI(アイエヌアイ)。そして3位には5人組ミクスチャーバンド、Kroi(クロイ)という顔ぶれになった。

『今年コレがバズるぞベスト10』(2020年〜2022年)

『今年コレがバズるぞベスト10』(2020年〜2022年)

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 今年の大きな特徴は、昨年同様、音楽性が実にバラエティに富んでいることだろう。トップ10の中にバンドが5組入ったが、それはあくまで形態であり、ロックやヒップホップといったジャンルでは括れない様々な要素を持った、言わばジャンルレスのアーティストが揃った。それはミュージックビデオやアートワークにも表れていて、各々、実に独創的な世界観を表現している。おうち時間が長くなったコロナ禍で、音楽は“聴くもの”から“観て聴くもの”、または“聴いて観るもの”となり、視覚も含めたトータルの世界観を明確に表現できるアーティストが若いリスナーに刺さる時代になった。その意味でも、前田氏の狙い通り、地殻変動する現在のミュージックシーンの一端が端的に表れたランキングになったと言えるのではないだろうか。

■番組とアーティスト、いかにWin-Winの関係を作れるか

 ランキング発表のコーナーでは、1位のWurtSが音楽番組に初登場。さらに2位のINIと、9位の4s4ki(アサキ)がスタジオライブを披露したが、通常の『バズリズム02』でも、15年の番組スタート当初から、常にまだ世に広く出ていない新しいアーティストにスポットを当てているのが特長だ。近年は、マカロニえんぴつKing GnuAdoらの地上波テレビ初登場を実現し、大きな話題を集めてきた。そんな番組作りにおいても、時代の変化を感じているからこそ、こだわっていることがあると前田氏は語る。

「今は、ヒットのタームが短いこともあり、2ヶ月くらいで次の作品を求められてしまう感じがあります。ストリーミングで注目され続けたいと考えるアーティストは、とにかく短いタームでリリースして楽曲を当て続けていかなければならない。そんな中、僕は、ここぞというタイミングのテレビ出演は効果的ですよ、とお話ししています。出演した後に、フィジカル、ストリーミング、ファンクラブの人数、YouTubeの再生数など、やっぱり地上波と組むと大きな反応がある、と実感してもらえるように制作しています」

『今年コレがバズるぞベスト10 2022』で1位になったWurtS。21年本格始動した研究者×音楽家

『今年コレがバズるぞベスト10 2022』で1位になったWurtS。21年本格始動した研究者×音楽家

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 そのために、とにかくこだわっているのが「半歩先をいく一次情報を出し続けていくこと」だという。

「『バズリズム02』で初めて知る、初めて観る、知っているアーティストでも新たな発見があるという切り口と、そのアーティストが沸騰寸前な状態であるかを見極めることをとにかく大切にしています。そういう番組作りを続けていれば、やっぱり『バズリズム02』はわかってるよねとか、ここのタイミングで良い取り上げ方をしてもらったというように、アーティストにとっても視聴者にとっても良い結果につながり、ひいては番組への信頼につながりますから」

 ただ、今後いっそう増えると予想されるのは、イラストなどのビジュアルを用いるなど、顔出していないアーティストのパフォーマンス披露への対応だ。

「数年前には考えられなかった、“顔出し”せずにテレビ出演するケースは実際増えてきていますので、プロジェクター投影とか、照明で調整したり編集で処理したりするなど、都度こちらから提案しています。今後は、パフォーマンスを望まないアーティストが出てくるかもしれない。出演はしてほしいけれど、ベストの出演タイミングは今なのか、どういった形であれば互いにWin-Winの状態になるのか、今まで以上にそれを見極める力も必要になってくると思います」

 特定のアーティストのブレイクを予想できる時代ではなくなったと言われる今、敢えてその難題に挑み続ける『バズリズム02』。刻々と変化する音楽市場において、マスメディアだからこそのノウハウと普及力を武器に、常に半歩先をいくという攻めの姿勢で、今後も地上波テレビの音楽番組の存在感を見せつけてほしい。

文・河上いつ子

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