パッケージ売上の減少や急速なデジタルシフトなど、音楽業界そのものが大きく変化を遂げるなか、パッケージだけに頼らない事業構造の転換を推進し、コロナ禍でも増益を確保するポニーキャニオン。今年6月1日には、さらなる環境の変化に対応するべく「共創」を掲げた組織改編を断行した。新組織において、音楽、アニメ、映像映画の制作部門すべてを統括する責任者となった同社取締役・大熊一成氏に、さらなる増益を目指すための「共創」の意味と取り組み、今後の抱負を聞いた。
■会社の武器を集結して戦わなければ生き残れない時代
音楽、アニメ、映像映画を主軸に、これまで多くの話題作を世に送り出してきたポニーキャニオン。最近では、音楽ではOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)、アニメでは『東京リベンジャーズ』のヒットが記憶に新しい。同社はこれまで、ミュージック、アニメ、ビジュアルの3事業本部が社内カンパニー的な立ち位置で、競うようにヒットコンテンツ作りを行ってきた。しかし今年6月に、それら制作部門すべてを統括する責任者の元に一本化された。その意図は「人材活用のオープン化」であると、3本部を統べる大熊氏は説明する。
「パッケージ市場が盤石だった10年ほど前までは、それぞれの事業本部が競い合い、切磋琢磨する形でうまく機能してきました。しかし、10年代中盤以降、大きくデジタルにシフトし、急速にパッケージ市場が落ち込んでいくなかで、もはや社内の各部門で競争している場合ではない。部門の壁を破り、蓄積されているノウハウや経験値、人脈など、使えるものは最大限使い、死に物狂いで会社の武器を集結させて立ち向かわないと生き残れない状況になりました」(大熊一成氏/以下同)
追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。パッケージ依存からの脱却を目指して、ライブに活路を見出す企業が増えるなか、同社も19年に、子会社のエグジットチューンズを合併吸収して社内事業本部化し、さらにライブを中心とした事業本部も新たに設置。大きく成長を見せ始めていた矢先にコロナ禍に見舞われ、ライブ事業は壊滅状態となった。しかし…。
「ライブがダメならアニメや音楽、映画で稼げばいい。当社ならではの事業ポートフォリオが功を奏し、厳しい部分を補填できる筋肉質な構造を社内に作ることができていたんです」
コロナ禍で大打撃を受けつつも、今年、前年比15.4%増の営業利益を出せたのは、エンタメ全般を手がけてきた同社の長年の実績によるものだった。そのことが今回の改編の基盤となった。
「大手レコードメーカー以外で、音楽、アニメ、映像映画の各ジャンルを社内に内包し、それぞれがそれなりの規模感で事業を展開できている会社はあまり他に見当たりません。それが当社の大きな武器であり、デジタル時代やアフターコロナの世界で生き残っていくためには、その武器を一本化して、これまで以上に最大活用する必要があると考えました」
その覚悟は大熊氏が統括責任者になったことにも表れている。92年に入社した大熊氏は、プロモーションビデオやライブビデオなどの音楽映像を皮切りに、音楽制作、映画・映像制作全般を担当してきた。音楽では中島みゆき、aiko、GLAY、韓流・華流アーティスト、『A3!』シリーズなど、映画では『ラ・ラ・ランド』などのヒットに携わり、アニメ部門に在籍した経験はないものの、映画で一部アニメを扱うなど、同社のほぼすべてのコンテンツに携わってきた。つまり、同社の人材、そしてコンテンツを熟知しているからこそ、今回の組織改編に踏み切れたとも言えるだろう。
■デジタル時代に求められるアーティスト、クリエイターとの向き合い方
もう1つ、コロナ禍、同社が利益を出せた背景には、ヒゲダンのヒットがあった。
「1年半くらい前、ストリーミングチャートでのTOP10のうち5曲がヒゲダンだったことがあります。このヒットを通して、音楽の世界でも“ジャイアントキリング”は起こり得るのではないか、と思うことができました。ここ10年ほど当社は、正直言って、音楽のジャンルではあまり元気がありませんでしたが、ヒゲダンの活躍で音楽の会社であることが改めて広く知られ、興味を持ってくれるアーティストや音楽希望の新入社員も増えました。そういう意味で、彼らが当社の音楽の復活ののろしを上げてくれたと思っています」
さらに特筆すべきは、デジタルを主戦場とするヒゲダンとリンクすることで、「パッケージが強かった分、デジタル化において他社より3〜5年遅れていた」という同社が、パッケージだけに頼らない事業構造への転換を急速に実現できたということだ。
昨年にはヒゲダンが所属する新レーベル「IRORI Records」を発足。彼らに続くアーティストを輩出するべく、新人、移籍組等、デジタル時代のアーティストを増やし、拡大戦略を図っている。その戦略においては、アーティストに対して「新しい向き合い方が必要になっている」という。というのも、デジタル音楽配信を行うアーティストやクリエイターは、すでに“個人経済圏”を確立している人が多いため、レーベルに所属することに旨味を感じない向きが多いからだ。
「そういうアーティストに向けては、当社の経験値を使うことで目標に早く到達できる、もしくは、登ろうとしている山のもうワンランク上を目指せるようになる、など当社の具体的なリソースを挙げて話していますね。また、契約条件に関しても今のアーティストはみなさんとても勉強していて、ビジネスのこともよくわかっているので、レーベルを信頼してもらい、納得がいく条件を個々の要請に応じて提示しています」
旧来の契約形態に当てはめられないケースも増えているため、早急に今の時代の、新しいスタンダード作りの必要性を実感している。
「前例のない新しい作品やクリエイターと向かい合う時、これまでの業界の慣例や慣習が通じないことはたくさん出てきます。もはや部署が違う、チームが違うとは言っていられない。個人の評価や管理監督、人材育成など事業本部制のメリットはたくさんありますので、それら良い点は残しながらも、会社全体でプラスになることや必要なことが本部間をまたいで実現できるのであれば、私なりの判断で柔軟に実行していきたいと考えています」
■松原みき「真夜中のドア」の大ヒットが社員の意識の大きな転換点に
コロナ禍で、さらにもう1つ、デジタル時代ならではの特徴的なヒットが生まれた。79年に発売された松原みきの「真夜中のドア/Stay With Me」が、Spotifyのグローバルバイラルチャートで昨年12月に18日連続1位となったのだ。バイラルチャートとは、SpotifyからSNSなどにシェアされ再生された回数などを基に集計された、言わば「今話題の曲」を指標化したもの。インドネシアのYouTuberが同曲をカバーしたことがきっかけとなり、再生回数が跳ね上がった。その情報を素早くキャッチした同社の社員が、即座にプロモーションを拡げたことで世界的なヒットへとつながったのだ。40年以上も前の楽曲が、“旬の曲”として大きな注目を浴びたこの出来事は、社員の意識の大きな転換点となった。
「今回のヒットを受けて、旧譜といっても初めてその楽曲に触れた人にとっては新譜と同じなのだと改めて気づかされ、旧譜に関しては大きく戦略を変えるべきだと思いました。当社は、とくに音楽に関してはドメスティックな会社で、海外に対する意識がほとんどありませんでしたが、アニメにおいてはこの10年ほどの間に海外に大きく稼ぐビジネスが可能になってきていますので、その強みを活かすべく、今年6月には声優系のレーベルも発足させました。アニメという武器を突破口に、音楽も含め、海外で稼げるような形を作ることにも注力して、とにかく、オールキャニオンで、ジャイアントキリングを目指したいと思います」
変化を恐れずに、果敢に時代に合わせた新しい形を模索し、変革を遂げてきたポニーキャニオン。今回の組織改編によって体質改善が為された同社から、どんな新たなコンテンツが開発されるのだろうか。大熊氏の手腕に期待したい。
文・河上いつ子
■会社の武器を集結して戦わなければ生き残れない時代
音楽、アニメ、映像映画を主軸に、これまで多くの話題作を世に送り出してきたポニーキャニオン。最近では、音楽ではOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)、アニメでは『東京リベンジャーズ』のヒットが記憶に新しい。同社はこれまで、ミュージック、アニメ、ビジュアルの3事業本部が社内カンパニー的な立ち位置で、競うようにヒットコンテンツ作りを行ってきた。しかし今年6月に、それら制作部門すべてを統括する責任者の元に一本化された。その意図は「人材活用のオープン化」であると、3本部を統べる大熊氏は説明する。
追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。パッケージ依存からの脱却を目指して、ライブに活路を見出す企業が増えるなか、同社も19年に、子会社のエグジットチューンズを合併吸収して社内事業本部化し、さらにライブを中心とした事業本部も新たに設置。大きく成長を見せ始めていた矢先にコロナ禍に見舞われ、ライブ事業は壊滅状態となった。しかし…。
「ライブがダメならアニメや音楽、映画で稼げばいい。当社ならではの事業ポートフォリオが功を奏し、厳しい部分を補填できる筋肉質な構造を社内に作ることができていたんです」
コロナ禍で大打撃を受けつつも、今年、前年比15.4%増の営業利益を出せたのは、エンタメ全般を手がけてきた同社の長年の実績によるものだった。そのことが今回の改編の基盤となった。
「大手レコードメーカー以外で、音楽、アニメ、映像映画の各ジャンルを社内に内包し、それぞれがそれなりの規模感で事業を展開できている会社はあまり他に見当たりません。それが当社の大きな武器であり、デジタル時代やアフターコロナの世界で生き残っていくためには、その武器を一本化して、これまで以上に最大活用する必要があると考えました」
その覚悟は大熊氏が統括責任者になったことにも表れている。92年に入社した大熊氏は、プロモーションビデオやライブビデオなどの音楽映像を皮切りに、音楽制作、映画・映像制作全般を担当してきた。音楽では中島みゆき、aiko、GLAY、韓流・華流アーティスト、『A3!』シリーズなど、映画では『ラ・ラ・ランド』などのヒットに携わり、アニメ部門に在籍した経験はないものの、映画で一部アニメを扱うなど、同社のほぼすべてのコンテンツに携わってきた。つまり、同社の人材、そしてコンテンツを熟知しているからこそ、今回の組織改編に踏み切れたとも言えるだろう。
■デジタル時代に求められるアーティスト、クリエイターとの向き合い方
もう1つ、コロナ禍、同社が利益を出せた背景には、ヒゲダンのヒットがあった。
「1年半くらい前、ストリーミングチャートでのTOP10のうち5曲がヒゲダンだったことがあります。このヒットを通して、音楽の世界でも“ジャイアントキリング”は起こり得るのではないか、と思うことができました。ここ10年ほど当社は、正直言って、音楽のジャンルではあまり元気がありませんでしたが、ヒゲダンの活躍で音楽の会社であることが改めて広く知られ、興味を持ってくれるアーティストや音楽希望の新入社員も増えました。そういう意味で、彼らが当社の音楽の復活ののろしを上げてくれたと思っています」
さらに特筆すべきは、デジタルを主戦場とするヒゲダンとリンクすることで、「パッケージが強かった分、デジタル化において他社より3〜5年遅れていた」という同社が、パッケージだけに頼らない事業構造への転換を急速に実現できたということだ。
昨年にはヒゲダンが所属する新レーベル「IRORI Records」を発足。彼らに続くアーティストを輩出するべく、新人、移籍組等、デジタル時代のアーティストを増やし、拡大戦略を図っている。その戦略においては、アーティストに対して「新しい向き合い方が必要になっている」という。というのも、デジタル音楽配信を行うアーティストやクリエイターは、すでに“個人経済圏”を確立している人が多いため、レーベルに所属することに旨味を感じない向きが多いからだ。
「そういうアーティストに向けては、当社の経験値を使うことで目標に早く到達できる、もしくは、登ろうとしている山のもうワンランク上を目指せるようになる、など当社の具体的なリソースを挙げて話していますね。また、契約条件に関しても今のアーティストはみなさんとても勉強していて、ビジネスのこともよくわかっているので、レーベルを信頼してもらい、納得がいく条件を個々の要請に応じて提示しています」
旧来の契約形態に当てはめられないケースも増えているため、早急に今の時代の、新しいスタンダード作りの必要性を実感している。
「前例のない新しい作品やクリエイターと向かい合う時、これまでの業界の慣例や慣習が通じないことはたくさん出てきます。もはや部署が違う、チームが違うとは言っていられない。個人の評価や管理監督、人材育成など事業本部制のメリットはたくさんありますので、それら良い点は残しながらも、会社全体でプラスになることや必要なことが本部間をまたいで実現できるのであれば、私なりの判断で柔軟に実行していきたいと考えています」
■松原みき「真夜中のドア」の大ヒットが社員の意識の大きな転換点に
コロナ禍で、さらにもう1つ、デジタル時代ならではの特徴的なヒットが生まれた。79年に発売された松原みきの「真夜中のドア/Stay With Me」が、Spotifyのグローバルバイラルチャートで昨年12月に18日連続1位となったのだ。バイラルチャートとは、SpotifyからSNSなどにシェアされ再生された回数などを基に集計された、言わば「今話題の曲」を指標化したもの。インドネシアのYouTuberが同曲をカバーしたことがきっかけとなり、再生回数が跳ね上がった。その情報を素早くキャッチした同社の社員が、即座にプロモーションを拡げたことで世界的なヒットへとつながったのだ。40年以上も前の楽曲が、“旬の曲”として大きな注目を浴びたこの出来事は、社員の意識の大きな転換点となった。
「今回のヒットを受けて、旧譜といっても初めてその楽曲に触れた人にとっては新譜と同じなのだと改めて気づかされ、旧譜に関しては大きく戦略を変えるべきだと思いました。当社は、とくに音楽に関してはドメスティックな会社で、海外に対する意識がほとんどありませんでしたが、アニメにおいてはこの10年ほどの間に海外に大きく稼ぐビジネスが可能になってきていますので、その強みを活かすべく、今年6月には声優系のレーベルも発足させました。アニメという武器を突破口に、音楽も含め、海外で稼げるような形を作ることにも注力して、とにかく、オールキャニオンで、ジャイアントキリングを目指したいと思います」
変化を恐れずに、果敢に時代に合わせた新しい形を模索し、変革を遂げてきたポニーキャニオン。今回の組織改編によって体質改善が為された同社から、どんな新たなコンテンツが開発されるのだろうか。大熊氏の手腕に期待したい。
文・河上いつ子
2021/10/18




