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矢部太郎、父から学んだ“過程の大切さ” 40年越しに気づいた思い「自分を見つめ直そうとしていた」

 「反抗期…あんまりないのですが、お父さんみたいになりたくないっていうのが一番の反抗かもしれないです。ちゃんと勉強しようとか、大学に行こうとか、生きていくためには資格も必要だなとか、家にモノをためすぎないようにしようとか、そういうすべてが反抗なのかも。それで、同じ描くことを仕事にしているのはなんとも皮肉ですね(笑)」。柔和な笑みを浮かべるのは、漫画家としても活動するお笑い芸人・カラテカ矢部太郎(44)だ。実の父である絵本作家・やべみつのりと自身の幼少期のエピソードを描いた漫画『ぼくのお父さん』(新潮社)は発売1ヶ月で10万部を突破するなど、好評を博している。大家さんとの日々をつづった『大家さんと僕』から約4年が経ち、大ヒット漫画家となった矢部に「今できる範囲で、一番描きたかったことを理想的な形で出せた」という今作について迫った。

矢部太郎 (C)ORICON NewS inc.

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■膨大な“太郎ノート”が後押し 父がくれた“びっくり箱”に隠された気持ち?

 『ぼくのお父さん』は、40年前の東京・東村山を舞台に、つくし採取、自転車の2人乗り、屋根から眺めた花火など、普遍的でノスタルジックな心温まるストーリーを収録。子どもを見守りながら、同じ目線でともに遊び、常識にとらわれず、のびのびと子どもと向き合い、ときに親自身も成長していくエピソードがつづられている。今作を描くきっかけは、父が残していた膨大な「太郎ノート」の存在だった。

 「お父さんが、僕が小さい頃に描いていた絵日記を全部取っていて、けっこうすごい量があったんです。それを読んだ時に、僕の記憶と、僕が覚えていないお父さんの絵日記から、いろんなことが描けるかなと感じました」

 矢部にとっての“父親”は「いつも家にいて、絵を描いている人」だった。「ご飯を食べる時も『ちょっと、待って』と絵を描いていたから、ご飯が冷めちゃったなとか、ケガをしていても、ずっと絵を描いていたなとかいうことを思い出しました(笑)。この本の中で、お父さんが『過程が大事』ということを話すところがあるのですが、僕もそれはすごく思っていることで。お父さんも、出来上がった絵本を読んでもらってうれしいとか、それを評価されたいというよりは、その前のところが大事というか面白いなと思っていたようです。僕も、お笑いなどでもそういう考えで、作る過程はつらいけど、これが楽しいっていう気持ちがあるんです。『電波少年』も、ずっと逃げ出さなかったのも僕だけだって言われますし(笑)、それはただ従順だったっていうことかもしれないですが…」。じっくり考えながら、次の言葉を紡いでいった。

 「なんか、そういった過程が大事だという気持ちが小さい頃からあって、それをずっと維持できるっていうのは宝だなと感じています。勉強して資格を取る時も、取って何かに活用しようというより、取っている過程が楽しいんですよね。僕が子どもの頃、お父さんが手作りのびっくり箱を誕生日プレゼントでくれたのですが、びっくり箱って、1回開けたら終わりじゃないですか(笑)。でも、お父さんは作る時はすごく楽しかったし、愛情込めて作っていたのかなとか、今回の漫画を描きながら考えたりしました」

■父から受けた影響に笑顔 『大家さんと僕』から4年もブレない姿

 今回の作品を読んだ父は、自身を俯瞰(ふかん)で眺めて「全力で高度経済成長に乗らないようにしているね、この人は」との感想を漏らしたそうだが、息子としてはどういう気持ちを抱えていたのだろうか。「みんなが車で旅行している中、うちはお父さんが三輪車に乗って幼稚園に送り迎えしているのは、やっぱり恥ずかしい気持ちもありましたね(笑)。でも、この年齢になって『今の自分よりも、ちょっと下の年齢の人がお父さんになって、子育てをしていたんだ』と考えてみたら、いろいろ悩んだり迷いながら生きていたんだろうなっていう想像ができるようになって…。子どもの頃は、お父さんやお母さんが、自分の世界の中で大部分を占めているから、いろいろと求めていたけど、お父さんもひとりの人間だったんだなと思えるようになりました」。“あの頃の父”と同じくらいの年齢になった今、およそ40年越しに父の思いに寄り添えるようになった。

 「お父さんは記録魔なので、なんでも日記に書いていて。僕がこういう言葉をしゃべったとか、そういう子どもの成長とかをつづることが、お父さんの中では、生きている中で確かなもののひとつだったんだなと感じます。あの頃は、僕が転んでも絵を描いていて『なんでだろう』って思っていたんですけど、お父さん自身が自分の子どもの頃を思い出しながら、もう1回生まれて、生き直すことで、自分を見つめ直そうとしていたんだなと。その追体験を今回、僕がまた追体験していてっていう、すごく入り組んだ構造です(笑)。お父さんも『またこれをネタに絵本を描きたい』と言っていたので、まだまだねじれていきそうです」

 そんな父から影響を受けている面を聞いてみると、どことなくうれしそうな顔を見せた。「普通、漫画の直線は定規で引いて描くと思うのですが『定規を使わないほうが、味があっていいんじゃない』って言っていて、そこは僕も影響を受けていますね。味があるって、自分で言うことじゃないと思いますけど(笑)。お父さんは家族のことを描いていて、こうして僕も今回お父さんのことを描くことで、描きたいものが似ちゃっているのが嫌だなと思いますけど、それは今後の課題です(笑)」。コロナ禍に今作を描いていたことで、自身も救われた。

 「現代のこととかでなくて、過去のことを描いているので、すごく救われました。コロナのことだけじゃないかもしれないですけど、この本を読んで、みなさんが違う世界に行けるようになっていたらいいなと感じています。本の中には、お父さんがやっていた工作とかもできるだけ、読んだ方が再現できるように描いています。最初は『クッキングパパ』とワクワクさんの様子を取り入れて描こうと思っていたのですが“畑を本格的に作る”とか“縄文土器を河原で焼く”辺りから、ちょっと方向性が違ってきました(笑)」

 2017年10月に発売された『大家さんと僕』では、芸人として初、プロの漫画家以外でも初となる朝日新聞社主催『第22回手塚治虫文化賞 短編賞』を受賞。その後も、漫画家として順調にキャリアを重ねて、今年からは同賞の選考委員にも就任した。「ドヒャーっていう感じですよね(笑)。選考会でもすごく浮いていました…。この4年で、大きくしていただいたっていう気持ちです」。天国の大家さんが、今作を読んだらどんな感想を寄せるだろうか。「僕がまた描けたということを喜んでくれると思います。『矢部さん、また大きな仕事をされましたね』とおっしゃってくれるんじゃないかな。そこから先は感想を聞くのは怖いです。もしかしたら、僕だけをフォーカスして『小さかった頃の矢部さん、かわいいですね』と言ってくれるかもしれない(笑)」。漫画家として大成した今でも、4年前とまったく同じ矢部の姿がそこにあった。

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