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水瀬いのり、“試練”だったライブが転機に 音楽活動の原動力は「人の温もり」

 声優の水瀬いのりが、記念すべき10枚目のシングル『HELLO HORIZON』を7月21日にリリースした。昨年のアーティスト活動5周年に続く“節目”を迎えた彼女に、新曲の制作エピソードや楽曲に込めた想い、さらにこれまでの音楽活動を振り返ってもらうインタビューを敢行。「自分を表現」することに悩んできたという水瀬だが、最近では変化を感じているという。転機となった出来事は何だったのだろうか。音楽活動を支える原動力と共に話を聞いた。

水瀬いのり(撮影:田中達晃/Pash) (C)ORICON NewS inc.

水瀬いのり(撮影:田中達晃/Pash) (C)ORICON NewS inc.

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■“映像”から膨らむアイデア 自分だけの表現方法とは

――昨年アーティスト活動5周年を迎えられましたが、シングルとしては今作が10枚目で、こちらも節目の作品となります。改めて心境を聞かせてください。

【水瀬】作品が増えていくのは活動を続けられているからなのですが、それは何より手にとって曲を聴いてくださる皆さんがいるからこそだと思います。そうした中、今回は10枚目ということで、ジャケット写真もここまで続けてきたからこそできる表現に挑戦できました。モノクロというのはデビュー当時の自分には表現できなかった世界観で、デザイナーさん、カメラマンさん、メイクさん、スタイリストさんといったチームの皆さんが一緒に歩んできてくれた絆があるから挑戦しようと思えましたし、これまですごく意味のある時間を過ごしてこられたんだと感じられてうれしいですね。

――キャリアを重ねてきたからこその挑戦とのことですが、以前から水瀬さんは必死で「自分の表現」を探されていたそうですが、現在は自分の“やりたい音楽”“やりたい表現”は見つけられましたか。

【水瀬】自分で自分を表現するのはまだまだわからないことだらけですが、“なりきる”行為が好きなのには気づけました。デビュー当時、ソロ活動は1人で走り続けなきゃ…ってイメージが強かったのですが、今は「こういう世界観はどう?」という意見に対し、受け取って「自分だったらどう表現するか」という発想でその世界観に応えています。自分からアイデアを出すのはまだ苦手ですが、キーワードをもらってアプローチを考えるのは好きですね。自分なりに咀嚼し落とし込んでいく作業は楽しいですし、“ものづくり”を感じる時間です。

――モノクロのジャケ写も素敵な仕上がりですが、そうやってキーワードをきっかけに自分の表現方法を考えていくとき、実際にはどのような作業をされているのでしょうか。

【水瀬】「どんな表情をしよう」とか「どんな目つきかな」など、頭の中で“映像”として想像することが多いいです。小さいころからアニメをよく観ていたのもあり、出てくるのは絵やイラストではなくて映像。実際に撮影中も、ずっと同じポージングではなく、思うままに動いていく私にカメラマンさんがついてきてくださり、動きながらも「あうんの呼吸」のように撮ることが多いですね。「こんな感じで」に対して自分の中にある“こんな感じ”という振れ幅の中で試しながら探していく感覚です。レコーディングもそういうスタイルですね。

――アイデアが映像で思い浮かぶというのは水瀬さんならではかもしれませんね。

【水瀬】静止画だとどうしても想像が入りきれなくて、流れていく映像の中で「これ!」と思った瞬間、そこで初めて一時停止するみたいなイメージですね。

■“試練”と表現するライブ 活動への考え方が変化する転機に

――自然と身についたものだと思いますが、水瀬さん流”の表現へのアプローチを実践できるようになったのは、いつごろからでしょうか。

【水瀬】いつからだろう…。ただ、小さいころアイドルや女性シンガーの歌い方をマネするのが好きだったり、アニメのセリフをノートに書きテレビの音を消してアフレコした動画を自分の携帯で撮ってみたり、“自由研究”のように楽しくてやっていました(笑)。いま思うと、自分を出すのは苦手だけど何かになりながら自分を表現するのが好き感覚は、もしかしたら小さいころからずっとあったものなのかなとも思います。

だからこそソロで活動するとなった時、やっぱり最初のシングルは「等身大の自分」を見てもらうものだと思って取り組んでいたので、歌も含めて性格や表情など「本当の自分はどれなのだろう」というのは当時、すごく難しかったですね。

――現在では“なりきり”もご自身に寄せてできるようになったということでしょうか。

【水瀬】そうですね。ソロアーティストといえど、「自分を見て」「自分の歌を聴いて」ではなくて、「こういう歌を自分が歌ったら」「こういう姿に自分がなったら」を表現するのもいいと考えています。これからも「自分の中にあるもの」プラス「この作品だからできること」「この曲だからできること」というのをどんどん広げていけたら、いろんな一面を見てもらえるのかなと思います。

――そう思えるよう転機となった出来事は何でしょうか。

【水瀬】ライブですね。私にとってライブは試練の場所で、すごく怖いですし、こんな普通な私がステージに立って歌っていると考えただけで気を失いそうになる瞬間が多々あります。リハーサルしていても、自分のためにこんなにスタッフの方が集まっているこの環境は一体何だろう、みたいな想いが襲ってくることもありますが、そのたびに「これだけの人に支えられているからこそライブができる」、「このライブを楽しみにしてくれている人がその先に待ってくれている」ことを感じられる時間でもあって。ライブは自分にとって「アメとムチを体感する時間」というか「自分のことを好きにも嫌いにもなる時間」ですね(笑)。

毎回別の試練があり別の幸せがあり、公演ごとにいろんな壁が立ちふさがり、それを時には素手で殴ったり意外と軽々超えられたり、毎回本当に同じライブはないなと思いながら臨んでいます。

――そのような想いでライブされていたというのには驚きました。

【水瀬】ライブは決められた時間の中で、いろんな曲調でいろんなシーンを“芝居”のように届けると想っているのですが、ファーストライブの時はメリハリがつけられないまま終わってしまって…。ライブを重ねていく中で「ここはこういう自分を出したい」とか「ここはこういう自分になりたい」といった理想が見えてきて、ライブ中に自分がいろんな“色”になれることを知ってからは、「歌いながらいろんな人になりきり、それを見てもらう場」と感じられるようになり、自分の中で見つけた楽しみになりました。

それに試練ではあるものの、やっぱり終わったら安堵感もあります。生でしか感じられない、何物にも代えられないものがライブにはあるので、それがアーティスト活動を続けていくうえでの醍醐味なのかなと思います。

■作品のメッセージと音楽活動がリンクした新曲

――ここからは新曲についてお聞きします。“地平線”という言葉が新たな始まりも予感させるようなタイトルですが、水瀬さんから何かイメージや要望は出されたのでしょうか。

【水瀬】今回は「現実主義勇者の王国再建記」というTVアニメのOPテーマなので、作品のカラーやメッセージを歌でも表現することが役割と考えました。これまで主題歌などを歌わせていただいた際にもそうでしたが、今回もこの作品だからこそ引き出してもらえる自分の“新しい一面”があったり、この作品だからこういう歌が歌えたりといった、作品に助けられつつ自分の楽曲性を広げることができました。

作品はファンタジーの異世界が舞台ですが、アニメタイトルに「現実主義」とあるようにリアルなメッセージ性もあって。イントロの始まりやAメロ、Bメロで重厚さを出して、サビでは一気に世界が変わっていく感じや、積み重ねた一歩一歩で自分だけの地平線を目指すというイメージが、作品のメッセージにも共通していると思います。そして、私の音楽もこれまでの一歩一歩があるから今日があると思うので、そこもうまくリンクした楽曲になりました。

――お話を聞いているととてもポジティブな印象を受けますが、一方で歌詞は決して楽観的ではなく、迷いや苦しさを前に進む力に変えようとするエネルギーを感じます。水瀬さんはどう感じ、どのような思いを抱かれましたか。

【水瀬】アニメの主人公であるソーマ・カズヤが持つ価値観やブレない現実主義という部分もそうですが、あきらめることがカッコ悪いではなく、自分なりにどう転ぼうか、どうせ転ぶならリスクを考えて最小限にすむ転び方を…といったリアリストな一面がある作品です。だから歌詞も「きっと大丈夫」ではなく、最初はちょっと後ろ向きな、挫折を知っている人だからこそ思うような感情が並んでいて、個人的には物語に入りやすい歌詞だなと思います。出だしで「それより前を向け」と言われてしまうのはかなりシャキッとさせられますが、だからこそ胸に刺さるなと思いハッとしました。

――たしかに強烈なメッセージからスタートする歌ではありますね。ほかにも「見ようとしなければ何も見えない」など印象的なワードがいくつかありますが、水瀬さんが特に気になったフレーズはありますか。

【水瀬】落ちサビのメッセージ性が好きですね。「世界に求められる僕なんて どこにもいないと思ってたのに」は、周りの環境やいろんな人と出会う中で「自分にはこんなことができる」ということに気づいた瞬間であり、自分一人では気づけなかったことなので、希望を感じる歌詞だなと思います。誰かに言われるのではなく自分で気づけたということに、曲中の主人公の成長を感じますし、それがまた決意になって命をかけて守ろうと歌うラストのサビにつながっていき、「こんな自分だけどそれでもできることがあるなら全力を懸けて挑もう」という気持ちになるので、歌いながら自分も励まされたフレーズですね。

■レーベルメイトが教えてくれた“私の道”

――ソロデビューから6年目、シングル10枚にアルバム3枚を発表するなど活躍されています。そんな水瀬さんにとって、音楽活動を継続できている原動力は何でしょうか?

【水瀬】人の温もりですね。どちらかというとすぐあきらめてしまうタイプで、常にリスクのことばかり考えながら生きてきたのですが、「たまには冒険してみてもいいのかも」って思えたのは、アーティスト活動をやっているおかげだと思います。友人や家族はもちろんのこと、活動をきっかけに出会うことができたファンの皆さんやチームの存在はとても大きいです。

特に私の音楽で「大切な人への想いを伝えるために背中を押してもらえた」とか「水瀬いのりの曲を介して絆を深めることができた」とか、誰かがどこかで自分の音楽や活動を支えにしてくれていることがわかった時、この仕事に誇りを感じられたんです。私自身もいろんなアーティストの方に背中を押されながら今日まで歩いてきたので、自分も誰かのそういった存在になれていると思うと、また一歩踏み出せるような気がします。

――水瀬さんと同じく声優とアーティストを両立し活動されている方は数多くいらっしゃいますが、ほかの声優アーティストの楽曲や活躍ぶりに刺激を受けることはありますか。

【水瀬】同じレーベルで活動しているアーティストの方々のライブを拝見していると、皆さんの色が本当に濃くて。大先輩の水樹奈々さん、小倉唯ちゃんや上坂すみれさん、宮野真守さんや蒼井翔太さんなど、それぞれ違う個性を待ちそれを貫きながら表現している世界観をお持ちなので、フェスなどでご一緒すると楽しさもあり、純粋に皆さんの作る音楽に刺激も受けます。それに皆さん個性が確立しているので、その中で私は自然体であるということが自分の個性なのではと感じる時があります。

皆さん、自分にはできない世界観だからこそ引かれるものがありますね。自分が同じことをやっても魅力は出せないと思いますが、逆に言うと「私は私らしくいることが個性になる」ことを見つけられたのは、レーベルメイトの皆さんがいたからこそ。「私はこの道を歩こう」と決められました。

(取材・文:遠藤政樹)

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  • 水瀬いのり(撮影:田中達晃/Pash) (C)ORICON NewS inc.
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