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漫画ヒットの条件は手軽さ 適度な長さと物語の共感 comico作品3ヶ月で売上250倍

 漫画アプリ『comico(コミコ)』で連載していた漫画『11年後、私たちは』(2016年11月〜17年10月)が今、一部の漫画ファンの間で話題となっている。物語の完結からすでに3年ほど経過しているが、『comico』や外部配信先を含めた2020年12月の月間売り上げは約2.5億円で、3ヶ月前と比べて約250倍になったという。『comico』編集部は「アニメ、ドラマ化もしていない作品ですが、大ブレイクの兆しとなっています」と説明するが、読者に支持されている理由はどこだろうか? 小学館で『週刊少年サンデー』などの編集を担当し、現在『comico』編集長の武者正昭氏など関係者に人気の理由を聞くと「読みやすさ」をあげた。

『comico』で話題の恋愛漫画『11年後、私たちは』のビジュアル(C)イゼイ/Wisdomhouse

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■完結後の広告展開が成功、女性読者が恋愛模様に共感 売上100万円→2.5億円

 同作は、長く付き合う中で変化していく関係性を描いたアラサー男女によるリアルラブストーリー。主人公の一之瀬千鶴には学生時代から11年間付き合っている恋人がいて、30代になり結婚を意識しないわけではないが、少しずつズレを感じ始めていた。互いに結婚という未来を避けていた中で、恋人に浮気が発覚し、別れてしまう。そんな中で、千鶴に思いを寄せる彼女が勤務する会社の課長が接近する…。不器用なアラサー男女を通して、浮気、出会い、別れ…といった恋愛模様をリアルに描いている。

 作者は韓国の漫画家・イゼイ氏で、同アプリで16年11月〜17年10月に約1年間(全50話)連載。編集部よると「読者は女性が約9割で、年齢層は20代が5割、30代が3割となっています」と、作品の登場キャラクターたちと同じ年代の人に読まれているという。

 約1年で完結したが、熱いファンの声を受けて、19年5月からさまざまな電子書籍配信サイトで配信をスタート。特に『めちゃコミック』(20年6月から開始)、『コミックシーモア』(20年8月から開始)では、読者の反応が良く、『めちゃコミック』最新の月刊人気漫画ランキング(2021年1月集計分)では、1位を獲得。第3位の『鬼滅の刃』よりも読まれている結果になっている。

 外部配信をスタートさせたことで、売り上げも右肩上がりとなり、直近の月間売り上げは20年9月が100万円、10月が2600万円、11月が1億200万円、12月が約2億5000万円を突破し、『comico』にとって大ヒット。各配信サイトが広告展開をしたこともあって、20年9月と12月を比較すると、売り上げは3ヶ月で約250倍となり、担当者は「大ブレイクの兆しです。広告展開をしたからといって、ここまで伸びることはない」と驚きの声をあげている。

 近しいテーマの作品がたくさんある中で、なぜ、ここまで支持を受けたのだろうか。、『コミックシーモア』の担当者は「広告がヒットしたことで認知度が高まったこともありますが、よくある悩みを描き、主人公と同性同世代の共感を得たと思います。なんでも肯定してくれる憧れの異性としての上司を描いた点もポイントです」と分析。

 『めちゃコミック』では、読者から「絵柄はシンプルでキャラクターもそこまでクセのあるものではなく、ほんとうにどこにでも存在してそうな人たちばかりだが、登場人物の心理描写がうまく感情移入してしまう」という声があった。自分の過去の恋愛と重ね合わせ、キャラクターに共感する読者も多いようだ。

■漫画ヒットの条件に「ストーリーと絵柄のマッチ」 求められる物語の“適度な長さ”

 『comico』編集部としては「とにかく『リアル!』という声が多く、自分の経験と重ねあわせ涙したという読者が続出しています。完結しているので最後まで一気に読め、読後感も良いと好評です。主人公以外のキャラの心情も描写されて葛藤が見えるのがいいとの声もあります」と話す。

 漫画の画風についても「シンプルな絵柄に最初は苦手意識をもつ読者もいるが、15話まで無料にしてハードルを下げていることや、全50話という読みやすさが支持されているポイントだと思います」と説明。「読後の感想として『少女マンガのように美男美女でなく、この絵だから自分や友だちのように感情移入して読めた』という方が多い」と伝えた。

 奇抜な設定はなく、ありふれたようにも思える物語にシンプルな絵柄と一見『特別感がない』作品がヒットしている事実を、comico編集長はどのように見ているのだろうか。『うしおととら』の藤田和日郎氏、『海猿』の小森陽一氏・佐藤秀峰氏といったミリオンセラー作家を輩出し、40年以上漫画業界で仕事をしている武者正昭編集長は、「浮気、別れ話という重くなりがちなテーマをライトな絵柄がそれをうまく中和し、とても読みやすい作品にしていると思います」と分析。

 また、ヒット漫画の条件として「ストーリーと絵柄のマッチ、これもヒットには重要なポイントです。さらに話を引っ張りすぎることのない全50話というその適度な長さも読後感の良さにつながっているのではないかと思います」と気軽に読めることをあげた。

 日本一読まれている少年誌『週刊少年ジャンプ』(集英社)においても最近では、累計1億5000万部を突破している人気漫画『鬼滅の刃』(全23巻)や、『約束のネバーランド』(全20巻)、漫画アプリ『少年ジャンプ+』でも『マンガ大賞2019』を受賞した『彼方のアストラ』が全49話(全5巻)など、比較的短い連載期間で完結しており、コミックスが集めやすい。物語の面白さや共感力もヒットの条件として必要だが、新規読者に読まれるという意味では、物語を引き伸ばししない“読みやすさ”が今、求められていると言えるだろう。

 今回の反響に作者・イゼイ氏は「漫画家はずっと憧れの夢でした。遅くなる前にやってみようと思い、練習のつもりで描いた作品が『11年後、私たちは』でした。何も知らなかったので物足りずダメな部分もたくさんありますが、心を込めて描いた作品ということもあり読者の皆様に愛されてるのかなと思います」と自身の未熟さにふれつつも、伝えたい思いが読者に受け入れられたと振り返った。

 また、「『11年後、私たちは』に注がれた皆様の愛のおかげで今スピンオフ作品の準備をしています。スピンオフでは男性主人公・優の過ぎた恋とこれからの恋を描く予定です。『11年後、私たちは』が愛された分プレッシャーも感じますが、読者の皆様が楽しめるように頑張りますので楽しみにしてください」と呼びかけた。

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  • 『comico』で話題の恋愛漫画『11年後、私たちは』のビジュアル(C)イゼイ/Wisdomhouse
  • 『comico』で話題の恋愛漫画『11年後、私たちは』(C)イゼイ/Wisdomhouse
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