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30周年のチキンラーメン・ひよこちゃん、悪キャラに自虐まで…シュールを追求したSNS戦略のワケ

 ユーモアと遊び心がありつつ、エッジの効いたクリエイティブでおなじみの日清食品。最近では、『チキンラーメン』のキャラクター・ひよこちゃんが突然“アクマ化”したことで話題になったが、SNSでは自虐ネタを投稿したり、ストレスでイライラを爆発させる姿など、話題になっている。その可愛らしい見た目から、30年にわたって愛されるキャラクターの“攻めの戦略”について、日清食品の担当者に聞いた。

30周年を迎えた「チキンラーメン」のキャラクター・ひよこちゃん

30周年を迎えた「チキンラーメン」のキャラクター・ひよこちゃん

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◆現代人のストレスあるある、自虐、悪キャラでバズを巻き起こすひよこちゃん

 『チキンラーメン』の歴史を振り返ると、初代キャラクターは1967年に登場した「ちびっこ」という「明るく、健康で、いたずらっ子」な“昭和の男の子”だった。その後、世代を超えるロングセラーブランドとして若年層に向けたアプローチを模索するなか、1991年「ひよこちゃん」に変更。2010年には「子どもたちからさらに親しみを持ってもらいたい」との思いからデザインを一新し、 フォルムも表情もチャーミングでかわいらしい、より現代的になった現在の「ひよこちゃん」が登場した。また、『チキンラーメン』と言えば、創業者・安藤百福(あんどうももふく)とその妻・仁子(まさこ)の半生を題材としたNHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018年後期)で再注目を集め、ドラマをきっかけに一段と売上を伸ばしている。

 そうしたなか、最近ではひよこちゃんのSNSが「シュールすぎる」と注目を集めている。例えば、3月25日に投稿した動画は10万「いいね」を超え、大きな話題になった。動画では、階段で前を歩く人が持つ傘の先でケガをしそうになったひよこちゃんが「労災おりますか?」とツッコミを入れたり、電車の座席で両隣の寝ている人にもたれかかられたり、雨の日にコンビニを出ると自分のビニール傘がなくなっていたりと、メディアでも問題提起される社会的に関心の高い内容の“あるある”ネタをシュールに描く。しかも、「チキンラーメンの調理時間」の3分間にあわせた尺で、お湯を入れてからこの動画を観れば、調理の待ち時間を退屈せず、楽しめる仕掛けになっている。

 同投稿の背景と狙いを担当者はこう語る。「これは、『チキンラーメン 具付き3食パック アクマのキムラー』のプロモーションの一環で投稿したものです。ひよこちゃんは、3月22日より連日にわたって、SNSで無言ツイートを投稿しましたが、それは日常にあふれるストレスによる『イライラ』が原因です。一説によると、溜まったストレスを解消するには、別のストレス(=刺激)をぶつけると良いと言われています。そこで、今回のプロモーションでは、“ストレスフルな現代社会に対して、極度のストレス(=刺激)をぶつける”ことをフックにしました。今と昔ではストレスを感じるシーンも変わりつつありますので、“現代”ならではのストレスをピックアップし、日清食品らしいエッジの効いた表現でウェブ上の施策を展開していきました」

◆狙うのは、王道ではなく「そうきたか…」 ユーザーを裏切ることが好きな日清食品

 この“あるある”のほかにも話題を集めているのが、ひよこちゃんの自虐ネタだ。「寒くて体がカチコチになるので、余計なダシを出して体を整えています」とサウナに寝っ転がるシュールな写真や、節分には「長いものには巻かれても、太巻きにまで巻かれることになるとは思わなかったです…」とひよこちゃん自身が太巻きになった写真を節分に投稿している。

「世の中には多くの情報が溢れています。そのため、ブランドコミュニケーションにおいては、お客さまに何かしらの“フック”を作ることが重要になります。いろいろな“フック”の作り方があると思いますが、日清食品は“笑える”という“引っかかり”が大好きです。しかも、“王道”よりも『くすっと笑える』『そうきたか』といった、いい意味でお客さまの予想を裏切ることが好きなので、必然的にこういったネタが多くなるのかもしれません」

 ユーザーを引きつけるフックや、飽きさせないための工夫を随所に盛り込むのは、宣伝手法の定石。そのなかでも、日清食品がさまざまな商品のCMやSNSにおいて世の中の話題を集める理由は、商品のPRのみを全面に押し出すことなく、社会性を有したメッセージと重ね合わせると共に、話題を起こすためのギリギリのラインを攻めるクリエイティブのバランス感覚、塩梅の良さにあるだろう。

「時事ネタや季節ネタなども意識しながら、どんどんとアイデアを出していきます。ブランドや商品をきちんと訴求することは当然として、最もポイントとなるのが『スタッフの間で笑いが起きるか』です。その場で『おもしろい』となったアイデアは、日清食品の社長・安藤徳隆(あんどうのりたか)に提案し、さらに議論を深めていきます。社長からアイデアの提案を受けることも多く、納得いくレベルまでブラッシュアップを続けていきます。もちろん、社長が加わっている場合でも、議論において『自分たちがどれだけおもしろいと思えるか』『笑いがどれだけおきるか』が重要視されることに変わりはありません」

 そんな議論のなかで、「これはおもしろい!」と意見が揃った企画は、予算を多めにかけてとことんこだわって制作していくという。そういったこだわりや柔軟性が、日清食品のクリエイティブにおける強みであり、特徴のひとつになっている。

◆リスクを恐れず攻めの一手、議論の場を作るSNS戦略

 最近ではブラックな一面や自虐的な発言が話題になっている。その反響は、必ずしもすべてが好意的なものではないようだ。「ポジティブなものだけでなく、さまざまなご意見が寄せられます。そうしたご意見に対し、配慮を欠いてはいけないですし、かといって、腰が引けてしまってもいけないと考えています。そういったバランスを上手く保つのが最も難しいところです」

 では、自虐やブラックネタなど、SNS投稿におけるOKとNGのラインについて、日清食品はどう線引きしているのだろうか。「見られる方が不快にならず、共感できる内容であるべきだと考えています。ただ、他ブランドも含め、そのギリギリのラインを越えてしまうことも少なくないのですが…(苦笑)」。越えてしまうことを恐れて安全圏にとどまるのではなく、果敢にそこを攻めて、ときには超えてしまうこともあるのが、「SNSで話題化することを常に意識している」という同社ならではのスタンスなのだろう。そういった攻める姿勢だからこそ、話題作を数多く生み出し、バズを巻き起こし続けることができるのだ。

 場合によっては批判の対象にもなりかねないなか、攻めを貫く姿勢は変わらない。その根底にあるのが、100年続くブランドを目指していくときに不可欠となる、若年層の継続的な取り込みだ。ロングセラーブランドである『チキンラーメン』の知名度は、老若男女を問わず非常に高い。しかし、“知ってはいるけれど、気づけばあまり食べていない”という若い世代もいるだろう。そこを切り崩すために、批判を恐れるばかりではない、若者目線の攻めたアプローチを続けている。

「若年層に振り向いてもらうためには、これまでのイメージや慣例を壊してでも、ブランドを若返らせる必要があります。ブランドが築き上げてきたものを理解したうえで、攻めるべきときには攻め、変えるべきものは変えていく。お客さまが店頭でインスタントラーメンを買おうとする瞬間に、数ある商品の中から日清食品の商品を想起して手にとってもらわなければならない。そのためには、さまざまな尖ったコミュニケーションを通じてお客さまとブランドの接点を増やし、脳に印象的なイメージを刻み込んでいく必要があるんです」

 かわいらしいフォルムと表情が愛される一方、SNSなどで時折見せる、感情の起伏や意外な変化が、ギャップや驚きとなってキャラクターとしての厚みを増し、多くのユーザーを惹きつけている。時代と共に移り変わる社会において、その本質を風刺も含めて映し出す日清食品の“攻めた”メッセージが、今後も世代を超えたファンを増やしていきそうだ。

(文/武井保之)

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