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揺れ動く著作隣接権、集中管理が整う一方で権利の切り下げも?

 日本レコード協会、日本芸能実演家団体協議会/実演家著作隣接権センター(CPRA)が、現在、それぞれレコード製作者、実演家の権利者団体として、放送番組をネット配信する際の送信可能化権に基づく許諾について、一括管理する事業を準備している。しかしその一方で、それら著作隣接権者に与えられている「許諾権」を、「報酬請求権」にまで後退させる著作権法改正をも選択肢の一つとする検討が行われており、「放送と通信との融合」というキーワードのもとで、著作隣接権が揺れ動いている。

レコ協、芸団協が完成させつつある著作隣接権処理の仕組み

 現行の著作権法では、通信分野の場合、著作隣接権者(レコード製作者、実演家)にもレコード音源の二次使用の前にその可否を裁量できる許諾権(送信可能化権)が認められており、放送番組をインターネット等の通信インフラを通じてストリーミング配信する際なども、そこで使用されている音楽の著作隣接権については、これまでレコード会社等個別に事前許諾をとる必要があった。作詞家、作曲家ら著作権者による許諾処理が、JASRAC等の著作権管理事業者を通じて集中的に行われているのに対して、配信事業者側から見て手間のかかる作業でもあり、放送コンテンツとそれに伴う音楽の二次利用促進の観点から、日本レコード協会、日本芸能実演家団体協議会/実演家著作隣接権センター(CPRA)がそれぞれレコード製作者、実演家からの委任を受け、一括処理に応じる仕組みを整えつつある。

 具体的には、日本レコード協会の場合、会員社らレコード製作者からの委任に基づいて、配信事業者等から予め提出された使用申請に対する許諾を同協会が行い、使用料を徴収し、権利者に分配するというもので、開始当初は、地上波及び衛星放送のテレビ番組の場合は「過去に制作されたものも含む放送番組」が、地上波ラジオの場合は「放送と同時にネット上で送信される番組」がそれぞれストリーミング配信される場合を対象とする。

 現状では実質的にコピーフリーな状態となるMP3形式がほとんどというポッドキャスティングなどのダウンロード型配信や、ストリーミング配信でも、もとの放送番組を短く再編集したコンテンツなどについては、従来通り権利者個々の判断に委ねるという考え方で、集中管理事業についてはいったん前述の形態を対象にスタートさせ、対象範囲については、今後も検討を続けていくという。また、アーティストや作品によって、委任が行われないものが出てくることも想定されるが、その場合は、そういった例外的なアーティスト、作品を予め使用者側が確認できる仕組みも同時に整える予定だ。

 現在、協会会員社だけでなく、連携するインディーズ団体に対し、委任のはたらきかけを行うのと同時に、民放連及びNHKら放送事業者側、通信事業者側と最後の詰めである使用料規程についての交渉を行っているところで、同協会では早期に交渉をまとめ、文化庁への使用料規程届出後30日間の周知期間を経て、6月中にシステム稼動させることを目指すとしている。CPRAによる集中管理事業の概要と進捗状況も、著作隣接権に関わる部分についてはほぼ同様のようだ。
 このレコ協、芸団協による集中管理事業は、もちろんここにきていきなり降って湧いた話ではなく、以前から構想され、準備されてきたものだが、一方、ブロードバンド環境の急速な普及ということの他にも、ここにきて両団体がその完成を急がなければならない事情が生まれてしまっている。

公共性が高いということで放送に認められた特例が拡大していく?

 政府の知的財産戦略本部コンテンツ専門調査会デジタルコンテンツ・ワーキンググループが『デジタルコンテンツの振興戦略案』を2月2日に発表した(正式決定は2月20日)。「日本を世界のトップクラスのデジタルコンテンツ大国にする」ために官民が具体的に取り組まなければならない項目をまとめた提言書で、関係省庁などでの検討を経て、その多くが、例年初夏にとりまとめられる『知的財産推進計画』の2006年度版に盛り込まれるものだが、この提言書の中では、IPマルチキャスト放送の活用促進と、そのための権利処理についての見直しなども盛り込まれた。

 具体的には「IPマルチキャスト放送の積極的活用」(提言1-(1))を図り、「過去に作られたコンテンツを利用するための著作権契約上の課題の解決」(提言3-(1))、「マルチユースを想定した契約の促進と権利の集中管理体制の整備」(提言10-(1))も図るというものだが、この提言書が発表された日の翌3日には、小坂文科相が閣議後の会見で、IPマルチキャスト放送と従来の有線放送とは、サービスの実態に境目がなくなっているとして、権利処理上「通信」に分類されているIPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱いについて、文化審議会著作権分科会で今年夏までに結論を出すとコメント。07年度の通常国会での法案提出を目指すとした。

 冒頭で触れた通り、音楽の著作隣接権者には、通信分野では許諾権が認められている一方で、放送分野では、レコード音源の使用後に二次使用料を徴収できるだけで、使用可否の事前裁量まではできないという報酬請求権(商業用レコードの二次使用料を受ける権利)しか認められていない。権利処理の上で、「通信」に伴う手続きを「放送」に伴うものと同等にするということは、著作隣接権者に認められている許諾権を、報酬請求権にまで弱めてしまうことにつながる。この一連の動きを受けて、文科相、文化庁長官の諮問機関である文化審議会の著作権分科会が3月1日の会合で、IPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱い等について、夏までには結論を出す方針で一致。4月5日の著作権分科会法制問題小委員会では、権利者側、放送事業者側らからのヒアリングを行った。

 IPマルチキャスト放送とは、不特定多数に同一のデータを同時送信するブロードキャスト(放送)、あるいは単一の相手に送信するユニキャストとは違い、IPv6網を利用して、放送番組を「特定」多数に同時送信するサービス形態で、具体的にはいったん衛星放送事業者から受け取った放送コンテンツがIPフォーマットの信号に変換された上でNTT等の収容局に同時送信され、そこからさらに契約家庭からのリクエストに応じるかたちで、選局したチャンネルがセットトップボックスに個別に送信されるというのがおおまかな流れだ。IP(インターネット・プロトコル)をベースにしつつも、クローズドなネットワーク環境の中で番組が配信され、現在、ビー・ビー・ケーブルなど4事業者が総務省に登録し、事業を行っている。

 この問題を見る上でのポイントの一つは、IPマルチキャスト放送をめぐる法制上の「ねじれ」にある。IPマルチキャスト放送は、電気通信役務利用放送法では「放送」と定義付けられ、著作権法では「通信」(自動公衆送信)と定義付けられている。ここに一つの矛盾があるわけだが、著作権法についてはベルヌ条約等の国際条約に基づいて定義付けられているものであり、一方の放送関連法の場合は多分に国内の許認可権などとの整合性のもとで定義付けられているという側面が強い。かつ、現行著作権法で「放送」分野について、著作隣接権者には報酬請求権しか認められていないというのも、一種の特例だ。

 「放送でレコード音源が使われる場合、放送事業者の側が自由に使うことができるという、言わばレコード製作者や実演家の権利が制限される特異なかたちになっています。なぜかと言えば、放送は電波という公共財を使い、国民にとって不可欠な情報基盤になっていて、非常に公共性の高いものであると位置付けられているからです。それは我々としても受け入れているわけですが、今回の議論というのは、その特異な例を他にも当てはめてみましょうというものです。だから、我々としては、それは違うんじゃないですかと申し上げているところなんですよ」(日本レコード協会 専務理事・生野秀年氏)
 国際条約に基づいて定められている法律の方を変えてしまい、もともと特殊な事情のもとで定められていた特例の範囲を、その「事情」がはたらくとは言いがたい領域にまで広げてしまおうという今回の議論は、甚だ乱暴なものと言わざるを得ないだろう。

著作隣接権の切り下げは知財立国政策に逆行

 4月5日に行われた法制問題小委員会におけるヒアリングで、JASRAC、レコ協、芸団協といった権利者側は、いずれもコンテンツ流通の活性化につながるとして、IPマルチキャスト放送自体には歓迎の意志を示しつつ、レコ協、芸団協が現在、放送番組の配信について著作隣接権の処理を集中的に行う仕組みを完成させつつある点を説明。権利処理の問題については、一元的な許諾システムの構築による契約の円滑化で解決すべき問題で、権利者の権利を弱めるような法改正で対応するべきではないとの意見を述べている。

 また、政府がIPマルチキャスト放送の活用を謳う背景には、2011年に行われる地上デジタル放送への完全移行に伴い、地上デジタルでの難視聴地域についてはIPマルチキャストで補完するという要素もはたらいているわけだが、現行の有線放送(CATV等)がいわゆる地域メディアとして免許されているのに対して、IPマルチキャストは全国をあまねくカバーできる広域メディアだ。5日に行われたヒアリングでは、この点を踏まえ、NHK及び民放連側から「IPマルチキャスト放送にも、現行のCATVのような、放送内容の同一性、地域限定性をもたせることが必要ではないか」との意見が出されている。

 これに関連して、例えば、現行のCATVで地上波番組が同時再送信される場合は、それが難視聴対策であることを前提に、音楽の著作隣接権者には許諾権はもちろん、報酬請求権も与えられていない。あるいは、かつてのスターデジオ問題でも明らかだが、ナレーションなどを差し挟むことなく、新譜を繰り返しデジタル音源のかたちで流し続けるようなサービス形態が多数出現したとしても、報酬請求権しか認められていない著作隣接権者には、それをコントロールすることができない。

 法制問題小委員会では、この問題について、以降2回の会合をもって議論し、6月上旬には何らかの結論を出して、パブリックコメント実施の後、7月上旬には報告書をまとめる見通しだが、IPマルチキャスト放送と有線放送とを同等な扱いにすべきか否かという議論の中では、前述の通りの権利者に与える影響が充分に考慮されなければならないだろう。クリエーターによる創造のための基盤となる権利を切り下げることは、まさに知的財産立国の方針に逆行するものに他ならないからだ。


 ■各インフラの仕組み





 ■著作隣接権者団体が準備を進める権利処理の流れ
 (レコード製作者の場合)
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