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『高畑勲展』 ハイジの家やアルプスのジオラマ、『なつぞら』と重なる展示も

 2日から東京国立近代美術館で『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したものTakahata Isao: A Legend in Japanese Animation』が始まった(10月6日まで)。戦後の日本のアニメーションの基礎を築いた高畑勲監督(1935〜2018)の業績を総覧する初の回顧展。常に今日的なテーマを模索し、自身では絵を描かず、それにふさわしい新しい表現方法を徹底して追求した高畑さんの天才的で緻密な仕事ぶりを、制作ノートや絵コンテなど初公開資料を含む現物や映像、音声ガイドなどを通して紹介する。

東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.

東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.

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 展示室内で、高畑さんの肉声を聞くことができるのも今回の回顧展の粋な演出の一つだ。また46年前、日本のアニメで初の海外ロケハン(スイス)を行ったことでも有名な『アルプスの少女ハイジ』(1974年)の世界を再現したジオラマや、ヨーゼフのいるアルムの山小屋の展示もあり、この2ヶ所は撮影OKとなっている。

 同展は4つの章立てで構成。「第1章 出発点」は、アニメーション映画へ人生をかけることになった情熱の“出発点”から振り返っていく。現在、NHKで放送中の連続テレビ小説『なつぞら』の視聴者には、ちょうどヒロインの奥原なつ(広瀬すず)が、アニメーターとして働く姿と重ねて楽しむことができるはず。

 高畑さんは1959年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、アニメーションの演出家を目指すことに。演出助手時代に手がけた『安寿と厨子王丸』(1961年)に関しては、新発見の絵コンテをもとに若き日の高畑が創造したシーンを分析。その新人離れした技術とセンスは、テレビシリーズの『狼少年ケン』(63〜65年)でもいかんなく発揮されていく。

 大量に発見された遺品の中から、かぐや姫の物語についてのアイデアノートも展示。監督として手がけた最後の作品『かぐや姫の物語』(2013年)に通じる原点が、すでに仕事を始めた当初にあったことには純粋に驚かされる。

 劇場用長編初演出(監督)となった『太陽の王子 ホルスの大冒険』(68年)においては、同僚とともに試みた集団制作の方法と、複雑な作品世界を構築していくプロセスに光を当て、なぜこの作品が日本のアニメーション史において画期的であったかが明らかになる。

 アニメーション映画の総合芸術としての可能性にますます魅了されていった高畑さんは「子どもの心を解放し、生き生きさせるような本格的なアニメシリーズを作るためには、どうしなきゃいけないのかということを一生懸命考え」るように。

 アニメーターの宮崎駿や小田部羊一とともに、東映動画からAプロダクション(現シンエイ動画)へ移籍した高畑さんは、『パンダコパンダ』(72年)を大ヒットさせる。さらに、73年にはズイヨー映像へ移籍、『アルプスの少女ハイジ』、『母をたずねて三千里』(76年)、『赤毛のアン』(79年)という一連のテレビの名作シリーズで新境地を切り拓いていった。

中川大志が案内する音声ガイドの利用をおすすめ

 「第2章 日常生活のよろこび」では、毎週1話を完成させなければならない時間的な制約にもかかわらず表現上の工夫を凝らし、衣食住や自然との関わりといった日常生活を丹念に描写することで、一年間52話で達成できる生き生きとした人間ドラマを創造していく。宮崎、小田部、近藤喜文、井岡雅宏、椋尾篁らとのチームワークを絵コンテ、レイアウト、背景画などによって検証し、高畑演出の秘密に迫っていく。

 『ハイジ』などはいずれも海外の児童文学が原作だったこともあり、高畑さんは映画『じゃりン子チエ』(81年)、『セロ弾きのゴーシュ』(82年)以降、日本を舞台にした作品に特化するようになる。この時期をまとめたのが、「第3章 日本文化への眼差し」。

 「日本人が日本のアニメーションを作る、とはどういうことか、いつも考えていました」という高畑さんは、日本の風土や庶民の生活のリアリティーを活写することを追究。1985年、設立に参画したスタジオジブリにおいて、『火垂るの墓』(88年)、『おもひでぽろぽろ』(91年)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94年)という日本の現代史に注目した作品群で、日本人の戦中・戦後の経験を現代と地続きのものとして語り直す話法の創造と、「里山」というテーマを展開した。

 最後の「第4章スケッチの躍動」では、アニメーションの表現形式へのあくなき探求が一つのゴールを迎えた喜びを共有できる展示となっている。実は、1990年代に絵巻物研究に没頭していたという高畑さん。日本の視覚文化の伝統を掘り起こし、人物と背景が一体化したアニメーションの新しい表現スタイルを模索し続けていた。

 その成果が、『ホーホケキョ となりの山田くん』(99年)と『かぐや姫の物語』に結実。デジタル技術を利用して手書きの線を生かした水彩画風の描法に挑み、従来のセル様式とは一線を画した表現を達成するに至った、美術への深い知識に裏付けられた高畑さんのイメージの錬金術をひも解いていく。

 高畑さんと時代を共にした仲間たちのインタビューも交えて、展示内容を解説する音声ガイドも聴き応えがある。『なつぞら』に坂場一久役で出演中の俳優・中川大志が担当しているのが、聞き取りやすく、語り口も心地よいものになっている。

■公式サイト
https://takahata-ten.jp

関連写真

  • 東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • パンダコパンダ/パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻(C)TMS
  • アルプスの少女ハイジのジオラマ(C)ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページhttp://www.heidi.ne.jp/
  • アニメーターの机 東映アニメーション所蔵=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『やぶにらみの暴君』=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 東映動画、『ぼくらのかぐや姫』構想メモ=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 東映動画、『ぼくらのかぐや姫』構想メモ=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『狼少年ケン』(C)東映アニメーションなどの資料=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『太陽の王子 ホルスの大冒険』の展示コーナー(C)東映=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『太陽の王子 ホルスの大冒険』の展示コーナー(C)東映=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『太陽の王子 ホルスの大冒険』の展示コーナー(C)東映=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 『太陽の王子 ホルスの大冒険』の展示コーナー(C)東映=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.
  • 奈良美智のドローイング作品《鳥への挨拶》24点(C)YOSHITOMO NARA 2006=東京国立近代美術館で開催中の『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの』 (C)ORICON NewS inc.

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