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外国人漫画家が語る自国の“日本漫画&アニメ”事情 産業としての成熟はこれから

 現在、日本のカッコいい(かわいい)ファッション、食などさまざまな文化が海を越え、中でもアメリカやフランス、ブラジルなど一部の国では日本の漫画やアニメの大規模なイベントが行われて盛り上がっている。コスプレイヤーや、アニメグッズを身に付けたファンが会場に駆けつける映像を見たことがある人も多いはずだ。「日本のアニメや漫画が世界的に人気」というイメージが我々のなかに刷り込まれつつあるが、果たしてほかの国・地域ではどうなのか。そこで漫画アプリ『comico』で『めぐみの恋愛事件簿』などを連載していたロシア人のコシタ氏、『Red Poison -レッドポイズン-』などを連載していたドイツ人のダビ・ナタナエル氏(以下、ダビ氏)、4年前からベトナムに在住し、現在、『ばぶらぶ』を連載中の日本人のさやえんどう氏の3人の作家に、現地の漫画・アニメ事情や漫画家を目指したきっかけなどを聞いてみた。

『comico』で連載経験を持つ(左から)コシタ氏、ダビ氏 (C)comico

『comico』で連載経験を持つ(左から)コシタ氏、ダビ氏 (C)comico

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■日本アニメ&漫画ブームのきっかけは… 道を開いた『セーラームーン』

 コシタ氏とダビ氏は日本のアニメを見て衝撃を受け、そこから日本の漫画を読み始め漫画家を志す。しかし、自国に描き方を教えてくれる人がいないため来日し、専門学校に入学して基礎を学んだのち、『comico』で連載するまでになった。コシタ氏は、通っていた大学を中退して漫画を描きたい一心で来日した熱いハートを持つ女性。ダビ氏も大手出版社に持ち込みをして、講談社『ヤングマガジン』と集英社『スーパージャンプ』で新人賞受賞歴もある。子どものころ熱中していた日本のアニメや漫画は、自国ではどういう盛り上がりだったのか。

【コシタ】
 1996年に『セーラームーン』が放送されているのを見て、アニメや漫画が好きになりました。それまでも日本のアニメはたまに放送されていたのですが、ブームになった作品はこれが初で、アニメ好きな人が増えました。そこからポケモンブーム、インターネットの普及で、アニメのほか漫画の情報も得られるようになりました。90年代のロシアは漫画雑誌やグッズ店はなく、ネットを通して“漫画”という存在を知り『なにこれ!!』と衝撃でした。日本の漫画を読む時は、友人が手に入れた物を読むのですが、それはせりふが日本語。それをロシア語に翻訳して読んでいましたね。日本の漫画は宝物を見つけたような印象でした。

【ダビ】
 ドイツで人気となった作品は『セーラームーン』で、90年代の中盤から後半くらい。それ以前にも『フランダースの犬』『アルプスの少女ハイジ』といった日本のアニメは放送されていました。でも、ヨーロッパを舞台にした作品ばかりで、視聴者としては「ジャパニーズアニメ」の認識はなくブームにはなりませんでした。ですが、『セーラームーン』は、日本の名前で日本を舞台にした作品というのを全面的に出していた。そこで「こういう絵柄は日本なんだ」とわかりました。

 それに加えて吹替えの声優さんが好評でした。その時、作品に関わっていた1人が、ドイツと日本人のハーフの方で(吹替えの)脚本を書いていたんです。日本版を忠実に再現していたみたいで、そこがヒットした要因かも知れません。そこから『ポケモン』や深夜帯のアニメ枠も設けられてきて『エヴァンゲリオン』などが注目され始め、アニメ&漫画の文化が根付いてきました。図書館に行くと『らんま1/2』などが置いてあって、CLAMP作品の『カードキャプターさくら』『魔法騎士レイアース』も人気です。

■現在の各国アニメ&漫画事情 職業としての「声優」に注目も

【コシタ】
 今は日本の漫画の単行本はありますが、どの書店にもあるわけではなく、漫画雑誌は見かけないです。05年ごろに『らんま1/2』が出版され、次々と日本の大ヒット作品が読めるようになってきて、6年くらい前から生活に漫画がなじんできた気がします。でも、国内でロシアの漫画雑誌というのは見かけないですね。私と同じように「どうしても漫画を描きたい」人が集まって出版している雑誌が年に数回出る程度。連載物ではなく、読切漫画です。アメコミ雑誌は定期的に出版されていますが、漫画家という職業の文化は根付いていないですね。

アニメ関連のイベントも、大規模に行われている印象はないです。大人にアニメや漫画のことを話しても「?」で、若い人にしか伝わらない。『セーラームーン』が放送された際、大人は「子どもが見るものじゃない」「アニメを見ると頭が悪くなるよ」というイメージがどこかにありました。その中でも映画『千と千尋の神隠し』が公開された時は、大人の間でも評価が高くなり、日本のアニメは大人も子どもも楽しめるものとして徐々に認知されてきているように感じます。

【ダビ】
 12年前くらいは日本の漫画雑誌をモデルにした雑誌はありましたが、逆に今の方が見かけなくなりました。ドイツでは雑誌が売れないこともあり、定着しなかった。アニメもテレビでの放送は減ったような気がします。それはNetflixやAmazon Primeなどが台頭してきて、日本のアニメ作品が比較的早く見られるようになったから。ドイツ人のアニメや漫画ファンは、テレビや雑誌で見るより、ネットを通じて見るという文化が根付いてきています。彼らはお金がないので、Netflixのような定額ですべて見られる媒体が普及したのかなと感じます。でも、ロシアと同じくアニメや漫画は若者にしか受け入れられていないですね。

 面白いのが「声優」という職業が今、注目されてます。映画の吹替えは以前からありましたが、俳優の家庭で育った子が声優をやるイメージでした。昔、アニメは「子どもが見るもの」ということで吹替えも適当でしたが、『セーラームーン』をきっかけに、「声優になりたい!」というアニメファンの声が増えました。かつてはエンディングのクレジットに名前が載らなかったのですが、今は載るようになっています。子どもがというより、物心がついてから憧れる職業です。

 フランスほど大規模ではないですが、アニメ・漫画関連のイベントは私が来日する13年前くらいに比べると増えてきてますね。デュッセルドルフは日本人が多い街で、日本の文化を学ぶ「日本デー」というお祭りが毎年5月にあります。最初は着物の着付けや華道、茶道、食文化など伝統的なものを学ぶ場所でしたが、今ではアニメや漫画グッズが置いてあったり、ファンもコスプレをして来ます。街全体がコスプレイヤーだらけになるので、コミケみたいな感じになっています(笑)

【さやえんどう】
 日本の漫画文化は10年以上前からあるそうで、ベトナムの方によく「日本の漫画知っているよ! ドラえもん」と話かけられます。詳しく話を聞くと『ドラえもん』は、子どもが文字を覚え始める時に、お父さんお母さんに「読んで」とおねだりするみたいです。絵本ではなくコミックスで、文字は理解できなくても絵だけで楽しんで絵本感覚でふれ合っているようです。

 日本の漫画雑誌はないのですが、コミックスはコンビニや書店で普通に売られています。4年前の書店は『ドラえもん』『ワンピース』『ドラゴンボール』くらいでしたが、最近は『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』『ポケモン』(関連書籍)などが目立ってきて、特設コーナーができています。書店の売り場が小学校の教室くらいで、以前は日本の漫画を置いてあるのが棚1つ程度だったのが、今は売り場の半分くらい占めるようになってきています。 ベトナム人の友人に聞いたら『ドラえもん』『忍者ハットリくん』『オバQ』『ワンピース』『NARUTO -ナルト-』『ドラゴンボール』のテレビアニメが繰り返し放送されているみたいです。教育に悪い影響を与えない作品を見る機会が多い印象です。幼少時に『ドラえもん』を読んでもらい、少し成長して『ドラゴンボール』を見る。ただ、大人になって漫画やアニメを見るかといったら、そうではない。あくまで子どもが見るものとして存在している印象。20代の子に聞いても「小さいころは見てたけど、今は見ていない」と。放送時間も深夜帯ではなく、朝や昼と子どもが見やすい時間帯。共産主義国というのもあるかもしれません。

 ベトナムに住んでいる欧米人、南アフリカ人の方とお会いした際、「任天堂の創設者に会うのが僕の夢なんだ!」と熱弁する人もいました(笑)。ただ、ベトナム人の方から、そこまでの熱量を感じることはないです。『ドラえもん、ドラゴンボール知っているよ』程度で、熱心なファンはいない印象ですね。『アニメイト』のようなグッズ店もそう多くはないです。

■アニメ&漫画文化は発展を予想も「自国の文化・漫画家の台頭はまだ難しい」

 3ヶ国とも、日本の漫画やアニメが受け入れられているのは20代くらいまでと言えそうだが、これからの盛り上がりと、自国独自の漫画とアニメの文化の発展はどう考えているのか。

【コシタ】
 漫画やアニメが浸透してきても、現状は漫画を描くことを教えてくれる人はいません。アメコミ担当者が講演会を開いたりしていますが、専門学校のようなものはないですね。大学でようやく日本の文化を学ぶコースができて、そこで漫画の文化を学ぶ程度。ですが、これから生まれてくる子どもは、生活の一部にアニメや漫画があることが当たり前になるでしょう。イベントもこれから増えて、来場者数が伸びると思います。ただ、ロシア国内での漫画雑誌、漫画家が誕生するのはまだ先かなと感じています。

【ダビ】
 ドイツ人の漫画家は増えていますが、それだけで生活している方はおそらくいません。漫画家としての主な収入源は単行本の発行のほか、同人誌を描いたり、SNS上でファンからイラストやグッズの注文を受けていて、日本でいう同人作家に近いと言えます。

 現在、漫画家を育成する専門学校などはほとんどありませんが、ワークショップはあります。私は日本で連載していたこともあり、ドイツに戻って2週間くらいで講師としてのお話をいただきました。漫画の描き方を教えていますが、実際に「本気で漫画家になりたい!」という子はまだいないですね。そもそも漫画家になる方法を知らない。日本で語学や描き方を学ぶのはすごく高いハードルですし、私も父親から今でも「安定した職業はいつ就くの?」と言われていますので(笑)。

 今後も漫画やアニメはネット配信で普及すると思いますが、漫画に関して言えば作品が多すぎて埋もれやすくなっている。誰でもSNSなどで発信できるということで、作品のレベルは全体的に落ちています。なので、ここに日本の出版社の必要性を感じます。持ち込みに行って、アドバイスをもらって描き直して、連載会議まで登っていく過程。私も集英社や講談社へ持ち込みに行きましたし、そこで必然的に漫画家の画力などのレベルが上がる。雑誌に掲載されなければ収入を得られないですが、もし、最初から自分でネット配信して、ファンが付いたら過信してしまう。「俺、漫画家だ!」みたいな。真の漫画家を名乗るのはそう簡単なことではないことを伝えたい。漫画文化が浅い国だからこそ、『ジャンプ』『マガジン』の編集者からアドバイスをもらえたことは貴重でした。

【さやえんどう】
 今の若い子たちは、小さいころに日本の漫画やアニメと接して、日本が身近になっています。自国の経済状況は給料が高くなってきていますが、大学卒業後の基本給が約5万円、コンビニの時給が100〜200円くらいなので、外資系に就職を希望する子が多い。そこで、英語や日本語を学ぶ一環としてアニメや漫画を使い勉強しています。ですので、アニメや漫画の文化はこれからも普及すると思います。『エヴァンゲリオン』のような年齢層が高い作品は浸透していないだけで、まだまだ伸びる可能性がある。売り場の拡大も見ると10年後が楽しみですね。

 美術大学は存在していて、絵を描く文化は浸透していますが、今はまだ漫画がそこの分野には入っていません。漫画家がたくさん登場するのは、まだ先かなという感じはします。

 各国の話を聞くと、日本の漫画・アニメの受容は浸透度の違いはあれど確実に進んでいるという印象。一方、漫画・アニメの“生産”という側面を考えると、学ぶ場やチャンスの不足、収入の問題など産業として成立・成熟するにはまだまだ先は長い。日本が今後コンテンツのみならず、生産から消費までの産業全体を外国へ輸出することができれば、海外のシーンも一層活気づくかもしれない。この点は発展途上の課題として今後も動向に注目していきたい。

関連写真

  • 『comico』で連載経験を持つ(左から)コシタ氏、ダビ氏 (C)comico
  • ドイツ人漫画家のダビ氏(C)comico
  • ロシア人漫画家のコシタ氏(C)comico
  • ベトナム在中の日本人漫画家・さやえんどう氏のプロフィール画像 (C)comico
  • ダビ氏の作品「ワークらぶ〜」(C)comico
  • ダビ氏の作品「Red Poison -レッドポイズン-」(C)comico
  • コシタ氏の作品「めぐみの恋愛事件簿」(C)comico
  • コシタ氏の作品「悪魔なお仕事」(C)comico
  • さやえんどう氏の作品「ばぶらぶ」(C)comico
  • ベトナム書店の漫画売り場の様子 (さやえんどう氏提供)
  • ベトナム書店の漫画売り場の様子 (さやえんどう氏提供)
  • ベトナム書店の漫画売り場の様子 (さやえんどう氏提供)
  • ベトナム書店の漫画売り場の様子 (さやえんどう氏提供)
  • ベトナム書店の漫画売り場の様子 (さやえんどう氏提供)

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