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日本のエンタメは中国を攻略できるか 「旬ものを旬のうちに」届ける企業の戦い

 「クールジャパン」の名を冠した官民ファンドが立ち上がり、日本文化の輸出が本格的に推進され始め早5年。食・工芸・エンタメ、さまざまな海外展開がこれまで進められてきたが、その成果には厳しい意見も多い。中でもアジア、そして世界最大の商業圏を有する隣国・中国への展開は、残念ながら韓国勢の猛攻に後塵を拝している。そんななか、中国における日本のエンタメ輸出でひとり気を吐く企業が、現地に居を構える「アクセスブライト」だ。2016年に劇場アニメ『君の名は。』を中国で大ヒットさせ、同国でRADWIMPSきゃりーぱみゅぱみゅら日本の人気アーティストの公演をアリーナクラスで次々手がけるなど、日本の旬なエンタメの展開に成功している。12月には上海で乃木坂46初の海外単独アリーナ公演も決定した。どこか“近くて遠い”、それでいて莫大な市場を抱える同国で日本のエンタメが存在感を増すヒントを探るべく、代表取締役の柏口之宏氏に話を聞いた。

アクセスブライト・代表取締役の柏口之宏氏

アクセスブライト・代表取締役の柏口之宏氏

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●日本のエンタメを中国に持ち込む難しさとは

 柏口氏は新卒でセガに入社し、15年間同社で勤務。最後の4年間(2002〜06年)をセガチャイナの社長として中国に駐在したことをきっかけに、07年、日本のゲームタイトルを中国で展開する企業・アクセスブライトを現地で起業した。「創業の動機としては、セガにいると当然セガのプロダクツしか扱えないわけですが、一方ほかのゲーム会社も急成長する中国市場へ注目し始めている時期でした。そこで私の4年間の経験が大きく生きるのではないかと、思い切って独立しました」。

 その後15年11月、中国最大手の映画配給会社・エンライトと提携したことが大きな転機となる。映画と比べIP(知的財産)輸出に伴うローカライズが格段に複雑なゲームの世界で実績を積んだ点が評価された。日中の映画ビジネスでは「中国側が日本の版元と直接の交渉・取引するのもなかなか難しくて、エンライトのように大きな民間会社ですら、日本の映画会社と過去に何度も交渉しながら途中で破談になったり、契約しても途中頓挫してるケースが多かった。海賊版への警戒感なんかも常にありますから」と、両国間を取り持てる存在が求められていた。

 台湾では日本のエンタメが以前から積極的に消費されているイメージもあるが、中国本土での立ち位置はどうなのか。「まず中国本土と台湾はまったく別のマーケットですし、もはや完全に“違う国”。圧倒的な親日エリアの台湾と、ともすれば反日に傾きかねない中国。一方でマーケットの規模は当然、圧倒的に中国本土ですから。では中国で日本のコンテンツがどう評価されているかというと、13億人も人口がいるので“頭数”としては多くファンがいるように見えます。ただ、割合からいうと正直ニッチで、欧米や韓国のコンテンツが圧倒的に多いのが現状なんです」。

 中国本土で日本のエンタメコンテンツを扱う難しさを聞いてみると、2年連続で開催したRADWIMPSの公演を例に挙げた。「昨年初めてRADWIMPSのライブを行いましたが、中国では集会なんかを警戒されるので、当日歌いたい曲を全て事前申請するわけです」。昨年の申請では最初3曲が落とされてしまったそうだが、今年は全て一発パスできたという。「(当局への)エンタメコンテンツ特有の翻訳ノウハウの一つなんです。『前前前世』の歌詞の“革命”という言葉もまともにいったらアウトですが、そういう部分をやりくりするノウハウが日を追うごとに培われてきています。こうした作業はとにかくスピードが命です」。

●「旬ものを旬のうちに」…『君の名は。』ヒットが示した中国攻略のヒント

 柏口氏の言う「スピードが命」とはどういう意味なのか。16年、同社が中国での配給権を獲得した『君の名は。』は約5.8億元(94.5億円)の大ヒットを記録したが、「大当たりした背景の一つに『(日本の)旬ものを旬のうちに』現地へ持っていけたことが大きい」と柏口氏は指摘する。現地のトレンドを的確に捉えるマーケティングや、旬を逃さない迅速なローカライズ作業など、さまざまな経験値がそこには必要とされる。

 「我々はあの映画を日本で絶賛上映中の時に中国へ持っていきました。東宝さんにもご理解いただき、契約と並行して字幕や吹替え作業、(中国)政府への申請作業などをやってくださった。通常の杓子定規な流れだと、契約を締結してお金を振り込み、映像素材を渡して政府への申請許可を済ませてから作業に入る。でも、そんなことをしているうちに、今までは旬が過ぎてしまっていた。あの作品でそれを並行してやらせていただいたことはありがたかったし、僕らもそれをやれるだけのノウハウがゲームのビジネスで蓄積されていたのです」。

 『君の名は。』の成功はそのままRADWIMPS公演の成功にも直結する。「RADのメルセデス・ベンツアリーナ公演は昨年6500人、今年8500人キャパをソールドアウトできましたが、これも“旬のもの”を届けられたからです。過去のアジアツアーは500〜1500人規模だったそうですが、『君の名は。』のヒットもあり、我々は責任を持って6500人を提案させていただきました。先方も最初は気が引けていましたが(笑)、実際は過去のアジアツアーの10倍の規模で成功できた」。

 また、大箱をソールドアウトしたことで新たな展開も生まれたという。「小さなライブハウスでやるだけでは現地メディアはいちいち取り上げてくれません。しかし、大箱をやるとアーティストにも箔が付き、メディアに対するブランディングが効いてくるんです。RADWIMPSすごいなと。確かに、最初はリスクを伴いますが、そこを我々が身を挺してプロモーションし成功できると、こうして次の展開が見えてきます」。

 日本のトレンドを“旬のうちに”輸出する重要性。柏口氏は「中国のユーザーは今、目も耳も肥えまくっている」と何度も強調した。

 「かつて(2000年以前)の日本は、携帯電話でも電化製品でも一世代古い製品を“新製品”として中国で売っていた。当時はインターネットも整備されていなかったので、そういった“上から目線”がまかり通っていたんですよね。しかし、今では当然、そんなごまかしは通用しません。『君の名は。』もRADWIMPSも、“旬もの”を持っていけば中国のユーザーは受け入れてくれるわけです。今、韓国の人気アーティストには、スタジアムクラスの会場で中国公演ができる人たちもいるわけで、この先、我々としてはぜひ日本からもそういうアーティストが出てくるよう、プロモーションしていきたいですね」。

●海賊版対策の必要性と新たな“困難”「大変なのはこれから」

 一方、現地でウケる“旬もの”を把握する上で、中国特有の海賊版問題が避けて通れない課題になるという。同社が『君の名は。』の中国配給に乗り出せた背景には“図らずも”現地の海賊版マーケットの動向が判断材料の一つになったといい、もどかしい実情もあるようだ。柏口氏は「当然、海賊版を認めるわけにはいきませんが」と前置きした上で、次のように明かした。

 「僕らは日本で当たる前に『君の名は。』の中国配給契約に踏み切りました。なぜかというと、中国では新海誠監督の過去作品が海賊版で流通した結果、非常に熱心なファンが一定数いるという情報をつかんでいたからです」。

 また、「そこに我々が正規品を持ち込むことで潜在的なマーケットが“正規ルート”で顕在化できると踏んだわけです。ふたを開けたら新海ファンが大挙する結果でした。図らずも、海賊版対策が追いつかなかったコンテンツが実は現地で認知度が高いという皮肉な現実があるのも事実です。日本で大人気のコンテンツほど海賊版対策を万全にして、中国でまったく知られていない、というケースが実は多いのです」。

 今後、中国当局の海賊版対策は新たなフェーズに突入すると柏口氏は予想している。「これから中国で自前のコンテンツが育ってきた時、自国のクリエイターを保護するために海賊版は一層排除する必要が出てきますよね。アニメ・映画・音楽と、中国が世界で戦えるものを作るようになったら、自国のクリエイターに利益を還元するため、徐々にクリーンにせざるを得なくなってくると思います」。

 しかし、海賊版の駆逐だけでなく、自国アーティストの保護に中国政府が本腰を入れた時、日本のエンタメが入り込む余地は更に厳しいものになるだろう。「私が今最も危機感を抱いているのはその点で、中国本土で日本のIP展開が大変になるのはこれからなんです」と柏口氏も厳しい表情をみせた。海賊版だのみでマーケティングを組み立てるわけにはいかない。だからこそ、現地のトレンドを迅速に把握するために何をすべきか、どう施策に落とし込むか、その手法の確立が日本のエンタメ業界全体で課題となるだろう。

●乃木坂46、2.5次元…さらなるシナジーを生む挑戦へ

 本来、このような中国本土でのエンタメ戦略は「クールジャパン」を掲げる政府が先陣を切るべき仕事とも思える。その点について聞いてみると、「僕らはベンチャー企業ですが、『クールジャパン』のプロジェクトは税金という衆人環視下にあります。なので、僕らは確かに『クールジャパン』のテーマど真ん中をやってますが、やっぱり政府的には百貨店や大手飲食チェーンなどに投資するほうが安全・安心というのはあるでしょうね。本来『クールジャパン』プロジェクトはリスクマネーであるべきですが、投資責任者的にはどうしても大企業優遇になってしまうのでしょう。我々としては正直、お金を出してほしいなという思いはありますよね(笑)」と、複雑な思いもあるようだ。

 同社は今後も、乃木坂46のメルセデス・ベンツアリーナ公演や、2.5次元舞台の輸出、日中合作の大作映画への取り組みなど、意欲的なプロジェクトが続々と控える。柏口氏は「2.5次元舞台などはビジネスとしてまだ試験的なフェーズですが、僕らは着々と場の提供をして、日本のIPが中国で人気を獲得し、メディアミックスされ、あらゆるシナジーが生まれるよう仕掛けていきます」と展望を語ってくれた。

 「僕らも日系企業なので、中国で戦うには不利なポジションにいるのは確かです。コスト高や労働争議などのリスクもある。ただ、日本人が中国で起業したことの優位性として、日本の版元さんから信頼してもらえるアドバンテージがあって、それで今まで生き延びてこられたというのはあります。今後も中国にへばりついて、カントリーリスクを乗り越えた先に蓄積されたノウハウが大きなものになっていると信じて進んでいきたいですね」。

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