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「無駄なアイデアなどない」可能性の宝庫 ピクサーの“秘密の場所”に潜入

 おもちゃの世界を描いた『トイ・ストーリー』(1995年公開)から長編20作目『インクレディブル・ファミリー』(公開中)まで、ヒット作を世に送り出し続けるピクサー・アニメーション・スタジオ。その創作の秘密を探るべく、約2年前に新設されたアーカイブ施設を見学させてもらった。セキュリティーの都合で外観や周辺の撮影はNGだったが、内部で保管されている貴重な品々を写真とともに公開する。

ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されていた、スティーブ・ジョブズがルーカス・フィルムのコンピュータ関連部門を買収したことを伝える新聞記事(C)KaoriSuzuki

ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されていた、スティーブ・ジョブズがルーカス・フィルムのコンピュータ関連部門を買収したことを伝える新聞記事(C)KaoriSuzuki

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 案内をしてくれたのは「ピクサー・リヴィング・アーカイブス」部門のクリスティーン・フリードマンさん。「私たちの秘密の場所にようこそ。ここは約2年前にアーカイブ施設にカスタマイズしたんですが、以前は倉庫だったんですよ」と説明をはじめた。

 「私たちはこの建物を『クィーンズ』と呼んでいます。エメリービル(米カリフォルニア州)のキャンパスには、故スティーブ・ジョブズ氏を追悼して命名されたメインオフィスの『ザ・スティーブ・ジョブズ・ビルディング』のほかに、建物ごとに『ウエスト・ビレッジ』『ソーホー』『ブルックリン』と名付けられているんです。そう、すべてニューヨークにちなんでいます。『クィーンズ』もその流れなんですが、このアーカイブス部門のスタッフはほとんどが女性だからちょうどいいな、と思っているんです」。

 まず、案内してくれたのは、オリジナル・アートワークを保存している一画。「ピクサーのアーカイブは、映画作りのすべての過程で描かれたアートワークを集めて保管しているんです。例えば、マイク・ワゾウスキー(『モンスターズ・インク』のメインキャラクター、一つ目で緑色をしている)が、オレンジ色をしていた初期のアートワークも残っているんですよ」。

 アートワークだけでなく、ストーリー部門やエディトリアル部門のスタッフが書いたメモやノートなども残っている。「改訂されていく脚本のすべてを残しておくんです。後々、新たなストーリーづくりの助けになるかもしれませんから」。

 次に、スカルプチャー(彫像)を保管している一画へ。そこで見せてくれたのは、『トイ・ストーリー』でオモチャをぞんざいに扱っていた少年シド・フィリップスの頭部。「このスカルプチャーはオリジナル素材(ウレタン樹脂)でできています。形を整え、硬化後はかなりの熱に耐えられる素材です。スカルプチャーにグリッドを描き、これをコンピュータに取り込んで、キャラクターを作っていったんです」。

 続いて、案内されたのは、『トイ・ストーリー』以前のコーナー。「スティーブ・ジョブズがルーカス・フィルム・ユニットを買う」といった新聞記事(1986年2月8日付け、サンフランシスコ・クロニクル紙)の切り抜きも大切に保管されていた。

 「『トイ・ストーリー』以前のピクサー歴史としては、1974年まで遡ることができます。エドウィン・キャットマルの革新的な功績を伝える記事などです(ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ及びピクサー・アニメーション・スタジオの現社長。1974年に作成したCGアニメーションがSF映画『未来世界』で使われた)」。

 キャビネットには、ジョブズがルーカスフィルムの子会社インダストリアル・ライト&マジックのコンピュータ関連部門を買収し、「ピクサー」が誕生した当時に製造していた「ピクサー・イメージ・コンピューター」(ハードウェア)のマザーボードや、ピクサーが開発したレンダリング用ソフトウェア「レンダーマン」が保管されていた。

 現在、公開中の『インクレディブル・ファミリー』の前作、『Mr.インクレディブル』(2004年)に関するアートワークの数々も見せてくれた。ルー・ロマーノ氏(『レミーのおいしいレストラン』や『Mr.インクレディブル』に声優として参加しているが本業は美術スタッフ)のアートワークや、キャラクターデザインを手掛けたテディ・ニュートン氏の「コラージュ」など。

 「最新作の『インクレディブル・ファミリー』を担当するアーティストたちが、前作のアートワークを見せてほしいと、ここにやって来ました。興味深いことに、前作では最終的に使われなかったキャラクターを探しに来たんです。彼らはよく、過去の作品でボツになったネタを探すんです。新作に取り入れたらうまくいくかもしれないからって。『トイ・ストーリー3』に登場したロッツォ・ハグベア(ピンク色のクマのぬいぐるみ)がまさにそうでした。1991年か92年頃に描かれて、お蔵入りしていました。彼を登場させるのに最適な場所を見つけるまでに、数本の映画が必要だったんです」。

 『Mr.インクレディブル』『インクレディブル・ファミリー』に登場するカリスマ・デザイナー、エドナ・モードのボツになったキャラクターデザイン案も残されていた。それは、実際に映画の中に出てくるエドナとは、まったくイメージの異なるビジュアルで、日本人とドイツ人のハーフにはおよそ見えないものも。しかし、さまざまな試行錯誤の上に、作品が作られていることがよくわかった。

 そして、「無駄なアイデアなどない」ということも。「仮に、ある作品のために思いついたアイデアがボツになったとしても、誰かがそのアートワークに恋をして、それを生かして新しい何かを作ろうと思う可能性はあるのです」。

 冗談半分に、「デザイナーが描いていた途中で、ダメだと思って丸めてゴミ箱に捨てようとしたものも拾って集めている」と言っていたが、半分は本気。それくらい、アーティストたちのちょっとアイデアを大事にし、いつか役に立つかもしれないと考える“貪欲さ”に、ピクサー・アニメーション・スタジオの底力を感じた。

関連写真

  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されていた、スティーブ・ジョブズがルーカス・フィルムのコンピュータ関連部門を買収したことを伝える新聞記事(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・リヴィング・アーカイブス部門のクリスティーン・フリードマンさん(C)KaoriSuzuki
  • 「ピクサー・イメージ・コンピューター」のマザーボードや、ピクサーが開発したレンダリング用ソフトウェア「レンダーマン」も保管(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
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  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki
  • ピクサー・アニメーション・スタジオのアーカイブ施設に保管されている『Mr.インクレディブル』関連のアートワーク(C)KaoriSuzuki

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