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いとうせいこう、多岐にわたる活躍の秘訣は“HIP HOP脳”

 タレントのいとうせいこうが、日本語ラップの先駆けとなった歴史的名盤『建設的』でデビューしてから30年。それを祝して、いとうを取り巻く多彩なアーティストが集結する『いとうせいこうフェス』が、9月30日と10月1日に東京体育館開催される。編集者を経験後、日本語ラップの先駆者のひとりとして活躍。さらには作家、舞台役者、プロデューサー、タレントとしても活動。様々なジャンルで活躍するには、“HIP HOP的な考え方”が根底にあると言う。いとうせいこうの多岐に渡る活動の根底となる“HIP HOP脳”とはいったいどんなものなのだろうか?

日本語ラップの先駆けでもあるいとうせいこう (C)oricon ME inc.

日本語ラップの先駆けでもあるいとうせいこう (C)oricon ME inc.

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◆僕にとってのHIP HOPは小説でもあるし、芝居でもある

――30年前『建設的』を作った頃のいとうさん自身、そして音楽業界はどんな感じだったんですか?
【いとうせいこう】アルバムを出した85年はいわゆる輸入盤のレコード屋が出てきたぐらいで、新しい音楽になかなか触れられない。だから僕の場合、FENっていう米軍が聴いている放送の中でHIP HOPを初めて聴いたんだけど、なんの音楽なのかよくわからなかった。でもすごい良かったっていう印象だけはあって、そこから“想像”をするし、それを元に“創造”して変なことが起こる時代だった。だから『建設的』は想像と創造の産物なんです。ちなみにこのアルバムの前に作った『業界くん物語』の中で、3人のDJがスクラッチしている曲があるんだけど、これは当時としては画期的なスタイル。多分、日本に6人ぐらいしかスクラッチをできる人がいなかったんじゃないかな。

――“スクラッチ”って言葉すら誰も知らなかったですよね。
【いとう】 そうそう、何やってんの?って(笑)。で、やるほうはどうやれば針が飛ばないとか、マイクの音とDJの音が混ざらないんだろうとか、いろいろ差し替えてみたりして。

――いとうさんのように、メインストリームからアンダーグラウンドまで網羅して活動をしている人って他にいないですよね?
【いとう】 昔はそういう人はいたんですよ。僕はそういう先輩たちを見ていたからそれを当たり前だと思ってやっていたけど、だんだん取り残されちゃって。ひとつのことしかやっちゃいけないの? みたいな世の中になって。コツコツと同じことをやっていると、自分自身も作るモノもおもしろくなく見えてきちゃう。でも研鑽(けんさん)を積むことも必要じゃないですか。そうすると方法はひとつしかなくて、1日の中でいろんなジャンルを平行してやり続けるしかない。そうすれば飽きないし、努力もできる。例えば朝から小説を書いて、夕方からはバラエティ収録に行って、楽屋でゲラを直すとか。で、バラエティで誰かの言葉がおもしろくて、これは何かのキャラクターに使えるなって頭の中に入れて家に戻ってくる。そうすると知り合いのバンドから音源が届いていて、じゃあ16小節のラップを書く……これなら基本的に飽きないわけですよ。

――すごい。1日が50時間ぐらいあるみたいですね(笑)。
【いとう】 このほうが逆に効率がいいんです。体を使う作業が多くなってきたら、ちょっと座って原稿を書くとか、そうすると変化が出るじゃないですか。それはもう、うまくできたシステムだなと。

――“せいこうシステム”ですね。
【いとう】 そう。どんどん別のところに枝葉を広げていく。でも企画はそれぞれ動いていて継続性はちゃんとあるんですよ。

――感性が枯渇せず途切れないのも、そうやって多彩なジャンルを平行してやっているからなんですか。源泉を自分の中だけに求めるのではなく、いろんなものから引き出しているというか。
【いとう】 そうだと思いますよ。小説のほうに脳はいっていたのに別ジャンルの音楽に充電されるっていうか。そうやって違う角度から活性化されたり切れ味を与えてもらうことは多々あって、どういう回路かわかんないけどこれは不思議なんですよね。HIP HOPっていろんな音楽がトラックになるからHIP HOPなのであって、それと同じ考え方で僕にとってのHIP HOPは小説でもあるし、芝居でもある。すべて切り貼りで、それがどうも僕の脳の中では繋がっていて別ジャンルが必要なタイプの脳みそになっているんでしょうね。でも人は本来、そうなっているはずなんです。

◆すべてが“HIP HOP=切り貼り仕様”的な思考 紫式部もHIP HOPなんです

――脳味噌そのものが本来“HIP HOP=切り貼り仕様”になっていると。
【いとう】 だから僕は初めてHIP HOPを聴いたとき、こんなおもしろい音楽があるんだって衝撃を受けたんです。あらゆるものを引用して混ぜて、スクラッチして、その上にさらに人の言葉を引用しながらラップしていく、こんなものがあるんだ! って。でも平安の歌人も同じことをしていたんですよ。恋文が五・七・五できたら七・七・五で返すとか、フリースタイルと同じで、紫式部もHIP HOPなんです。そうなると何が一番楽しいかって無駄なものは何ひとつないってこと。例えば営業で話す言葉や企画の切り口って、実はその人が生きてきた、寄り道してきた中で脳が1回、スパークして出てくるもんなんですよ。だからマーケティングだけを勉強したマーケティングと、いろんなことをしてきた人のマーケティングでは全然、脳の中でもスパイスが違う。

――どんな職業でも頭の使い方や寄り道の仕方で“マルチクリエイター”になれるわけですね。
【いとう】 アウトプットの違いだけですよね。僕の場合はインプットしてきたものをこれは芝居に使えるなとか、これはラップにいいかなとか、アウトプットをいろいろ変えているだけ。だから音楽をひとつ聴いても“何でオレはこれが好きなんだろう?”って考えることが大事です。それが何かを表現するときの要素のひとつになるから。

――いろんな活動をされていても、やはりいとうさんの中でHIP HOPが全てのベースなんですね。
【いとう】 僕の場合、ミュージシャンじゃなかった人間が音楽をやったわけですからね。でもそれって文明の流れというか。まさにアマチュアリズムで、『建設的』を出した当時はアマチュアがセンスだけでプロより上にいっちゃうっていう時代の始まりだったと思うんですよ。僕はそれが革命みたいで好きだから、自分はずっとそっち側の人間でいたい。そういう荒々しい無知というか、どうしようもない素人臭さみたいなものが僕の中でひとつの興奮要素になっているんですよ。

(文:若松正子)

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