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6つ子が愛される6つの理由

 15年10月よりテレビ東京ほかで放送中のTVアニメ『おそ松さん』の勢いがスゴイ。ご存知、赤塚不二夫の名作ギャグマンガ&アニメ『おそ松くん』の“数年後”がコンセプトとなっている本作では、20歳を過ぎた6つ子たちのドタバタな日常がユーモアたっぷりに描かれている。デザインも少年向けのナンセンス・コメディだった旧作から、女性をターゲットにしたブラック・コメディへと変貌。毎話ギリギリのネタで、文字通り6つ子が暴れまわっており、その度を越したハイテンションぶりは、かの赤塚先生も草葉の陰で苦笑しているのではないかと考えてしまうほどのものだ。

“侍ジャパン”こと野球日本代表チームと『おそ松さん』がコラボ。3月に行われるチャイニーズ・タイペイ戦2試合の一部観戦席が「おそ松さんシート」として販売。このチケットを購入すれば、オリジナルグッズを入手できる(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

“侍ジャパン”こと野球日本代表チームと『おそ松さん』がコラボ。3月に行われるチャイニーズ・タイペイ戦2試合の一部観戦席が「おそ松さんシート」として販売。このチケットを購入すれば、オリジナルグッズを入手できる(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

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 制作発表時、『おそ松さん』がここまでの爆発的人気を博し、女性ファンたちが「一松だ」「いやカラ松だ」などと競って好きな「推し松」を言い合う現状になるとは、誰も予想しなかったのではないか。本特集ではこの『おそ松さん』の大ヒットの要因を、“6つ”のポイントから考察していきたいと思う。

■理由1:無職で全員童貞…キャラクターの再構築

 さて、『おそ松さん』が女性アニメファンの目を惹いた要因の1つとして、豪華声優陣の起用がまず挙げられる。旧作で女性声優に統一されていたメインキャストは今作で男性声優に一新。人気声優のスケジュールの奪い合いが日常化している昨今のアニメ界で、6人が6人とも超トップクラスのビッグネームという陣容は、当初より話題となった。だが、驚きだったのはこれだけではない。いざ放送が始まってみれば、何より『おそ松さん』のキャラクターデザインが、女性たちのハートをさらに加熱させたのである。

 わんぱくだった6つ子は数年の時を経て、無職の“ニート”として実家に住み続けていた。しかも、全員童貞。昼間から酒を飲み、現状に対する危機感も特にない……これらは、すべて公式の設定である。あのイヤミですら「とんでもないモンスターに育ってしまったザンス!」と嘆く“だめんず”ぶりは、安定志向が強いとされる現代の若者像において、決して褒められた存在ではないはずだ。

 しかし、作中の6つ子たちはそんな状況に悪びれることもなく、明るく楽観的に生を謳歌している。6人それぞれに仕草や性格、好きな酒のつまみ、趣味などの細密な設定があり、個性がしっかりと描き分けられているのもポイント。世の「〜松Girl」たちは、こうしたイケメン世界とは程遠い平凡以下を生きる6つ子たちのダメダメっぷりに母性も刺激され、“かわいい!”を連発しているのだ。

■理由2:突破されたタブー

『おそ松さん』における6つ子たちは、職業:ニートというマイナスイメージを逆手に取り、ごくごく身近なエピソードをネタにとことんアホかつ愛すべき所業を重ねていく。これが、本作が“ブラック・コメディ”と評される所以なのだが、この作品を観ていると、その“ブラックさ”も捉えようによっては他愛のないことで、むしろ我々がいかに社会常識に縛られているかを痛感させられてしまうのだから不思議だ。おそらく『おそ松さん』に触れた者なら、赤塚不二夫ほどの大作家の代表作である『おそ松くん』をここまで大胆に改変したことに対する、罪悪感のようなものを少しは抱いたのではないか。

 しかし、そんな畏れを飛び越えた先には、こんなにも自由で楽しい世界があったのだ。この6つ子たちの人気には、ある種のタブー破りの快感が伴っている。それは大騒動となった“幻の第1話”に、最も色濃く表れていた。

■理由3:パロディ化したネタの連続…第1話のカオス

 15年10月、アニメ界に衝撃が走った。新番組『おそ松さん』第1話の内容が、あまりにもカオスだったからだ。旧作アニメ『おそ松くん』のイメージとはかけ離れた、『うたの☆プリンスさまっ♪』『進撃の巨人』『ラブライブ!』などの人気アニメ作品をパロディ化したネタの連続。まるで「今のアニメファンはこれで満足するんだろ」と皮肉を言われているかのようなメタファーが視聴者を襲い、「これは尋常じゃない」という口コミが一気に広がった。これは予想の域を出ないが、第1話はその反響の大きさゆえか、結果的にビデオパッケージへの収録が自粛されお蔵入りとなった。

 しかし、一連の騒動が逆に『おそ松さん』への耳目を集めるきっかけになったことは明白だ。出演声優に惹かれてやってきた女性アニメファンだけでなく、男性アニメファンもまた、この痛快な作品に興味を抱いたのである。

■理由4:躍動するSNS

 このような“掴み”で一気に注目の的となった『おそ松さん』は、第3話もお蔵入りが決定するなど様々な“事件”を起こしながら、徐々に本来のターゲットである女性向け作品としての実力を発揮していく。バカバカしいギャグの応酬が目まぐるしく展開されるなか、第5話では6つ子同士の物語性や関係値にほっこりさせられるエピソードが入るあたり、制作陣は女性向けアニメファンのツボをよく心得ている。そしてその盛り上がりをはっきりと可視化しているのが、Twitterだ。

 公式アカウントのフォロワー数は、2月5日時点で42万5000人を突破。これは『黒子のバスケ』『ハイキュー!!』など他の女性ファンが多いヒット作品と比べても、ダントツで高い数字だ。というのも、『おそ松さん』にはコメディ作品である性質上、次々と“ネタワード”が飛び出してくる武器があった。

 アニメが放送されるたびに「カラ松事変」「トッティクソコラ」「遺作」「じょし松」「色松」などの刺激的なワードがSNS上を飛び交い、話題が話題を呼びフォロワーをさらに増やしていく好循環を生んだのだ。今年早々にはTwitterのビッグデータを報じるNHKの番組に、「シコ松」を登場させようとしたファンの悪巧みもあった(放送では「松さん」が大きく中央に表示された)。

■理由5:圧倒的なセールス

 ここで最もわかりやすい数字にも触れておきたい。深夜アニメ作品のCDパッケージやビデオパッケージの落ち込みが叫ばれるなか、『おそ松さん』は双方で好セールスを達成したのだ。EDテーマの「SIX SAME FACES〜今夜も最高!!!!!! 〜」は初動売上6.6万枚を記録。1月末時点で10万枚を突破し、出演声優たちがこれまでリリースしたキャラクターソングと比べても高い数値となる。また映像パッケージも初週でBDが3.6万枚、DVDが4.3万枚という好セールスを記録している。こうした好調な売上の背景には、「普段はアニメ関連商品を買わないライト層にも好評だった」という販売店からの声も聞かれている。制作メーカー側の宣伝戦略でも、そんなユーザー層の広がりをあらかじめ予測し、広く商品情報を届けられたことも好結果に繋がったと思われる。

■理由6:メディアの追い風

『おそ松さん』において、とにかく目立っているのが従来のアニメ専門誌だけに限らない、幅広い分野でのメディア露出だ。もちろん、『月刊アニメージュ』が『おそ松さん』効果で36年ぶりに重版したことも大きなニュースなのだが、それよりも昨年末からスポーツ紙や芸能誌の各種WEB媒体に、毎日のように『おそ松さん』関連ニュースが掲載されてい
ることのほうが、従来のアニメ作品にはなかった現象だ。

 さらにGLAYHISASHI がOPテーマ「はなまるぴっぴはよいこだけ」をコピーしたり、高橋幸宏が芸人やアイドルらと連名で応援メッセージを表明するなどのサプライズもあった。そして極めつけが野球日本代表「侍ジャパン」とのコラボレーション企画だ。専門誌から徐々にリーチを広げていったこの戦略は、きっちり放送期間の半年に収められている。これは最初から計画していないと実現不可能だったストーリーのはずだ。

 こうした勢いを追い風に、先述したアニメ作品では珍しいスポーツ案件として「侍ジャパン」とのタイアップ企画のほか、メインキャストを集めたイベントなども控える。アプリゲームなど、新たなマルチ展開も視野に入れ、女子向けの作品の可能性をまだまだ広げていく。
文/西原史顕
(コンフィデンス 16年2月15日号掲載)

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  • “侍ジャパン”こと野球日本代表チームと『おそ松さん』がコラボ。3月に行われるチャイニーズ・タイペイ戦2試合の一部観戦席が「おそ松さんシート」として販売。このチケットを購入すれば、オリジナルグッズを入手できる(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
  • アニメ化が発表された昨年7月から本年1月末までのTwitter上での『おそ松さん』関連のツイート状況を分析した。ここで紹介したものは「おそ松さん」およびキャラクター名を含んだツイートの抽出結果である(調査データ自体はTwitter 全体の約10%分にあたる。そのため、頻出ワードの登場回数なども、全体のおおよそ10%の数値となる)。 週間ツイート数の推移を見ると放送回数を重ねるほどに、増加していることがわかる。また、諸事情からDVDに収録されなくなるなど、話題をさらった3話「こぼれ話集」から5話にかけてのツ
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