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岩井俊二が明かす影響を受けた作品遍歴「勝新太郎さんと宮崎駿さんはよく似ている」

 映画監督としてデビューする前から、デジタル技術の研究などにより“岩井美学”と称される甘美な映像世界を確立させてきた岩井俊二監督が、長編アニメに初挑戦。15年ほど実験に取り組んで『花とアリス殺人事件』を完成させた。そんな同作と現在制作中の新作、さらに自身が影響を受けてきた作品遍歴まで、今の岩井俊二をたっぷりと語ってくれた。

岩井俊二が分析する自身の個性「今の自分を作ったのは観てきた作品の“偏り”」

岩井俊二が分析する自身の個性「今の自分を作ったのは観てきた作品の“偏り”」

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◆“岩井節”健在のアニメに表れた自身の友人観

 記憶喪失をめぐるふたりの女子高生、花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)の恋愛騒動をみずみずしく描いた『花とアリス』(2004年)。その前日談をアニメで描いたのが『花とアリス殺人事件』。見やすい線と動きで調えられた、繊細な世界のなかで、花とアリス、ふたりの少女がいきいきと輝く“岩井節”は、アニメでも健在だ。

「(花とアリスは)ひと言でいうと、悪友なんだと思うんですよね。どっちも、どこかでお互いを迷惑なヤツだと思っているという(笑)。決して親友だとか、仲良しとかじゃなくて、しょうがないなと思いながらつき合っている相手なんだけど、その関係性に自分の世界観がすごく出ているのかなって気がします」

 同作の世界観に表れているという岩井自身の友人関係について掘り下げると、10代の頃にまで遡って話してくれた。

「10代の頃は、教室のなかに話の合う相手は大勢いたけど、大人になるにつれて、教室の仲間はだんだん減ってくるし、社会に出ると、かなり小さなユニットになっていく。そんな流れのなかで、もはや同じ世界観でつるむなんてことはおよそ考えられず、ヘンな話、撮影が始まってしまうと、飲みに行って映画の話をすることすらない感じです。仲間同士って意外と疎遠だったり、そうするとお互いにつながっている手がかりもとくにない。もはや縁でしかないんですよね。そこにいた縁、みたいな関係性」

 さらに話はふくらみ、自身のクリエイティビティとのつながりにも言及する。

「でも、自分にとってそれほど重要な相手じゃなかったはずなのに、長くつき合っていくと、その縁の長さというのは絶大なんです。腐れ縁みたいになっていく関係の方がより人間的だし、それでいいのかも知れないとちょうど思い始めたのが『花とアリス』を作り始めた40代あたりだったと思うんですよね。同じ趣味嗜好、同じ価値観同士でずっと一緒にいられたら楽しいんだろうけど、自分の場合はそこに恵まれなかったというか。でも、そういう環境でずっともまれて来たからこそ、形成されたバランスというのもあると思います。マニアックになり過ぎず、アーティスティックになり過ぎず、エンタテインメントにもいき過ぎず、中庸のバランスというのかな」

◆デビュー当時と今の制作環境の違い「あのころは過酷だった」

 そんな岩井監督が現在制作中の実写新作についても聞いてみた。

「黒木華が主演で、昨年の11月くらいから少しずつ撮っています。今回は撮影スケジュールが飛び飛びなので、撮りながらそれをベースに小説に起こし直したり、またそこで出たアイディアを、シナリオにして撮影現場に戻したり。撮り始めた頃とは、ちょっと話が変わっていたり、撮るものもどんどん膨らんだりしていて。わりとそういう発想を許してくれるチームなので、自由奔放にやらせてもらっています(笑)」

 それは時代の流れにあった制作環境といえるかもしれない。岩井監督にとって現在の環境は、デビュー当時と比べて制作しやすくなっているのだろうか。

「どうですかね。僕がデビューした頃は、日本映画はだいぶ低迷していて、若い女性が日本映画なんてダサいから観ないという、レッテルの貼られた時代でした。それに挑まなくてはいけないから、あのときは過酷でしたよね。欧米化が侵食していた時代で、日本古来のものはあまり評価されていなかった。僕が映画監督になって、取材を受け始めたときに『どんな作品が好きですか?』と聞かれて『犬神家の一族』(1976年/市川崑監督)と答えたら、周りのコアな映画ファンが『ああいう発言はしない方がいい、そういうときは(ジャン=リュック・)ゴダールとか溝口(健二)と言っておくんだよ』って。それもステレオタイプだなって思ってた(笑)」

 岩井監督が影響を受けてきた作品についても踏み込んでみると……。

「自分の場合、何に影響を受けたか? というのは、“偏り”だと思うんですよね。教本通りにメインストリームを踏襲すると、他の人と同じラインナップになってしまうから、作り手としては自分の個性になっていかない。だから観客として出合う作品は、作家で追いかけず、ただ出合いだけ、縁だけに絞って、ここまで来ました。それが自分の(観客としての)フィルモグラフィになっている。それはとてもユニークだと思うんですよ。さっき話した友人観とも近いのかも知れないですね」

◆『紅の豚』は『座頭市』にしか見えない(笑)

 映画に関しては「習うのはつまらないから」と人に習わず、全部独学でやると決めていた岩井監督。独自のスタイルを貫くなかで縁あって出合った『犬神家の一族』以外の作品についても具体的に聞いた。

「『犬神家の一族』の次はドラマ『座頭市物語』(1974〜1975年)でした。テレビドラマシリーズを繰り返し観ては分析して、ものすごく勉強しました。『座頭市』はテレビシリーズだけで、映画の方は観ていないんです。体系化されていないっていう(笑)。そのあと宮崎駿さんの『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)とかを観て。意外と勝新太郎さんと宮崎駿さんの作品ってよく似ているんですよ。『紅の豚』(1992年)なんて『座頭市』にしか見えない(笑)」

 さらにちょっと意外な作品も挙がってきた。しかもかなりのハマりようだったようだ。自身を“映画に免疫がない”とする岩井監督が気をつけていることとは?

「篠田正浩監督にも影響を受けているのですが、たまたま観た『はなれ瞽女おりん』(1977年)にものすごくハマって。あれだけたくさんの作品を作っているのに、篠田監督にお会いすると『おりん』の話しかしないイヤなファンっていう(笑)。観客として出合う作品って、半年くらい引きずってしまうので、要注意なんですよね。ふだんあまり観ていないから、ものすごく影響を受けてしまうんです。たまに映画祭で審査員とかやると、いい映画ばかり観ちゃって、1年くらい映画を観なくてもいいくらい、ずっと反芻してる。意外と免疫がなくて、観客としてはすぐ好きになってしまうんです(笑)」

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