「俳優の三上博史」と聞いて何を思い浮かべますか？　スキーが上手な人のいいサラリーマン、多重人格者で女装していた人、『スワロウテイル』の…、あるいは宮沢賢治か野口英世か、記憶に新しいところでいえば『明日ママがいない』の“魔王”か。どの作品でも役の印象が強く残るため、三上自身がどんな人なのかよくわからない。

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　そのため、誤解されることも多々あり、いわれのない誹謗中傷に傷つくこともある。それでも三上は「それを売りにするしかないのかなって、今は開き直っていますね。そういう役者がいてもいいですよね。僕は役というフィルターを通して輝きを出すことしか考えていない」と言葉に力を込めた。

　スポンサーが降板する騒動となった『明日、ママがいない』では「芦田愛菜ちゃんに全部持って行かれそうで、一瞬たりとも気を抜けなかった。思わぬ鈴木梨央ちゃんという伏兵もいて、必死だった。毎日がバトルだった」と回想する。主役ないしは重要な役回りを演じることが多い三上は、「自分の役がかすんでしまったら作品が破綻する。そう思ったら、踏ん張るしかない。いつも現場はバトルですよ」と照れたように笑った。

■青山真治監督と13年ぶりのタッグ

　三上ほど“戦っている”役者もいないだろう。WOWOWの土曜オリジナルドラマ枠で24日スタートする『連続ドラマW　贖罪の奏鳴曲（ソナタ）』（毎週土曜　後10：00、全4話※初回無料放送）でも彼は戦っていた。

　同ドラマは、2009年に『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい！」大賞を受賞した小説家・中山七里氏の法廷ミステリー。メガホンを取ったのは、2000年に『EUREKA ユリイカ』で第53回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞するなど、国際的に活躍する映画監督の青山真治氏。青山監督と三上は2001年に第54回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された映画『月の砂漠』（日本公開は2003年）以来、13年ぶりにタッグを組んだ。

　今作で三上が演じるのは、少年時代に償いきれない罪を犯し、弁護士になった御子柴礼司。どんな裁判も執行猶予を勝ち取り、そのための手段を選ばず報酬も法外で悪評が絶えないダークヒーローだ。

　「“役作り”という言葉が大嫌い。役は作れるものじゃない」という三上は「とにかく自分を空にして、台本を何度も読み込んで、登場人物で満たしていく」という過程を経て、自身の顔や身体、声を借りた御子柴礼司になり、カメラの前に立つ。それが三上流のメソッド。そして、染谷将太やリリー・フランキー、とよた真帆、吉田鋼太郎ら共演者たちと対峙した。

　「この歳になっても意地汚い役者なので、自分が成長できる種子をいつも探している。そういう意味ではいろんな種子を与えてくれる青山監督は僕にとってはすごく貴重な存在」と話す。共演した染谷将太には「現場でよくインタビューしていました。作品は何から始めたの？　その時の記憶あるの？って。なんでインタビューしているかというと、彼のメソッドを盗みたいから」と芝居に対して底なしに貪欲だった。

■『贖罪の奏鳴曲』とは…

　孤高の弁護士・御子柴（三上）は世間を騒がす殺人事件の国選弁護人を買って出る。保険金目的で夫を殺したとされる東條美津子（とよた）は圧倒的不利に立たされながらも無罪を主張。御子柴は車いす生活の息子・東條幹也（染谷）の協力を得て事件を再調査する。そんな中、ある水死事件を追う刑事・渡瀬（リリー）は遺留品から御子柴の隠された過去を知る。

　三上は「視聴者が作品をあてがわれることに慣れた世の中で、こうなるだろうという予定調和にならない最近では珍しいドラマ。想像力を働かせながら楽しんでいたらけたら」と促している。