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クラシックの都市型音楽祭に熱い風!敷居の高さを取り払い成功へ

 昨年の日本のクラシック界で最大の話題を呼んだのが、ゴールデンウィークに東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン〈熱狂の日〉音楽祭」だ。実質3日間の開催期間中に30万人超を動員するという、クラシック界では前例のない規模の成功の要因はどこにあったのか。同じく昨年始まった「フェスタ サマーミューザKAWASAKI」などとともに、新しい都市型クラシック音楽祭の成功について考えてみたい。

 フランスの港町ナントで95年から開催されている音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」の、いわば引っ越し公演の形で昨年初めて開催されたのが「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン〈熱狂の日〉音楽祭2005」(以下LFJ)だ。音楽祭全体の会期は8日間だったが、コンサートのほとんどは4月29日〜5月1日の3日間に、東京・有楽町の東京国際フォーラム内の各スペースをほぼフル活用して開催された。
 主催者資料によれば、期間中全209公演(有料・無料含む)の総来場者数323,687人という、クラシック音楽界では「化けもの」クラスの成功を収めた。ちなみに有料公演(120公演)に限ってみても、チケット販売総数が116,508枚。販売可能席数が134,194枚だったというから、120の公演すべてで87%近いチケットが売れたことになる。
 クラシック音楽のコンサートで「32万人」という数字がどれぐらいの凄みを持っているのか。座席数が約2,000席の東京・サントリーホールが満員になるコンサートを160回行わないと捌ききれない人数という計算になる。また、夏の野外ロック・フェスティバルの代表格として有名な「フジ・ロック・フェスティバル」(苗場スキー場)の観客動員数が、同じ3日間で約10万人だというから、LFJが従来のクラシック界の常識では計れない規模の企画であることがわかるだろう。丸紅経済研究所の分析では、会場での記念グッズやCD購入費、近隣飲食店での飲食費、宿泊費などを含めたLFJの経済効果は42億円に上るという。

『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2006 〜モーツァルトと仲間たち〜』
東京国際フォーラム(全館): 5月3日から5月6日
丸の内・周辺エリア: 4月29日から5月6日
問 東京国際フォーラム 03(5221)9100
(C)Koichi Miura

『フェスタ サマーミューザKAWASAKI2006』
ミューザ川崎シンフォニーホール/他
7月21日から8月13日
問 ミューザ川崎シンフォニーホール
044(520)0200

成功の要因は「安」「短」

 しかし、ここまでの成功を事前に予測していた人は少ないだろう。前例のない公演数をもつ音楽祭、しかもGWに東京のど真ん中での開催である。連休中に足を運んでくる人がはたしてどれぐらいいるのか。主催者に不安はなかったのだろうか。
 「正直、ふたを開けるまではかなり不安でした。オープニングの1週間前までチケットの売れ行きは50パーセント程度でしたからね。初日に会場のチケットボックスに長蛇の列ができているのを見た時はうれしい衝撃を受けました」(東京国際フォーラム広報室・田中博積氏)
 音楽祭の開催が決定したのは03年のこと。開催時期は早い段階でGWに決まっていたらしい。東京が最もよい季節であることに加え、施設の貸し館利用がちょうど空いていたという現実的な問題もあったようだ。すぐに動員についてのリサーチも始められ、毎年この時期の周辺ホテルの客室がほぼ満室状態であることなどから、「地方からの旅行者も含め、この時期の都心には確実に人がいる」という結論にたどり着いたのだそうだ。
 結果からみれば見事にそのとおりだったわけだが、直前までチケットの売れ行きが思わしくなかったのは、やはり初回開催ゆえの認知度の低さが影響していたのだろう。しかしLFJのコンセプトからいけば、当日券の割合が多いということ自体が企画の成功を意味しているのだ。「とにかく出かけて行ってみて、面白そうなコンサートを選んで聴いてみよう」。そんな楽しみ方ができるのもLFJの魅力だろう(実際にふたを開けてみると当日券は次々と完売してゆき、「選んで聴く」という余裕はなかったが)。
 LFJが未曾有の成功を収めた最大の要因は、「敷居の低さ」に尽きるだろう。原則1,500円に設定された安価な入場料設定と45分程度に収められた演奏時間で、クラシック・コンサートにつきまとう「高い」「長い」という概念を払拭した。安い値段で、あまり長い時間我慢しなくてよいなら、たまにはクラシックのコンサートにも行ってみたい。こんな潜在的なファン=ライトユーザーをLFJは見事に獲得したのだ。主催者が会場で行なったアンケートの結果でも、自らを「ビギナー」と認識している人、年間にクラシック・コンサートを聴く回数を「初めて」「1〜2回」と答えた人が来場者の半数を占めている。
 「安い」「短い」。これはちょうど同じ頃に発売されてシリーズ累計100万枚超というメガヒットを記録している東芝EMIのCD「ベスト・クラシック100」の成功とまさに同じ図式である。「32万人」と「100万枚」。敬遠されがちな要因を取り除いてやれば、クラシック音楽界にもこれだけの市場が出現することを我々は目の当たりにしたわけである。

音楽を聴く習慣を日常のものに

 やはり昨年夏にスタートした「フェスタ サマーミューザKAWASAKI」(以下SMK)も、LFJと同じように「敷居の低さ」をアピールして新たなファンの獲得を試みている。入場料は2,000〜3.000円、演奏時間は70分が中心と、こちらも「安い」「短い」がポイント。
 ただしSMKのメイン・プログラムは、首都圏のプロ・オーケストラ9団体が勢揃いして日替わりで腕を競い合う、「オーケストラの祭典」ともいうべき公演。音楽祭の内容としては、徹頭徹尾ビギナーを念頭に置いたLFJに比べるとやや「アドバンス・コース」と言えるかもしれない。
 「新たなファンを獲得するためのプログラムだからといって、必ずしもいわゆる“名曲コンサート”である必要はないと思います。コンサートを提供する側の私たちも、楽しむ側のお客様も、まず先入観を捨てることが重要なのではないでしょうか」(ミューザ川崎シンフォニーホール事業制作課・竹内淳氏)
 だから各オーケストラの演奏曲目については、「自分たちの魅力を最大限に表現できるものを」という条件だけを示していて、場合によっては現代音楽でも構わないというスタンスだという。すぐれたアコースティックを誇るホールで、オーケストラの魅力、各団体の個性を一度味わってもらえれば、クラシック音楽に馴染みがなかった聴衆も必ず興味を持ってくれるはずという“本物志向”には強く共鳴できる。
 この“本物志向”は、「2007年問題」が喧伝される熟年層のファンの掘り起こしにも有効なのだという。つまり「入門者向け」と言われると照れや見栄もあってそっぽを向く層を、“本物”をアピールしてプライドをくすぐりながらうまく取り込んで行こうという作戦だ。週末にはコンサートホールに足を運ぶという習慣が彼らの日常となれば成功だろう。
 とはいえ、もちろん「親しみやすさ」には重点を置いていて、SMKでは指揮者に演奏前のプレトークや、解説付きの公開リハーサルを行なってくれるよう依頼している。昨年は5回の公開リハーサルが実施され、計2,356人が来場した。また、13公演が行われたオーケストラ・コンサートには計14,984人が来場したというから、1公演あたりの集客は平均1,100人ほど。固定の定期会員がいないオーケストラ演奏会の水準としては決して悪くない数字だと言えるだろう。

異なるアプローチによるユニークな仕掛け

 もうひとつ、上述の両者とはかなり異なるアプローチで新たなファン層獲得に成功した都市型音楽祭として、やはり昨年から始まった「目白バ・ロック音楽祭」を紹介しておこう。東京のJR目白駅周辺の教会などを会場に、バロック音楽に焦点を絞った新しい音楽祭だ。「バ・ロック」は目白という「バ=場」に「ロック=先鋭的な活動をしている人」が集うというイメージを表現した造語とのこと。
 特徴的なのは、「目白」の街自体へ聴衆をいざなうというコンセプトだろう。音楽祭のアート・ディレクターを務める地元デザイン会社「ヌールエ」代表の筒井一郎氏によれば、目白は「落ち着いた大人の街」という印象で街としての“ブランド・イメージ”が高い割に、JR山手線の中では田端と並んで「降りたことのない駅」の筆頭なのだという。「目白バ・ロック」では地元商店街の協力を得て、街ぐるみでの聴衆誘導の形を作ることに成功した。期間中、「バロッ・クッキー」がショップの店頭に並び、カフェではオリジナル・ドリンク「まよえるこひつじ」が提供されるなど、街をあげて音楽祭ムードを盛り上げた。
 昨年は聴衆の7割を30〜40代の女性が占めていたそうで、一般に圧倒的に男性ファンが多いクラシック音楽のコンサートで、F2層の支持を得たというのは「目白」のブランド・イメージゆえなのだろう。ここにも新しいクラシック・ユーザーの存在がかいま見える。
 今年は規模を拡大して、6月2〜25日に14公演が行われる。こうした市民運動的な働きかけにも新しいファン獲得のヒントがあるだろう。
 都市型音楽祭そのものはこれまでにもあった。東京だけを見ても、「東京の夏」や「サントリー・サマー・フェスティバル」、新しいところで「東京オペラの森」など。紹介した3つの新しい音楽祭が、それらと大きく異なるのは、ここで述べてきたような新たなファンの獲得・発掘のための具体的な方策を、より積極的に試みているという点であろう。こうした動きが相次いだことには期待したい。ファンの裾野の拡大こそがジャンルの活性化につながるのだから。

文/宮本明

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