『偽装不倫』主題歌で話題 miletの歌声が引き出したヒロインの葛藤
“流麗さ”と“凛々しさ”が「層」となって届くmiletの厚みある声
第1話のラストでは、湿っぽいセンチメンタルさや不倫特有の暗うつさはなく、胸を締めつける切なさが強く迫った。自分が未婚だと「本当のこと」を何度も言おうとするがなかなか果たせず、平静と気丈を装うヒロインの姿。既婚者というクールな嘘の仮面と、その下に隠した普通の恋をしたいピュアな想い。強そうに見えて、本当は内気な乙女であること。そうしたヒロインの二面性を、女性シンガーとしての“流麗さ”と、地声の“凛々しさ”を「層」のように持ち合わせたmiletの厚みある声が、ビビッドにすくって届けることで、ヒロインの切なさが、身体で感じているままに届いてきた。
以降も毎回ラストでは、ヒロインの「心の声」を映すモノローグが決まって流れる。それが主題歌「us」の歌詞世界と見事に噛み合っているのもポイントであり、同ドラマの魅力の1つだ。「us」は平明なラブソングだが、際立つ特徴がある。それは、恋する私(I)と、あなた(you)をめぐる具体的なエピソードや情景、会話が省筆されていること。終始歌われるのは、ドラマと同じで自分との対話だ。しかも、恋愛の高揚感や嬉しさといったポジティブな心情ではなく、「想いのまま自分をぶつけたらどうなるだろう」という不安や恐れ、自信の無さ。そうした“臆病な恋心”にフォーカスした歌詞が、ヒロイン・鐘子の「胸の内」にしっかりと入り込んで、抑え込んだ悲哀や苦悩をえぐり出すところに、破格の力がある。
観る者を力強くドラマに惹き込む奥行きのある歌詞が特徴
2人が立っているのは、「好き」と言ったとしても、その真剣さと重さが届かない場所。その意味で、彼らは主題歌の世界観よりもずっと手前に存在し、普通の「好き」にはほど遠い。「好き」に辿りつくための、「好き」がそのまま「好き」だと届くための、それ以前の言葉との葛藤。つまり、主題歌はドラマの側面を、悲しく強調して映しているのである。
また「us」は、一見恋愛ソングの王道を歌っているようで、歌詞にはしっかりとした奥行きがある。特に、告白の先に訪れるものを「嫌いになる」や「離れる」、「いなくなる」といった凡庸な語彙でなく、「消えてしまう」という鮮烈な表現にしているのが、この歌詞の骨太なギミックだ。そして、「世界は変わる」という表現もあることで、それは別れの比喩をこえて“悲しい未来”を想起させる。その歌詞の想像力が、短いラストの場面のなかにも、丈に迫る「死」、更には悲劇の展開・結末を巧みに感じさせて、観る者を力強く物語へと惹き込む。
しなやかで深みのある歌と声が、ドラマとmiletの楽曲の醍醐味
「us」のラストで感じるのは決してネガティブなものばかりではない。曲で最も高い音を「好き」の“き”に配置したメロディーラインの突き抜ける勢いと、強い意志を含んだようなmiletのストレートで迫力ある歌い方が、一歩踏み出せないヒロインの背中を押すように響き、悲しいストーリーに絶妙な“パワー”と“希望”を与えている。
表に出せず、自らの内でつぶやく言葉と声は、哀しく切ない。だが反面で、それは強い「祈り」でもあり、人間の感情のかたちとして、尊く美しいもののひとつでもある。それを感傷的とも情熱的とも違う、実にしなやかで深みのある歌と声で引き出してみせるところに、このドラマとmiletの楽曲の醍醐味があるように見える。最終回で2人がどのような結果を迎えるのか、その時、「us」はどのような響きとなって視聴者の心に刻まれているのか、ストーリーだけでなく、主題歌もまた最後まで注目される。