グラミー4冠のケイシー・マスグレイヴスが語る リスナーの多様化とアメリカの音楽市場の現状

 「#MeToo」ムーブメントをきっかけに、性別はもちろん国境や宗教、セクシャリティなど、「多様性」を尊重する動きが定着しつつある社会。音楽シーンにおいても、その考えが浸透。今年開催された世界最大の音楽の祭典と呼ばれる『グラミー賞』においては、多彩なジャンルのアーティストたちが最高の名誉を勝ち取った。そのなかでも、強い存在感を示したのがアメリカ出身のシンガー・ソングライターである、ケイシー・マスグレイヴスだ。男性ミュージシャンに対する評価が根強いと言われるカントリー音楽において、主要4部門の1つである「年間最優秀アルバム」をはじめ4部門で最優秀賞を獲得するという快挙を達成。また同年4月に開催された音楽フェス『コーチェラ』や、5月に開催されたばかりの日本初の単独公演(チケットはソールドアウト)でも、観客を魅了させ、“保守的”と言われるカントリー音楽に“革新”の風を吹かせている。その渦中にいる彼女が、音楽を通じて感じる現在のアメリカについて語った。

“売れる・売れない”を考えず、自分の持っている情熱やエネルギーを閉じ込めた作品

──『第61回グラミー賞』では最多4部門を受賞。特にカントリーにおいては、男性が獲得する比率が多いと言われる『グラミー賞』で、これだけの部門を獲得できたのは「快挙」だと思いました。
ケイシー・マスグレイヴス 前回の『グラミー賞』では男性が多く受賞していたから、今年はバランスを取って、多くの女性アーティストに賞を与えたのかしら? だからと言って、無闇に女性に賞を与えたわけじゃないと思っている。時代に残るようなクオリティの高い楽曲を、昨年は多くの女性アーティストが発表したから、こういう結果がもたらされた気がするの。

──『グラミー賞』の獲得はもちろん、先日の来日公演などの大きな反響なども経験して、アルバム『ゴールデン・アワー』は、あなたにとってどんな意味のある作品になりましたか?
ケイシー この作品は“売れる・売れない”ということを考えずに、自分の持っている情熱やエネルギーを閉じ込めようと思って制作したものなの。そのエネルギーを、リスナーの皆さんも感じ取っていただいて、ヒットに結びついたのかなって思っているわ。そして、このアルバムを制作するにあたって、私には自信というか、しっかりとした“基盤”があった。それはキャリアを重ねて生まれたものだったり、結婚をしたことで築けた安定だったり、多くのスタッフの心強いサポートがもたらせてくれたものもある。いろんな“基盤”があったおかげで、“冒険”することができた気がするのよね。

──このアルバムは、そもそもどんな思いを持って制作したのでしょうか?
ケイシー 現代のアメリカは、とても緊張感があるように思うの。それぞれが主張をしあい、怒りをぶつけている。“美しさ”が欠如しているのかな?って思うもこともある。なので、私はどんな人でも平等に“光”を、そして“美しさ”を感じてもらえるアルバムを作りたかったの。

──きっと多くの人が“光”を感じて、『グラミー賞』へと結びついたのかもしれませんね。この作品のヒットによってあなたがカテゴライズされている“カントリー音楽”の捉えられ方に変化を感じたことはありましたか?
ケイシー 最近は(カントリー音楽のメッカと言われるアメリカ・テネシー州にある都市でありケイシーの現在の拠点)ナッシュビルに、プロデューサーが多く訪れるようになり、地元のミュージシャンとセッションしている話をよく耳にするようになったわ。ファッションの分野でも、カントリー・テイストのスタイルが徐々に取り入れられたりするなど、メインストリームに受け入れられているムードを感じることがあるの。この現象はカントリー音楽を聴いて育った人間として、とても喜ばしいことよ。でも、私はその枠にいる人間じゃないと思っているの。もちろん、カントリーっぽいアコースティックなサウンドからの影響が強いけど、もっと自由な立場にいるというか。どのジャンルにも囚われず、さまざまな音楽を俯瞰(ふかん)して聴きながら、自分がいいと思った音を表現しているの。

何かに制約されることなく、自由な音楽を作り続けていく

──4月には『コーチェラ・フェスティバル2019』にも出演しました。アジアでは日本のPerfume、韓国のBLACKPINKら、多彩なミュージシャンが登場。そこでもあなたの音楽は、大きな熱狂とともに受け入れられていた印象があります。現在のアメリカのリスナーも同様にジャンルや国籍など気にせずに、純粋に音楽を楽しんでいる雰囲気を感じました。
ケイシー 実は『コーチェラ』に出演するにあたって、とても不安だったの。私だけアコースティックのカントリー調のサウンドだから、雰囲気を壊してしまうんじゃないかって。でも、それが逆に“個性的”なものとして、多くの人に受け入れられ、手ごたえを感じたの。最近のアメリカの音楽リスナーは、とても多様的になっている気がする。ジャンルはもちろん、性別やセクシャリティ、肌の色など、あらゆる“固定概念”を乗り越えて、いかに“個性”を感じるものを発信しているかに注目している傾向が強くなっている気がするわ。

──現在の日本ではCDセールスの割合が大きいですが、アメリカでは音楽の聴かれ方に変化はありますか?
ケイシー 日本はまだCD文化が根付いているのね。それは作品をちゃんと手に取られるものにしたいという考えがしっかりと残っているという証拠なのかしら? アメリカでは、アナログ盤の人気はあるけど、基本的に音楽を手元に“残す”ことに対して価値を見出していない人の割合が増えているような気がするわ。

──音楽の聴かれ方が徐々に変化していく時代。そこで、あなたは今後どんな“作品”を残していきたいと思っていますか?
ケイシー 何かに制約されることなく、自由な音楽を作り続けていくだけ。幸いなことに、私はこれまでそのスタンスで音楽を作り続けられているから、今の心地良い環境をキープしたいな。

──そういえば先日開催された『メットガラ』(アメリカ版『Vogue』編集長アナ・ウィンター主催のファッションイベント)では、世界的に人気なアメリカの着せ替え人形のようなコスチュームと、普段とは異なる金髪が話題になりましたね。
ケイシー あれは、ファッション・ブランド「モスキーノ」のクリエイティヴ・ディレクターであるジェレミー・スコットが、『メットガラ』限定の着せ替え人形モデルを発表することになって、私に実物モデルになってほしいというリクエストをいただいたの。もともと、ジェレミーのデザインは大好きだったし、今回の「キャンプ(不自然なもの、人工的で誇張されたもの)」というテーマも気に入っていたから、とことんその世界に入り込もうと思って挑戦したのよね。

──この経験によって「キャンプ」な音楽になる?
ケイシー 私、もともと「キャンプ(派手すぎ)」な性格だから、あんまり変わらないわね(笑)。

(文/松永尚久)

提供元: コンフィデンス

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